遅咲きのピアニスト、シャルル・リシ
ャール=アムランが『ピアノ・エトワ
ール・シリーズ』に出演

彩の国さいたま芸術劇場の好評企画、新鋭のピアニストが意欲的なプログラムを披露する『ピアノ・エトワール・シリーズ』に、2015年ショパン国際ピアノ・コンクール第2位入賞のカナダ出身のピアニスト、シャルル・リシャール=アムランが登場する。
国際コンクールというと、10代の若手コンテスタントがひしめくが、1989年生まれのアムランはそのとき26歳。ほぼ無名に近かったため、予備予選(予選の前段階)からの参加だったが、その磨き抜かれた音色と豊かな音楽性で瞬く間に注目を集めた。いわゆる遅咲きのピアニストだが、アムランはここまでどのように歩んできたのだろうか。
「カナダの地元ケベック州でピアノを始め、5歳から18歳までパウル・スルドゥレスク先生の指導を受けました。スルドゥレスク先生は、早くから難しい曲を弾かせるのではなく、当時の私には難しいけれども、難しすぎることのない曲を選んでくれて、段階的に学ばせてくれたことが良かったと思います。音階やテクニックばかりでなく、音楽作品の深いところまで、私が興味をもてるような選曲をしてくれました。その後、18歳でモントリオールのマックギル大学で3人の先生に師事し、さらにアンドレ・ラプラント先生(1978年チャイコフスキー国際コンクール第2位入賞のカナダの巨匠)のもとでも学びました」。
じっくりと時間をかけて自身の音楽を深めていったアムランは、その実力を試してみようと自らの決断でコンクールを受ける。
「最初は小さいコンクールに出場しようとテープを送ったのですが、22歳でそれまでひとつもコンクールに通ってないピアニストはどうせダメだろうという先入観があったのか、どれも事前審査の段階で落とされてしまいました。それならば、国際コンクールに挑戦しようと、ソウル、モントリオール、ショパンと3つのコンクールを受けて、運よくすべて入賞することができました」。
シャルル・リシャール=アムラン
地元モントリオール国際音楽コンクールのときはとても緊張していたが、ショパン国際コンクールでは、神経質になることはなかったという。
「もちろん審査員もいて、カメラも入っていますから普通の状態ではありません。でも、このワルシャワで、ショパンの作品を弾けることに幸せを感じていました。後でyoutubeで自分の演奏を見ましたが、自信を持って心が揺れることなく弾いているのが自分でもわかりました。期待やプレッシャーをたくさんもって受けに来ているコンテスタントに比べたら、純粋に弾く喜びの中に浸ることができたと思います。第1次予選で《バラード第3番》を弾いた後は、たくさんの拍手をいただきました。コンクールは再度出てきてお辞儀をしてはいけないので舞台には戻れませんでしたが、それも大きな自信になりました」。
第3次予選まで無事に通過したアムランは、本選で《ピアノ協奏曲第2番》を演奏する。
「この曲は、弦楽四重奏版やピアノ伴奏で弾いたことはありましたが、オーケストラと合わせるのはそのときが初めてでした。こういうとき最悪の事態になることもあるのですが、本選まで気持ち良く進めたので、自信をもって楽しく弾けました。そのあとこの協奏曲は50回近くオーケストラと弾いています。きっと今の方が上手に弾けると思いますよ(笑)。」
さて、今回のショパンを中心としたプログラムは、彼のいまを映し出す、考え抜かれ選曲となっている。
「一曲目のモーツァルト《幻想曲ニ短調》は、音符の数は少ないですが、静かななかに豊かな感情が含まれ、次のショパン《4つの即興曲》へも良い橋渡しになると思っています。即興曲は今回、楽譜が出版された順番に演奏します。最後の《幻想即興曲》は、実は4曲のなかで最初に書かれた作品です。第2番と第3番は、コンサートで演奏されることが意外と少ないので楽しみにしていただきたいです。《バラード》も4曲続けて弾きます。バラードはショパンの人生を辿るようなもので、第1番はかなり若いときに作られ、第4番は彼が人生の最後に差しかかったときに作曲されました。続けて演奏することは容易ではありませんが、続けることで彼の人生が見えてきます。どの曲も最後のコーダが特徴的で素晴らしいですよね。このコーダをどのように演奏するか、それを4曲続けた場合の表現も興味深いと感じています」。
シャルル・リシャール=アムラン
そしてユニークなのは、アルメニア出身のババジャニアンの作品を取り上げる。何か良い作品はないかとyoutubeで探して偶然見つけたという。
「ババジャニアンは、良いピアニストで、作曲家としても優れていました。《エレジー》は、民俗音楽をもとにしたメロディアスな作品で、最後の《カプリッチョ》はヴィルトゥオーゾ的な華やかな曲です。それなのにソビエト時代の鉄のカーテンに阻まれ、忘れ去られてしまったのは残念なことです。以前からこうした知られざる作曲家や作品の発掘に興味があって、2枚目のアルバムにも録音しましたが、エネスコ《ピアノのための組曲第2番》も積極的に取り上げてきました。私の演奏でこの曲を初めて知ったとか、この曲を演奏したいと言って下さる方もいたりと反響が大きく、これこそが自分のやりたいことだと確信しました」。
ショパン・コンクール入賞以後、ほとんど休みがなく、世界で200回以上のコンサートに出演してきたと語るアムラン。「世界中の人たちが私の演奏に注目してくれるのは本当に幸せなことです」。落ち着いた物腰だが、ピアノと音楽を愛する青年の表情はいきいきと明るい。誰もが期待を寄せるショパン、音色の美しさが際立つモーツァルト、新しい出会いとなるババジャニアン。6月のコンサートは、彼の発見に満ちた演奏で、私たちを楽しませてくれるだろう。

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