Fuminori Kagajo 時代を超えて心と
体を揺さぶる音のクロスオーバー、最
新作から紐解くDJの哲学

彼の名はFuminori Kagajo。札幌を拠点に、20年以上に渡りクラブシーンで活躍するDJ/プロデューサーだ。そのスタイルは70年代ソウル、90年代アシッドジャズ、2000年代ハウスミュージックなど、時代を超えて心と体を揺さぶる音のクロスオーバー。2010年以降は海外レーベルからもリリースを重ね、国内外で着実に支持者を増やしてきた彼が、満を持して放つ初のフルアルバム『Timeless』が完成した。海外からはアンジェラ・ジョンソン(Angela Johnson)、マイク・シティ(Mike City)ら名の知れたアーティストが、日本からはchihiRo(JiLL-Decoy association)と澤田かおりという華やかなボーカリストを迎え、歌ものダンスミュージックとしてJ-POPリスナーにもアピールする素晴らしい作品だ。アルバムのコンセプト、制作エピソード、そしてDJとしての哲学に至るまで、フレンドリーかつ真摯に語る言葉に耳を傾けてみよう。
僕は中間の位置からブレないようにして、いろんなお客さんが楽しめる方向に動きたいなって常々思ってます。
――そもそもの話を聞いてもいいですか? KagajoさんがなぜDJという仕事を選んだのか。
僕がDJを始めた90年代半ばぐらいは、ちょうどアシッドジャズが流行っていたんですよね。たまたま友達がイベントをやっていて、ヒップホップと、ロック、ハウス、R&Bとかがある中で“ジャズがないね”という話になったらしくて。たまたま僕がアシッドジャズが好きでアナログも持っていたので、“ちょっとジャズ回してよ”って誘われたのがきっかけなんです。回すってどうやるの? というところから始まったんですけど。
――リスナーからいきなりDJになってしまった。
そうです。そこで友達からDJのノウハウを教わって、一回やったら“こんなに楽しいものなのか”と。そこからのめり込んでいきましたね。当時は札幌にもレコード屋がいっぱいあったので、いろんなところに行って掘って、という感じでした。レコードを買うようになってからは、今まで服とかにかけていたお金を全部レコードにかけてましたね。当時はクラブがめちゃくちゃ盛り上がってた時代で、週末になったらどこのクラブもパンパンで、どのジャンルのイベントにも人が集まってました。
――いい時代に始められた。
まあ、そこからブームが終わって、飽和状態から淘汰されていったという感じかもしれない。今も好きな人は来るけど、地方都市だと絶対数が少ないんですよね。
――音楽の時代で言うと、70’ s、80’ s、90’ s、2000年代と、まんべんなく好きですか。
僕は70年代のファンク、ソウル、フュージョン系がすごく好きで、あとは90年代のアシッドジャズ、ハウス、R&Bとかですね。70年代と90年代に特化して好きなジャンルがあって、80年代は好きなんですけどそんなに詳しくない。改めて自分の選曲を見ると、70年代ばっかりだなと思って、それに気づいた時はちょっと面白くて、70年代の曲だけコンパイルしたCDを作ってみんなに配ったり、そういう遊びもしてました。
――たとえば、具体的には?
ロイ・エアーズ、ロニー・リストン・スミス、クインシー・ジョーンズとか、挙げたらきりがないですけど、結局僕が好きなものはフュージョンがベースなんですよ。アジムスやデオダートや、ブラジリアン・フュージョンも好きですし、フュージョンからソウル、ファンク、ジャズへ行ったので、根本的に僕が好きで最初に聴いていたのはいわゆるフュージョンでしたね。ハービー・ハンコックやボブ・ジェームスは今も好きですけど、本当に好きなのは彼らが70年代にやっていた音楽ですし。ホテルの館内BGMを選曲する時も、今のジャズやソウルのアーティスト、90年代や70年代の古いところも混ぜて選曲していますね。
Fuminori Kagajo 撮影=横井明彦
――話は現在のことに飛びますけど、今のお話にあった、ホテルの音楽を選曲する……これは何て紹介すればいいですかね。
ホテルのサウンドプロデュースということですね。館内BGM、イベントの音楽も含めて、どうブランディングするかを僕に任せてもらっているのがクロスホテル札幌で、もう6年やらせていただいています。そのクロスホテル札幌の10周年記念にCDを作りたいという話が、今回のリリースのきっかけになってるんですけど。それが年内までに作ってほしいという話になり。時間はないですけど、頭の中である程度構想は作っていたので、そこからそれを具現化する作業に入ったという感じですね。
――構想というのは?
クロスホテル自体が、“お洒落”“クール”をキーワードにしているホテルなので、そこの部分と、僕が持ってる音楽のお洒落だったりクールだったりする部分の、ちょうど交わる部分をうまいこと表現できたらいいかなと。あんまりクラブ寄りになりすぎても、ホテルとしてはBGMとして成立しないと困る部分もあるし、DJとしてクラブでもかけられるし、BGMとしてお洒落な空間で流しても機能するということはすごく意識して作ってましたね。
――さらに、ポップスのリスナーにも届けば最高だと。
chihiRo(JiLL-Decoy association)さんや澤田かおりさんをフィーチャーしているので、J-POPリスナーの方にもある程度アプローチできるかな?とは思っていました。ただ澤田さんの場合、全編英語詞にしてきたのでちょっとびっくりしたんですけど。僕の活動を見た時に、たぶん日本語はNGなんだろうなというイメージがあったみたいで、お会いして話した時に“あれ? 英語詞って指定じゃなかったですか?”とか言われて(笑)。全然そんなことないですよというお話をしたんですけどね。結果的にすごくいい感じで仕上がったので、気に入ってます。
――けっこう、アーティストの自由に任せる部分も多いんですね。
