茨城・水戸のアートスポットをまとめ
て紹介! クラブ×映画館の「CINEM
A VOICE」から、水戸芸術館『ハロー
・ワールド』展まで【SPICEコラム連
載「アートぐらし」】vol.25 遠山昇
司(映画監督)

美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。

今回は、映画監督の遠山昇司さんが「茨城県水戸市のアートスポット」について語ってくださっています。
茨城県水戸市。2018年2月17日〜3月31日にかけて、120年以上の歴史をもつ「水戸の梅まつり」が開催され、ちょうど花の見頃を終えた4月。
水戸といえば、梅まつりの会場にもなっている日本三名園のひとつに数えられる偕楽園や水戸黄門、そして納豆などがまずは挙げられるのではないだろうか。私は水戸に1年以上通っているが、初めて水戸へ向かう前の自分自身が持つ水戸のイメージもそのようなものだった。
初めて訪れたのは、2016年の9月。自身監督作品『マジックユートピア』の水戸上映のために向かった。上映会場は、水戸市大工町にある「CINEMA VOICE」。クラブスペースでもあり、映画館でもあるCINEMA VOICEは、地元在住の映画監督・鈴木洋平さんによって企画運営されており、国内外のアート系映画やインディペンデント映画の上映などを行っている。普段と違った映画体験ができる、おもしろい映画館だ。
左:遠山昇司 右:CINEMA VOICEの企画運営を行う映画監督の鈴木洋平さん
水戸の公衆電話をめぐるアートプロジェクト『ポイントホープ』
映画の上映をきっかけに水戸を訪れた私だが、この出会いが思わぬアートプロジェクトを生み出し、水戸と私の関係を築いていくことになる。それが、公衆電話をめぐり物語をたどる体験型のアートプロジェクト『ポイントホープ』だ。
物語の始まりは、とある電話番号。
「029-284-1900」
公衆電話からこの番号へかけると、別々の時間、別々の場所に存在する、出会ったことのないふたりの女性の物語が聞こえてくる。映画『マトリックス』では、主人公たちが仮想現実(マトリックス)と現実の世界(ザイオン)とを公衆電話を利用して往き来するシーンが描かれているが、まさに『ポイントホープ』でも公衆電話が不思議な物語へと通じる場所として浮かび上がる。
公衆電話を舞台にしようと思ったきっかけは、水戸の街をリサーチとして巡っていた際に、偶然、不思議なところに設置してある公衆電話を見つけたことだった。古代から海や川の水の出入口は「みと」または「みなと」と呼ばれていたが、「水戸」という地名の由来もそこからきているそうだ。
水戸市内には、日本全国に残る巨人伝説のひとつ、ダイダラボウの足跡とされる仙波湖をはじめ、川や湖、そして水源があるが、そんな水戸の川を巡っていた際に、土手沿いにひっそり佇む公衆電話を見つけた。私にはその公衆電話が、まるで日常生活の空間に突如現れた古代遺跡のように見えた。
『ポイントホープ』の物語は、第1章から第5章の5つの物語で構成されている。第1章 「クジラの歌とふたりの夢」は、全国の公衆電話から聞くことができる。第2章以降は、水戸市内のとある4箇所の電話ボックスを巡ることで物語の続きを体験できる。
インターネット空間の光と影を考える展覧会
『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
水戸の街中を歩いていると、不思議な形をしたタワーが目に入ってくる。建築家・磯崎 新が設計したことでも知られるこのタワーは、水戸芸術館のシンボル的な存在。ライトアップされた姿は幻想的だ。
この水戸芸術館では、現在『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』展が開催中だ。『ポイントホープ』では、今は使われる姿をあまり見なくなったオールドメディアとしての公衆電話に注目したが、『ハロー・ワールド』展では、今まさに私たちの生活の中で切っても切れない関係となったインターネット空間と進化し続けるテクノロジー、多様化するメディアが展覧会の舞台となっている。
最初の部屋で現れるのは、人型ロボットのPepperと犬型ロボットのaibo、そしていくつものモニターだ。ここでは、セシル・B・エヴァンスによる、パフォーマンス型インスタレーションが上演されている。
いわゆる肉体を持った人が登場するわけではなく、Pepperやaiboといったロボット、モニターの中に存在する映像としての人物、そしてそれらを動かす人工知能が演じているかのように思わせる作品。展示空間をさまようかのように移動し続けるPepperと目が合ってしまう感覚は、なんだか不思議な体験だ。
続いての作品のタイトルは、《キス、または二台のモニタ》。赤岩やえ・千房けん輔によるアート・ユニット「エキソニモ」の新作インスタレーションだ。
床にはおびただしいケーブルが無造作に敷き詰めてあり、そのケーブルの先には、男女の顔の映像が映された2枚のモニターが合わさってキスをしている。「キスをしている」と書いたが、実際はモニター2枚が重なっているだけなので、「キスをしているように見える」という状態だ。壁面には、メッセージアプリの画面のような2枚のモニターが設置してあり、恋人同士が交わすであろう言葉の数々がタイムライン上に表示されては流れていく。キスをするふたつのモニターは、ロマンチックでもあるが、このキスの背景に存在する仕組み(システム)を感じ取った瞬間、物悲しくなってしまう。
『ハロー・ワールド』展では、国内外8組のアーティストが各々のアプローチで人間や社会の未来を考察、表現することに挑んでいる。最近、ちまたを騒がす言葉として、「フェイクニュース」や「仮想通貨」などがあるが、これら真偽不明なものと私たちは日常の中で確実に接しはじめているのだ。
今回は、水戸の映画館、アートプロジェクト、展覧会をご紹介したが、時に映画やアート作品は、未来を提示したり、予見したりもする。確かめようのない未来を体験しに、水戸へ向かうのはどうだろうか。

アーティスト

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