アーバンギャルド

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「アーバンギャルドの10年」とは何だ
ったのか? ”4つのキーワード”で総
括するメンバー全員ロングインタビュ

祝・CDデビュー10周年。今回はメンバー全員をお招きして、アーバンギャルドの10年間を「メンヘラ」「少女」「テクノポップ」「サブカル」というキーワードから語っていただきました。

2018年でCDデビュー10周年を迎えるアーバンギャルド。それを記念して2年4ヶ月ぶりのオリジナルアルバム『少女フィクション』を4月4日にリリース、そして4月8日には10周年記念公演「アーバンギャルドのディストピア2018 KEKKONSHIKI」を中野サンプラザホールで行います。
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今回はメンバー全員をお招きして、アーバンギャルドの10年間を「メンヘラ」「少女」「テクノポップ」「サブカル」という4つのキーワードを通して語っていただきました。
「メンヘラってなあに?」「貴女みたいな人だよ」――今回は、アーバンギャルドから着想する4つのキーワード「少女」「サブカル」「テクノポップ」「メンヘラ」をテーマに、この10年を振り返っていただきたいと思います。この言葉ってどれも意味を変えたというか、言葉を取り巻く環境が変わったと思うんですよ。
(※おおくぼけい(Key)さんは交通事情でちょっと遅刻とのことです)
浜崎容子(Vo):私アーバンギャルドに入ってから「メンヘラ」という言葉を知ったんですよね。だから松永に「メンヘラってなあに?」って聞いた記憶があります。
――松永さんは何と?
浜崎:「貴女みたいな人だよ」って(笑)。
松永天馬(Vo):そんな風に言ったっけ(笑)、随分ストレートですね。
瀬々信(G):アーバンギャルドを立ち上げた時は「メンヘラ」という言葉はあんまり一般的でもなかったですし。少なくとも僕は知らなかった。こういう音楽をやっていたら、いつの間にかリンクしたというか。
松永:リスナーの子たちから教えてもらったといえばいいのかな、明確に共通点を持った女の子たちが僕らの音楽に集ってきたんです。最初は「この子たちはどこから来たんだろう?」という感覚でしたね。
瀬々:どうやら松永天馬の描く世界観というものに引き寄せられて、そういう子たちが集まってくるんじゃないか、それで「メンヘラ」と言う存在を知りましたね。
松永:浜崎さんは当初から水玉の衣装でステージに立っていたんですけど、気がついたら浜崎さんを模して水玉柄をまとった子たちが増えてきた。それを見て逆に感化されて『水玉病』という曲を作ったんです。
――それはメンヘラをという言葉が定着した後に出てきたアーティストたちと異なる点ではありますよね。まず表現があってそこにカルチャーの磁場ができた。
アーバンギャルドの表現自体、一貫して病を一歩引いて冷静に見ている部分はあります。それは浜崎さんが感情を全面に出すタイプのボーカリストではないことにもあらわれているような。
浜崎:私がシャンソンを習っていた時の恩師が常々おっしゃっていたことなんですが、「歌う時に一緒に泣いてはいけない、自分が感情移入しすぎて泣いてしまったら押しつけになっていまう」と。それが当時10代の自分にすごく響いたんですよね。それからずっと根底にあるんです。
泣いている人の頭をなでてあげるような存在でいたいんです。だから淡々として見えるかもしれないけど、自分が泣いてはいけないなと常に思っています。
松永:メンヘラミュージシャンも当事者型と表現型がいますよね。たとえば前者は後藤まりこさんやCoccoさん、後者は初期の椎名林檎さんとか。
浜崎:とは言っても私自身当事者なんですよ? 毎日錠剤飲んでますけど(苦笑)。当事者であるということを、自分自身が歌や表現でそれを出していることは美しいかどうか考えると……、ちょっと美意識に反するかなと。
松永:僕らはやっぱり創作をしたくて、多分僕自身にも少なからずメンヘラ要素はあると思うんです。
浜崎:少なからずどころか……。今でも「メンヘラを茶化してるのか!」みたいなことは言われるのは驚きますね。
松永:いまだに言われる?
