創造性みなぎるメジャーデビュー作「
SPRING CAVE e.p.」についてYogee N
ew Waves 角舘健悟が語る

2013年6月の活動開始から約5年。Yogee New Wavesが、3rd e.p.「SPRING CAVEe.p.」を引っさげてメジャーデビューする。「Like Sixteen Candles」、「CLIMAX NIGHT」などハイパフォーマンスな楽曲を生み続けてきた彼らが、メジャーというより大衆的な世界でどのように受け入れられ、そして化学反応を起こすのか。今作の1曲目「Bluemin’ Days」は、毎日を懸命に生きる人たちにエールを贈り、また様々な物事を肯定してくれるようなレンジの広さがあり、いきなり至福感に満たされる。そこからさらに一歩、本作の世界に踏み込んでみて欲しい。高揚したムードをなだらかに落ち着けていく、ビター&スイートな構成に舌を巻くはずだ。2018年のベストディスクの一つに挙げられるであろう、この「SPRING CAVEe.p.」は、いかにして制作されていったのか。そして、前作「WAVE」から変化したというメンバー間の関係性は、今作にどのような作用をもたらしたのか。全曲の作詞作曲を手がけた、角舘健悟(Vo.&Gt.)に話を訊いた。
角舘健悟 撮影=河上良
——今作は、メジャーからリリースする最初のタイトルですが、「こういうものを提示しよう」というはっきりしたテーマはありましたか。
楽曲的に「Bluemin’ Days」が基軸にはありましたが、それを油分にし、また前作「WAVES」の反省点も生かして作っていこうということは頭にありました。
——前作からどういう部分を更新させていったのですか。
大きい部分は、メンバーとの関係性ですね。2017年1月に竹村郁哉(Gt.)、上野恒星(Ba.)が加入して、彼らと最初に作ったアルバムが「WAVES」でしたが、当時は付き合いたてのカップルみたいだったんです。毎日一緒にいて、デートはいつも盛大にする。メンバーのみんなも俺も、お互いにそれを求め合っていました。そういう濃厚な関係性が作品にあらわれた分、情報量もかなり多かった。今回はそうではなく、日々の中にある記念日を大切にするイメージ。記念日にどれだけ重点を置けるかにフォーカスしました。毎日全力でも良いけど、濃いところをいかに強調させるか。良い意味で薄いところを、どのように作っていこうか。それを考えていました。
——つまり押し、引きを意識したということですね。
今の体制になって1年が経ったけど、去年は365日のうち360日、会っているようなものだったんです。それはとても素晴らしいことですが、でも、家に帰って一人で彼らのことをじっくり想う時間も必要なんじゃないかって気付いたんです。キッカケは、11月、札幌でのライブが終わったときなんですけど、何となく外を散歩していたら雪が降ってきて、歩きながらいろいろ思い出していたんです。みんなのことを考えながら、「俺はやっぱり一人でいるのが一番好きなんだな」と分かって。そして今年1月、一人でロンドンへ行ったとき、メンバーのことがより愛らしくなった。一緒にいると見えない部分ってあるんだなって思いました。
——今のはバンドメンバーの話しですよね? 恋愛トークかと思いましたよ(笑)。
ハハハ(笑)。恋愛関係も親友関係も、バンドメンバーとの関係も、“対人(たいひと)”には変わらないですからね。
●「過去にとらわれるな」と簡単に言うけど、それは難しい。だったら、過去にとらわれることを恐れないで生きていたい。
——そうやって時間の話をして気付いたんですが、角舘さんの書く詞はそういう日時経過であったり、あと街の描写であったり、いわゆる「過ぎていく物事」が一つのテーマになっているように思いました。今作もそれを感じさせる表現が多くありますし。
そうかもしれないです。俺は欲張りだし、欲しがってしまう。思い出を大切にしようとし過ぎてしまうし、だから物事が過ぎていくことに寂しさも強く覚えてしまう。未来や現在が楽しいから、その寂しさが埋まるけど、ふと思い返すとやっぱり寂しくなる。通り過ぎていったもの、全部が大事。そこに優劣は存在しない。寂しくなるけど、過去を大切にしているからこそ、物事が過ぎていくことに対して臆病にならなくなってくる。ちゃんと先へ進めるんです。
——代表曲「CLIMAX NIGHT」のミュージックビデオも街がどんどん過ぎていく様を映し出している。あと、主題歌「SAYONARAMATA」を提供された映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』も身近な人の死を体験した家族の物語だし、同曲のミュージックビデオは、それを後日談としていて、その先の道をポジティブに表現していますし。
