シド アニメとの長年の関わりについ
て、そして結成15周年を迎えた現在の
心境とは?

結成15周年のアニバーサリーイヤーに突入したシドから、一風変わったベストアルバムが届いた。『SID Anime Best 2008-2017』は、その名の通りメジャーデビューから10年間のアニメタイアップ全10曲を網羅した作品で、『黒執事』や『鋼の錬金術師』など人気アニメのテーマ曲を一枚にぎゅっと凝縮。しかもボーナストラックとして、LiSAに提供した「ASH」(『Fate/Apocrypha』オープニング)の新録セルフカバーも収録し、ディープなファンにも、シド初心者にも、どちらにもアピールするアルバムに仕上がっている。シドとアニメとの長年の関わりについて、そして15周年を迎えた現在の心境について、4人の本音を訊いてみよう。
タイアップ曲と自分のバンドをどっちもいいところに持っていくことは、すごく難しいことなんだなと思った時期もあった。(マオ)
――「アニメのテーマ曲だけでベストアルバムを作ろう」という企画を最初に聞いた時に、どんな感想を持ちましたか。
マオ(Vo):そうですね、まず自分たちで「アニメのタイアップ曲がけっこう増えたね」という雑談のところから入って……。
――あ、失礼しました。メンバー発信だったんですね。
マオ:もちろんレコード会社も一緒になって作り上げたんですけど、最初はそこからです。「今何曲あるんだっけ?」って数えたら10曲あって、「アルバム行けちゃうじゃん」ということで、とんとんとんと決まっていって。ちょうど15周年だったんで、こういうアニバーサリー的な作品はいいかなと思ったこともあって、出すことになりました。
――10年間の軌跡を聴き直してみて、それぞれどんな思いがありますか。
明希(Ba):自分たちとアニメの作品と寄り添って作ってきた中にも、アニメの世界観はもちろん、自分たちの音楽性も表現してこれたなという達成感と、うれしい気持ちとがありますね。
Shinji(Gt):アニメというと、似たような曲が増えちゃうのかな?と思ったんですけど、我ながら見事にバラバラの曲だなあと思っていて、最初から聴いていっても面白いものになったなと思いましたね。自分たちとしても似た曲は作らないようにしてきたんですけど、こうやってあらためて並べるとすごいなあと思います。
ゆうや(Dr):1曲目「モノクロのキス」で始まって、メジャーデビューからずっとシドの中でアニメが一緒に歩いてきてるのかなという感覚は、すごくありますよね。

――アニメと寄り添うという話で言うと、「螺旋のユメ」(2017年『将国のアルタイル』)の取材の時に、明希さんが話してくれた言葉があるんですよ。アニメの曲を作る時は、「絵の世界観から連想することが多くて、キーヴィジュアルを見ながらハマる曲を作る。ストーリーを読み込むのはそのあと」という話をしていて。ずっとそういう作り方ですか。
明希:そうですね。アニメにはキーヴィジュアルが必ずあるので、そのヴィジュアルのうしろで“こういう音楽が聴こえてきそうだな”という、自分の勝手な解釈ですけど、そういうものをまず感じるところから始めますね。そこからストーリーとか制作サイドの要望とかをどんどん織り込んで、作っていくという感じです。
――それはたとえば『黒執事』でいうと?
明希:僕が担当させてもらったのは「Book of Circus」編(2014年)で、そこに出てくる登場人物4~5人の絵を見ながら、服装の感じにゴスっぽいものを感じたのと、タイトルにある“circus”という言葉と、そのへんからなんとなくインスピレーションを受けて作り始めて。僕らもこの時期にそういう感じの曲をやりたいと思っていたので、そのへんをミックスして「ENAMEL」という曲を作りました。
――たぶんこの中で一番激しい曲。
明希:そうかもしれない。その言葉が適当かどうかわからないけど、戦うシーンにグロい描写が多い気がしたので、こういう曲調が合うのかな?と。

冬の曲を作る時にはパソコンのデスクトップを冬っぽい写真にしてみたり。そうする時はだいたい苦しい時が多いかもしれない(笑)。(Shinji)
――Shinjiさんは、アニメの曲を作る時の法則みたいな、何か意識していることは?