浜崎:「傷ついている人もいるんですよ」みたいな意見をもらうことはあります。私のことを「メンヘラを演じてビジネスにしている」みたいな。
松永:そもそもガチのメンヘラの定義が難しいですよね。
浜崎:そこを美学として全面に出していないだけで、証拠はいっぱいありますよ!
松永:いい話だなあ。
――いい話なんでしょうか?
松永:昔は当時はメンヘラという言葉は一般的でもなかったですし。昔は今でいうメンヘラ全般を指す言葉は沢山あったと思うんですよね。「ネクラ」「不思議ちゃん」「サイコ系」「精神系」……、色んな言葉があったのが「メンヘラ」でまとめられた。それはインターネット以後の現象ですよね。
以前は心に闇を抱えた人たちがカミングアウトする機会はほぼ存在しなかったのが、ネットを使って全世界に発信できるようになり、そういった人たち同士でSNSのコミュで繋がってコミュニケーションをとれるようになった。メンヘラの「見える化」ですよ。あったじゃないですか、mixiでメンヘラコミュが花盛りだった時代……。
浜崎:ありましたね、「暗黒が好き。」みたいなコミュが山ほど。そこでどんなに人にも皆、承認欲求があるんだなというか、mixiが廃れてもTwitterが流行ってるのも、皆自分のことを認めてもらいたいっていうか。多かれ少なかれどんな人でもそういう欲求があるんだなということを知りました。
松永:承認欲求は、先ほど挙げてもらったキーワード「少女」に結びついていると思っていて。少女というのは昔だったらせいぜい15歳くらいまでの女の子を指していたと思うんです。それが今は「少女性」というか、少女的なるもの、それを宿している女の人全般を指す言葉になったんじゃないかな。
浜崎:なってないよ!?
松永:なってるよ! それはアイドルにしても高年齢化が進んでるじゃないですか。世の中が少女性みたいなものに対して寛容になった。それは日本の国民の平均年齢が45歳くらいになっている日本全体の高齢化、少子化も関係しているのかな。
浜崎:寛容になったというか、国全体が幼くなっている気がします。今の40代・50代の人もすごく若く見えるし、いい意味でも悪い意味でも幼くなった。ずっと子供でいたい、少女を延命させたいというか。
バンドにとって「少女」とは
アーバンギャルドにとって「少女」とはなんだったのか――「少女」はアーバンギャルドの重要なモチーフのひとつですよね。10年の活動を通して世の中の「少女性」というものに変化は感じますか?
浜崎:根本的には「少女性」も多分すべての時代で変わらないんじゃなかな。女性が月に一度発狂するのも逃れられないですし。確かに、それに対しての理解は増えているし、女の子が生きやすい時代になったかなと思う一方で、逆に生きづらい時代にもなっているのかな。
――それはなぜでしょう。
浜崎:うーん、これもSNSの影響だと思うんですが、「可愛くないといけない」みたいなプレッシャーがあるような気がします。
――アプリで誰でも可愛くなれる時代だからこそ。
浜崎:そう、だから可愛くなければ価値がない。あるいは、アプリで加工した自分の顔が本当の顔であってほしいという願望。
とあるカメラマンさんがおっしゃっていたんですけど、女の子を撮影していたら、出来上がった写真を見て「私はこんな顔じゃない!」と。スマホで加工された写真を見せて「私の顔はこうです!」と。彼女にはそれが本当の顔に見えているということですよね。
松永:今回、『少女フィクション』というアルバムを作りましたけど、今の時代皆フィクションに生きているんですよ。僕らが示したいのは、フィクションがリアルに変わる瞬間、それを僕たちはいつになったら得られるんだろう、という。
浜崎:得られませんよ……、皆いつかは死んでしまうんです。
松永:やや? メンヘラ発言が出ましたね? 2010年代に入って急速に廃れた女の子のファッションがふたつあって、「森ガール」(※森に住んでる女の子をイメージしたファッション。mixiコミュからブームが発生し書籍や雑誌も出るほどのムーブメントに)と「盛りギャル」(※髪の毛を高く盛ったギャルのこと。雑誌『小悪魔ageha』からブームが盛り上がる)ですね。これはどちらも「虚構」を現実に持ってきたファッションなんです。
それが震災後、急速に廃れていって、さっき浜崎さんが言ったように「アプリで作った顔」が真実に見えるような、自分にとっての「現実」の比重をネット上に重きに置いてる人が増えてるのかもしれない。現代人は虚構か現実かという自問もなく、「フィクションの中に生きている我々」であるという意味もあって『少女フィクション』なんです。
――例えば2012年にリリースされたアルバム『ガイガーカウンターカルチャー』には『ノンフィクションソング』という曲が収録されています。その時はまだ「現実」の方が比重が高かったとお考えですか?
