又吉直樹とNulbarich(ナルバリッチ
)は惹かれ合う

又吉直樹とNulbarich(ナルバリッチ)
に共通するバランス感覚

ソウル、ファンク、アシッド・ジャズなどのブラックミュージックをベースに、唯一無二のグルーヴを奏でるNulbarich(ナルバリッチ)が待望の2ndフルアルバム『H.O.T』をリリース。昨年は数多くのフェスに登場し、いま最も勢いに乗っているバンドと言っても過言ではない。現に著名人のファンも多く、小説『火花』で芥川賞作家となったお笑い芸人・又吉直樹はNulbarichの熱心なファンであり、中心人物のJQと公私ともに仲がいいという。

そこでNulbarichの素顔に迫るため、又吉直樹とJQの対談を実施。又吉直樹はどんなところに惹かれ、彼の目にNulbarich/JQはどう映っているのか。グルーヴィーな作品とは対称的に訥々(とつとつ)と語るJQ と人見知りで「いまでも、会うと緊張してしまう」という又吉。新宿にあるジャズ喫茶の名店『DUG』で収録した2人のHOTな会話に耳を澄ませよう。

Photography_Kaori Nishida
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Satoru Kanai
(Nulbarich『In Your Pocket』MV)

「聴いた瞬間『むっちゃカッコええな』
と思った」(又吉)

又吉直樹(以下、又吉) : (Nulbarichを聴いたきっかけは)友だちの家で遊んでいたときにずっと音楽をかけてくれていて、そのなかでNulbarichの曲が流れてきたんです。聴いた瞬間「むっちゃカッコええな」と思って。会話の流れを断ち切って「ちょっと待って、これ誰?」って聞いて、次の日すぐCDを探しに行きました。その友だちはJくん(JQ)とも交流があったので、後日紹介してもらいました。

JQ : たしか2016年の末くらいでしたよね。友だちが写真を送ってくれて、見たらNulbarichのCD を持っている又吉さんが写っていた。ソッコーで親に連絡しましたよ(笑)。その後なかなか予定が合わなかったけど、5〜6人で飲んでた友だちの家に、又吉さんがひとりで来てくれたんですよね。
又吉 : あのときは、ちょっと緊張しましたね。むっちゃ怖い人やったらどうしようと思って。その頃は、まだJくんのヴィジュアルがまったくわからない段階だったので。でも喋ってみたら、お互いの考え方が近いこともわかって。
抽象的な言い方になりますけど、仕事のうえであまり極論に寄らない。「絶対にこうだ」とか「絶対にこうじゃない」と偏るのではなく、そのあいだにいる。腹筋を上げきったところでも下げきったところでもなく、一番きつくて難しいところでバランスを保っている感じ。そういう考え方をする人にはあまり出会ったことがないから、面白いなあと。

JQ : 僕らは生き方や自分の保ち方、内に秘めているものが共通している気がします。忙しい方なので頻繁には会えないですけど、予定が合うときは酒を飲みながら朝まで喋ってますよね。

又吉 : 実は数日前にも一緒に飲んだので、すでに1回目の対談を終わらせてしまったみたいな感じがあるんです。
JQ : たしかに(笑)。かなり真剣に語りましたよね。

――そのときは、どんな話をされたのでしょう?

又吉 : 文学には、大きく純文学とエンターテインメントと呼ばれるジャンルがあります。でもそれはあくまでジャンルであって、作品の優劣ではないですよね。そもそも、わかりやすい“純文学”や“エンターテインメント”というものはこの時代に成立しないんじゃないかと思っていて。
みんな両方を知っているから、純文学が好きな人でも物語性や展開が欲しくなるし、エンターテインメント作品が好きな人でも、数行で覚醒させられる言葉を体験したことがある人であれば、文章や“どう書くか”ということからは逃れられない。それなのに、なぜか「俺は純文学やから」とか「俺はエンターテインメントやから」という言い方をしたがる。それはなかなか信用しづらい言い方だな、という話をしましたね。
JQ : その話を聞いたとき、すごく似てるなと思いました。音楽でも、ポップスとアンダーグランドという分け方がざっくりとあるとして、僕がいまやっている音楽性のままでどちらにも偏らないことが、一番可能性がある気がしているんです。その両方を取りたい。それは、びっくりするほど難しいことなんですけど。
又吉 : おいしいとこ取りみたいに聞こえるかもしれないけど、すごく難しいことですよね。僕も両方に届かせたいという気持ちがあります。『火花』では気を衒(てら)わずど真ん中に行ったつもりだったけど、「難しい」という声がとくにお笑いを観てくれている人たちからありました。それで自分の感覚がみんなからズレていることを知って、2作目の『劇場』では、どうやったら両方に届くのかすごく考えた。

JQ : それを追い求めている人はすごく少ない気がするんです。戦っている人は多くても、はっきり口に出している人は本当に少ない。

又吉 : 両方って言っちゃうと誤解されやすいからね。自分は純文学だから、エンタメだからということを言い訳にしたくない。そういう姿勢が僕らの共通しているところだと思います。

「女の子を口説くときに似ているかも」
(JQ)

――Nulbarichの歌詞についてはどう思いますか?

