【インタビュー】古澤 剛が味わった
賞賛、葛藤、充実──「今できるすべ
てをみんなに聴いてもらおうと思って
いる」

2016年9月にシングル「Color」でメジャーデビューを果たした翌年、2017年の古澤 剛はかつてない感情の起伏の真っただ中にいた。メジャーという華々しい舞台で浴びる光と、多くの賞賛。それとは裏腹に、自分はその期待に応えられているのだろうか?という葛藤と、新曲を作るために悩みもがく日々。シンガーソングライターとして、真っ白な未来に思い描く色を描き込んでゆくための、人知れぬ試行錯誤の日々の追想から、新たな物語は始まった。
◆古澤 剛 画像
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■ 悩むことを知った2017年
「2017年は感情の浮き沈みが激しくて、“このままでいいのかな?”と思い詰めた日もあれば、うれしいことがある日もあって、自分の内面と向き合う時間が長かったような気がします。2017年は「Color」を届けるためにいろんなところに歌いに行かせていただいて、それはすごく充実した活動だったんですよ。年始からニッポンハムグループさんがあの曲をCMに起用頂いたので、しっかり届けようという気持ちがあれば届くところには届くんだなという確信もありましたし。でもそうなると、自分の中に欲が出てくるんですよね。たとえば曲を書く時にタイアップのことを考えて作ってしまったりとか、周囲の期待に応えるために自分もそういうところまで考えてしまって、それが雑念となって、純粋に作品として作れなくなってしまった時期もあったんです。でも今はすごくフラットに戻っていますし、今となっては悩むのも必要なんだなって思うようになりました」
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2017年には他にも、古澤 剛の人間的な、そして音楽的な成長を促す様々な活動があった。たとえば、ライブストリーミングサービスのFRESH!内「古澤剛.Ch」での毎週月曜日の生配信。そして、敬愛するコブクロ小渕健太郎が監督をつとめるマラソンチームに所属してのマラソン。一つ一つが血となり肉となり、今の自分を作っていると彼は言う。
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「生配信は、毎週の日記のような感じになっていますね。“これがあるから1週間頑張れます”という声が耳に届くので、自分の歌を聴かせたいというよりも、月曜日にちょっと憂鬱になっている人たちの励みになればという、今はその動機だけでやっている気がします。もちろん僕も元気をもらっていますし、毎回すごく勉強になりますね。マラソンはフィジカル的にも整えられるし、ストレス発散になるし、頭が真っ白になっている時間が長いので、小渕さんいわく、走るようになってから曲作りがものすごくはかどるようになったらしいです。いわゆるランナーズハイの状態になると、走り終わったあとにダーッと曲が書けると聞いて、そうかなと思ったんですけど、僕はまだそこまで行けてないです(笑)。ただ、走ってる間はいらないことを考えないというのはすごくよくわかるし、精神的な影響はすごく大きいですね。マラソンのチームはみなさんそれぞれ大変な仕事を抱えながら走られているので、いつも前向きな気持ちをもらっていて、僕も頑張ることで前向きな気持ちを与えたいなと思ってます。あとは、それに伴って曲がいっぱい書ければ言うことないです(笑)」
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そんな2017年の活動の中で、最大のポイントを一つ上げるならばやはりこれだろう。9月10日、東京・マウントレーニアホール渋谷でのワンマンライブ。メジャーデビューから1年の節目に行われた初のホールライブは、本人もまったく考えていなかったという小渕健太郎のサプライズ参加により、誰もが忘れられぬ特別な一夜になった。今だから明かせるその舞台裏を、古澤 剛自身の口から語ってもらおう。