瀬々: 震災前と後で、人の意識が変わったということはすごく感じます。震災前は森ガールとかが流行ってたのも、まだ夢を見ていられたんですよね。でも震災後の現実を見た時に、夢を見ていられなくなった。流行るものが肉体を伴うもの。服じゃなかったり、自分の体の一部になっていった。みんなリアルになっていった。現実的になっていったのかな。追い求めるものも変わってきたのも感じる。
松永:震災後しばらく、現実が否応なくフィクションを追い抜いた瞬間というのは確かにあったと思う。震災から生じた様々な問題はそれだけ過酷だったわけですが、この国の人々の多くはそれを「考えない」「忘れる」ことで対処していった気がします。その分、この数年で虚構が補強されたというか、ネット上にある虚構を現実だと誤認したまま今があるような。インスタ映えするけど、実際はまずいスイーツみたいな現実ですね。
僕はフィクションの力を信じていますが、フィクションは現実から逃げるためのものではなく、現実をつまびらかにするためにこそあると考えている。リアルに靄をかけるのではなく、より鮮明にさせるような。僕らにとって、そのフィクションの鍵となるのが「少女」という概念だった。
アーバンギャルドにとって「少女」とはなんだったのか? リスナーの女の子たちにとって結局「少女」とはなんだったのか。結局それは歌であり、作り物……フィクションだったんです。だからこそ『あたしフィクション』という曲を作ったわけで。
夢にも思わなかった、周囲の反応
「裏・渋谷系」代表みたいに紹介されるなんて、夢にも思わなかった松永:三題話みたいですが、今は常に身体性が問い直されている時代ですよね。そこから「テクノポップ」の話に移りたいと思います。
10年前くらいにPerfumeがブレイクした時期に、「テクノポップブームが再来!」的に新聞なんかのお父さん向けの記事で扱われていたりしたんです。当時テクノポップというのは80年代前半のYMOやヒカシュー、つまり一部の人たちの懐メロだったんですよ! それで確か最初は雑誌『MARQUEE』が「フューチャーポップ」という言い方をしていたのかな。
あの時期に出てきて、オタク・サブカル文化でもてはやされたものって、Perfumeと初音ミクと相対性理論ですよね。この3つは全部それまでの身体性を問い直すものだと思うんです。
Perfumeもライブでは口パクだけど、それをダンスと最新鋭のステージ技術を持ってカバーする。相対性理論もインディーロックっぽい音の上に違和感のある萌え声がのっていることが新しかった。初音ミクはそもそも肉体がない。その流れなのか、一番最初にアーバンギャルドが全国流通をしたときのタワレコのポップに「裏相対性理論・裏Perfume」と書いてあったんです
瀬々:書いてあったね~! まさかアーバンギャルドが裏・渋谷系代表みたいに紹介されるなんて夢にも思わなかったよ。当時は何も意識しないで作品を作っていたからちょっと予想外の結果だったよね。普通にアーバンギャルドは2000年代渋谷系かと思っていたよ。
松永:当時の我々的には意外な感じがしたんですが。今思い返すとアーバンギャルドってサウンドの激しさに対して浜崎さんの繊細な声が乗っているというのは、当時としては新しいアンサンブルだったのではないでしょうか。身体性が伴ってないわけじゃないけど今までの身体性とは全然違う。
浜崎:余談ですけど、私、ボーカロイドに声質が似てるらしいんですよ。オートチューンがかからないみたいで(笑)。
松永:最初は苦労したよね。
浜崎:今も苦労してますけどね! アーバンギャルドの曲って人間が歌うものじゃないですよ!
