幾島役の南野陽子

幾島役の南野陽子

「篤姫役の北川景子さんがとてもかれ
んなので、張り切って演じています(
笑)」幾島(南野陽子)【「西郷どん
」インタビュー】

 次期将軍の座を巡り、井伊直弼(佐野史郎)を中心とする南紀派と島津斉彬(渡辺謙)ら一橋派の対立が続く中、篤姫(北川景子)の将軍家輿入れをもくろむ斉彬が招いた教育係が幾島だ。薩摩の姫に過ぎなかった篤姫に対して厳しくも愛情豊かに接し、将軍の妻にふさわしい女性に育て上げた。演じるのは、「武田信玄」(88)以来、久しぶりの大河ドラマ出演となる南野陽子。個性的な幾島の役作りに関する裏話や、篤姫に対する思いなどを語ってくれた。
-久しぶりとなる大河ドラマ出演の感想は?
 「武田信玄」もだいぶ前のことですし、今まで大河のことは全く頭にありませんでした。ただ、撮影に入る3日ほど前に、舞台公演で鹿児島にいて、幾島の招魂墓にお参りすることができたので、「これで大丈夫」という気持ちになりました。撮影初日に、髪を結ってもらっているとき、ちょうどテレビで「サラメシ」をやっていたんです。(「武田信玄」に主演した)中井貴一さんがナレーションで「午後も頑張ってください!」と言っているのを聞いたら、「私に言ってくれているんだ、殿!」という気になって(笑)。おかげで「よし、行ける!」と、気持ちを上げて入っていくことができました。
-久しぶりの大河の現場はいかがですか。
 やっぱりセットは豪華だし、スタッフの皆さんの熱い思いや掛ける時間もすごいなあと。リハーサルのときには昔の自分を思い出して、北川さんがとてもいとおしくなりました。あと、私は兵庫県出身ですが、最初に顔合わせをしたとき、同じ兵庫県出身の鈴木(亮平/西郷吉之助役)さんと北川さんが「兵庫県がそろいましたね」と言ってくださったのが、すごくうれしくて。渡辺謙さんも温かく見守ってくださいますし…。おかげでとても気持ち良く過ごせています。お返しに、私も鹿児島のお茶を用意して皆さんに飲んでいただいたり…。そんなところから幾島の役作りをしていったところもあります。
-幾島をどのような女性と考えて演じていますか。
 学校でも生徒たちが親しい先生に対してうわさをしたり、物まねをしたり、ちょっとからかうようなところがありますよね。幾島もそういった人にしたいと、張り切って挑みました。「あの人うるさいけど、本当はこんな人だよね」といった雰囲気を西郷や篤姫に感じてもらえたらと思って、癖を出したつもりです(笑)。
-演じる上で工夫した部分はありますか。
 張り切り過ぎて、お芝居がちょっと上ずった感じになったところがあったので、幾島はこういう人だと軌道修正して、やや滑稽な感じにしました。お由羅さん(小柳ルミ子)に負けないぐらいのインパクトを残したいです(笑)。斉彬と篤姫と西郷の前に現れる初登場の場面は、空気を変えることを意識して、穏やかな雰囲気の中に「何か来た!」という違和感を出すように心掛けました。
-由羅に負けないようにとのことですが、特に頑張ったところは?
 何が何でも篤姫様を将軍家に御輿入れさせようと、吉之助と磯田屋まで出かけたりしていろいろと手を回すくだり(第12回)は張り切りました。年齢を重ねた女性ならではのずうずうしさや明るさみたいなものを入れていこうと(笑)。
-教育係ということで、言葉遣いや所作にも気を使われたのでは?
 そうですね。ただ今回は、これまで積み上げてきたことが役に立ちました。初めての時代劇だった「武田信玄」の時は、浴衣を着ることすらできず、どう動けばいいのかも分からない状態でしたが、30数年の間にいろいろと学ぶ時間がありましたから。それからいろいろ教えていただき、さまざまな役を演じる中で経験を積み、20代の頃には2年ほど学校に通って時代考証や着物のことを勉強した時期もあります。NHKで5年間、「にっぽんの芸能」という古典芸能の番組をやらせていただいたときは、いろいろな方にお会いするたびに「こんなときはどうしたらいいでしょう?」と聞いたり…。そういう引き出しを生かして、今回はちょっと得意になってやりました(笑)。
-篤姫との関係については、どんなことを感じていますか。
 幾島の登場シーンから撮影が始まったのですが、その時の北川さんが、何ともかれんで…。あまりにすてきだったので、「さあ、これをどうしよう…?」とがぜん張り切りました(笑)。以来、一番近い距離で篤姫のことを感じていますが、さまざまな困難を乗り越えていくときに手を取ることも多いので、彼女の熱も伝わってきて…。共に戦う者として、一緒に時間を過ごしています。せりふを聞きながら北川さんを見ていると、「いつの間にこんなに育ったんだろう?」と思ったりしますが、「私が育てたんだ」と気付くと、それだけでグッときます。
-第12回、将軍・家定(又吉直樹)に世継ぎができないと知った幾島が、枕絵などを焼いて吹っ切るシーンは印象的でした。
 良かれと思ってやっていたことが、いとしい篤姫を不幸にするのかと思ったら、自分が火に飛び込みたい…というぐらいの気持ちになりました。でも、それ以上のことを成し遂げるためには…という斉彬の思いも分かるので、そこはもう能面のように一枚皮をかぶった気持ちでいなければと。
-その直後には「自分の身は自分で守れ」と、なぎなたで篤姫を厳しく鍛える場面がありましたね。
 「頑張れ!」と心から思えることはなかなかないのですが、あの場面は本当にそう思いました。北川さん自身も、時間も場所も限られる中で一生懸命、なぎなたを練習したでしょうから、いろいろ大変だろうなと考えたら、自然と気持ちが入ってしまいました。あまりに気持ちが入りすぎて、まるで殺陣師のようでしたけど(笑)。
-篤姫に対する幾島の気持ちには、北川さんに対する南野さんの思いも重なっているように感じます。
 そうですね。待ち時間にお話をしていたら、同じ兵庫県出身ということもあって、いろいろな共通点も見つかりましたし。お芝居も場面に応じて「いつの間に、こんなに年を取ったの?」と思うぐらい、とてもしなやかに役に入っていくので、こっちが引っ張られているような気にもなるし…。「兵庫の星」として頑張ってほしいです。私もすっかりファンになりました(笑)。
(取材・文/井上健一)

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