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「ホールでのワンマンライブは一つの目標でもあったので、ライブ制作の方から“やってみますか?”という提案があった時に“もちろんです”と即答しました。もちろん不安はありましたけど、そこで何を伝えるかに集中して、興行的に成功するかどうかは完全に自分の中で考えないようにして、来てくれた人に最高の時間を過ごしてもらうことだけを考えようと、最初からそういうふうに思っていました。そんなある日、ライブから1か月半ぐらい前ですかね。小渕さんと一緒に食事をした時に、これまでスタンディングのライブハウスでは“来てください”とは言いづらかったんですけど、ホールならゆっくり観てもらえるし、“ぜひ来て頂きたいのですが、その日あいていらっしゃいますか?”と言ったら、その場でスマホを見て“あいてるよ。もちろん行くけど、タケちゃん、俺出てもいい?”って言って頂いたんですね。実は僕、いずれ小渕さんとは絶対に共演させて頂きたいと思っていたんですけど、それは日本武道館でやりたいと昔から思っていたんですよ。だから正直に“すごくうれしいですけど、武道館まで取っておきたいんですよ”と言ったら、“いやいや、この人数の中でやるからいいんじゃない。来てくれた人たちに最高のプレゼントをしようよ”と言ってくれて、その押しに負けたというか(笑)。小渕さんの気持ちに押されて、出て頂くことになりました」
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しかも、話はそこだけでは終わらない。出て頂くだけでもありがたいと興奮気味の彼に向かって、小渕健太郎は少年のようにはしゃいだ声でこう言ったという。「二人で曲を作ろうよ。楽しいじゃん!」と。
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「“せっかくだから、この日のライブに来てくれた人だけに聴いてもらえる曲を二人で作ろうよ”って、凄く無邪気におっしゃるんですよ。それがまさに小渕さんという方で、いつも前向きでポジティブな言い方をして頂くので、こっちもすごいワクワクしちゃって、作りましょう!ってなったんですね。当初は1曲の予定で、その後に食事をした時に“今度作る曲だけどさ、いつも剛が持ってくるギターは剛と兄弟みたいだから、ギターと剛の関係と、俺と剛の関係を言い表した「ブラザー」みたいな曲を作ろうよ”という感じで最初に言われて、それがあの日のステージで歌った「Hey Brother」になったんですね。結局その後に「天の川」ができるわけですけど、それは全然作る予定もなく、「Hey Brother」が早く出来上がっちゃったからもう1曲作ろう!ということだったんですよ。曲作りの部屋でおにぎりとか食べながら、小渕さんが今度はバラードみたいな伴奏を爪弾きはじめて、“こんなメロディどう?”って、もう始まっちゃってたんですよね。それが結局「天の川」という曲になったんですけど、最初は小渕さんがゲストで出ることも、曲を作ることも、それがまさか2曲になることも、全然予期していなかったことで、本当に喜びがすごかったですね」
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当日のライブの盛り上がりについては、こちらの記事を参照してほしい。本編の終了間際に二人で歌われた「Hey Brother」と「天の川」、そして「仲間だろ」の3曲は、まさに小渕が提案した通りに“この日のライブに来てくれた人だけに”贈られた、特別なプレゼントになった。小渕の出演が事前に発表されていなかったことも盛り上がりの大きな一因だが、そこには古澤自身の明確な意図があった。
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「この日のお客さんのためだけのプレゼントをさらに喜んでもらうためには、サプライズにして、ライブの終盤で突然出てきてもらったほうが絶対びっくりするだろうなと思って、あの時間にしました。あの瞬間は忘れられないですね。でも僕としては、それだけがライブの印象として残ってほしくないと思っていたんですよ。もちろんすごいサプライズで、みんな喜んでくれることはわかっていたんですけど、ライブの始まりから最後まで、一つの作品として持って帰ってほしいという気持ちが強かったですし、小渕さんが出るタイミングも自分で考えました。それまでの流れも考えて、すべてにおいてしっかりやり切れたなというのが、ワンマンについての自分の感想ですね。すべて出し切ったなと思います」
◆インタビュー(2)へ
■ 「天の川 with 小渕健太郎」は