松永:まぁまぁ。浜崎さんの声質をそのまま活かしながら力強いサウンドがあって、力強いドラムがあって、みたいな。バランスを取るのに本当に苦労しました。
浜崎:今も苦労してますよ!
――2回目です。
浜崎 :10年活動してきて、自分たちも人並みに売れたくて、時代に迎合しようと試行錯誤した時期があったんですよ。それに振り回されすぎて疲れたというのもあります。そんな時期を経て、やっぱり自分たちの本当にやりたいことをやりたいなという気持ちになったのが今回のアルバムなんですよ。
例えば「こういうサウンドが流行っているから入れよう」とか「こういう表現が流行っているから入れよう」みたいな、そういうのをほんのりアーバン風に解釈してっていう、その試行錯誤を繰り返してきて……、疲れちゃった!
松永:ふふふ。
浜崎:要するに、そんなことをしても売れなかったんですよ!
――迎合しようとしていた時期があったんですか。
浜崎:ありましたよ。
松永:いや僕はそんな気持ちはなかったけど。
浜崎:天馬が一番迎合してた!
瀬々:わりとね!
松永:ええ〜。
――それはどういった面で?
浜崎:たとえばライブにドラムを入れる入れないだとか、ちょっとロックフェス、ロキノン系サウンドに行きたいとか……あったんですよ。もちろんやりたいことをやってた部分もありますけど、言い方が悪いですけど、「一般受け」を狙おうとしたこともあったんです。今回のアルバムは自分たちだけで作ってる部分がすごく大きくて。それってインディーズとかで最初でやってた頃の感覚と同じなんですよ。
――原点回帰的な。
浜崎:だから率直に言うとこの10年、「疲れた」というのが私の中で一番大きいです。疲れました! 良い意味でも悪い意味でも「諦めた」というところですね。絶望してるんですよ世の中に、ははははは。
ベタなことをいち早くやっていた
我々はベタなことをいち早くやっていたのかもしれない松永:それはどういう意味で?
浜崎:さっきのアプリの話もそうですけど、そういう話を聞いた時点でもう「絶望」ですよ。自分の美意識とは離れるものに自分が合わせる必要もないということに気づいたんです。昔は「フォロワー増やさなきゃ」という気持ちもあったんですけど。
松永:炎上もそうだけど、結局ネット上の様々なことを批判することで、それに加担することになってしまう。そこに疲れてるんじゃない?
