『Songful days』が見せてくれた夢の
軌跡 SPICE初の大型イベントを終え
て思うこと 

May'n、茅原実里、Kalafinaという三組の実力派アニソンアーティストが、「アコースティック」という表現でひとつの「世界」を作り出す……そんな他に類を見ないコンセプトのコンサート『Songful days -次元ヲ紡グ歌ノ記憶-』が、3月3日(土)・両国国技館で開催された。一夜限りの音楽会を終え、改めて主催側としてSPICEアニメ/ゲーム編集長加東がイベントを振り返る。
「ゆっくりとアニソンライブを見たいよね」そんな話から始まったイベントが『Songful days』だ。
元々アニメやゲームが好きで、勿論アニソンも好きで、それが講じてアニソンのDJなんかもやらせてもらっていて、そういう縁が繋がって繋がって気がつけばここでアニメ情報の編集を担当させて頂いている。人間どこでどう生き方が変わるかは解らないものだ。
SPICEとしてもただ記事を出稿するだけではなく、イベントを開催するなどで自分たちの方向性、認知をあげようという話が出ていたタイミングだったので、アニメジャンルとしてはこういうのがやりたい。という僕らの企画が通り、一気に話をすすめることになった。
出演者は3組・多くても4組まで、場所は意外性があって広さを感じる所など、ふんわりした枠組みを一気に固めていく作業はかなりしんどくもあり、興奮もあった。演者はKalafina・茅原実里・May’ nで決定。ここに至るまでにたくさんのアーティストさんが候補に上がり、そのたびに悩んだ。マッチングと話題性、そして何よりその人の「歌」を聴いて選んだ三組。終演した今思い出しても間違いのないブッキングだったと思っている。
撮影:高田梓
通常のフェス系イベントとの差別化を図ったわけではないが、とにかく歌の世界に没頭してもらえる物を作ろうということになり、ならば「迷い込んだ森の奥で見つけた音楽会界」というコンセプトを最大限使ってみようと言う話になった。アクト前に声優・園崎未恵氏にお願いしたナレーションを入れ込むこと無事が決定し、各アクトの転換時間もどう繋ぐか話し合った結果「開き直って休憩ということにしましょう、だって対バンなんだから」ということに。
休憩後に世界観に戻ってもらうために、ゲストパフォーマンスとして生田流箏曲演奏家・吉永真奈の演奏も入れることとなった。休憩を入れることにした決め手としては、今回は1アクトが45~50分と長いので、僕ならトイレに行きたくなるかもなぁ、という発想からだった。
撮影:高田梓
そう、今回の『Songful days』は、僕とSPICE総合編集長秤谷が「自分だったらここはこうだったら嬉しい」を実現してみたという側面がある、僕が40歳・秤谷も38歳。アニソンというジャンルは決して若い人たちだけのものではなくなってきている。
日本初の連続TVアニメ『鉄腕アトム』が始まったのが1963年、実に55年前。これを楽しんでいた当時の子どもは既に定年を迎えるという時代になったのだ。同じように「アニソンシンガー」というものが業界で確立されてきたという部分では、水木一郎堀江美都子ささきいさおなどの先人も勿論ありつつ、90年台に國府田マリ子林原めぐみ岩男潤子椎名へきるなどの人気声優が歌う曲がオリコンランキング上位に姿を見せるようになったというものもあるだろう。
しかし90年台といっても既に20年以上前なのだ。事実アニメは子どもが夕方に楽しむものという作り方から、深夜帯に大人が楽しむものへと変化を見せている。新規ファンが参入しつつも、明らかにそれを好む層は少しづつ高齢化しつつあるのが現状。ならどの世代でもアニソンを楽しめる土壌は絶対的に必要なのだ。
そして多様性を内包した「アニメに紐付いた音楽」であるアニソンの楽しみ方も、もっと多種多様でいいと思う。現状のイベントに不満があるわけではないが、もっといろいろあってもいい。ならまず自分たちがかゆいと思う部分に手を届かせてみようと思ったのだ。賛否両論はあって当然。挑戦しなければ何も生まれない。無駄に熱い熱量が現場にはあった。
