映画『素敵なダイナマイトスキャンダ
ル』もしも母親が爆発したら
あらすじはこちら。
バスも通らない岡山の田舎町に生まれ育った末井少年が、7歳にして母親の衝撃的な死に触れる。肺結核を患い、周囲から爪弾きにされ、医者にまで見放された母親が、山中で隣家のひとり息子と抱き合いダイナマイトに着火&大爆発!!心中したのだ──。父親と弟と自分を残して……。 (映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』オフィシャルサイトより抜粋)
雑誌のような映画
尾野真千子(母)、前田敦子(妻)、三浦透子(愛人)、これら三人の女性は、非常に魅力的で強い印象を残す(もちろん三者ともにエロいシーンがある)。そしてその周りに、女性たちほど出番は多くないのに異様な存在感を放つ菊地成孔や峯田和伸がいる。
この構造は、エロ雑誌でありながらなぜか小説家・田中小実昌(たなか・こみまさ)や美術家・赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)らの原稿も同時に掲載されていたという『NEW self』『写真時代』『ウィークエンド・スーパー』といった雑誌の構造と同じだ。
つまり本作は、雑誌の構造をそのまま映像化した作品でもある。そういう意味で、本作は内容・構造ともに、末井昭がつくった雑誌のような映画だと言える。
「オ◯ンコが36箇所!」
雑誌『NEW SELF』には、「猥褻文書販売容疑」に該当する箇所、すなわち「オマ◯コ」の記述が36箇所もあった。そのようなけしからん雑誌は取り締まらなければならぬ。
刑事たちは末井の事務所に押しかける。「オマン◯が36箇所!」。そう叫んで雑誌を開くと、該当箇所すべてに赤線が入っている。へえ。ちゃんとチェックしてるんですね。神妙な面持ちで「一個、二個」とその箇所をチェックしている刑事の姿は、作中で直接描かれはしないが、想像するとシュールだ。
この後のシーンも面白い。喫茶店にて、エロ雑誌の編集者たちが深刻な顔で刑事に忠告されたことを報告し合うシーン。松重豊が演じる担当刑事が、とぼけたような口調でこんなことを言うカットがインサートされる。
「性器を口で吸うとは、お前さんどういうわけなのー」
どういうわけなのって、口で吸うのがフ◯ラなんじゃねえかよ!という編集者たちのツッコミが続くわけだが、こうしたコミカルなシーンがテンポよく続くので、笑える。
それゆえ、この映画を誰かと見に行く際には、相手をしっかり考えた方がいいかもしれない……。
カス野郎たちはいつも怪我をしている
たとえば劇中、主人公にイヤミなことを言うキャラが何人か出てくるが、面白いことに、これらの人物は常に顔に怪我をしている。
のちに妻となる牧子につきまとっている中年男性(初対面の末井に説教を垂れ、のちにストーカー化する)、デザイン会社の上司(末井のデザインをバカにし、母親を笑いモノにする)。こうしたカス野郎たちは顔に不自然な怪我を持ち、醜い。
この怪我は、物語の本筋にはまったく関係ない。しかし「デザインとは自分をexposureさせることだ」というセリフに照らして考えてみれば、「人物の内面が外面にexposure(暴露)されている」という演出なのだと考えることができる。
つまり本作は、アートやデザインを堅苦しく語るのではなく、あくまで画的に面白く、コミカルに描いているわけだ。
「革命的デザインはキャバレーにあったのです」という一言は、当然だが、ぜんぜん冗談ではない。
もしも母親が爆発したら? 死んでも続
く母と子の物語
幼少のころ、母親を隣家の息子とのダイナマイト爆発心中で失ったときのことを淡々と書きつづける末井氏には、見たところ何の気負いも照れ感傷もない。読む者をして、その本来ならば圧倒的に悲惨であるはずの事実が、決して事実自体の意味などを問われていないことを知らしめる。 (末井昭『素敵なダイナマイトスキャンダル』解説より。p226)
原作では、母が爆死する前日、夢枕に母が立った、という一節がある。それが夢だったのか現実だったのか、あるいは幽霊だったのか、本のなかでは明かされない。
しかし映画ではそれに答えを出している。そのことが、「母と子の物語」という本作のテーマを明確にさせ、観客に強い感情を喚起させる。結果、より普遍性を持った作品に仕上がった。
母と子の物語は、たとえ一方が死んでも永遠に続く。
映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』は、エロくて、コミカルで、時代の空気を感じることができて、しかも普遍的なテーマを持った作品。
映画『素敵なダイナマイトスキャンダル
』を補足するカルチャー・リスト
・末井昭『素敵なダイナマイトスキャン
ダル』
末井昭『素敵なダイナマイトスキャンダル』Amazonページ
・岡本太郎『自分の中に毒を持て』
岡本太郎『自分の中に毒を持て』Amazonページ
・アルチュール・ランボー『地獄の季節
』
もう一度探し出したぞ。 何を? 永遠を。 それは、太陽と番(つが)った 海だ。 (アルチュール・ランボー『地獄の季節』より)
・『美術手帖2017年8月号』or『SWITCH
Vol.35 No.1 荒木経惟 ラストバイライ
カ』
『美術手帖2017年8月号』Amazonページ
『SWITCH Vol.35 No.1 荒木経惟 ラストバイライカ』Amazonページ
・SPANK HAPPY『走り泣く乙女』
素敵なダイナマイトスキャンダル
出演:柄本 佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重 豊、村上 淳、尾野真千子、菊地成孔ほか。
監督・脚本:冨永昌敬
原作:末井 昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
音楽:菊地成孔 小田朋美
主題歌:尾野真千子と末井 昭「山の音」(TABOO/ Sony Music Artists Inc)
オフィシャルサイト
映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』もしも母親が爆発したらはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。