浜崎:そうですね、それにもがっかりしてる。実際「SNS疲れた」って思ってる人も多いでしょうから、今回のアルバムも共感していただける部分も多いのでは。
松永:そういう気持ちをネット上に書き散らすんじゃなくて、できるだけ作品の形に昇華して、世に問うていきたいな。
浜崎:自分たちはやっぱり、ミュージシャンだし歌手だし、ひとりの人間として認めてもらいたいというより、音楽を聴いてもらいたいんですよ。
松永:まあ我々はYouTuberやツイッタラーではないですからね。
浜崎:そこを改めて再確認できたのかな、この作品を作りながら怖いものなしになってきたというか、何が出ても最初から恥ずかしい存在だったからいいやって思うようになりました。
――そのくらい自信作ということですね。
浜崎:最初のPVから経血流してたし……と。10年でだいぶ頑丈になった。強くなったというより、頑丈になった。
――頑丈にならざるをえなかった、と。
松永:インターネットって昔はもっと希望に溢れた場所だったじゃないですか。2000年ごろは。皆が自分で発信できるっていう夢のような場所だと。でも蓋を明けてみたら、権力じゃなくて国民同士で監視してるじゃないですか。なんかこいつ変なこと言ってるぞ、ってなったら袋叩きになる世の中に変わってしまった。ユートピアだと思っていたら焼け野原に変わってしまった。そんなインターネットを生きるということなんです。
――そして電車が遅延していて遅刻されていたおおくぼさんが到着されました。
おおくぼ:今は何の話してます?
松永:サブカルも一般化しましたよね。もうサブカルも何を指すんでしょうね。案外、赤羽とかのおじいさんがサブカルなのかもしれないね。
瀬々:今となっては!
松永:もうアニメやマンガは一般カルチャーだから。発見されるとサブカルじゃなくなっちゃう。
瀬々:アイコン化したよね。
松永:「あるある」になってる。
おおくぼ:むしろ今のメインカルチャーって何かといったらわからないですよね。
松永:サブカルって一般化してきているんですけど、「本当のサブカル」……なんていってしまうと選民主義的ですけど、いわゆる昔ながらのサブカル的なものは未だに畑も無いし、未だに限られた場所でやってると思いますよ。
例えばSEKAI NO OWARIはサブカル要素はあるけど、大衆まで届いたのは深瀬くんがヤンキーだったところによるところが大きいですし。『ポプテピピック』もそうですけど、ヒットするものは「サブカル・+@」なんじゃないかな。その中でも我々は王道なところをやっているのかもしれないけど。
おおくぼ:加入前からよく対バンしてたんですけど、アーバンギャルドって、サブカルっぽいことをやろうというときに、絶対恥ずかしくてできない、やらないってことをやっていたんですよ。ど真ん中すぎて。サブカルど真ん中の直球投げてきたみたいなのを恥ずかしげもなくやっていたんです。
松永:たしかに昔は「ベタなところから引用するね」とはよく言われましたね。
おおくぼ:「そこ持ってきちゃうんだ! 恥ずかしくねえ?」というか、最初は「うらやましい」って思ってたんです。これとこれやられたらずるいよね、みたいな。渋谷系みたいな感じと、寺山修司的なもの、筋少っぽい歌詞とかでやってるのは、全部好きなやつだから、ずるいなって、好き放題だなって思ってましたね。
浜崎:知る人ぞ知るものの引用とかオマージュをさせていただいた場合、本当のパクリになりません? 逆に。わかりやすいところから参照させていただいていることは、とても健全なことではないのかなと思ったりするんですけどね。
松永:カルチャーというのものは文脈で続いていくものですからね。
おおくぼ:そしてだんだんオマージュされる側になってきたんじゃないですか。
松永:そうですね、そういうポジティブな解釈ができたらいいんですかね。我々は少女的なものをずっと歌ってきたけど、今のサブカルチャーの間で「少女的なもの」が占める割合がどんどん大きくなっている感はありますよね。
浜崎:セーラー服で前髪ぱっつん、ロングヘアになったのって……すごく自意識過剰なのかもしれませんけど……。雛形はひょっとして……。
松永:我々はベタなことをいち早くやっていたのかもしれないよね。アーバンギャルドと古屋兎丸先生のコラボセーラー服が全国のビレバンで売られる時代ですよ。
小器用じゃなくて、不器用でもいいから
