映画『大和(カリフォルニア)』都市
のすぐそばにある黒いもの
あらすじはこちら。
神奈川県大和市。この町は戦後米軍基地と共に発展してきた。厚木基地の住所はカリフォルニア州に属しているのだという都市伝説があるという。 この町に住む十代のラッパー・長嶋サクラは日本人の母と兄、母の恋人で米兵のアビーに囲まれ、この町同様、複雑な関係性の中で育ってきた。アメリカのラッパーに憧れて、サクラは毎日ラップの練習と喧嘩に明け暮れる。ある日、アビーの娘・レイがカリフォルニアからやってくる。日米のハーフで、サンフランシスコで生まれ育ったレイ。好きな音楽の話をきっかけにして2人は距離を縮めていくのだが 。 (映画『大和(カリフォルニア)』オフィシャルサイトより抜粋)
米軍機の轟音が響く町
「ここまでが大和で、あっちはカリフォルニア!」
主人公・サクラがそう言って指し示す先には、高いフェンスと有刺鉄線、そして広大な土地ーーつまり米軍基地がある。その広大さは、大和市に故郷を持つ宮崎監督をして「なにが起きているのかわからない状態」だという。
「中がとても広いからなのか、横須賀や沖縄の一部のように周囲の町に米兵が繰り出してくるということはあまりありません。安全・防犯上の理由から高い建物もまわりにないですし、中を覗けないようになっているので、一年に数回あるお祭りの日にパスポートをもって中に入る以外にはなかなかなにが起きているのかわからない状態」 (映画『大和(カリフォルニア)』オフィシャルサイトより抜粋)
基地問題といえば沖縄ばかりがクローズアップされる傾向にあるが、東京都心部から電車で1時間もしない場所で、沖縄と同じような問題が起きている。
大和が沖縄よりも深刻かもしれない理由は、この問題について人々が黙っていること、黙らざるを得ないことにある。
「やはり「慣れ」と「あえて」によって沈黙している方が多いとは思います。大和から基地を追い出したところで、それは他の地域に同じ基地ができることを意味しているわけで。」 (映画『大和(カリフォルニア)』オフィシャルサイトより抜粋)
都市のすぐそばにある黒いもの
そのような観点で考えると、大和市のすぐ近く、神奈川県川崎市(区)を舞台としたルポルタージュ『ルポ 川崎』(磯部涼)との共通点も浮かび上がってくる。
その川崎の対岸の物語として、いまふたたび注目を集めているのが、岡崎京子による1994年の漫画『リバーズ・エッジ』。
『リバーズ・エッジ』の主人公たちは、自分が生きている世界に現実感を持てないでいる。
もしかしてもうあたしは すでに死んでて でもそれを知らずに 生きてんのかなぁと思った (岡崎京子『リバーズ・エッジ』p.64)
他にも、郊外に住む若者の苦悩を描いた注目すべき近年の作品としては、松居大悟監督による映画『アズミ・ハルコは行方不明』などがある。
映画『大和(カリフォルニア)』を解釈するための参考作品をいくつかあげたが、実はこれらよりももっと直接的に近しい作品がある。それは、村上龍による処女小説『限りなく透明に近いブルー』だ。この作品はドラッグやセックスや暴力に明け暮れる若者たちの生活を描いているが、舞台は基地のある町・東京都福生市。主人公リュウをはじめ主要人物は、米軍兵士たちとの交流を通して破滅に向かっていく。
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。
音楽の取り入れ方も両作品は似ている。『限りなく透明に近いブルー』ではドアーズやストーンズが、『大和(カリフォルニア)』ではそれらに代わってNORIKIYOやCherry Brownといったヒップホップ、割礼(かつれい)やGEZANといったロックバンドがフィーチャーされている。どちらもその時代の象徴・先端として使用され、かつ、混沌とした作品世界のメタファーになっている。
処女作にはその作家のすべてが詰まっている、とよく言われるが、『限りなく透明に近いブルー』にも、のちに村上龍が繰り返し描くことになる命題の萌芽がすでにある。それは、「不幸の芽は自分の知らないところでまかれて育ち、ある日、突然自分を襲ってくるものだ」(村上龍『ライン』)というもの。
同じ命題は、村上龍と同時代を代表する作家・村上春樹が『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』という作品で、東京の地下に住む”やみくろ”という邪悪な魔物を通して描いたものでもある。
ちなみに、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は、その後に起きた地下鉄サリン事件を予見していた、と言われることもある。
では、映画『大和(カリフォルニア)』は、いったい何を予見しているのだろうか?
本記事で紹介したおもな作品一覧
・磯部涼『ルポ 川崎』
・岡崎京子『リバーズ・エッジ』
・松居大悟『アズミ・ハルコは行方不明
』
・村上龍『限りなく透明に近いブルー』
・村上春樹『世界の終わりとハードボイ
ルド・ワンダーランド』
作品情報
監督:宮崎大祐
出演:韓英恵、遠藤新菜、片岡礼子、内村遥、NORIKIYO、GEZAN、Cherry Brown、宍戸幸司、ほか。
音楽:NORIKIYO、Cherry Brown、GEZAN、割礼、のっぽのグーニー
オフィシャルサイト
宮崎大祐
オフィシャルサイト
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