『ルーベンス展―バロックの誕生』記
者発表会レポート 「画家の王」の知
られざる顔に迫る、過去最大級の展覧

2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)の期間、東京・上野の国立西洋美術館で『ルーベンス展―バロックの誕生』が開催される。ルーベンスの作品が約45点(帰属・工房作等含む)、その他の作品を含めて約75点程度の内容とのことで、国内のルーベンスの展示としては過去最大級の規模だ。
日本においては名作アニメ『フランダースの犬』で、主人公のネロ少年が最期に見入る祭壇画の描き手として知られるルーベンスは、ヨーロッパではバロック美術が栄えた17世紀を代表する大芸術家として有名だ。以下、記者発表会の様子と共に、本展の見どころを紹介したい。
芸術家にして外交官 複数の才に秀でた天才
ペーテル・パウル・ルーベンス《パエトンの墜落》 ワシントン、ナショナル・ギャラリー Courtesy National Gallery of Art, Washington

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)はドイツのジーゲンに生まれ、ベルギーのアントウェルペン(アントワープ)で育ち、絵の修業を始める。修業が終わるとイタリアに滞在して腕を磨き、アントウェルペンに戻って宮廷画家となった。王侯に愛され、画家として成功を収めると共に5か国を渡り歩き、人文学者や辣腕の工房経営者としての顔も持つマルチプレイヤーで、どのジャンルにおいても一流だった。まさに異名「王の画家にして画家の王」に相応しい存在感である。
ペーテル・パウル・ルーベンス《ヴィーナス、マルスとキューピッド》 ロンドン、ダリッジ絵画館 By Permission of the Trustees of Dulwich Picture Gallery
バロック美術が花開くきっかけを作ったともされるルーベンスは、後発の画家に大きな影響を与えた。同郷のレンブラント・ファン・レインやイギリスのトマス・ゲインズバラ、フランスのアントワーヌ・ヴァトー、ピエール=オーギュスト・ルノワールなどは、ルーベンスの絵の影響が見られる作品や模写を残している。国や時代や画風もさまざまな画家がルーベンスの絵に学び、現代人もルーベンスに魅了され続けている。それは彼の作品に国や時代をこえて訴える魅力があるからだろう。

かつてない切り口の展示内容
ルーベンスとイタリア、双方向の影響関係に着目
ペーテル・パウル・ルーベンス《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》 ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション (c)LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

日本ではルーベンスの展示が過去に5回開催されており、主に画家が育ったネーデルランドとの関わりで紹介されてきた。ところが本展は、ルーベンスが1600年から1608年の8年間に滞在したイタリアとの関係性に着目している。記者発表会当日は、駐日ベルギー王国大使 ギュンテル・スレーワーゲン氏と駐日イタリア大使 ジョルジョ・スタラーチェ氏が登壇。スレーワーゲン氏は、「ユニークで素晴らしい展示。日本のみならず世界に紹介したい」と語り、スタラーチェ氏は「ルーベンスは大画家であり、同時にルネサンスの精神を生きた人間でもある。それはイタリアの社会が広く開かれていた証」と熱弁、ルーベンスとイタリアの縁を強調した。
駐日ベルギー王国大使 ギュンテル・スレーワーゲン氏
駐日イタリア大使 ジョルジョ・スタラーチェ氏
本展を監修した国立西洋美術館主任研究員の渡辺晋輔氏によれば、今回は「ルーベンスをイタリア美術との関わりにおいて見直してみる、もっと言ってしまえばイタリアの画家として見る」試みだという。アプローチとしては、「イタリアがルーベンスに何を与えたか」または「ルーベンスがイタリアに何を与えたか」という双方向での影響を検証しているとのこと。
国立西洋美術館主任研究員 渡辺晋輔氏
ルーベンスがイタリアから学んだものは、古代文化・古代彫刻・ラファエロやミケランジェロ、カラヴァッジョの作品など数限りない。アントウェルペンに戻った後もイタリア語で手紙を書くこともあったそうで、彼がイタリアに憧憬を抱き続け、精神的な拠り所としていたことがわかる。
ルーベンスがイタリアに与えたものといえば、彼が8年間の滞在で残した絵画だろう。これらの作品は、イタリアの画家たちに影響を与え続けたそうだ。ルーベンスの絵は後発画家に学習され、イタリアでバロック美術が成立するきっかけを作ったとも考えられている。

壮麗でダイナミックな世界 知性と美に満ちた作品の数々
ペーテル・パウル・ルーベンス《キリスト哀悼》 ローマ、ボルゲーゼ美術館

本展は7章構成となり、題はまだ仮ではあるものの、以下が予定されている。
I.ルーベンスによる古代美術とイタリア美術の学習
II.英雄としての聖人たち:宗教画とバロック
III.肖像画
IV.ルーベンスの筆さばき:速筆が画面にもたらす活力
V.ヘラクレスと男性ヌード
VI.ヴィーナスと女性ヌード
VII.神話の叙述
ルーベンスが活躍した時代においては、宗教画や歴史画、肖像画を描く画家の地位が高かった。宗教や神話を題材とした絵画を描く場合、ストーリーはもちろん、人物の配置や描くモチーフの意味を知っている必要がある。古典的な彫刻などに限らず文学にも精通していたルーベンスは、神々の姿を数多く描いた。また、宗教的なモチーフを描く時は古典的かつ快楽的なエッセンスを加えている。そうした作品からは、ルーベンスが芸術の才に恵まれただけではなく、洗練されたインテリであったこともうかがい知れる。
ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》 東京、国立西洋美術館
ルーベンスの描く肖像画はいきいきとしており、鑑賞者からすればまったく知らない人であるモデルにも、強い親しみが感じられる。本展で紹介されている肖像画はいずれもルーベンスの身近にいた人たちがモデルで、《眠る二人の子供》の子供たちは兄の実子たち、《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》はルーベンスの長女が描かれている。眠っている子供の息遣いや、こちらを見つめる子供の体温が直に伝わってくるような近しさと親しみを感じさせる作品だ。
ペーテル・パウル・ルーベンス《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》 ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション (c)LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
その他、力強い筆さばきに圧倒される作品や、当時の理想の身体を描いたヌードの絵など、本展には壮麗でダイナミックな作品が満載。ルーベンスの描く世界は、まばゆい光と躍動感に満ち、思わず呼吸が止まるような迫力を携えている。本展の広報大使は『フランダースの犬』のネロ少年とパトラッシュが務め、また会場ロビーでは同番組最終回でネロが見ていた祭壇画が再現されるという。時代をこえて人々を魅了する巨匠ルーベンスを、かつてない規模と切り口で是非堪能していただきたい。

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