■ お互い妥協せず“調和”させることを意識
時計の針を今へと進めよう。その「天の川 with 小渕健太郎」と、ニッポンハムグループ2018年企業CMソングとなった新曲「キミノチカラ」とを両A面に収めた古澤 剛のニューシングルが、3月14日にリリースされた。ニッポンハムグループのCMソングは「Color」に続き2曲目だが、あの時はすでにあった曲がCMに抜擢されたのとは違い、今回は純粋な書き下し。初めての経験ゆえに試行錯誤はあったが、それはとても充実した時間だった。
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「「Color」の時は見つけてもらえた感謝でいっぱいだったんですけど、今度は“新しいCMでこういうメッセージを届けたいので楽曲をお願いできますか”と言ってもらえたのがすごくうれしくて。曲を書く時に一番うれしいのは、その曲が人の役に立つことなので、それを一番のモチベーションとして書き始めました。最初にCMの絵コンテやナレーションをいただいて、子供からお年寄りまでどの世代にも“食べることが未来に自分をつなげることだ”というメッセージに、マラソンをやっていることもあってすごく共感できたんですよ。もちろん野球も好きだし、ファイターズの選手が出てくれることもありましたし、まず“キミノチカラ”というタイトルを自分の中で先に決めました。君の力が必要だからとか、君の力のおかげで毎日楽しく過ごせているとか、いろんなイメージを思い描きながら、最終的には……君の力というのは、君だけが子供の頃から作ってきたたった一つの物語があって、誰もがその最先端に立っているんだから、明日は常に白紙だし、何を書き込むのも自分次第だから、そこに最高の自分を書き込んでくれよ、という応援歌になりましたね。君だけが持っている明日を描く力がある、それこそが“キミノチカラ”だよということです」
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完成した曲は、アコースティックギターとバンドが奏でる、シンプルだが力強いアコースティックロック。サビで繰り返される“超えてゆけ”という言葉がいつまでも心でリフレインし、古澤 剛の野性味あふれる歌声に背中を押される、静かに熱いメッセージソングだ。
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「この間の冬季オリンピック中継のCMでこの曲が流れた時も、アスリートの方たちの映像を観た後で聴くと、すごく背中を押している感じがするなって自分で思ったりしましたね。ただ、この“超えてゆけ”というのは、ストイックに頑張れ!という感じじゃなくて……そういうふうに響きがちなんですが、普通にそのままの自分でふっと超えられる日がきっと来るから、明日は真っ白だよということのほうが大事で、“自然に超えられるよ”という意味合いのほうが強いんです。どうしても、僕のこの野太い声で“超えてゆけ”と言われると、頑張らなきゃ!って思われがちかもしれないけど、実は軽やかに、超える力があなたにはあるはずだから焦らないで、という気持ちが強いです。それをライブでもうまく表現したいんですけど、どうしても眉間にしわを寄せて歌っちゃうもので、それが今後の課題ですね(笑)」
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あらためて、もう1曲の「天の川 with 小渕健太郎」にも触れてもらおう。作詞作曲は古澤 剛と小渕健太郎の共作になっているが、実際のところ、この曲はどんなふうに作られていったのだろうか?
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「小渕さんとの曲作りの時間は2日間あって、1日目に「Hey Brother」と「天の川」の曲ができて、2日目に歌詞を両方に乗せました。「天の川」は小渕さんがギターを弾きながら、“剛、このメロディ歌ってみて”とおっしゃっていて、自分は声という楽器に徹しようみたいな感じでしたね。メロディはほぼ小渕さん主導で、僕が隣で歌うことで進む方向を決めながら、引っ張っていってくれたようなところがあるので、きっと小渕さんの中では、僕の声が生きるメロディと曲を作ってみたいというイメージがあったんじゃないかな?と思うんですよ。僕はそれを受け取りながら歌って、“もっと良くなれ”と願いながら、あっという間にできた感じです。歌詞については、メロディに切なさが溢れていたので、一応モデルとなる僕の中での恋愛の出来事を元にして、散文詩みたいなものを落書き帳に3ページぐらい書いて持って行って、そこからさらに違うストーリーを書きかぶせるみたいな感じで作られていきました。僕が書くものは抽象的になりがちで、心の中の言葉が多いんですけど、それを小渕さんが情景が見える形に整えていってくれたという感じです。しかも出来上がってみたら“これは俺だな”と思ったんですよ。好きだと言えずに、歌にしたらいつか届くかな?と考えているとか、夜空の星を見上げて「好きだ!」と叫ぶとか、そういう感じがやけに自分みたいだなって(笑)。こういう恋愛の心を綴る曲は少なかったので、このきっかけで大事なラブソングをいただいたなという感じですね」
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コブクロの数ある名バラードを彷彿させる、シンセやパーカッションを加えた壮大なサウンドに、主役の古澤のたくましい歌声に寄り添うようなコーラスを添える小渕健太郎。どちらのファンにもアピールする、新たなバラードの名曲の誕生だ。
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「レコーディングの手法も、小渕さんが持ってるノウハウをまじまじと見せてもらうことができましたし、ゴージャスはゴージャスなんですけど、僕のスタンスも理解してもらいながら、お互い妥協はしたくなかったんですよね。妥協じゃなくて調和させることを意識して、お互いの意見がうまくまとまったと思います。サウンド・プロデューサーが小渕さんなので、小渕さんの個性が出るのは当然だと思いますし、その中で僕はこの声を使って言葉と思いを届けようという気持ちですね」
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◆インタビュー(3)へ
■ ライブも、アルバムも、評価は置いておいて

