眩暈SIREN『「深層から」TOUR2018』
ライブレポート たくさんの孤独を打
ち消す表裏一体の音楽が彩る圧巻のラ
イブ

"深層から" TOUR2018 2018.3.31 渋谷TSUTAYA O-WEST
「上手くやれたとか思ったことはないし。ただただバカみたいにずっと曲を作ってライブをやってたら、今日これだけの人が集まってくれたっていうのが、ほんとうに凄いことだなぁと思います」−−終盤のMCでウエノルカ(Pf/Vo)はこう口にした。続けて、「きっとみんながいないと僕らは何にもできない。誰にも求められないまま音楽をやっていたかもしれないし、やっていなかったかもしれない」とも。
眩暈SIREN
この後に眩暈SIRENが奏でたのは、「明滅する」「you want to die everyday」「かぞえうた」「故に枯れる」。この4曲は、踊り狂えるようなハッピーな調子の曲ではないし、あちこちに超絶技巧が散りばめられているわけでもない。ただ、誰かを一人にさせないための音が20分弱もの時間、ずっと鳴り続いていたのだ。そして、全てを終えた後に巻き起こった拍手は、相思相愛の関係を証明するかのようにして、しばらくのあいだ鳴り止むことはなかった。
眩暈SIREN
眩暈SIREN
眩暈SIREN
眩暈SIREN
ミニアルバム『深層から』のリリースを記念して開催される、眩暈SIRENの東名阪ツアー『「深層から」TOUR 2018』は、O-WESTからスタート。薄がりだった会場が完全な闇に包まれると、スピーカーからピアノの音が流れ、それと同時にステージ後方に掲げられた白い横断幕に映像が映し出された。ピアノの激しさに花が咲いたころ、やっとメンバーが暗闇から姿を見せた。オオサワ レイ(Gt)の奏でるアルペジオから始まったのは、最新作より「ネオトリアム」。フードを深くかぶったまま歌う京寺(Vo)の姿に、心地よい強さを覚えた。深い群青色に染まったステージで演奏される「灰虚」、続く「偽物の宴」で映像に浮かび上がるタイポグラフィー。耳と目を突き刺す言葉に、美しさとダーティさの両方を孕んでいることが露わになっていく。「”こんなに(お客さんが)来たことあるか?”みたいな話を楽屋でずっとしてて。で、緊張しすぎてとりあえずみんなでラジオ体操をするっていう(笑)」と語ったウエノルカは、超満員のフロアを見つめ、嬉しそうにはにかんでいた。
眩暈SIREN
「ジェンガ」で、森田康介(Ba)とNARA(Dr)が弾き出すグルーヴ上に描かれたスクリームは、その存在とは裏腹に伸びやかに広がっていった。この曲で京寺は、《貴方は貴方だ》と言う。京寺がバンドの楽曲で歌う“孤独”は、決して諦めではない。誰もが抱く残酷さ、素直さ、憎しみ、そして愛の大きさも、それぞれで良いのだと肯定を示す。もちろん、大勢が見つめるステージに立つことに対して、不安や緊張がないわけではないだろうが(たとえば「とりあえずラジオ体操をする」緊張など)、奏でられる音たちには確固たるものが現れているかのように思えた。
これまでの流れとは打って変わって、音数を絞り、静けさを伴いながら奏でられた「morning is come」。みんなの心に宿っている曇りを打ち消すためか、はたまたライブの終わりが見えてきたことに対する反抗心か。曲後半で、音とステージングは激しさを増していく。しばしの導入を挟み、「ブラックボックス」を披露。そして「思い出は笑わない」へ。この新曲多めのタームの後、再びウエノルカのMCを挟む。ここで冒頭のシーンへと繋がるわけだ。
眩暈SIREN
ライブを締めくくったのは、先述の通り「故に枯れる」だった。この曲で、オオサワ レイとウエノルカは自分たちの鳴らす音粒の儚さに色を付け、森田康介とNARAはこれまでステージで繰り広げられてきた1時間強をすっぽりと飲み込むかのごとく、力強いビートを鳴らす。そして京寺は、そのうち落ちてしまうのではないかと思うくらいステージの淵ぎりぎりに立って歌い上げた。激情的な姿を見せた5人は、全てを昇華したように白い光で照らされたステージを、晴れやかな表情を浮かべながら後にしたのだった。
眩暈SIREN
孤独や絶望に取り憑かれた音楽をずっと歌う彼らの曲には、一見すると“希望”なんてどこにも無い。でも、生身の聴き手を前にした瞬間に、その音には“希望”が生まれる。それは、彼らが光と闇が表裏一体の世界にあることをよく知っているからなのだと思う。別に、ピンチの時に助けに来てくれるだとか、怪獣を倒して全宇宙滅亡の危機から救うだとか、そんな正義のヒーローのようなことをしてくれるわけではない。しかし、絶望的な日々の中でも、嘆き崩れてしまいそうな環境の中でも、暗がりが深くて夢なんて見れないような夜でも、彼らはきっと希望と絶望と“あなた”を等しく愛して、絶対的な味方となってくれる。彼らは、きっとこのツアーでたくさんの孤独を打ち消してくれるのだろうな、そう思った。

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着