3月4日@昭和女子大学人見記念講堂

3月4日@昭和女子大学人見記念講堂

Uru、アルバム『モノクローム』を
掲げたワンマン公演は
幻想的なオープニングでスタート

自らの想いを、願いを、メッセージを音に乗せて聴き手へと突き刺す――。そんな自己主張こそが、アーティストのあるべきかたちと長年信じてきた。だが、アーティストの在り様とは、もっと多彩なものなのだと教えてくれたステージがある。YouTubeでのカバー曲配信から人気に火が付き、2016年にメジャーデビュー。以降、数々のドラマや映画、CM等のタイアップ曲を通じて、その透明感あふれる歌声を届けてきたUruが、1stアルバム『モノクローム』を掲げて行なったワンマンライヴ『monochrome〜吹き沁む頬に熱いザフサス〜』がそれだ。
自らの想いを、願いを、メッセージを音に乗せて聴き手へと突き刺す――。そんな自己主張こそが、アーティストのあるべきかたちと長年信じてきた。だが、アーティストの在り様とは、もっと多彩なものなのだと教えてくれたステージがある。YouTubeでのカバー曲配信から人気に火が付き、2016年にメジャーデビュー。以降、数々のドラマや映画、CM等のタイアップ曲を通じて、その透明感あふれる歌声を届けてきたUruが、1stアルバム『モノクローム』を掲げて行なったワンマンライヴ『monochrome〜吹き沁む頬に熱いザフサス〜』がそれだ。

東京では1年半ぶりの公演となる3月4日、昭和女子大学人見記念講堂。幾重にも張られたドレープ状の紗幕の向こう、水音が鳴るSEから『モノクローム』の冒頭を飾る「追憶のふたり」でライヴは幕開けた。幻想的なオープニングは、これまで素顔を明かしてこなかった彼女の神秘性を一層引き立て、物哀しい歌声も相まって生々しいロストラブソングを、どこかおとぎの国の物語のように聴かせてくれる。リアリティとファンタジーとロマンティシズム――その全てを共存させられる歌声の絶対的な唯一無二性こそが、Uruの最大の武器。続く「The last rain」でもピアノ演奏をバックに、紗幕越しに“最後の願い”をリリカルに歌い上げ、ここが海の底のようにも宙の只中のようにも天国のようにも感じさせてくれる。

“今日のライヴのサブタイトル『〜吹き沁む頬に熱いザフサス〜』は、アルバム14曲の頭文字をランダムに組み合わせたもので、とくに意味はないです。ラストの『ザフサス』は余ったやつで、発表した時みなさん検索して調べてくださったみたいで…すみませんでした。オープニング曲は自分で作ったんですけど、心臓の音を入れたら自分に帰ってきて、始まる前に緊張する音楽になってしまいました”。緊張を露わに語り出したMCもまた儚げで、どこか消えてしまいそうな錯覚を覚えさせたが、最後のひと言だけは力強く、こう言い切った。“音楽に触れると心の奥に仕舞っていたものが浮かび上がって、素直に過ごせます。みなさんの中のイメージをこのステージに映しながら、ゆっくりと最後まで過ごしていってください”。自分の主張を訴えるのではなく、歌とライヴ空間を“映し鏡”として提供する稀有なスタイルを、その後彼女は見事に表現し切った。

レミオロメンにスピッツ等、オーディエンスにも聴き馴染みのあるカバー曲も豊富に交え、多彩な物語を贈ることで聴き手の記憶を刺激し、心の内を引き出してゆく。来場者を思い出の沼に沈めるかのように照明を極限まで暗く落とした客席からは、ステージ上の紗幕がその心模様を映し出すスクリーンのようにも観え、実際、曲ごとにさまざまな色や模様が浮かび上がり、視覚からもやさしく刺激を与えてくれた。しかし、そこで何よりも大きな力を発揮したのは、やはりその声。哀しみと儚さと切なさを、まるで遺伝子レベルで織り込んだかのような歌声は、どうしようもなく人の心をざわつかせ、忘れていたはずの心の引き出しを開けてくれる。また、人見記念講堂という日本屈指の音響を誇る会場が、その声をよりクリアーに届け、効果を倍増させていたのも特筆すべきことだろう。