又吉 : Nulbarichの曲は、英語と日本語が混ざり合っていますよね。英語はそんなにわからないんですけど、日本語の歌詞はすごく気持ちよく音楽と結びついている。曲のメロディやリズムの気持ちよさがあるなかで、そのイメージを壊す言葉は絶対に置かれていない。むしろ広がっていく言葉を選んでいるなと感じます。英語を完全に理解できたらまた違う感じ方になるのかもしれないですけど、いまの聴き方だと、歌詞に関してはそういう印象ですね。

JQ : Nulbarichの曲は洋楽ライクではあるんですけど、あえて日本語を使っているのは「洋楽っぽいね」と言われて終わりたくないからなんですね。やっぱり自分のやり方でどう戦うのがベストかを考えたい。得意なものを研ぎ澄まさないと一番を取りに行けないですから。
これって、女の子を口説くときに似ているかも(笑)。デートをしていて、どうしても付き合いたいと思っているタイミングで、できもしない卓球をやる奴なんていないじゃないですか。だったら僕は元バスケ部なので、スポッチャに連れて行ってバスケの上手さをみせた方がいい。自分のイケてる部分を出さないと。……まあ、スポッチャ行ったことないんですけど(笑)。

又吉 : ははは(笑)。でもそれは重要な感覚ですよね。英語と日本語はどうやって書き分けているんですか?
JQ : 言いたいことがあふれてまとまらなくなるので、まずはバーっと日本語で書いて、それからどんどん削っていきます。そのなかで、説得力を持たせたい部分は英語に変換して短くする。そうやって細かく作り込んでいくタイプなので、リリース日が決まっていなかったら、一生曲に手を入れ続けていると思います。

又吉 : へえ、それはちょっと意外やった。Jくんは石橋を叩いて渡るタイプ?

JQ : 石橋を叩き割るタイプです(笑)。歌詞に限らず、リリースする頃には「ここはもっとこうすればよかったのに」と思ってしまうんですよね。『H.O.T』も、いまレコーディングしたらまた違うものになると思います。ネガティブな意味ではなくて、出来上がってリリースされるまで数ヶ月かかるわけで、当時の自分よりもいまの自分の方が絶対にクオリティが高いはずですから。
『H.O.T』はこれでいいんですけど、もう一度つくれと言われたら、同じものにはならない自信があります。同じだったら成長していないわけだし、二度と戻れない刹那を作品にしたという感覚です。

「『H.O.T』はお世辞抜きですごい好き
なアルバム」(又吉)

(Nulbarich『ain’t on the map yet』MV)

又吉 : 『H.O.T』むちゃくちゃカッコ良かったです。お世辞抜きですごい好きなアルバムです。昨日も汐留からの仕事終わりに車で聴いていたんですけど、『H.O.T』が流れるなかで(車窓に)東京タワーがみえてくると本当にカッコいい。

JQ : マジで嬉しいです。ありがとうございます。

又吉 : 前のアルバム『Guess Who?』から変化を感じました。それぞれの曲のイントロに哀愁がある気がしたんですよ。ひとりで自分の感情に並走して、そこから始まるような感覚。それがすごく好きですね。
JQ : 『H.O.T』はコンセプトを決めずに、自分のなかにあるものを全部詰め込んでつくったんです。昨年はフェスにたくさん参加させてもらったし、みえているものが一年半前とは全然違う。そこでみた景色や経験が落とし込まれているんだと思います。

――Nulbarichは昨年一気に世間に認知されましたが、又吉さんも芥川賞を受賞してから、世間からのみられ方がガラッと変わりましたよね。
又吉 : 僕の場合は「お笑い」と「文学」という違うジャンルだったので、結構大変でしたね。同じことをやっても前とは同じように伝わらないことが多くなりました。たとえば、前のように自虐的な話をすると「いやお前、印税入ってるからええやん」と思われてしまう。文脈と関係ない言葉を選んでボケると、「文学?」ととらえられてしまう。それは辛かったけど、仮に(明石家)さんまさんが僕と同じ状況にいたら、たぶん全然大丈夫なんですよ。だからそれも実力で、自分のイメージや芸が浸透しきれていなかったということなんです。Nulbarichの場合はどうなんやろ? 認知されてみられ方が変わるんやろうか?

