今年でデビュー25周年 “良い音楽を
作りたいーー” 新作『夜、カルメン
の詩集』で清春が見せた新たな音楽体
験とは

2月28日、清春がソロとして通算9枚目となるアルバム『夜、カルメンの詩集』をリリースした。今作は近年の活動でも匂わせていたスパニッシュ要素を取り入れ、伸びのあるフラメンコギターの音色に清春の艶のある歌声が印象的な作品に仕上がっている。楽曲制作には国内のフラメンコギターの第一人者・沖仁のサポートを長年務めるギタリストの智詠、スガシカオ稲葉浩志のライブサポートを勤めるギタリストのDuranのほか、沖山優司やKatsuma(coldrain)が参加。錚々たる顔ぶれがそろうなかで表現された音楽は、シンプルな音で構成されているものの、“清春”というアーティスト像をより印象濃いものに見せてくれる。新たな世界観を提示しながらも、常に「良い曲を作りたい」と語る彼。近年のライブ活動で匂わせる、最後へ向かうなかで表現する音楽とは? 今年でデビュー25周年、そして50歳という節目の年を迎える彼が思い描く、「理想の音楽」について話を聞いた。
――今回のアルバムは約2年前のツアーのタイトルでもありますが、その名前の通り“スパニッシュ”の要素を含んだ楽曲が多く収録されています。スパニッシュ要素に影響を受けたキッカケはあるんでしょうか?
キッカケというよりも直感かな。Youtubeとかでなんとなくそういったワードを検索してて。スパニッシュやフラメンコダンスとか、最初はラフな映像が出てきて。それこそさ、「カリっとサクっととんがりスコーン」なんて昔のCM映像なんかも出てくるんだよね(笑)。でも、探れば探るほど崇高な映像が出てくる。最終的にエスタス・トーネ(ESTAS TONNE)というロシアのギタリストの動画に辿りついて。その人のギターがとにかくかっこいい。スパニッシュ的なものも弾くけど、何でもできる人でさ。その人がダンサーと一緒にコラボして、夜の公園で演奏しているシーンを見て「あ、これはオレの歌と合う」と思って。この人と一緒に演りたいと思ったほどで。でも、本国ではすごく知名度のある人で、そんな人と一緒に制作するのは難しいだろうなと思って、日本でフラメンコギターやスパニッシュギターで活動している人を探そうと思っていたところで、沖仁さんのサポートを長年務めている智詠さんにお願いすることになって。
清春 撮影=森好弘
――自分の音楽に合うという直感から楽曲制作に入り、今回の作品の軸になったと。
フラメンコ風のギターが鳴っている、ただそれだけをイメージして作ったのが「赤の永遠」が最初。あとは「アモーレ」とか。カルメンっていう言葉が使いたかっただけなんだけど、そういう雰囲気を作品の中にも出してみたりして。
――作品を聴くと確かにスパニッシュ要素を感じるんですが、より清春という世界観が濃厚に出た作品だなと感じました。肉感的なイメージで、前作『SOLOIST』よりも艶感を感じて。
エレキギターは入っているんだけど、ここ最近の楽曲制作ではギターとの離脱を常に考えていて。黒夢やsads、自分がやっているバンドではギターはロックを象徴するものだし、リフがどうしても必要になる。でも、ソロではリフのある音楽からの離脱を考えていて。
――その分、より曲の世界観や歌声が前面に出てくる印象がありますね。
リフをなくすということは基本的には楽曲がスカスカになってしまうんですよね。そこにエレキギターのフレーズだけ入れてみたり。でも今回はフラメンコギターがすごく良かった。歌も聴こえやすくなったしね。次はベースとの離脱を目指しています。
清春 撮影=森好弘
――今回の作品は“スパニッシュ”というワードが肝になりますが、作品の後半はこれまでの清春さんの世界観をより濃厚に感じる作りになっていますよね。
作品の前半は今回のタイトルや作品の資料通り。でも、後半は前作のアルバム『SOLOIST』とやっていることは変わらないと思っていて。ざっくり言うと、良い曲はいいんですよ。自分がまだ良い曲を作れるんだっていう確認ができたらいい。自分に刺さる曲が好きなんです。○○風とか、90年代のフレンチポップな感じ~とかではない。自分が思っている良いもの、そこには何も飾る言葉がついていない。
――あくまで「清春が作った音楽」であることが重要だと。
そう。僕のメロディー、作曲能力がどこまで続くのか。そこが大事で。
――ボーカリストとしての魅力はもちろん、ソロアーティストとして、作曲家としてのバリエーションの豊かさを見ることができる作品でもありますよね。
作曲家や作詞家、それがロックミュージシャンという認識と同じように強いんだと思いますね。
――世間一般的には、清春さんは“ロックスター”というイメージがありますもんね。