■ 今できるすべてをみんなに聴いて欲しい
シングルのリリース後は、昨年9月のマウントレーニアホール以来のワンマンライブが控えている。<古澤剛 HALL LIVE IN TOKYO 2018>は、4月1日日曜日、日本橋三井ホールにて開催。2017年の活動で得たもの、そして小渕健太郎との濃密な共同作業と、「キミノチカラ」の制作で得た様々な成果をライブ空間に解き放つ、その瞬間はもうすぐだ。
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「まだ自分の中でライブのイメージは固まり切ってないんですけど、でも“キミノチカラ”という曲が核になるのは間違いないと思います。とにかく4月1日のライブを終えて、4月2日がみんなの中で真っ白なページになって、自由になって明日を迎えられるという気分で帰ってほしいなと思ってます。……“超えてゆけ”というのは自分自身に向けても言っている言葉で、常に今を超えたいと思ってるんですよね。それまでやってきたことを一回置いておいて、明日に対してまったく新しいことを書いてみたいと思う、その気持ちをライブにぶつけたいと思います」
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最後に、これはまだ正式には発表されていないが、書いてもいいですよと言われたので書いてしまおう。古澤 剛は今、メジャー初アルバムの制作中だ。デビューから1年半の、いやそれ以前のインディーズ時代も、ひょっとすると34年間という人生のすべてを注ぎ込むと言っていいかもしれない、待望のアルバム。曲目もリリースも未定だが、制作は順調のようだ。何より、彼の充実した表情がそれを物語っている。ニューシングル、ワンマンライブ、そしてアルバム。2018年は古澤 剛にとって、これまでで最高に実り多き年になるだろう。最大限の期待を込めて、収穫の日々を待ちたい。
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「長い間煮込んだ曲がたくさんあるので、どの曲も自分の中で“100%この曲を聴いてほしい”という曲ばかりですし、そういった曲たちが今自分の思う最高のサウンドとアレンジと言葉で、どこを切り取っても濃密なアルバムにしたいと思ってます。“キミノチカラ”“天の川”も入る予定ですし、いろんな人の力やインスピレーションを借りながら、新しいチャレンジも含めて、すごく楽しくレコーディングができているので、悔いのないように思い切り全部詰め込みたいですね。去年の9月のワンマンから、アルバムを作るということの価値観もいろいろ変わってきたので、ライブのように聴いてくれる人の顔が浮かぶことを念頭に置いて、今着々と作っています。とにかくライブも、アルバムも、評価とかは置いておいて、今できるすべてをみんなに聴いてもらおうと思っているので。その反応を思い切り楽しみたいなと思っています」
取材・文◎宮本英夫
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古澤 剛 ニューシングル「キミノチカラ/天の川 with 小渕健太郎」


2018年3月14日(水)発売

TECG-59 1204円+税

<収録内容>

1.キミノチカラ(ニッポンハムグループ 2018年企業CMソング)

2.天の川 with 小渕健太郎

3.キミノチカラ(Instrumental)

4.天の川(Instrumental)
古澤 剛 「キミノチカラ/天の川 with 小渕健太郎」発売記念フリーライブ


場所:神奈川・川崎 ラ チッタデッラ 噴水広場

3月18日(日) 14:30-/16:30- ※2回ステージ

※観覧無料

※イベント当日、CDをお買い上げのお客様はサイン会に御参加頂けます。
<古澤 剛 HALL LIVE IN TOKYO2018>


※古澤 剛ワンマン公演

2018年4月1日(日) 日本橋三井ホール

16:30開場/17:00開演

全席指定 4800円 ※ドリンク代別

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