英国ロイヤル・オペラ・ハウス2017/
18シネマシーズン/今なお伝わるドラ
マチック&リアルな物語『トスカ』

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)2017/18シネマシーズン」、2018年4月6日(金)から上演されるのはプッチーニの傑作であり、今でも非常に人気の高いオペラ『トスカ』だ。
物語は19世紀のローマ。共和制が崩壊し、恐怖政治が行われていた時代だ。主人公の歌姫トスカは情熱的な、しかし信仰心の篤い女性。その恋人である画家、カヴァラドッシは政府と対立する共和主義者で、政治犯として囚われていた仲間アンジェロッティの逃亡を助けたために、権力者である冷酷残忍な警視総監スカルピアに逮捕されてしまう。実はトスカに思いを寄せているスカルピアは拷問でぼろぼろのカヴァラドッシの姿をトスカに見せ付けながら、彼の自由と引き換えにトスカの身を要求する。カヴァラドッシの命を案じるトスカは泣く泣く承諾しながらも、しかしテーブルのナイフが目に留まり……という、ドラマだ。
(c) ROH. PHOTO BY CATHERINE ASHMORE
ROHで上演されるのは2006年に初演されたジョナサン・ケント演出のこのプロダクションで、今年が9度目の再演となる人気作。トスカにはこの役を歌って10年目というアドリアンヌ・ピエチョンカ、カヴァラドッシにはマルタ島出身の人気テノール歌手で、新国立劇場にも出演したことのあるジョセフ・カレヤが配されている。そして悪役スカルピアには「バリトン歌手として、ぜひ演じたい憧れの役」と語るジェラルド・フィンリーが初めて挑む。指揮は東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者でもある、ダン・エッティンガーだ。
燃えるような熱い恋愛にパワハラ、セクハラ、残虐行為に裏切りが交錯するドラマは、オペラ初心者でもぐいぐいと引きつけられる、時代を超えたパワーに満ちている。
(c) ROH. PHOTO BY CATHERINE ASHMORE
■今も昔も変わらないパワハラ・セクハラ
プッチーニのオペラ『トスカ』は1889年、パリで上演されていたヴィクトリアン・サルドゥの戯曲を原作としたものだ。そのときの主演女優はサラ・ベルナール。ベルエポックを代表する女優で、画家のミュシャは彼女をモデルにポスターを描いているので、どこかで目にした人もいるに違いない。プッチーニはこの舞台を見て、オペラの作曲に取り掛かる。
イタリアのローマで初演されたのは1900年のことで、聴衆からは絶賛を浴びた。1800年のローマの話ではあるが、1幕の聖アンドレア・デラ・ヴァッレ教会、2幕のファルネーゼ宮殿、3幕のサンタンジェロ城という、ドラマの舞台全てが今も実在しているのだ。当時のローマ市民には非常にリアルに感じられたであろうし、現代でもファルネーゼ宮殿の内部以外は見学ができる場所であると思うと、我々もまたその世界を身近に感じられる。そうした今なお実在する場所で、恋やセクハラ、パワハラといった、(残念ながら、というべきか)今なお十分理解できるドラマが展開されるのだ。そうしたリアリティが、このオペラの人気を不動のものとしているのかもしれない。
(c) ROH. PHOTO BY CATHERINE ASHMORE
■アリアの名曲も次々と聴ける傑作オペラ
もちろん物語だけでなく、この『トスカ』にはガラコンサートなどでもよく歌われる名曲も目白押しだ。1幕でカヴァラドッシがトスカへの愛を歌い上げる「妙なる調和」、教会でスカルピアが歌う「テ・デウム」は荘厳な教会音楽を思わせる中にも悪魔のような残忍さもあり聴き応え十分。2幕でトスカがカヴァラドッシを想いながら絶望とともに歌う「歌に生き、恋に生き」、3幕の処刑前のカヴァラドッシがトスカを想い歌う「星は光りぬ」などは胸が締め付けられるような心情が伝わってくる。夜明け前の、まだ星の残る空に響くボーイソプラノの「羊飼いの歌」は、少年の澄んだ声だからこそ、後の悲劇を思うと切なさが一層こみ上げてくるのだ。
厳粛なムードを漂わせる教会音楽も随所に取り入れられるなか、3幕処刑シーンの淡々とした静かな曲など、ストーリーの背後に込められる心情を綴る音楽もぜひお聴きいただきたい。
わずか1日の出来事を綴った物語はそのドラマ性ともどもスピーディーに展開し、3時間18分の上映時間もあっという間だ。ROHのライブビューイングでお馴染みの幕間インタビューも作品の背景や音楽の魅力などがわかり、今回も興味深く楽しめる。
オペラを語る上で欠かすことのできない傑作『トスカ』。これを機会に、オペラ初心者にもおすすめしたい作品だ。

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