(C)2017 Twentieth Century Fox

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【芸能コラム】「愛と寛容さ」でつな
がる2017年日米の代表作『シェイプ・
オブ・ウォーター』と「おんな城主 
直虎」

 3月5日(日本時間)に発表された米国の第90回アカデミー賞で、作品賞を含む4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)が全国で公開中だ。米ソ冷戦の時代を背景に、孤独な女性イライザ(サリー・ホーキンス)と米国政府機関に捕らわれた半魚人(ダグ・ジョーンズ)の種族を超えた愛を、美しい映像と音楽に乗せてつづったファンタジーである。(なお、本稿で便宜上“半魚人”と呼ぶキャラクターの正式名称は、作品公式サイトなどによると“不思議な生きもの”である)。
 本作における人間のイライザと半魚人の関係には、人種問題やLGBTの問題をはじめとするさまざまな差別や偏見を克服してほしいという願いが込められている。それは、ギレルモ・デル・トロ監督が劇場用パンフレットのインタビューで次のように語っていることからも明らかだ。
 「『シェイプ・オブ・ウォーター』は愛や寛容さをテーマにして、政治的な要素のほかに、さまざまな映画の要素を持った力強い“おとぎ話”なんだ」
 この言葉にある「愛や寛容さ」とは、「自分と違う他人を受け入れる」、「多様性を認め合う」と言い換えることもできるだろう。
 筆者も、その思いに心打たれた1人だ。そしてこの作品を反すうする中で、ふと気付いた。日本にも似た物語があったではないか…と。それが、NHKで昨年放送された大河ドラマ「おんな城主 直虎」である。
 戦国時代、女性でありながら領主となった井伊直虎(柴咲コウ)は、小さな領地・井伊谷を守るため、数々の困難に立ち向かっていく。その過程で出会うのが、盗賊団を率いる龍雲丸(柳楽優弥)だ。武家社会の中で生きてきた直虎にとって、盗賊の龍雲丸はそれまで出会ったことのない異質な存在。家臣たちが警戒する中、直虎はただ一人、龍雲丸一党を受け入れ、自分たちにはない技術を持つ彼らを味方にすることで、井伊谷を守る力とする。それと同時に、直虎と龍雲丸は互いに引かれ合っていく…。
 直虎と龍雲丸の関係は、そのまま『シェイプ・オブ・ウォーター』におけるイライザと半魚人に重なる。頑丈な鋼鉄製の箱に入れられた半魚人同様、龍雲丸が捕まって檻に入れられる場面も、その印象を補完する。この他、直虎の後を継いだ直政(菅田将暉)が、かつて井伊谷を侵略した武田軍の兵士たちを配下に加えることで、一度はついえた井伊家を再び繁栄に導く最終回など、随所に「愛と寛容さ」がにじむ物語となっている。
 アカデミー賞作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』と、日本を代表する映像作品である大河ドラマ「おんな城主 直虎」。両国の2017年を代表する作品が、共に「愛と寛容さ」というキーワードでつながるのは、単なる偶然ではないだろう。
 さらに補足すれば、『シェイプ・オブ・ウォーター』は、世界三大映画祭の一つ、ベネチア国際映画祭でも最高賞に当たる金獅子賞を受賞している。それはつまり、国家や民族といった世界的規模からSNSのような個人レベルまで、人々の分断が進む今の世の中に対する、国境を越えた物語の作り手たち共通の願いだと言えるのではないか。
 既に放送が終了した「おんな城主 直虎」だが、DVD/Blu-rayは最終回までリリースされており、総集編のDVD/Blu-rayも4月27日に発売予定。公開中の『シェイプ・オブ・ウォーター』と併せて、今一度その物語を味わってみてはいかがだろうか。(井上健一)

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