初期2作の完全再現ライブが証明した
、既存フォーマットを打ち破るロック
バンド・髭の何たるか

髭が東京・WWW(3月18日)、大阪・Music Club JANUS(3月23日)にてスペシャルライブ『LOVE3(✕H!MF)』を開催した。

ファン感謝祭イベント『Party Mustache』(1月8日/渋谷クラブクアトロ)に続き、デビュー15周年イヤー企画『STRAWBERRY ANNIVERSARY』の2つめのアクションとして行われたこのイベントは、2003年リリース作品『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』の完全再現ライブ。彼らの原点とも言える2作を“2018年の髭”がパフォーマンスする、きわめて意義深いステージとなった。
髭 撮影=Wataru Umeda
開演前のSEはアメリカのオルタナティヴ・バンド・ケイクのアルバム「Showroom Of Compassion」(2011年)。髭のフェイヴァリットの一つであるケイクの楽曲とともに、会場を埋め尽くした観客のテンションも徐々に上がっていく。チケットはもちろんソールドアウト。髭の出発地点とも言える2作『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』がどんなふうに再現されるのか、フロアには期待と興奮が渦巻いている。
髭 撮影=Wataru Umeda
照明が落とされ、「I Believe In Miracles」(Jackson Sisters)とともにメンバーの
須藤寿(Vo/Gt)、斉藤祐樹(Gt)、宮川トモユキ(Ba)、佐藤“コテイスイ”康一(Per/Dr)、サポート・ドラマーの佐藤謙介(Dr)が登場。大歓声のなかで放たれたオープニングナンバーは「無題」だった。須藤のノイジーなギターリフが空間を切り裂き、濃密なバンドグルーヴが加わる。さらに「まず、ルールその1。涙は左目から。/しかし溢れてくるものは拒まず」から始まるポエトリーリーディングが重なると、そこはもう髭の世界だ。2曲目はシャープなロックンロール・ナンバー「髭は赤、ベートーヴェンは黒」。ひたすら“ベートーヴェン”をリフレインするサビを浴びているうちに、クラクラするような快楽が押し寄せてくる。さらにオルタナ濃度高めのポップチューン「2人はブルージーンズ」、軽快なポップネスとディープな音像が交互に訪れる「ココロとカラダ、日曜日」を披露し、最初のMCへ。
髭 撮影=Wataru Umeda
「15年前にようこそ! 15年前から僕たちのことを好きじゃない人は、ほとんど何をやってるかわからないと思うけど(笑)。とにかく15年前はコレでライブハウスをブイブイ言わせてたってこと。いつもセットリストとはだいぶ違うけど、今夜はみなさん、楽しんでください!」(須藤)という挨拶の後は、捻じれたギター・アンサンブルとナンセンスな歌詞がひとつになった「兎眼の男」、エッジの効いたバンドサウンドのなかで<この国で生きていくにはライセンスが必要となる>という歌詞――まるで2018年の現状を鋭く批評するような――が突き刺さる「首謀者に告ぐ」、カントリーミュージック経由のストレンジ・ポップ「サマータイム・ブルース」など、アルバム「Hello! My Friends」の収録曲が続く。ポップとオルタナが当たり前のように共存し、ブッ飛んだアイデアをこれでもかと取り込みながら解放的なロックンロール・ショーへと結びつけるステージングはまさに圧巻。言うまでもなく、こんなことができるのは髭だけだろう。「この頃の曲のほうが不思議と歌詞が抜けないね。それだけ一緒に長くいたってことだと思うんだけど」(須藤)というコメントも印象的だった。そう、2003年にリリースされた『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』はまさに髭の原点そのものだ。
髭 撮影=Wataru Umeda