Shinji:僕も明希と同じように、主人公の絵を壁に貼ってずっと見ていたりとか、それはアニメに限らず、曲を作る時にはそういうことをしますね。冬の曲を作る時には、パソコンのデスクトップを冬っぽい写真にしてみたりとか。しない時もあるけど、する時はだいたい苦しい時が多いかもしれない(笑)。
――「モノクロのキス」はShinjiさんの曲で、『黒執事』のオープニングテーマ。その時のこと、覚えてます?
Shinji:これはけっこう昔だし、自由に作らせてもらいました。最初にアコギのイントロができて、こういう雰囲気の曲がいいなと思って、何回もサビを作り直して出来上がった曲です。それを『黒執事』のオープニングに選んでいただいて、最初に映像を見たときには興奮しましたね。“ハマってる!”って。
――ゆうやさんはどんなふうに曲作りを?
ゆうや:僕は原作をたくさん読んで、あとはひたすら妄想です。オープニングテーマだったら、入り口がすごく大事だと思うので、その前に何かしらの物語があって、そこにスッと曲が入って来て……という妄想をして、“それならこの曲調が合うな”とか、まずは曲の入り方をいくつも考えるというやり方です。それで決まるような気がするんですよ。曲が流れた瞬間にゾワッとする感じを受けるか受けないか、そこをすごく大事にしてます。
――そしてマオさんは言葉を紡ぐ役割として、より直接的に作品の世界観を意識しなきゃいけない。
マオ:これがけっこう難しくて、はっきりコンセプトが決まっていて「こういう感じで書いてください」と言われる場合と、「マオさんにお任せします」という場合もあるし、その間もあって。匙加減はアニメによって違うし、同じアニメでもクールによって要望が違ったりするので。アニメに対しての向き合い方が決まっているわけではなくて、今回はこういうお話をいただいたからこうやって書こうという、毎回違いますね。
――セオリーがない。
マオ:そうです。最初の頃は、すごく意識して書くものだろうなと思って、手探りでやってたんですけど、そうでもない時もあったから、徐々に“タイアップ曲ってけっこう難しいな”と思うようになって。タイアップ曲と自分のバンドをどっちもいいところに持っていくことは、すごく難しいことなんだなと思った時期もあって。そこですごく勉強して、今はタイアップ曲を書くのは好きですね。「こうやって書いてください」と言われると楽しそうだなと思うし、「自由にやってください」と言われたら、映像をいっぱい見て広げていく作業も楽しいし。いろんなパターンを楽しめるようになりました。

――その“タイアップ曲って難しいな”と思っていた時期って、たとえばいつ頃?
マオ:けっこう早かったかな。「嘘」(2009年『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』エンディング)のあとに「レイン」(2010年『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMSIT』オープニング)があって、最初はエンディングだったんですけど「次はオープニングをお願いします」と言われて、プレッシャーを感じた時期がありました。ただ曲調は全然違ったので、書きやすかったですけど。
――良い意味で、アニメ制作サイドから要望が多かった曲というと?
マオ:一番言っていただいたのは、実は「ASH」かもしれない。
――ああー。なるほど。
マオ:これはLiSAさんに提供した曲で、アニメ(2017年『Fate/Apocrypha』)の世界観、LiSAさんの世界観、俺の作詞の世界観がしっかり出てこないといけないと思ったので、そこは新たな挑戦でしたね。プラス、それをまた自分が歌うことになるという、4段階ぐらいを経ているので、すごく楽しかったです。
――「ASH」の曲作りはどういうふうに?
明希:『Fate/Apocrypha』のオープニングということで、作品を見させていただいて、LiSAさんのライブも対バンで一緒になった時に袖から見ていて、LiSAさんの歌っている姿ともリンクして作っていきました。
マオ:『Fate/Apocrypha』とLiSAさんのための曲をと言われて、楽しそうだからやりますと言ったんですけど、そもそも自分が女性アーティストさんの曲を聴くことが多くて、憧れがあったんですよ。自分が出ないキーの声を出せるとか、きれいな声だとか、女性っぽい歌詞への憧れもあったので、提供することによってその憧れが叶えてもらえるというイメージでしたね。LiSAさんのことを考えながら、自分が女性アーティストだったらということも考えながら、作っていった感じです。
――でも女性らしいと言いつつ、一人称が“僕”になってる。
マオ:女の人が歌う“僕”が好きなんですよ。
――それは個人的な趣味ですか(笑)。
マオ:そうです(笑)。女の子が“僕”と歌っている歌がすごく好きで、“僕”がNGと言われたら困るというぐらい“僕”推しでいきました。
――ハマってますよ。LiSAさんの強い女性像にもぴったりだし。
マオ:そうそう。すごくハマってて、完全に予想を超えてくださったので、聴いててゾクゾクしましたね。
――それを自分で歌い直す時の苦労とかは?
