金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第5回 都立西高
の「ラピュタ」達(ディスクユニオン
トークイベントの舞台裏・前編)

「お母さん」中学卒業直前で進路が決まった直後、担任の教師と保護者との二者面談において、教師は筆者の母親に言った。「大地君は、中学校では今まで何をやっても目立っていたので調子に乗っているかもしれませんが、あの高校に入ったらそうはいきませんよ。出鼻をくじかれると思うので十分注意しておいてください」
中学時代、昼の放送でピンク・フロイドの20分の大作「エコーズ」をフルで流そうとしたら、中間部の時点で放送室に生活指導の教師が飛び込んできた。「気持ち悪いから今すぐ止めろ」とお叱りを受けた。
また、昼の放送のナレーションにエコー(「エコーズ」ではなく「エコー」効果)をかけたいと思い立ち、ミキサー卓を分解しギターのエフェクターを組み込んで放送をしていたら、なんだか声がおかしいと気づいた生活指導の教師(前述と同一人物)が飛び込んできた。放送機具の分解がバレて、再びお叱りを受けた。
ナレーションにエコーをかけた昼の放送の原稿
こんなこともあった。その中学には制服指定があったのだが、生徒規約をよく読んでみると靴の指定が書いていない。ならばと、下駄で登校。即日、生徒指導室に呼び出された。しかしそうなることもある程度予想がついていたので、登校前日、下駄の健康的効能を百科事典で調べ、生徒手帳に書き写しておいた。怒られた場合のリスク管理をしたわけである。説教が始まった瞬間、生徒手帳の規約と健康的効能を読み上げた。すると今度は狭い印刷室に連れていかれ、さらに3時間、生徒指導の教師(前述と同一人物)からお叱りを受けた。
この失敗を教訓とし、今度は制服の上に東ドイツ軍のコートを着て乗馬用ブーツを履いて登校した。すると怒られなくなった。生徒規約を満たしていたからだと当時は満足していたが、後々考えてみると多分面倒臭くなったのだと思う。生活指導の教師(前述と同一人物)が。
という具合で結果的に目立った行動が多かったのは事実だ。あるとき「天空の城ラピュタ」と形容されたことがある。何事にも我関せず、ひたすらぶっ飛び、地に足がついていない――意味はそんなところだろう。
しかし高校に入学すればそうはいかないと担任は母親に言う。入学予定の都立西高等学校は変わった人間ばかりが集うと。同じようなことをしたとしても今のようには目立つことはないだろうと忠告してきたのだ。
かくして都立西高校に入学するわけだが、中学教師の忠告を気にすることもなく、相変わらず「天空の城ラピュタ」状態で高校時代を過ごした。
聖地・東京都立西高等学校
完全私服の高校だったので、再び東ドイツ軍服にトライ。中学ではコートとブーツのみだったが、中の服もネクタイまで完全にそろえて登校した。たしかその時には遅刻をした。9:15、1時間目の終わりごろに東ドイツ兵が教室に入った。
倫理の教師は私を見るなり、「高木。その恰好で町を歩いて警察に捕まらなかったか?」と聞いてきた。
「捕まりませんでした」と大きな声で答えた。居眠りをしていた同級生もその時ばかりは顔を上げ、教師と私のやり取りを注視した。
「だったら大丈夫だ」と先生が返し、授業を再開した。クラスメイトがどっと笑った。
中学とのギャップにこちらが驚いたが、それにしても鷹揚すぎる校風だった。
卒塔婆を持つ筆者・高木大地(東京都立西高等学校時代)
かくして、光陰矢の如し(Tempus fugit)、あっという間に3年が経ち卒業式となった。
「自主自律」という教育理念の下、卒業式も私服OKだった。私は、髪を伸ばしモジャモジャにして、その上からチューリップハットで袴に下駄姿――金田一耕助のコスプレをしていった。中には、普段は髪が長いのに、その日にだけ坊主頭にしてラマ僧のコスプレをした人間もいた。また、頭を結い上げ、まるで戦前の女学生のような恰好をしていた女子もいた。
「天空の城ラピュタ」の印象を与え続けた3年間の高校ライフだったおかげで、卒業の答辞を読む男子代表で選ばれた。私は壇上にのぼり、金田一姿でギターを弾いた。何に対して「答辞」しているのかさっぱりわからないが、まあそれでも良しとする高校だった。
そして、女子代表で選ばれたのが戦前の女学生姿のヤツだった。壇上から答辞の原稿を紙飛行機にして飛ばしていた。