人は必ず過去にとらわれる。そして、これから起こることに対して足がすくんでしまう。「過去にとらわれるな」と簡単に言うけど、それは難しい。だったら、過去にとらわれることを恐れないで生きていたい。その方が、現在も未来も見据えて暮らしていけるはず。
——「Bluemin’ Days」も、「日々」という言葉が出てきます。冒頭で《もうとっくに忘れてしまいたいよね》と歌っていますが、でもその人が辿ってきた道のりそのものを愛でている物語ですよね。
この曲は、テレビ番組『セブンルール』のディレクターの方から依頼をいただいて作ったのですが、俺も番組を観ているとすごく感動するんです。出演者の女性が頑張り、そして四苦八苦して。そういう人たちに対して、自分の中で蓄積していた感情が溢れでた曲です。「前に向かって頑張っている女性へ普段言えないエールを送る」というテーマをもとに制作しましたが、でもこの曲は人類賛歌でもありますね。
角舘健悟 撮影=河上良
——『セブンルール』を観ていると、たとえ自分とは環境の違う女性たちであっても、その価値観を知ることで、どんどん愛らしく映ってくる。
女性特有のいじらしさって、本当に美しい。男性も持ち合わせているんだろうけど、女性のいじらしさ、あとしおらしさは最強の感情。そういう女性って魅力的ですよね。
——女性に対して「共感する」とまではいかなくても、相手の考えに理解を示そうとすることは必要ですよね。
他人の気持ちを無下にしてはいけない。自分は、「嫌い」という感情であってもその裏側を覗きたいんです。そこまで踏み込むと精神的に疲れてしまうし、その辺のコミュニケーションを効率化させていくものがSNSなんだと思います。一方で、人の感情をくみ取りすぎないようにもしています。もちろん、一つ一つの意見はちゃんと見ています。でも、たとえば「好き」という感情を受け取り過ぎると、相手への思い入れが強くなり過ぎて、自分を見失いそうになる。あえて自分のことだけを考えて、音楽を作っている節があります。「好き」という感情への答えは、いい音楽を作ること。だから、「Yogee New Wavesが好きです」と言ってくれたら、「ちょっと待っていてね。音楽作るから」と心の中でつぶやいてるような感じです。​
——なるほど。続く曲「Boyish」ですが、こちらにも《走る若者たちの日々 すぎさるのさ》などとあります。この曲は文体がとても美しく、《夜はもっと 楽しくないと 朝になる》は特に名文です。一つずつのワードは難しい単語ではないのに、連結させるとこんなに美しい一節になるのかって、感動しました。
特別な何かから引用しているわけでもないので、そういう歌詞が生まれるのは、本当にラッキーなところがあります。​
——え、確信的ではないんですか。驚きました。造語も含めて、誰もが身近に感じる言葉を繋げると、今まで味わったことのない感情の文体が出来上がる。Yogee New Wavesの文体は一つの発明です。
そんなことないです(笑)。自分は普段からそんなに本を読まないし、それぞれのキーワードも常日頃の何かから受け取ることが多いんです。だからこそ、受け売りの言葉がないのかもしれません。だけど、松本隆さんから受けた影響はかなり強いと自分では思います。時に大好きなのが、松田聖子さんなど当時のアイドルの皆さんに提供されている歌詞。スッと心に入ってくる言葉の組み合せに感銘を受けました。
角舘健悟 撮影=河上良
——「Boyish」は歌詞にもありますが、まさに若者的な気分が味わえる楽曲。
歌詞的には、暴論かつ傲慢なところがありますよね。《ぼくはきっと あなたでもっと 華になる》と言っている時点で、「どれだけ自己中心的なんだ」って。「Boyish」という言葉がすべてをものがたっている。男の精神年齢は、実年齢よりマイナス10歳くらいだと言うじゃないですか。実は、俺もそういう部分があって、その感覚がこの曲には出ました。でも音楽って、どれだけピュアかどうかで出来上がってくるものが違うんです。ひねくれた目で曲を作ると。愛せない作品になることが多い。
——角舘さんは今、26歳ですから。マイナス10歳すると……。
今、16歳ですね。でも確かに、バンドのなかでは16歳くらいの感覚かもしれない。ライブをしているときも、そう。16歳って、中学時代が終わったばかりの高校生。新しい自我が芽生えるし、恋愛をもっと意識する。友人との距離間も違ってくるし、多感ですよね。