マオ:苦労はないんですけど、不思議でしたね。自分が書いて、違う人が歌って、戻ってきたものを歌うのは初めての経験だったし、今後もめったにできない経験だと思うので、これは楽しみながらやりたいなと思ってました。それと、今度は自分たちのファンに向かって発信するものに変わるので、そこを意識しながら歌いました。
――Shinjiさんとゆうやさんは、シドの新曲としての「ASH」にはどんな思いが。
Shinji:最初にLiSAさんが歌ってるので、逆に男の良さみたいなものを出したいと思っていて。男らしいバッキングだとか、チョーキングの仕方とか、そういうことはいつも以上に意識しました。
ゆうや:ここ最近の攻撃的なナンバーを担当してもらっている、エンジニアの細井さんという方にやってもらったんですけど、すごく相性が良くて、気持ちよくできた印象でした。音にすごいパンチがあるんですよ。

土地土地でファン投票をするのって、やったことがないので、すごく楽しみです。今後のライブのヒントにもなるんじゃないかな。(明希)
――ちょっとおまけ質問、いいですか。それぞれ、好きなアニメやマンガというと?
明希:世代で言うと、『少年ジャンプ』に載っていたような作品が中心ですよね。『ドラゴンボール』とか。
マオ:好きなものがたくさんあるので、“これ”ということは言えないんですけど。系統で言うと『魁!!男塾』とか『北斗の拳』とか『サラリーマン金太郎』とか、眉毛が太いやつが好きです(笑)。『キングダム』とかも。男くさいものが好きなんですよね。あと、一人の男が成功に向けてどんどん上り詰めていくような物語とか。俺は田舎で育ってそういう願望がすごく強くて、“上り詰めてやる”と思って上京したので、ちょっと自分を重ねられるようなものが昔から好きかもしれない。
Shinji:僕も『少年ジャンプ』を読んでいて、戦うマンガが好きでした。『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』とか、よく見てましたね。あと『ターちゃん』も。全然戦いじゃないですけど(笑)。
――子供にとってのマンガって、大人が思うよりも影響力がありますよね。人生観を左右されることもあったりして。
Shinji:そうですよね。メッシだって『キャプテン翼』を見てたんでしょ?
ゆうや:そうそう。
Shinji:僕も、かめはめ波とか、絶対出せると思ってました。小学校の時、練習しましたもん。
ゆうや:男はみんなやるよね。僕は自分がサッカーやってたんで、サッカーアニメがすごく好きです。特に、共感しちゃう系が好きで。プロがどうこうよりも、高校サッカーの作品が好きなんですよ。ちょっと前にやっていて、好きなものありましたね。リアルなものが好きなんですよ。人間模様が出てくるような、サッカーだけでごりごり押してこない感じが好きで。
――普通のアニメファンで、ここからシドの世界に入ってくるリスナーって、かなりいると思うんですよね。
マオ:“自分だったら”ってよく考えるんですけど、自分だったら、ちょっと気になるアーティストのCDを初めて買う時は、こういうもの(ベストアルバム)からまずは手に取ったりするので。おっしゃっていただいた通り、ここで初めてシドの音楽にちゃんと触れる人が増えると思うんですけど、こうしてアニメのタイアップをやらせていただいて、最終的には俺たちはライブを一番の軸としてやっているバンドなので、そこまでたどりついてくれたら一番うれしいですね。そう思ってみると、けっこうライブ映えする曲が多いんですよ。
――確かに。
マオ:テンポがいい曲や、盛り上がる定番曲が多いので。いろいろ調べなくても、この10曲を聴いてくれればきっと楽しめると思うので、ライブに遊びに来てくれたらうれしいなと思います。アニメはアニメとしてうまくコラボしているんですけど、最終的にはライブで力を発揮する曲たちでもあるので、ぜひ来てくださいということですね。
シド
15周年を止まらずに走り続けて、この先につながるような活動のきっかけがつかめたらいいかなと思ってます。(ゆうや)