小器用じゃなくて、不器用でもいいから――さて、おおくぼさんも到着したところで本格的にニューアルバム『少女フィクション』のお話を伺いたいと思います。
松永:最初に「これまでのアーバンギャルドの歴史を一回全部忘れよう」って言ったんです。
何年も活動して、何枚もアルバムを出すと「こういうものは前にもやったんじゃないか」とか「こういう曲はあったしな」というのが当然出てくる。そこに自分たちががんじがらめになっていると感じていた。一旦そういうことを考えずに、作りたいものを、作ってみよう、がむしゃらにと。そこからスタートしましょうという話をしたんです。
おおくぼ:僕は後からアーバンギャルドに加入したので、アーバンギャルドに対する批評みたいな作品を作っていたんです。
浜崎:その中でも「もっとこうすればいいのに」という部分に手を加えていただいたというか、「この曲すごくいいんだけど、音楽的にここがもったいない」みたいなことをおっしゃってくれていたんですよ。それをより、音楽的にしていただいたところはあると思うんです。だからおおくぼ様様なアルバムですね。
――なるほど。
浜崎:諸先輩方のインタビューを読んだり、お話をうかがっていると、若い頃すごくこだわっていた部分が、年齢を重ねるごとにこだわりがなくなったという話をされていて。確かに自分も昔だったら頑なにこだわってた部分をスルーできるようになった。それによってテンションの高い、初期衝動のような作品を作ることができたと思います。
毎回「初期衝動みたい」とは言われるんですけど、それを上回る初期衝動みたいなアルバムになっちゃって。良い意味で力が抜けたというか、力むとなんでも良くないっていうじゃないですか。掃除とかも(笑)。歌もそうなんです。喉が締まってしまっては声が出ない。力をふっと抜くとすごく遠いところまで行ける。良い意味で力が抜けた分、力が倍増しているアルバムになってる。
松永:さっき初期衝動という話が出ましたけど、本当に今回アルバム全体が「若い」です。それは「青い」という部分だとか、若干荒削りな部分もあるのかもしれない。今の自分たちにこういうものが出てくるんだという驚きもありますね。若さに満ちているし、少女的な繊細さを伴っているかもしれない。
アーバンギャルドが作ってきた、描いてきた少女というものが、フィクションであって物語であって、あなたの中にはいないんだよ、ということを今回はじめて歌詞にもしたし、表現できた。さっきも言ったようにくだらない嘘くさい、虚構ばかりの世界で、その中でどうやってリアリティを持って、地に足をつけて行きていけるかということを問いかけたつもりです。
瀬々:アーバンギャルドが10周年、バンドとしてはそろそろベテランの域だと思うんですけど、今回出したアルバムは、衝動的で若い。若々しさがめちゃめちゃあるなと。その皆モチベーションを保ちつつ、こんなテンション高いものが出せるのは本当に10年目のバンドとは思えないくらいなんだけれども、ファーストと比べると音楽的なレベルは上がっている。荒削りな部分もあるという面白い作品ができたなと思っています。
根本的には1stともコンセプト、土台の部分はあんまりブレてないんですけど、10年経って新しいアーバンギャルド、懐かしいアーバンギャルド、いい意味で原点回帰できましたね。
――洗練されてると感じました。
瀬々:アーバンギャルドって、結局こういうことをやりたかったんじゃないかな。若くて荒くて、でも洗練されている。
浜崎:うちの母にも音源を聴かせたら、たしかに「垢抜けた」と言われました。前作の『昭和90年』は、わりと小器用にやっていましたし、内容的には暗かったですし。
――震災の影響が濃かった『ガイガーカウンターカルチャー』、そして『鬱しい国』から『昭和九十年』は、戦争を暗示させるような内容でしたし。
松永:円熟してたよね。ビターなものを作ったというか。そこで一段落したなと。
おおくぼ:今回はそこから、小器用じゃなくて、不器用でもいいからという気持ちが制作中に出てきましたね。僕が入ってちょうど3年くらいになるんですけど、前回は「あれもやりたいこれもやりたい」だったけど、今回は「アーバンギャルドこういうのやろうぜ!」みたいな。
なんたって「KEKKON」ですからね
なんたって「KEKKON」ですからね――そして4月8日には中野サンプラザにて10周年記念公演"アーバンギャルドのディストピア 2018 「KEKKON SHIKI」"も行われます。
おおくぼ:お釈迦様の誕生日ですね。
――そうなんですか?