さらに、中盤では詩の朗読も。夢に挫けた青年の嘆きと復活を綴り、最後に“強さを願うとは弱さを許すこと”という決定的なメッセージを刻んで、詩のイメージ元となったという「鈍色の日」へとつなぐ流れは、まるでひとつの短編映画を観るかのように劇的なものだった。ちなみに、詩を書いたのは“お風呂上がりの小さなオレンジ色の光の中で”とのこと。そして突然“お煎餅にはまっていて。袋の違いって何だか知ってます? いや、私は知らないんですけど…”と場内を笑わせたりと、淡く繊細な世界観の源泉が敏感で不思議な感性にあることは、どうやら間違いなさそうだ。

松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」でクラップを呼び、少しだけ上向きの空気を呼んだ後半戦では、「fly」で客席にマイクを向ける一幕も。紗幕に投影された数々の色は“みなさんから送っていただいたUruの色を使わせていただきました”とのことで、“みなさんと一緒に歌えた気がして、すごく嬉しかったです”の言葉に、彼女の音楽は心を映す聴き手あってこそなのだと実感する。

“私の歌は、ほら、大丈夫だよって引っ張っていく曲じゃないかもしれないけど、そんな私だからこそ歌える曲があると思っていて。大好きな曲を私なりに歌いたいと思います”。静かに語り、包容力の中に厳しさを滲ませて披露した小田和正の「たしかなこと」からは、Uruというアーティスト自身の想いや経験を伝える場面へ。“幼い時、父が先立った時の母の日記を曲にしました。タイトルがカタカナなのは《サビシイ》とか《ナンデ》とか《ドコニイルノ?》とか、そういう気持ちを表す言葉が全部カタカナで書かれていたから。いつも側にいる大切な人が、ずっと側にいられる保証はどこにもなくて。だから、その存在が儚く、尊いものなんだと思います”と前置いての「アリアケノツキ」では、愛する人への想いを絶唱して、ここまでの曲とは種類の異なる想いの強さを感じさせた。歌い終え、力尽きたように項垂れると万雷の拍手が湧き、そんな母に対するアンサーソングともいえる「娘より」へと続くと、紗幕には次々に家族写真が映る。これらもファンから募集したもので、“温かい気持ちのまま歌うことができて幸せです”という言葉に、顔は見えずとも微笑みが瞼に浮かぶようだった。ドラマ『フランケンシュタイン』挿入歌の「しあわせの詩」に、ドラマ『コウノドリ』の主題歌「奇蹟」と、テレビドラマで使われた楽曲によるクライマックスでも、全てを許すような温かさに包み込まれる。そう、彼女の歌は“引っ張っていく曲”ではない。だからこそやさしく、強く、抱き締めてくれるのだ。

“こんなに大きなステージに立つことができて…ありふれた言葉だけど、これしかないです。いつも本当にありがとうございます。私が幸せだと思うのと同じくらい、みなさんが私の歌を聴いて幸せと思えたり、穏やかな時間を作っていけるアーティストでなければいけない。これからも頑張ります”。アンコールでそう言って頭を下げ、“ずっとデビュー前から大切にしてきた曲です”と贈られたラストソング「星の中の君」では、ついに紗幕が上がって、その素顔が露わになる。そして客席から湧く合唱が、ここまでの物語が幻ではなく、現実に生きたものであることを証明してくれた。自らのオーラで魅了するカリスマというよりは、触れた者の心に問いかけ、真実を降ろす巫女。そんな神から与えられた力を使い、これからどんな歌を彼女が紡いでくれるのか、興味は尽きない。
取材:清水素子
【セットリスト】
1.追憶のふたり
2.The last rain
3.ホントは、ね
4.3月9日(レミオロメン)
5.ロビンソン(スピッツ)
6.Sunny day hometown
7. THE OVER(UVERworld)
8.ハッピーエンド(back number)
9.鈍色の日
10.いい男
11.やさしさに包まれたなら(松任谷由実)
12.fly
13.たしかなこと(小田和正)
14.アリアケノツキ
15.娘より
16.しあわせの詩
17.奇蹟
<ENCORE>
1.フリージア
2.すなお
3.星の中の君
◆関連記事「Uruが珠玉の1stアルバム『モノクローム』を携え、1年半ぶりとなる東京公演開催!謎めいた彼女の素顔に迫るロングインタビュー」
http://www.diskgarage.com/digaonline/interview/69711
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