その熱量はありがたいことに演者にも伝播したと思う。3組とも「これはなかなか無いものだ」と気合を入れてくれた。セットリストや編成はそれぞれにおまかせしたのだが、こちらからのオーダーは一つ。「アニソンが半分以上で、自分のファン以外が聞いても嬉しい!凄い!と思ってもらえるセットでお願いしたい」というもの。
May'n 撮影:高田梓
上がってきた三組のセットリストは見事だった。May’ nは「ノーザンクロス」や「You」などのアニソンからの曲を中心に圧倒的な歌声を響かせた後に、アルバム収録曲である「Shine A Light」で暖かい空気間を作ってくれた。彼女が「手拍子しようよ」と言ってくれたから、国技館には観客が奏でる「音」が追加されたと思っている。
茅原実里 撮影:高田梓
茅原実里は「今回用に一曲新アレンジやろうと思うんですけど、この曲が喜んでもらえると思って」と言って「境界の彼方」を選んでくれ、「向かい風に打たれながら」「Paradice Lost」などの激しい曲を弦楽で表現するという新しい表現を見せてくれた。
Kalafina 撮影:高田梓
Kalafinaはコンセプトをとにかく掘り下げ、イベントの雰囲気にそぐいながら自分たちを最大限アピール出来るものを考えてくれた。「久しぶりに「I have a dream」をアコースティックでやろうかと思うんですよ」とKeikoが嬉しそうに言ってきたのはこちらも嬉しくなった。
ラストのコラボレーションもかなり悩んだ。まずは編集部で20曲以上の候補を選定して確認してもらうところから始まったのだが、リハーサルスケジュールや会場の時間問題なども含めてコラボは一曲のみ。「一曲入魂でいきましょうよ」とKeikoが言ってくれたが、まさにそうなのだ。こちらも「イベントの雰囲気に合っていて、三組が歌って喜ばれる曲で、もっと聴きたい!と思ってもらえる曲」というオーダーに合わせてひたすら曲を聞く。そこから選んだ20曲を投げて帰ってきた答えは、3組とも「鳥の詩」だった。
メロディが美しくて、音域も広いし、何より感動的だというものと、それぞれの歌を楽しんでもらった後に、声を重ねた時にどこか三組が戦えるような曲。というのが選定の理由。
本番でのパフォーマンスは本当に素晴らしかった。このイベントをやった意味があると思える瞬間だった。この日だけの特別アレンジ、この日だけの3組での歌唱、この日だけの音楽がたしかに国技館にあった。
撮影:高田梓
何度も言っているが、一曲の音楽で人生が変わることだってあるのだ。僕たちSPICEはそういう瞬間を提供したい。面白い、凄いと思うものをそのまま伝えて、なかなか踏み出しづらい最初の一歩を後押しできる、そういうメディアでありたいと改めて思えた瞬間だった。
万雷の拍手の中で『Songful days』の幕は閉じた。この場を借りてKalafina・茅原実里・May’ nの3組と、関連スタッフ。開催に関わってくれた全ての人。そしてこのイベントに足を運んでくれた方、興味を持ってくれた方たちに心からの御礼を申し上げたい。勿論運営や制作的に不備も合ったと思うし、お叱りの声もたくさん頂いた。出来る限りすべてを受けて次回につなげたいと思っている。
と言うか、次回があるかどうか? それは皆さんがまた、あの音楽の森に迷い込みたいという声を上げてくれるかどうかにかかっているのだ。
撮影:高田梓
SPICEアニメ/ゲームジャンル編集長:加東岳史
May'nパートライブレポートはこちらから
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Kalafinaパートライブレポートはこちらから

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