——中学までは仲良かった友だちと、高校に進んだ途端になぜか距離が出来たりしますよね。
ありますよね。そういう感覚なんです。16歳的なものを、自分は持っている気がします。
角舘健悟 撮影=河上良
●辛いことでも、やったことがない物事であれば、やった方が良いんじゃないかという謎のルール
——3曲目「PRISM HEART」は配置的に絶妙ですよね。作品自体、徐々に音が絞られていくような構成なので、効果的なテンションだと思います。
イメージとしては、エロティックさ。《白いシーツにくるまって 眠ろう》という歌詞もありますし。「Boyish」での16歳の感覚から抜け出して、実年齢の26歳的なところがある。この曲はサビが無くて、ギターのフレージングが繰り返される。あのフレーズからこの曲は生まれたんです。バックサウンドなんかを、ひとまず適当にパソコンで組んでいった。これは言語化するのが難しい作曲感覚なんですけど、「この感情を曲にできたのはデカい。サビはコレで良い」となって。音がたくさんの情報をまとっている気がした。エロティックさ、切なさ、未来性、いろいろ多分に含んでいます。
——そして、「Summer of Love」へと繋がっていく。《未知との遭遇》というワードを基軸に、出会いに至るまでの過程を描いている。でも、「Summer of Love」ですからね。つまりは、「夏の恋は未知との遭遇のようなものなんだ」という、角舘さんのご経験からくるものかと……(笑)。
ハハハ(笑)。いや、それもありますけど、「Summer of Love」は1960、70年代のヒッピーカルチャーの方ですね。
——あ、そっちでしたか!
ヒッピーカルチャーが象徴するように、人との出会いは一種の未知との遭遇。あと、俺は「初体験をしまくる」という遊びをいつもしているんです。物事の一つの判断基準として、「これはやったことがあるか、やったことがないか」があって。辛いことでも、やったことがない物事であれば、やった方が良いんじゃないかという謎のルール。そこで芽生えた気持ちをちゃんと覚えておいて、曲に結びつけたい。あとこの曲は、「SPRING CAVE」という作品タイトルが示すように、俺の部屋で録った曲なんです。カセットテープに録音して作った曲。
——あ、そうなんですか。僕、この曲めちゃくちゃ気に入っています。
ですよね、俺も好きです。先ほどおっしゃったように、後から見てみると作品として華やかなところから少しずつフェイドアウトしていく構成になっている。1、2曲目はとても直接的なのに、後半は内在的になっていく。この曲なんかは、人に向けて話をしているというより、自分に言っている感覚。誰かと一緒にいるときと、一人でいるときの自分って、まったくの別物で、「Bluemin’ Days」と「Summer of Love」は聴き比べてみても、確かに作り手は同じだろうと感じられるけど、同じバンドがやっている曲とは思わせないところがある。明らかに聴き方に違いがでます。
角舘健悟 撮影=河上良
——そういえば、「SPRING CAVE」って聞き慣れない言葉ですよね。
全曲を何となく俯瞰で見たとき、作風が春のイメージだったんです。でも、出会いの春ではない。もう少し、閉じこもっている感じ。つまり、CAVE(=洞窟、洞穴)なんです。そこから妄想を膨らませていきました。ある町の端っこに、洞窟がある。そこは光が入らないんだけど、不思議なことに花が咲いている。そして、その花を摘んで生計を立てている花屋がいる。それくらい、そこに咲いている花は美しい。その洞窟の通称が、SPRING CAVEなんです。俺が暮らしている部屋もそういう設定によく似ている気がして。楽曲制作は、一種の花を咲かせる行為なんじゃないかって。みんなで入るスタジオにも、光は入ってこないし。そういう場所で、どんどん栄養を与えて曲を咲かせている。そういった発想に繋がって、このタイトルになりました。
——おもしろいストーリーですね。
いろんなものをかき集めて作りました。でもこうやって話していると、やっぱり情報量は多くなった気がしますね、今回も。先ほどの説明も、一言で話せたら分かりやすいんですけど。ちなみにこのジャケットは、その洞窟「SPRING CAVE」からちょっと出た場所のイメージです。そういう伏線や仕掛けがたくさんあるので、楽しんで聴いて欲しいです。
——わかりました。春のツアーも楽しみにしてます。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=河上良

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