浜崎:うちの母もそれ一番最初にそれ言いましたね「あら、お釈迦様の誕生日じゃない」って。
松永:メンヘラの輪廻を断ち切る……。
浜崎:もう容子菩薩になるときですよ。そろそろ開きはじめてますね、チャクラが、
――この10年の修業により……。
浜崎:菩薩化していたのは間違いないです。
松永:なんたって「KEKKON」ですからね。ファンの子たちの病と10年付き合ってきたから、ここで一段落、決意を固めてもいいのかなと、こういうタイトルにしました。
浜崎:人生の墓場ですよ!
松永:とあるファンの子から貰った手紙で、「私は10代の頃にアーバンを知って7、8年。松永さんのせいで彼氏もできないし、恋愛もできません、つまり結婚もできません。責任取って一生音楽を作り続けてください」という手紙をいただいたときに、「わかりました結婚しましょう」って思ったんです。
浜崎:無責任男ですね。
おおくぼ:結婚しても離婚できるからね。
――それではアーバンギャルド流の「KEKKON SHIKI」を。
浜崎:合同結婚式ですね。
松永:こんなに長くやってるとは思わなかったですし。
浜崎:私もそれは思ってました。早くブレイクして早く解散したかったけど、一向にブレイクしないから続けるしか無い。
おおくぼ:ブレイクしないからブレイクしない……。
松永:はっはっは。
瀬々:なるほどね?
浜崎:ライブも試行錯誤してる段階ではあるんですけど……。完成に近づいている感覚はあります。
松永:未だにアーバンギャルドっていうのはひとつの作品で完成したとは思ってなくて。サグラダファミリアみたいなものなんですよ。
瀬々:あー、ずっと作り続けてる。
松永:だから何年も何十年もかけて作り続けているんだろうな。永久に。
浜崎:もう従業員増やして早く完成させたいですね。
松永:だからその未完成さが、アーバンギャルドが少女たる所以なのかもしれないですよね。それに、アーバンギャルドが少女が生まれて10歳になってしまったんですよ。もう他人なんですよ、僕の中では。アーバンギャルドにも自我がある。
瀬々:そうなんだ。
松永:もちろん、身近な存在ではあるんですけど、もう僕だけのものじゃないし、僕自身じゃない。ファンのものでもあるし、これから初めて聴く人のものでもあるっていうところで、中野サンプラザはそういう10年育ってきたアーバンギャルドを、僕自身改めて新鮮な気持ちで見られるようなものにしたいな。
これまでの総括、これまでの世界観というものを、もっとも視覚的にも音楽的にも表現したものになると思うんですけど、どちらかと言うと、これから作っていくものの布石、新しい始まりになるように。
瀬々:10年目ということもあるので、ひとつの節目として向かいたい気持ちが大きいです。今回会場も大きいので、今までアーバンギャルドでできなかったような、舞台の設備も使えたりできると思うし。アーバンギャルドのライブは楽しいんだよ、すごいんだよということを伝えられるような。ああ10年やってるバンドってすごいんだなって思われるような、楽しいライブをしたい。この10年間を感じてほしい。
おおくぼ:アーバンギャルドを沢山のお客さんに見せたい。もっとやりたい。今までのアーバンギャルドの中では最大キャパですし、上手く行けば、今後もっとたくさんの人に見て貰える場所でやれたらな、ということも思ったりして。皆見に来てね!