JQ : どうでしょう。でも、ここからが戦いですよね。ポップスの人にはアンダーグランドと言われ、アンダーグラウンドの人にはポップスと言われ、両方から嫌われるかもしれない。又吉さんは一時期、芸人からは「先生」といじられ、文学の方からは「芸人」と言われていたじゃないですか。そういうときはどうしていたんですか? とくに文学の世界で「芸人でしょ」と言われるのは苦しいですよね。

又吉 : ……いや、まだその最中にいる(笑)。

「死ぬほど楽しいんですよ。だって、ず
っとこんな日々を待っていたから」(J
Q)

又吉 : 芸人にいじられるのは嬉しいけど、批評家の方が言っていることがわからないことがあるんです。たとえば『火花』には、芸人があえて面白くないことをやるシーンがあります。それはその人物に悲しいことが起きて傷ついているからで、自傷行為のようなものなんですね。僕からしたら、書いていても辛くなるシーンです。でもそこだけ切り取って「こんなことはその辺の大学生がすることと同じ」と書かれたことがあって。ちょっと待ってくれよと。これをマジで俺が面白いと思って書いてると思ったんやったら、まったく本読めてへんやんけ。その読み違いをするお前のすべての評論はなかったことにしてええんか、と。若者文化の物語を読む上で、テレビも観てないし若者の知り合いもいないなら、もうそれは専門外のことなんやから断れよと思いますね。50代〜60代の苦悩についてだけ評論しとけよ。

――わからないからこそ逆に定義したがるのかもしれません。JQさんが言うポップスとアンダーグラウンドのように。
又吉 : 「ようわからんけどカッコええ」でもいいと思うんですけどね。わからんものの面白さを受け入れてもいいというか。共感できるものだけ受け入れすぎなんちゃうかなと思います。前にユーミンさん(松任谷由実)にお会いしたとき、「端っこなんてロックじゃないよね。真ん中がいちばんしんどいよ」っておっしゃっていたんですけど、「ユーミンさんでさえそう思うんや」と思って感動しました。
JQ : やっぱり両方取ることをやめてはいけないんですよね。最近「Nulbarichをやってて忙しいでしょ?」とよく言われるんですけど、死ぬほど楽しいんですよ。だって、ずっとこんな日々を待っていたから。このまま忙しくなって、仮に身体が衰弱して死んだとしても、楽しいと思いながら死ぬだろうなと思います。そういう意味では、いまの僕は欲まみれかもしれない。
前はワンマンライブすらできると思っていなかったのに、いまはステージに立った瞬間に、ここよりもっとデカいところに立ちたいという欲が浮かんでいる。「いつかマディソン・スクエア・ガーデンに立ちたい」という思いも、半分冗談だけど想定はしているし、準備もしている。好きなものって無限に想像できますよね。それを少しずつやらせてもらえて、幸せです。
(Nulbarich『Almost There』MV)
Nulbarich(ナルバリッチ)
オフィシャルサイト(PC)
「Hometown」(モバイル)

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【ツアー情報】
Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 “ain’t on the map yet” Supported by Corona Extra

開催日程
4月25日(水)@東京・Zepp DiverCity Tokyo(追加公演)

料金
¥4,500(税込)チケット発売中

問合せ先:クリエイティブマン 03-3499-6669
開催日時
2018.11.2 18:30@日本武道館

料金
¥6,500 (税込)

モバイルサイト会員最速先行 受付期間
2018.03.16(金) 20:30〜03.26(月) 23:59

申込対象者
Nulbarich オフィシャルモバイルサイト「Hometown」会員の方

詳しくはこちら
又吉直樹原作舞台『火花』チケット発売中
出演:観月ありさ 石田明(NON STYLE) 植田圭輔 又吉直樹 他
東京公演:2018年3月30日~4月15日 紀伊國屋ホール
大阪公演:2018年5月9日~5月12日 松下IMPホール

又吉直樹オフィシャルTwitter
取材協力:
『DUG』(ダグ)
ジャズミュージシャン写真家・中平穂積による東京新宿のジャズカフェ&バー。

住所:東京都新宿区新宿3-15-12
営業時間:
【月〜土】
12:00~18:30(コーヒータイム)
18:30~26:00(バータイム)
【日・祝日】
12:00~18:30(コーヒータイム)
18:30~23:30(バータイム)

http://www.dug.co.jp/main.html
https://www.facebook.com/jazzdug
又吉直樹とNulbarich(ナルバリッチ)は惹かれ合うはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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