まふまふ 夢を描き、夢を生みだし、
夢の中において揺蕩う――ひとりの表
現者が仲間と共に魅せた“夢のステー
ジ”

ひきこもりでもLIVEがしたい!~明日色ワールドエンド発売記念公演~

2018.3.21 幕張メッセ国際展示場9~11ホール
夢を描き、夢を追いかけ、夢を生みだし、夢の中において揺蕩う。おそらく、まふまふという表現者は夢という名の理想を求道的に究めていくこと、それこそを自身の生業として来ているのではなかろうか。
昨年秋に発表された彼のソロアルバム『明日色ワールドエンド』が、その内容的にもセールス的にも目を見張るような素晴らしい結果をみせたことはまだまだ記憶に新しいが、このたび幕張メッセにて行われた2デイズライブにつけられていたタイトルは、その名も『ひきこもりでもLIVEがしたい!~明日色ワールドエンド発売記念公演~』。秋から冬、そして春へと季節が徐々に移ろいを経た中で、まふまふはここでひとつの区切りをつけるべく、きっと今回のライブを催したに違いない。
まふまふ
まふまふ
ちなみに、今回のライブでは開演前の諸注意を告げる際のいわゆる“影ナレ”に、声優・小野友樹が起用されていたため、すでに開演前から場内はおおいにザワつくことしきり。しょっぱなから楽しいフェンイント的演出を仕掛けてくるあたりが、まふまふならではのオーガナイザー魂を感じられて何とも心憎い。
その後、『明日色ワールドエンド』の構成と同様にまずはSE「Nexus」が場内へと流れ出すと、程なくしてまふまふが最初に歌いだしたのは、これまたアルバムの中では実質的な1曲目として収録されていた「輪廻転生」だった。ここではステージ奥にしつらえられた大型ビジョンに巨大な羽根が映し出され、それを背に歌う彼の姿があたかもアークエンジェルのように見えた瞬間があったのだが、何もそのように感じたのは決して筆者だけではあるまい。
まふまふ

まふまふ

それでいて、4曲目の「悪魔の証明」ではまふまふが魔法の杖のごときロッドを振りかざした途端、ステージ上のそこここで業火のような炎が勢い良く立ち昇り、しばしあたりはまふまふの支配する冥界のごとき不穏な雰囲気へと一変。先ほど天使に見えていたはずの彼は、実は堕天したルシファーでもあった、ということなのかも……?
などとあれこれ思いを廻らせていると、次なる「ECHO」と「Nectar」(新曲)においては、ゲストラッパーであるnqrseを迎えてのパフォーマンスが繰り広げられ、この時には幕張メッセが巨大クラブのようなモードへと染め上げられていった。

nqrse、まふまふ

「こんにちは、みなさーん! まふまふです。今日は幕張メッセ公演の2日目にしてファイナルということで、述べ1万5000人つまり2日間で3万人の方に来ていただけました。しかも、なんと応募自体は10万件。ほんとにありがとうございます!(中略) えーと、このライブはいわゆるワンマンライブとはちょっと違っていて、僕のシンガーとしての側面だったり、自分の作詞作曲をしている側面だったりを提示しつつ、セットなどのことも含めて自分がずーっと作りたかったステージなんです。まず、ここまではアップテンポな攻め攻めの曲をたくさんやらせていただいたんですけど、いかんせん持久力がね(苦笑)。コンセプト上ひきこもりなので、というか僕は本当にひきこもりなので(笑)、ここでちょっと小休憩をはさむべく、バラードを1曲お送りしたいと思います」
まふまふ

まふまふ

春の季語を冠し、和美旋律を活かした「朧月」。これをしっとりと歌いあげたあとは、一旦まふまふBandたちにその場を託して、お色直しのためにハケた彼だったが、数分後には和テイストを取り入れた別衣装で再度登場し、今度はギタリストとしてインストルメンタル「Anonymous」を華麗にプレイしてみせ、ミュージシャンとしての才覚をもいかんなく発揮してみせるに至ったのだった。
また、このあとには次なるゲストとしてまふまふとはかねてからゲーム友だちでもある浦島坂田船の面々が来臨し、まふまふが彼らのために提供した楽曲「花鳥風月」や「年に一夜の恋模様」をコラボ歌唱するという、なかなかに賑やかなくだりもあり、場内から湧き上がる歓声がより一層高まることになったのは言うまでもない。
まふまふ、浦島坂田船

