ナチスに殺害されたユダヤ人音楽家た
ちの楽曲:4月にエルサレムで10代の
楽団が演奏

70年の時を経てホロコースト時代の音楽
が復活

2018年4月にイスラエルのエルサレムで、ナチスドイツが第二次大戦時に殺害したユダヤ人音楽家らの音楽を集めたコンサートが開催される。

ナチスは約600万人のユダヤ人を殺害した。いわゆるホロコーストだ。その中には多くの作詞家、作曲家、演奏者など音楽家が多数いた。

イタリア系ユダヤ人の音楽家Francesco Lotoro氏が約30年にわたって、ナチス時代に殺害されたユダヤ人音楽家らの楽曲を集めていた。ユダヤ人たちは収容されていた強制収容所でも作詞や作曲を行っており、Lotoro氏は約8000枚の楽譜や譜面を収集した。

当時の収容所では、外部とのコンタクト防止のため、囚人が紙を使用することは禁止されていた。そのような環境の中でも音楽家の囚人たちはボロボロの紙を入手し、楽譜を書いていた。

収容所やゲットーから収集された音楽が70年以上の時を経てコンサートで披露される。
またドイツ系ユダヤ人作曲で1944年にアウシュビッツで殺害されたWilly Rosen氏がMax Ehrlich氏と作曲した「Tatata」も演奏される。

▼ホロコーストで殺害されたユダヤ人音楽家が作曲した「Tatata」(この楽曲はオランダのウェストボルグ収容所で作られた)

「音楽こそが、迫り来る恐怖から逃げる
ことができる道だったのかもしれない」

今回のコンサートは、ナチスに迫害されていたにも関わらず、ゲットーや収容所の中でも、音楽を通じて自己表現をしていた音楽家たちがいたことを世界中に知ってもらうことを目的にしている。

そして、それらの楽曲を披露するのはイスラエルの10代の学生らによる音楽隊だ。イスラエルは戦後に、ユダヤ人によって建国され、今年で70年を迎える。

Francesco Lotoro氏が指揮を執っており、10歳から17歳までの学生20人で構成されている。

Lotoro氏は「ホロコーストで犠牲になったユダヤ人音楽家たちの楽曲はイスラエルで演奏されるべきだ」と述べている。成功したら欧州やアメリカにも演奏旅行に行きたいとも。

さらに「ナチスに迫害され、明日殺されるかもしれないという環境の中でも、ユダヤ人の作曲家や音楽家たちはゲットーや強制収容所の悪環境の中で、楽曲を作り、演奏していた。自由を求めていた音楽家たちによって作られた楽曲は世界的な遺産だ。我々の想像を絶するような環境で作られた音楽をコンサートで演奏することによって、当時のユダヤ人音楽家たちの人生と尊厳の回復を行いたい」とコメントしている。

15歳のフルート担当のChen Wolff氏は「もっと暗い楽曲ばかりかと思っていたが、とても明るい曲が多かった。音楽こそが、迫り来るあらゆる恐怖から逃げることができる道だったのかもしれない」と語っている。

12歳のバイオリニストのSasha Yatsyuk氏は「私が好きな楽曲は『Theresienstadter-Lied(テレジエンシュタットの歌)』明るくて、弾みがあるメロディで、暗くて悲しい場所で、こんな楽しい楽曲が作れたことが信じられない!」と語っている。
▼練習に励むイスラエルの10代の楽団メンバー(HAARETZ)
ユダヤ系チェコ人の作曲家Rudolf Karel氏は、テレジエンシュタット強制収容所で赤痢に悩まされており、トイレにあったトイレットペーパーに木炭を使って楽譜を書いていた。

彼の友人がその楽譜を保存しておいて、戦後まで残ったが、Rudolf Karel氏自身は戦争が終わる2か月前にテレジエンシュタットで赤痢に苦しんで亡くなられた。
ユダヤ系チェコ人の作曲家Rudolf Karel氏がテレジエンシュタットで作った楽曲(Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

ユダヤ系チェコ人の作曲家Rudolf Karel氏がテレジエンシュタットで作った楽曲(Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

「死の危険があればあるほど、たくさん
の音楽が生まれるのだ」

Lotoro氏は「信じられないかもしれないが、アウシュビッツ絶滅収容所という地獄のようなところでも、音楽が作られていた。死の危険があればあるほど、たくさんの音楽が生まれるのだ」と語っている。

ユダヤ人の詩人で音楽家だったIlse Weber氏は、チェコのテレジエンシュタット収容所に収容されていた。1944年に夫のWilli氏がアウシュビッツに移送されることになり、息子Tommyと一緒に夫に同行してアウシュビッツに行き、家族全員がガス室で殺害された。そのWeber氏の作った楽曲は初めて演奏される。

彼女の曲だけでなく、ユダヤ人音楽家たちが命を懸けて作った音楽の多くは今回初めて演奏される。

14歳のフルート担当のHila Benishy氏は「僕らの世代が、ホロコースト時代の貴重な楽曲を多くの人たちの前で演奏できることは光栄だ」と述べている。2018年4月15日、本番を迎える。
収容所でも囚人による音楽隊が演奏をしていた。だが演奏の目的は囚人たちが円滑に労働したり、ナチスのための演奏だった(Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

収容所でも囚人による音楽隊が演奏をしていた。だが演奏の目的は囚人たちが円滑に労働したり、ナチスのための演奏だった(Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

強制収容所での音楽隊を描いたドラマとしては1980年にアメリカCBSで制作された「PLAYING FOR TIME」(放題:「ファニア歌いなさい」)が有名。ヴァネッサ・レッドグレイヴがアウシュビッツに収容され、収容所で音楽隊を務めたフランス系ユダヤ人ピアニストのファニアの役を演じている。

▼「PLAYING FOR TIME」の1シーン(TDM Entertainment)
オランダのウェストボルグ収容所での音楽隊 (Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

オランダのウェストボルグ収容所での音楽隊 (Courtesy of JNF UK / PHA GROUP)

佐藤仁

日本だけでなく欧米やアジアのポップカルチャーやエンターテイメント、メディアの動向を幅広く取材。放送作家・番組制作協力も多数。

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