撮影:熊谷仁男

撮影:熊谷仁男

“アーティスト・香取慎吾”はいかに
誕生したか、映画『クソ野郎と美しき
世界』を機に振り返る

最新映画では本人役で自作の絵も登場! アーティスト・香取慎吾の活動を振り返ります

今週4月6日(金)から2週間限定で公開される、稲垣吾郎×草彅剛×香取慎吾=“新しい地図”による映画『クソ野郎と美しき世界』。
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今回はその中から、香取慎吾×山内ケンジ監督のタッグによる『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』をピックアップ。本作で重要な要素となる「アーティスト・香取慎吾」の歴史を紐解きながら、本作を楽しむための手がかりを探ってみたい。
アーティスト・香取の活動を振り返る2月某日・都内某所で行われた『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』の撮影現場に足を踏み入れて驚いた。部屋一面に飾られている大量の絵画は、他でもない香取本人が描いたもの。それもそのはず、ここは「香取慎吾本人が住む部屋」という設定のセットなのだ。
香取自身が「映っているのはほぼ普段の僕のまま」と言う本作。作中に登場する香取の部屋のシーンの撮影にあたって、山内監督は香取のアトリエ(監督曰く「倉庫のよう」)から、自ら使用する絵画作品を選んだという。
驚いたのは、セットに飾られた絵画の作風が実にバラエティに富んでいたことだ。香取によると描かれた時期はまちまちだそうだが、これまで世に出ている香取の絵はまだまだほんの一部であるということが、このセットから窺い知ることができる。
熱心なファンでなくても、香取に対して「アートな人」という漠然としたイメージを抱いている人も多いだろう。特にここ最近、“香取慎吾とアート”の間の距離は急速に縮まっている。
いくつか例を挙げると、2016年には「パラリンピックサポートセンター」のために大規模な壁画を発表。2017年には「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」に絵画を出展、カルティエの“タンク”100周年を記念した期間限定ギャラリーでは、絵画と立体オブジェを披露している。
また現在発売中の『芸術新潮』では横尾忠則と対談しており、彼のアートに対する現在のスタンスを知ることができる(そこでは急激に“アートの人”として扱われることへのとまどいも語られている)。
また2017年にテレビ番組『おじゃMAP!!』で初公開された彼の自宅映像では、ほぼモザイクで隠された中で、自作の絵画が多数飾られていることが放送された。
このような香取の最近の活動からは、彼の「アート」に対するモチベーションの高さが窺い知れる。
とは言え、香取にとって絵を描くことは、彼がたびたび自称する“パーフェクトビジネスアイドル・香取慎吾”としてではなく、“アーティスト・香取慎吾”としてこれまでも重要な表現手段でありつづけてきた。『クソ野郎と美しき世界』公開を機に、ほんの一部ではあるが、改めてアーティスト・香取慎吾の活動を振り返ってみたい。
初期の香取の作品をまとまったかたちで確認できるのが、1998年の書籍『しんごのいたずら』だ。自作のイラストを一冊にまとめたもので、作品のクオリティとしてはまだまだ発展途上ではあるものの、彼の作風の大きな特徴であるエネルギッシュな線と色使いは、このときすでに存在していたことがわかる。
その前年の1997年には、テレビ番組『SMAP×SMAP』の企画で、青森・津軽鉄道の車体に地元の子どもたちと共にペインティングをするという大仕事を経験。ここでは香取特有のダイナミックな作風が、子どもたちの筆使いと絶妙な化学反応を見せている。(その後2017年には、破損が進んだ車体に再度ペイントを施すという『おじゃMAP!!』の企画で、当時の子どもたちと再会を果たすことになった)
その後も香取は断続的に絵を描き続け、その一部にはグッズというかたちで触れることができた。
草彅とともに声優として参加した2007年の映画『ストリングス~愛と絆の旅路~』では、公式グッズのためにイラストを描き下ろしている。
また2015年に発売されたブログをまとめた書籍『慎語事典 SD SHINGO DICTIONARY VOLUME1』では、限定生産版の特典として付属されたMAISON KITSUNEとのコラボレーションTシャツのために、シュールなキツネの絵を手がけている。