――ちょうどいいタイミングで、15周年のライブハウスツアーが5月から始まります。これが面白いことになっていて、“ファン投票”“暴れ曲限定”“インディーズ曲限定”“昭和歌謡曲限定”とか、日替わりメニューで全国6都市を回るという、この企画ってメンバー発信ですか。
マオ:そうです。普通にやるより、日頃から応援してくださっているファンのみなさんがドキドキするようなものというか、この情報が出ただけでテンションがぶち上がるようなものにしたかったので。それはできたのかなと思ってます。あとはライブの内容なんですけど、これって15年やってきたバンドだからこそできる企画だと思うので、そのへんをちゃんと生かしながら、自分たちも楽しみながら、回って行けたらなと思ってます。
明希:土地土地でファン投票をするのって、やったことがないので、すごく楽しみですね。どんな曲が来るのか。
――東京と福岡で全然違ったりとかしたら、面白いですよね。
明希:そうですよね。今後のライブのヒントにもなるんじゃないかなって、個人的には思ってます。あとは、リハーサルが大変そうだなと(笑)。
Shinji:“暴れ曲限定”“インディーズ曲限定”“昭和歌謡曲限定”とか、同じ系統の曲が並ぶので、気持ち的に入りやすそうかなと思います。ただ“ファン投票”は、セットリストがぐしゃぐしゃになる可能性があって、これは難しそうかなと。それこそ、絶対忘れてるような曲もやるだろうし、練習が大変そうですね。練習頑張ります。
ゆうや:ただただ面白いライブになると思います。シドのライブの傾向として、最後はバラードで感動させて帰ってもらう的なものが多い中、“暴れ曲限定”は頭からケツまで暴れ曲なわけだから、どういう締め方をするんだろう?というのは、すごく気になりますね。
――確かに。限定って言っちゃってますからね。
ゆうや:それで終わった感が出るか出ないか。暴れっぱなしで終われるのか、今までやったことのないライブの感じになると思うので、自分たちでもすごく楽しみです。
――セトリはまだ?
ゆうや:全然決まってないです。ファン投票も4月20日まで受け付けているので、それからですね。でも練習はしてます。突然来る可能性があるので。
――最後に。15周年を迎えた今年、シドはどんなテーマを掲げて走っていきますか。
マオ:15周年のテーマは、振り返るというよりはもっと先を見たいので、そのために現状の最高のシドを見せたいと思ってます。16、17、18年目になった時に、“15周年の時のシドを超えるのはなかなかハードル高いよな”と思えるような、現状の100%をやりたいですね。“今まで頑張って来たよな俺たち”というよりは、ここからファンのみんなと一緒になって進んで行こうねという、明るい未来を見せる15周年にしていけたらと思ってます。
――完全に未来志向でいく。
マオ:そうです。アーティスト写真も、そんな感じしません?
――そうなんですよね。こんなに躍動感のあるものは、今までなかった気がする。
マオ:そうそう。色も青で統一して、前に向かって進んで行く疾走感がある。今年はこういう感じでいきたいですね。
――ゆうやさん、いい顔してますよ。
ゆうや:難しかったんですよ、これ(笑)。実際に演奏してるんですけど、そうしないとこの疾走感は出ないからって、それがすごく難しくて。しかも顔がちゃんと見えるように、タムを外してみたんですけど。今年は“見せていこう”ということですね。15周年を止まらずに走り続けて、この先につながるような活動のきっかけがつかめたらいいかなと思ってます。
明希:応援してくださるファンの方と一緒に、今後も歩んでいけるような、濃い1年になったらいいかなと思います。常に新しいことを考えているので、期待していてほしいです。
Shinji:“今のシドが一番かっこいいよね”と思えるパフォーマンスを見せたいです。10周年も派手にやったけど、15周年のほうがかっこいいよねと思ってもらえるように頑張ります。
取材・文=宮本英夫

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