開幕迫る! 東京二期会によるベルカ
ントの最高傑作 ベッリーニ《ノルマ
》 ~プレ・イベント 城 宏憲ミニ・
ライブ レポート~

東京二期会が、コンチェルタンテ・シリーズと銘打った新たな試みを始める。同シリーズは、二期会のレパートリーになかった作品を、映像と共にセミ・ステージ形式で届けるもの。記念すべき第一弾は、ベルカント・オペラの最高傑作との呼び声も高い、ベッリーニの《ノルマ》。3月17日、18日の二日間にわたってBunkamuraオーチャードホールで上演される。本公演に先立つプレ・イベントとして、ポリオーネ役を務める城 宏憲(じょう ひろのり)によるミニ・ライブ&オペラ・トークが、先日、西新宿の芸能花伝舎で開催された。
城は、2016年の《イル・トロヴァトーレ》で、急きょ、代役としてマンリーコ役を演じて注目を集めた。昨年の《トスカ》でもカヴァラドッシ役を務めるなど、東京二期会の顔となりつつある。熱い期待が寄せられている、今、最も聴きたい若手テノールの一人。今回のプレ・イベントでは、輝かしい美声を聴かせるだけでなく、同公演の演出を務める菊池 裕美子とのトーク・ショーも行った。
イタリア・オペラ、そして《ノルマ》の魅力に迫る充実の60分
ヴェルディ中期の傑作《リゴレット》からアリア「女心の歌」で、華やかに幕が開けた。マントヴァ公爵が、気まぐれな女心を陽気に歌うカンツォーネだ。3拍子の軽やかな伴奏に乗せて、城の美声が会場に響き渡ると、《リゴレット》の世界へと引き込まれた。陰惨で悲劇的なオペラのストーリーに絶妙な対比をもたらす色男マントヴァ公爵の明るさ。開放感溢れる瑞々しい歌声が、この明るさを上手く捉えていた。
続いては、プッチーニ《蝶々夫人》よりピンカートンのアリア「さらば愛の家」。蝶々さんを裏切った夫ピンカートンが、彼女の一途な想いにいたたまれず、かつては二人で住んだ長崎の家に別れを告げるシーンの一曲だ。静謐で美しい前奏に、「さらば愛の家 花に満ちた隠れ家」という歌詞が重なる。冒頭から胸を打つ切なさが感じられた。複雑な感情の揺れが表現されたこのアリアを、城は表情豊かな歌唱で歌い、オペラのシーンが目に浮かぶようであった。
躍動感と情熱溢れる歌唱に、会場は一気にイタリア・オペラの世界に。城と、ピアノ伴奏の黒木 直子に温かな拍手が贈られた。
マリア・カラスに最も難しいオペラと言わしめた作品
演奏後、城と演出家 菊池 裕美子によるトーク・ショーが行われた。城がオペラ歌手を目指したきっかけ、イタリアでの留学生活、そして、先に出演した《イル・トロヴァトーレ》や《トスカ》での現場エピソードといった興味深い話題に、聴衆も聞き入る。二人のトークは軽妙で、会場からが笑いに包まれるシーンも多かった。
憧れの存在を尋ねられ、ファン・ディエゴ・フローレスを挙げた城。「彼の巧みなテクニックによって、ベルカントのオペラ作品が数多く再現されるようになりました。フィギュアスケートの羽生選手が『芸術は、確かな技術に基づいたものである』と言ったそうですが、フローレスがまさにそうなんです。僕も、ベルカントという時代から学べるものは多いのではないかと感じます。今後、色々なオペラ作品を歌っていくなかで、19世紀半ばに書かれた作品も歌える歌手になりたいですね」と語った。
そして、話題は、いよいよ《ノルマ》に。
この作品の舞台は、ローマ帝国の厳しい支配の下におかれたガリア地方。ガリアを治めるローマ総督ポッリオーネは、ガリアの巫女ノルマと禁断の恋中にあったが、次第に若い巫女アダルジーザへと関心が移っていき…、それが悲劇をもたらす。嫉妬と復讐が渦巻く男女の愛憎物語だが、ベルカントの巨匠ベッリーニは崇高にして情熱的な音楽として紡ぎ出すことで珠玉の作品を生み出した。
《ノルマ》は、マリア・カラスに「最も難しいオペラ作品」と言わしめたオペラ作品であると、城はその難しさを語った。ロッシーニの後継者とされ、ヴェルディ登場前夜のイタリアで活躍したベッリーニ。本作品は、ベルカントから劇的歌唱へと移り変わっていく過渡期に作られ、歌手には、均整の取れたフォームと情熱的な表現との絶妙なバランスが求められる。
最大の見どころを訊かれた城は、「何と言っても、第一幕フィナーレの、いわゆる『修羅場の3重唱』」と答えた。三角関係にあった三人が鉢合わせるシーン。激昂し、ポリオーネへの復讐を誓うノルマ、開き直るポリオーネ、呆然自失のアダルジーザの想いが交差するドラマティックな三重唱に、観る側も思わず手に汗を握ってしまう。
一方の菊池は、今回の演出の構想を訊かれて、「音楽はとっても難しい曲なので、まずは音楽を主体に、堪能していただければと思っています。そのなかで、演技が付き、ソリスト、合唱、オケに配慮しながら、映像や照明をつけます」と答えた。また、主人公のノルマについては、「オペラの最初の方から、やっぱりノルマがいい人なんだということが、分かるような演出にしたいですね」と語った。宗教、民族、そして国家の壁に阻まれながらも、ポリオーネを愛し、あるいは憎み、女性、母、そして巫女として苦悩するノルマの姿が、どう描き出されるのかに期待したい。
さらに、城は、第一幕のポリオーネとアダルジーザの二重唱を楽しみにしているシーンとして挙げた。「共にローマへ行こう」と熱心にアダルジーザを口説くポリオーネに対して、情熱的な誘いに抗いきれず、アダルジーザは駆け落ちを承諾してしまう。菊池も「その二重唱は、こだわっています!」とし、ストーリーや台詞に応じて歌手の立ち位置を動かしていく考えがある旨を述べた。
トーク・ショー終了後、鳴りやまない喝采に応えて城は、カンツォオーネ・ナポリターナ《カタリ・カタリ》を熱唱。名残惜しさの残る会場に、抒情的な歌声が響くと、ナポリの情熱的な風が吹きこんだ。
《ノルマ》はまさに今、リハーサルのただ中である。難曲中の難曲といわれる「カスタ・ディーヴァ」を歌うタイトルロールを大村博美(7日)と大隅智佳子(8日)が、ポリオーネ役を城(7日)と樋口達哉(8日)が務める。圧倒的な存在感をもつ歌手陣による「声」の響宴が待ち遠しい。オペラの本場でも上演回数の少ない《ノルマ》。この傑作を聴くまたとない貴重な機会を、お聴き逃しなく!
取材・文・撮影=大野はな恵

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