イメージとして、「清春ってこうだよね」と何か記号をつけたほうがいいんでしょうね。でも本人はどうも思っていない。ただ良い曲を作りたいと思っているだけ。シンガーソングライターとしての意識が高い。音楽家として“良い曲を作る”、これが僕の中では最大のテーマですね。自分が思う良い曲を作る、ただそれだけ。アーティストにとって「この曲、良いですね」って言われるのが一番嬉しいよね。
清春 撮影=森好弘
――今回、作品作りの最中で事件が起きたとSNSで呟かれていましたよね。その真相が気になっていて。
実は今回のアルバムにはあと2曲入る予定だったんですよね。もっとスパニッシュ要素が強い「ジプシー」というタイトルの曲があって。でもその言葉は差別用語だったらしくて。でも、レコーディングもリミックスもすべて終わった状態でスタッフから差別用語だからダメですって言われて。その曲が収録されれば、もっとアルバムのカラーがはっきりするなと思っていたんだけどね。曲名はずいぶん前から存在していたから、後になってダメですって言われてもね……。その言葉がNGなら歌詞やタイトルを変えて対応できるんだけど、録り終わったあとだからどうしようもなくて、最終的に10曲なってしまって。
――「ジプシー」というワードは民族音楽としても影響のあるもので、差別用語とは知りませんでした(※現在はロマという言葉で表現されています)。その楽曲は何かしらの形で聴くことができるんでしょうか?
ライブでは演奏する予定。今後はどういう形かわからないけど、ファンのみんなに聴いてもらえたらなと思っています。今回のアルバムは良い作品ですよって取材で話をするんだけど、もっとその先の世界があったことを知ってほしいな。
――今年でデビュー25周年、そして50歳という年齢を迎えます。最近ではライブ中のMCで「最後」「終焉」を匂わせる言葉を多く発しているのも気になっていて。今後の活動が気になります。
とにかくベストを尽くしたい。あと何枚アルバムが作れるのかはわからないけど、自分が気に入った音楽を一番良い形でパッケージして、自分が引退したあともずっと聴いていたいよねって思える音楽を作りたい。それはイコール、ファンのみんなも僕が引退したあとも聴ける音楽になっているはず。引退するかしないか、まだいつになるかはわからないけど、50歳ってそういう時期なんだと思う。演歌歌手の人は50歳でも歌っていけると思う。でもこのジャンルで、大きく括ると美学系の音楽を歌うのは「50歳でも若く見えますね」って言われたりしても、自分のことは自分が一番わかっているからさ。自分から見える景色は変わっていなくても、周りから見る景色は変わっている。ただ自分が自分でいて、自分らしく生きるだけ。どういう音楽を作るかなんて問題じゃない。カッコ良いのかカッコ悪いのか、もしかすると作っている音楽がムダなものかもしれない。でも自分らしい、気に入った音楽ができればいい。それが最高なのかなって思う。残り時間が少ない中でどういうベストなプレイができるのか。感覚としてはスポーツ選手に近いと思う。最後にどれだけ走れるのか、気持ち良く走れるのか。気持ち良く走って良いタイムが出ればうれしいし。でも気持ち良く走れたからいいなって思う。とにかく、“らしく”いたい。これが10年経ってもまだ音楽をやれていたら、また違うことを言ってるかもしれないけどね(笑)。
――でも、今この瞬間の清春さんはそういう感情を持っていると。
自分らしくあれ、ってファンのみんなに気持ちを送っていて。それを見ているファンのみんなが幸せだな、この歌は気持ち良いな、素敵だなって。ライブが良かったな、また来たいなって思ってもらえたら、僕のその日の役割は終わる。それがミュージシャンじゃないかな。その思いが詰まったのが今回の作品というだけ。たまたま9枚目。もっとこの先の作品で達観するかもしれないしね。
清春 撮影=森好弘
――今回のツアーを経て、また新たな思いが生まれることもありえますもんね。
自分の人生を考えたときに、最後が幸せだったのかどうかが大事なんだと思う。僕らみたいな職業は大きいステージで演奏ができたとか、「上がった階段、それは永遠ではない」っていう歌詞もあるけど、上がろうとしているときはサバイブなだけであって、表現ではないんだよね。僕はまだやっと、そういう思いに気付いたところ。まだ愚かだけど、これから先は愚かじゃない表現をしていけたらいいなと思っています。
――その表現、これからも見届けていきたいです。
うん、もうちょっと頑張りますよ。
取材・文=黒田奈保子 撮影=森好弘

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