そのへんは、僕はちゃんと指定しないんですよ。フィーチャリングするアーティストに対しては、僕が提案したものの上でそれぞれのカラーを出していただきたいので、がんじがらめになるようなコラボレーションは嫌なんですよね。外国人のコラボに関しても、メロディと詞は任せるようにしてます。僕のトラックでインスパイアされたものを表現してほしいという感じで投げちゃいます。chihiRoさんと澤田かおりさんに関しては、メロディをこっちで作って、詞だけ乗せてくださいという形ですね。日本人のアーティストと一緒にやるのはbirdさん以来だったので、少し迷ったんですけど、メロディだけは作ろうと思って、それでお願いしました。1曲1曲作るアプローチが全然違うので、大変でしたけど楽しかったですね。
――今回のアルバムには7人のボーカリストが参加していますけど、見事に個性がばらけていて。曲調も違えば、声質も全然違う。
一枚にまとまった音というよりは、DJ的な感覚で曲を並べたという感じなんですよね。15~16曲作った中から絞り込んで、アーティストに渡して、ということをやっていきました。
――15~16曲も一気に作ったことって、今までないですよね。
ないです。今まではシングル単位でしか作ってこなかったので、探り探りの部分はありましたけど、自分の中で“これを入れたい”というものが最終的にこの12曲になったという感じですね。
――ちなみに、リード曲は……。
北海道内で先行発売(1月24日)した時は、「No Pressure feat.Angela Johnson」と「When You Smile feat. chihiRo(JiLL-Decoy association)」の2曲をリードにしました。洋楽と邦楽という感じで、FMノースウェーブさんは両方がんがんかけてくれたし、この2曲にして良かったと思います。普段、邦楽のリクエストしかしない人が「When You Smile」をリクエストしてくれたり、逆に「No Pressure」のほうは、昔よくアシッドジャズを聴いていたような世代の人がすごく好きだと言ってくれているという話も聞いたので、どっちもうまくリード曲として機能したのかなと思ってますね。
――アンジェラさんはほんと、かっこいいですね。ダイナマイト・ソウルという感じ。
この曲はメロディをアンジェラに任せて、全部作っていいよと言いました。デモを聴いた時点でイメージが湧くと言っていたので、安心して任せましたね。最初からリードトラックにしたいと思って作っていたので、ボーカルを誰に頼むかは最後まで悩んだんですけど、アンジェラにして良かったです。
――「When You Smile」は確かに邦楽的な親しみやすさがあるというか、とにかくメロディが華やかでキャッチー。
曲を作る時はいつもミュージシャンの人と一緒に作るんですけど、僕はほとんど楽器を弾けないんですよ。今回のアルバムの作り方は、サビのコード進行をまず僕が考えて、そこに行きつくまでの展開は鍵盤の人に頼んで、AメロやBメロを作ってもらって、できた進行に対して僕がメロディを乗せて、アドバイスをもらってメロディを直したりして。そういう作り方ですね。
――けっこう、生々しい作り方ですね。PC上で精密に組み上げていく感じではなく。
わりと生々しいですよ。音源自体も生楽器をたくさん使っていますし、作り方としてはバンドに近い作りになってると思いますね。ホーンセクションやストリングスのアレンジはミュージシャンにお願いしましたし。僕が作ったのはベースになるコードと、全体のアレンジやシンセ、リズムですね。ドラムは全部僕の打ち込みなんですけど、なるべく生のフィーリングに近い音にしたくて、音色や打ち込み方はいろいろ工夫してやりました。今回は生音が中心なので、クラブでも通用するものにしたいと思ったので、そこはすごくこだわって、逆に生音に関してはミュージシャンに任せた部分が大きいです。
――そこのハイブリッド感の気持ち良さ、生と打ち込み、70年代と2000年代とか、いろんな要素が交わるところが、最高にかっこよくて気持ちいいところだと思うので。いろんな層に届く作品になったと思います。
まさにそれを狙っていたので、そう言っていただけるとうれしいです。このCDがきっかけで、さらに活動の幅が広がるようになっていけばいいと思っていますし、どんどん新しいアプローチをしていきたいです。
Fuminori Kagajo 撮影=横井明彦
――最後に一つ。KagajoさんにとってDJの哲学というか、そういうものはありますか。
20年以上やってきて“DJって何だろう?”と思った時に、やっぱりお客さんがいる場で、そのお客さんを自分のスタイルでいかに楽しませることができるかが重要なんだって、最近あらためて思いますね。DJをやっている友人とも話すんですけど、お客さんが一人しかいない現場でやるよりも、お客さんが100人いるところでやるほうがやっぱり楽しいし、自分のスタイルも出せるし、そっちが本来のDJだと思うんですよね。最近はどっちかに振り切っちゃってる方が多いかなという気がしていて、アンダーグラウンドの方に行ってるDJの方と、大箱でEDMやトロピカルハウスをかけてるDJの間が広がっちゃってるのかな?という気がしていて。でも僕は昔から、その中間が厚くならないとクラブのお客さんは増えていかないだろうという感覚があったので。僕は中間の位置からブレないようにして、いろんなお客さんが楽しめる方向に動きたいなって常々思ってます。
――KagajoさんのDJとしてのアイデンティティが、だんだんわかってきた気がします。
あと、Namy(DJ、プロデューサー)さんともこの間話していたんですけど、今度は僕らが若い世代とコラボレーションして作品を作っていくのも面白いねと。Namyさんはもうそういう活動をどんどんしているので、僕もそういうことをやってみたいと思ってます。僕らの世代にしかできないことと、若い世代にしかできないことをうまいこと融合させて、広がっていけばいいかなと思ってますね。

取材・文=宮本英夫 撮影=横井明彦
▼Fuminori Kagajo

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