意外と「天空の城ラピュタ」がいるもんだ――卒業する日に気づいてしまった。
その「女学生」こそ、現在の金属恵比須のヴォーカリスト稲益宏美なのである。
稲益宏美 東京都立西高等学校卒業式の日
私は当時、違うメンバーで「金属恵比須」として活動をしていた。対して彼女はバンドすらもやっておらず、ただの客だった。その13年後、岩崎宏美の「思秋期」をオマージュした「光の雪」という曲ができたのだが、どう考えても稲益が適任だと決断し、彼女にオルグをした。今考えると、「宏美」という名前が一緒だったから以外に理由が思い当たらない。とにもかくにも30過ぎてから、筆者と共に都立西高卒業生代表として答辞を呼んだ者が金属恵比須のメンバーになるとはこのときだれが予想したろうか。
ちなみに「ラマ僧」は現在、金属恵比須の専属ライター。2017年に発表したLP『ハリガネムシのごとく』の解説書を執筆したり、SPICEでもライヴ・レポートを執筆したりしている。なお、卒業式では変な恰好をしていなかったが、現在の物販担当スタッフも同じく卒業生である。
要は、同じ高校の中での「天空の城ラピュタ」達が集まったのが金属恵比須なのだ。ゆえに金属恵比須は、「プログレッシヴ・ロック」というジャンルの中でも「天空の城ラピュタ」状態となっているのである。
ギターと卒塔婆を持つ筆者・高木大地(東京都立西高等学校時代)
2017年10月に『戦国恵比須』というワンマン・ライヴを行なった。歴史小説家・伊東潤氏のメジャー・デビュー作『武田家滅亡』(角川文庫)を音楽化し、20分の組曲に仕上げたものを初披露するライヴ。
しかし、お客様は初めて聴く曲をそれだけ聴かされては辛かろうと思い、演奏前に各曲のポイントをちょこっと演奏しながら説明を入れる演出を試みた。これは、私自身、好きなアーティストのライヴでさえも苦痛と思う瞬間が「新曲披露」だったので思いついた策である。「ネタバレ」というのは、なかなかプログレのライヴでは受け入れられない手法だ。しかし、それをあえて行なうという点で「ラピュタ」的だと自負している。
詳しくは、上記の同級生のライターが書いた記事を参照のこと。
おかげさまでライヴは好評で、この感触から作者ご本人の許可・協力を得て、『武田家滅亡』(角川文庫)をアルバム化する方針が決まった。小説をもとに音楽化することを作家ご本人の許可を得て制作した例をあまり聞かない。かのイギリスを代表するプログレ・バンド「キャメル」でさえ、『スノーグース』を発表した際、小説の作者ポール・ギャリコの許可をもらえなかったという。
細かいことだが、こういうのも「ラピュタ」的ではないかと思っている。
2018年2月18日。ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館において、トークショーをやらせていただくこととなった。今回の出演は稲益と私の2人。都立西高デュエットである。
前日は深夜まで、河合楽器・横浜にてSHIGERU KAWAI Grand Pianoを用いたレコーディングだった(その模様の詳細は、3/16発売の雑誌『モノ・マガジン』での連載「狂気の楽器塾」に)。
ゆえに、トークショーのネタは考えていない。そもそも「後藤マスヒロ解体ショー」という、金属恵比須のドラマーである後藤マスヒロを主役に呼んだイベントのはずだったのだが、マスヒロの体調不良によって内容変更。代わってタイトルは「みんなでつくろう武田家滅亡!」と決まったのだが、具体的にどうしようか決めていない。
13:30、私は車で稲益を迎えに行き、車の中でネタ合わせが始まる。
14:15、久我山駅を越し、都立西高校の前を通り過ぎる。いつもより部活の声は聞こえず、閑散としている。受験前だからだろうか。そういえばちょうど20年前の今ぐらい。待ちに待った人間椅子のアルバムを買いに行ったことが思い出される。後藤マスヒロが人間椅子に正式加入した記念すべき1作目『頽廃芸術展』のころである。それから20年。常日頃、憧れのマスヒロとバンドをやっていることが今でも信じられない。
そのころ、ここに通っていた自分に今のこの姿を見せたら卒倒するに違いない。本番の15:30までもうすぐ。プログレの「ラピュタ」となるのだろうか。
高木大地と稲益宏美が共に写る貴重写真(東京都立西高等学校時代)
以下、次号。

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