浜崎:サンプラザでのワンマンが決まった時からずっと、4月8日が終わるまで生きた心地がしなくて。もう早く来てほしいというそわそわした気持ちと、落ち着かない不安で仕方がない気持ちがずっと続いているので、「早く終わりたい」という気持ちが、まずあるんですよ。それと同時に、「終わってほしくないな」ってライブが始まると思うんだろうなと。
けいさまも言ってたけど、今までの最大キャパでやらせてもらえるということは、すごく嬉しいことなんですけど、自分自身が10年一区切りということに対して燃え尽きてしまわないかが心配。アルバムもそうだし、ライブもそうだし、お客さんも一段落してしまわないかという不安もあるので、これから先を予感させるようなライブにしたいという想いも自分の中で強いので、その先を感じさせるような、けいさまの言うように「こういうアーバンギャルドをもっと見たい」という風に思ってもらいたくて、今準備しています。
松永:まあサグラダファミリアは全然完成してないですからね。
瀬々:うん、まだまだこれから作っていかなきゃ。
おおくぼ:達してないもんね。
浜崎:でも、やっぱり一区切りついてしまうんじゃないかという不安は正直あります。なぜなら……メンヘラなんで……!
松永・瀬々・おおくぼ:そっか〜〜!
スケジュールリリース情報
『少女フィクション』
■初回豪華盤:(本体¥3,800+税 8%)【DVD 付き】 CD 番号:FBAC-050
発売:前衛都市 販売:FABTONE CD
・CD収録楽曲 全11曲
01,あたしフィクション/02,あくまで悪魔(先行シングルCD『あくまで悪魔』収録曲)/03,ふぁむふぁたファンタジー(非流通『昭和九十一年』収録曲)/04,トーキョー・キッド/05,ビデオのように/06,大人病/07,インターネット葬/08,鉄屑鉄男/09,キスについて/10,少女にしやがれ/11,大破壊交響楽(非流通『昭和九十一年』収録曲)
・DVD 収録楽曲全4曲
01,あたしフィクション/02,あくまで悪魔/03,ふぁむふぁたファンタジー/04,大破壊交響楽
ブックレット:24P
■通常盤:(本体¥2,800+税 8%) CD 番号:FBAC-051
発売:前衛都市 販売:FABTONE
・CD収録楽曲 全11曲
01,あたしフィクション/02,あくまで悪魔(先行シングルCD『あくまで悪魔』収録曲)/03,ふぁむふぁたファンタジー(非流通『昭和九十一年』収録曲)/04,トーキョー・キッド/05,ビデオのように/06,大人病/07,インターネット葬/08,鉄屑鉄男/09,キスについて/10,少女にしやがれ/11,大破壊交響楽(非流通『昭和九十一年』収録曲)
ブックレット:12P
【ショップ購入特典情報】
■TOWER RECORDS特典:CD「アコースティック・少女フィクション」
 ※ニューアルバム収録曲のアコースティック・バージョンを複数収録したスペシャルCD
■HMV特典:インストゥルメンタル・バージョンCD
 ※ニューアルバム収録曲のインスト・バージョンを複数収録
■VILLAGE VANGUARD特典:掌編小説「少女フィクション」
 ※松永天馬が執筆する、手のひらサイズの小説
■disc union特典:オリジナル・クリアファイル
 ※ニュー・アルバム・オリジナル・ヴィジュアルによるクリアファイル
【インストアイベント】
● 4/4(水)19:30~『アーバンギャルドの公開処刑13』トークライブ&生写真サイン会 タワーレコード梅田NU茶屋町店
● 4/5(木)19:30~『アーバンギャルドの公開処刑13』トークライブ&生写真サイン会 HMV 栄店
● 4/6(金)21:00~『アーバンギャルドの公開処刑13』トークライブ&生写真サイン会 タワーレコード新宿店
ライブ情報
■10周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2018 KEKKONSHIKI
チケットぴあほかで一般発売中!
2018年4月8日(日)中野サンプラザホール
一般チケット/A席指定 5,000円(税込) B席指定 4,000円(税込) ※3歳以上チケット必要

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