本作に映し出される、香取の姿とは?
地道に積み重ねられた、アーティストとしての活動加えて「香取慎吾=絵を描く人」というイメージが一般に広まっていった理由のひとつとして、彼がテレビや雑誌などでたびたびイラストを披露していたことも挙げられるだろう。
2001年にスタートしたテレビ番組『SmaSTATION!!』と連動して、その週の放送内容をまとめたフリーペーパー『SmaTIMES』では、毎週描き下ろしのイラストが掲載された。そこには今回の作品のセットに飾られた絵画にも登場する、彼のシンボルキャラとも言えるモチーフ「黒うさぎ」も多数登場していた。
また2005年に放送された『SMAP×SMAP』SPでは、中居正広のクイズの回答をいじってフリップに描かれた架空の生物「テロテアリーナ」が登場。のちに中居の罰ゲームとして着ぐるみが制作されるなど、番組の企画に発展した例もある。
絵画以外にも、香取はアーティストとしての顔をみせる活動を行っている。
1日1枚、毎日撮影した写真と短文を1年分まとめた2006年の書籍『SNAP NO SHINGO』では、発売記念イベントを元小学校の施設で開催。書籍の世界観を教室などのスペースを使って展開するインスタレーション的なアプローチは、限られた期間・場所での開催がもったいないほど、充実の内容だった。
また2016年には、無類のファッション好きである側面にスポットをあてた書籍『服バカ至福本』を発表。また違った角度から彼のアートセンスを感じることができる。
この他にも挙げればキリがないが、実際に生み出された作品を見ていくと、その表現力は年々豊かさを増していることが分かる。現在のアーティスト・香取慎吾の充実ぶりは、その華やかなイメージとは裏腹に、極めて地道かつ実直な活動によって積み重ねられたものなのだ。
とは言え、もちろんこれらの活動の多くは、グッズや書籍などの企画として制作されるなど、アイドル・香取慎吾の活動の一部として展開されたものも多い。
それらと今回の映画で用いられる絵画の最も異なる点は、香取のよりパーソナルな側面が反映されている作品たちである、ということだ。
本作で観ることができる、香取の姿とは香取は、自身の創作活動について「僕の場合は絵に自分の心情が映し出されちゃうところがある」と語っている。とするなら、本作に登場する、これまで公にすることなく描き溜めていた絵の数々には、これまで私たちが目にすることのなかった香取の一面が刻まれているはずだ。
そう考えると、そんな作品たちが重要なファクターとなっている本作について、「映っているのはほぼ普段の僕のまま」とまで言い切る香取の発言にも納得がいく。作中でどれだけ彼の作品を確認できるかはわからないが、その絵たちから発せられるエネルギーは、画面からでも十分に感じられるのではないだろうか。
さらに見逃せないのは、香取にとって絵を描くことと同じく、大事な表現手段であり続けてきた「歌」も本作の重要なテーマとなっていることだ。作中で香取は他人の歌を食べて生きる存在=歌喰いに“歌を奪われてしまう”。その設定について香取は「僕自身も最近、歌を奪われてしまったと言うか、同じような感覚があったんです」と語っている。
このように本作には、アーティスト・香取慎吾の活動や、現在の香取の境遇と重ね合わせると、いかようにも深読みできる要素が散りばめられている。
しかし、人間の表と裏を丹念に描いてきた山内ケンジ監督が、単なる現実の写し鏡として安直に彼の絵画を用いるはずはない。香取もそこに信頼をおいているからこそ、プライベートな表情が反映された作品を豊富に提供し、自分自身を演じるという役割を真正面から引き受けたのではないか。
『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』は、虚実入り乱れるエンタテインメントだからこそ描くことができる「表現者・香取慎吾」の最新形を、スクリーンで確認できる格好の機会となるはずだ。
『クソ野郎と美しき世界』
4月6日(金)2週間限定全国公開
出演:浅野忠信、満島真之介、馬場ふみか、稲垣吾郎/中島セナ、香取慎吾/尾野真千子、草彅剛/クソ野郎★ALL STARS
(c)2018 ATARASHIICHIZU MOVIE

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