2003年付近のロックシーンは、きわめて刺激的だった。2002年にはNUMBER GIRLが『NUM-HEAVLYMETALLIC』、くるりが『THE WORLD IS MINE』をリリース。翌2003年にASIAN KUNG-FU GENERATIONの『君繋ファイブエム』、ACIDMANの『Loop』、ストレイテナーの『TRAVELING GARGOYLE』などの傑作が次々と発表され、日本のロックはリスナーの想像を超えるようなスピードで進化し、拡大した。そんな状況のなかで登場した髭は、個性あふれるバンドが数多かった当時のシーンにおいても確実に際立っていた。海外のオルタナティブ・ミュージック、グランジ、ロックンロール・リバイバルとリンクしながらも(単なるモノマネではない)圧倒的な独創性を備えたバンドサウンド、シニカルなユーモアとナンセンスな世界観をぶちまけるような歌詞、トリックスター的な雰囲気を持ったフロントマン・須藤寿の存在感。『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』によって髭は、既存のフォーマットを打ち破るロックバンドとしての評価を手に入れたのだった。さらに特筆すべきは、この2枚の作品のインパクトが15年たった現在でもまったく褪せていないこと。今回のライブ『LOVE3(✕H!MF)』で彼らは、そのことを明確に証明してみせたのだ。
髭 撮影=Wataru Umeda
ライブ中盤でも、髭ならではのディープな世界を描き出した。
「たぶん、この曲、いちばん古いんじゃないかな。(宮川が首を横に振っているのを見て)違うっぽいな。みんなで聴いてみよう」(須藤)というやり取りから、90年代のグランジロックの影響を感じさせるミディアムチューン「右脳の片隅にて」。ダウナーなテンションから爆発的興奮へと一気にジャンプするアレンジ、ワンコードのセッションが繰り広げられた長尺のアウトロもめちゃくちゃ気持ちいい。さらに性急なガレージロック「髭曲 第13番 ニ長調」、斉藤のサイケデリックなギターソロからはじまり、混沌と官能の世界が広がる「長尾氏」(この日の演奏時間は約15分)、トリッキーな楽曲構成とキャッチ―なメロディラインが一つになった「なんとなくベストフレンド」が披露される。各メンバーの奔放なプレイが有機的に絡み合うアンサンブルも素晴らしい。特に佐藤のドラムは絶品。彼がサポートドラムとして加わったのは2012年年末だが、その安定したドラミングとその場のテンションに呼応できるセンスは、現在の髭に欠かすことができない要素になっている。
髭 撮影=Wataru Umeda
「次はみんなのこと思って書いた曲。当時、関係者の人に“君は売れる気あるのか?”って怒られたんだよ(笑)」(須藤)という「白痴」からライブは後半へ。“へ―イ!白痴化!”という、このバンド以外ではありえない合唱が巻き起こり、フロアの興奮はさらに上がっていく。髭のアンセムの一つである熱狂的ダンスナンバー「ダーティーな世界(Put Your Head)」、佐藤“コテイスイ”康一が拡声器を持ってフロアに突入した「下衆爆弾」、そして「白い薔薇が白い薔薇であるように、俺たちは俺たちらしくいよう」(須藤)という言葉に導かれた「白い薔薇が白い薔薇であるように」を放つ。「俺たち15曲やったな! 確かに完全再現したな!」(須藤)という言葉とともに本編は終了した。
髭 撮影=Wataru Umeda
1度目のアンコールでは「僕についておいで」、さらに新曲「KISS KISS MY LIPS」「謝謝」(仮タイトル)を披露。ここでメンバーは引っ込んだが、観客の強烈なコールに引き戻され、再びステージに登場。「みんなで踊れるやつで終わろうか。ダブルアンコールなんて、ただのパーティだからね」(須藤)と「Acoustic」を演奏し、この記念碑的なライブはエンディングを迎えた。
髭 撮影=Wataru Umeda
6月に夜の本気ダンスとの東名阪ツーマンツアー『髭と夜の本気ダンスがやります。』、8月8日にはthe pillowとの対バンライブを東京・WWW Xで開催。「いま僕たちはレコーディングしていて。その音源がみんなに届いて、またツアーにいけることを楽しみにしています」(須藤)というニューアルバムにも期待が高まる。15周年アニバーサリーに関連する活動はもちろん、この先の髭のアクションにもぜひ注目してほしいと思う。

取材・文=森朋之 撮影=Wataru Umeda
髭 撮影=Wataru Umeda

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