さらに、本編の佳境に向けてはAfter the Rainで共に活動してきている相棒・そらるも見参し、場内客席エリアまで長くせりだした先のセンターステージにて、まふまふとふたりでの絶妙なコンビネーションを感じさせる「彗星列車のベルが鳴る」で、観衆を魅了してみせたのである。
「みなさん、今日はよろしくお願いします! こんなに大きいステージで2日もライブだなんて、まふまふ大丈夫かな? 今日あたり死んじゃうんじゃないかな??と思って心配だったんですけど(笑)、元気そうにしているので何よりです」(そらる)
「いやー、昨日はちょっとねぇ。今日も、さっきまた込み上げては来ていたんですけど、なんとか耐えました」(まふまふ)
「眼は真っ赤だったけどね(笑)」(そらる)
「それでも、僕は昨日ライブのあと耐え方をググったんですよ。浦島坂田船との「年に一夜~」から、そらるさんとの「彗星列車~」の流れでまた昨日のように涙腺が崩壊して歌えなくなる、というザマになるのは困るので(苦笑)、今日はなんとかして耐えました! ね、偉いでしょ?」(まふまふ)
そらる
まふまふから「偉いでしょ?」と顔を覗き込まれて、静かに頷いてみせるそらる。このふたりの間に流れる空気感は、やはり何度垣間見ても微笑ましい。そうした中、ここではふたりの口からAfter the Rainが無事復活したことや、新曲を続々と制作していることが発表されていき、その中の1曲として「夕立ち」が生披露されたのだが、この「夕立ち」とは雨をモチーフとしたものだけに、After the Rainそのもののことを示唆した楽曲である、と解釈出来そうだ。
故に、まふまふにとってもそらるにとっても、ソロワークスとはまた別の次元、別の意味でAfter the Rainの存在はかけがえのないものであるのだ、ということがこの場面からは良く伝わってきた気がする。
そして、いよいよ本編後半に入ってきたタイミングで、あらたなゲストとしてこの場に顔を出してくれたのは、このところ歌ばかりでなく声優としての活動でも好評を博している天月-あまつき-。今回のライブでは、まふまふの弾くギターと絡みながら歌った「ミカヅキリサイズ」と、まふまふとのデュオをおりなした「ノンファンタジー」で、このイベントに鮮やかな花を添えてくれたと言えるだろう。
まふまふ
かくして、本編ラストではまふまふが超絶ハイトーンで圧倒した「病名は愛だった」や、ギターを弾きながらマイクスタンドを前に歌った「恋と微炭酸ソーダ」などで、ソロアーティストとしての存在感をあらためて発揮してくれたのだが、ここに来てのMCでは今現在の胸中にある率直な想いを、敢えて口にしてみせたりもしたまふまふ。
まふまふ
「ちょっと真面目な話になっちゃうけど、僕は同じ界隈で同じような仲間と一緒に楽しむことの楽しさも知っている中で、最近は他の世界にいる人たちとも交流をしたりしています。そうすると、いろいろなことに気付くんですよ。ただ、中にはYouTubeに投稿したりしている僕のことを、ニコニコ離れしているんじゃないか?みたいに感じる人もいるのかもしれない。でも、僕自身は全くそんなつもりはないですね。だって、自分のプラットホームはずっと“ここ”なので。僕はこれからもそこは変わらずに、でも自分で良いなと思うことは新しいものも取り入れながら、いろいろとやっていきたいと思っています」
明確なまふまふの意思表示に対し、賛同を示す大きな拍手が送られると、彼はさらにこう続けたのだった。
「そして。わざわざここで言う必要はないのかもしれないけど、本当は今日ここにもうひとり、来てくれるはずだった人がいたんですよ。彼とはいろいろ相談をして、話をして、その結果「今回は出演を自粛させて欲しい」という申し出を本人からいただいきました。ただ、僕はいちイベンターとして、いち自分として、その流れを“まるでなかったこと”にはしたくないので、今ここで皆さんに僕からちゃんと伝えておきますね」
こうした記事においても、確かに“わざわざ”その点にふれる必要はないのかもしれないが……まふまふのこうした生真面目なところは、結局のところ彼の生み出す音楽や、こうしたライブにも全て反映されていたりするのだろう。
まふまふ

まふまふ

それだけに、本編ラストで聴けた「眠れる森のシンデレラ」と「水彩銀河のクロニクル」は、演出やライティングなど面も全て含めて、まふまふの持つアーティストとしての真髄が凝縮され具現化されたシーンであったと断言することが出来る。それはある種、キラめくような現実離れした幻想世界であり、まふまふは音楽を通じて唯一無二の理想郷を創出していくことを、今宵この場で叶えているように見えた。
なお、それに続いてのアンコールにおいては、オールキャストが猫耳をつけてのお祭り騒ぎとなった「すーぱーぬこになりたい」のほかに、まさかのサプライズゲストとして小野友樹が登場し、小野たっての希望で「戯曲とデフォルメ都市」と「罰ゲーム」をまふまふと完全共演するという一幕も。

小野友樹

「皆が思ってもみなかったことをやりたかったので、今日こうして皆が「わーっ!」と驚いたり、喜んでくれたりしたのがとっても嬉しいです。ここまで皆に支えてきてもらったおかげで、僕は今いろいろなことをやることが出来ているし、昔に比べたらライブのステージに立つことも少しは怖くなくなってきました。(中略)こうしてライブをしていて、本当に楽しい2日間だったな、もう終わっちゃうのかと思えているだなんて、昔の自分だったら到底考えられないことです。本当にありがとうございます。僕も皆も、明日や未来はどうなるかは分からないけれど、だからこそ今日のこの光景をこの眼に焼き付けて、心の中にしまっておこうと思います」
まふまふ
逆説的なタイトルを持つアルバム『明日色ワールドエンド』の、まさに最後をしめくくっていた「終点」。そして、After the Rainのライブでも長く大切に歌われてきた「夢のまた夢」では場内をトロッコにて周回しながら歌いきり、まふまふは本公演を大団円へと導いてみせたのだった。
楽曲を生みだすクリエイターであり、尋常ならざる声域と表現力を持つボーカリストであり、粋にギターを駆るミュージシャンであり、ライブやイベントを的確に仕切るオーガナイザー/プロデューサーでもある、まふまふという人物。思うに、彼が今もってひきこもり続けている場所があるとするなら、それはつまり夢の中なのであろう。
夢を描き、夢を追いかけ、夢を生みだし、夢の中において揺蕩う。そんなまふまふがここから向かっていくであろうあらたなる夢の行方に、一体どんな未来が待ち受けているのか。その点については、我々としてもぜひ興味深く見守っていきたい。

取材・文=杉江由紀 撮影=小松陽祐(ODD JOB)、坂口正光、小境勝巳
未掲載カット含む、全ライブ写真はコチラ⇒

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