MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第一回ゲストは大木伸夫(ACIDMAN)
それぞれの憧れる場所

MOROHAの最大の魅力はライブだ。現実を突きつけ、寄り添い肯定してくれる。もはや音楽というジャンルの垣根を超え、聴き手の人生に踏み込んでくる。MOROHAのプロフィールには「道徳や正しさとは程遠い、人間の弱さ醜さを含めた真実に迫る音楽は、あなたにとって、君にとって、お前にとって、最高か、最悪か。」という言葉が並ぶ。この対談では音楽のみならず“人”にテーマをあて、パーソナルな部分に迫った対談にしたいと企画し、タイトルはMOROHAアフロが尊敬し、逢いたい人と対談を通して心を通わせあいながら、もし可能であればいつの日かツーマンをお願いしたいという意味も込めてタイトルは『逢いたい、相対。』となっている。記念すべき第一回のゲストは大木伸夫ACIDMAN)。2人の出会いから、お互いの印象など「自然」、「宇宙」、「東京」そして「音楽」へと繋がっていく。
●MOROHAアフロの連載始まります●
アフロ:俺、この企画で酒詳しくなるってのが裏テーマでもあるんです。だから大木さんのおすすめのお酒を飲むっていう。
大木:俺、日本酒が好きなんだけど、日本酒で言ったら大吟醸は米を研いて、米の芯の部分だけを使ってるの。米の芯の部分って甘いのよ。甘みがあるのが好きなんだったら純米大吟醸。それくらいは知ってる?
アフロ:全然知らないです。
大木:ほんとに!? 酒飲みそうなのにね。
アフロ:いや、俺ほとんど通ってないんです。じゃあそれにします。大吟醸!
大木:無理はしなくていいよ。そんな飲まないのに。
アフロ:で、歌詞に使います! 大吟醸って。
大木:(笑)。磨かれて磨かれて。
●アフロと大木さんの出会い●
大木:群馬県の『GUNMA ROCK FESTIVAL 2014』の時にCD持って挨拶しに来てくれて。
アフロ:そうです。もう3年前ですね。その時に『MOROHA II』を渡して。
大木:その時、坊主なのに「アフロです」と言われたから掴みOKな面白い名前だなと思って。それまでMOROHAのことも全然知らなかったし。で、俺CD貰ったら必ず1回は聴くんですよ。
アフロ:そうなんです。聴いてくれてたのがビックリしました。
大木:一週間後にカーステレオで聴いて、世田谷通りを走ってる時にめちゃくちゃ感動して。「これヤバい」と思って車を止めて泣いちゃった。そこからファンになったんだよね。
アフロ:それを伝えてくれたのが『New Acoustic Camp』っすね。その時に久しぶりに大木さんいらっしゃったので、「一度、群馬でご挨拶させていただいた……」くらいまで言ったら、結構食い気味に「泣いたからね」って言ってくれたのがすごく嬉しかったんですよね。
大木:だから『Bowline』も誘ったんだよ。
アフロ:本当に嬉しくて。言葉の熱量と本当に響いてるのかが比例しているか分からない状況の中で、具体的にオファーを貰えたってのは「あ、本当だったんだ」って。大木さん本当に泣いたんだと思いました。
大木:歌ってる内容が誰にも届くと思いました。目線はなにくそ根性で人間の虚しさとかを歌いつつも強さを感じるから響くんだと思う。今を懸命に生きながらも燻ってる人には痛いほど届くと思う。何かを成し遂げて成功した人でも何かを失ってるわけだし、悲しみを背負ってるわけだからさ。感動しちゃった。
アフロ:そう言ってもらえると本当に嬉しいですね。俺は高校時代からACIDMANを知ってて、それこそ高校時代とか周りで「赤橙」や「造花が笑う」のコピーバンドしてる人たちも居たし、ACIDMANって名前は知らないけど曲は知ってるってやつもたくさんいて。正直、俺はACIDMANという名前は知ってるくらいの存在でした。けど、そこから音楽をやるようになってミュージシャンとして聴くようになった時に、歌詞に惹かれることが多くなりましたね。“太陽”、“宇宙”というワードが出てくるじゃないですか。そういう歌詞の世界観を持った人が、俺みたいな地球上の人間の欲と弱さに溢れた歌詞にシンパシーを持ってくれたのが意外です。それこそ天と地くらい、世界観に差があると思ってたので。
大木:でも、俺、表現方法は違うけど言ってることは全く一緒だと思ってるよ。だから俺は泣いたと思うし。
アフロ:それこそ「愛を両手に」は人の生き死にの歌だったりするじゃないですか。だからそういうところで俺も同じように言葉のチョイスは違うけど歌ってることは一緒だよなとは思ったりしてますね。今回のACIDMANのアルバム『Λ (ラムダ)』は特にそれを感じます。音楽の話をすると真面目になりますね。
大木:そうだね。ちょっと酔ってきてるもんね。ほんのちょっと赤いもん(笑)。
●タイトルをMOROHAアフロの『逢いたい、相対。』にした理由●
アフロ:MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』は、「この人に逢いたいな」ってのと相対する相対。なぜこのタイトルにしたかというと、ずっとインディーズでやってたんですけど、メジャーになるとこういう対談企画をセッティングしてくれるということになったんです。それだったら、こういう機会がないと喋れない人と喋りたいなと思って。で、1番最初は優しい人からいこうって。
大木:なるほどね。いきなりTOSHI-LOWさんいったらボコボコにされて終わるからね(笑)。
アフロ:そうそうそう、優しい人からいこうってので大木さんにお願いしようと思って。
大木:正解だと思います。
アフロ:もちろん自分がACIDMANの音楽が好きで、自分のルーツの人でもあるのでオファーさせていただきました。あと……、やっぱ画が綺麗になるなと思いますね。やっぱり男前ですねー。
大木:あれ?(笑) 何、ちょっとメジャーで胡散臭くなった? どしたの?
アフロ:いや、うちのUKも男前だと思ってんですよ。
大木:そうだね。
アフロ:で、それこそ 『Bowline』の打ち上げの時に、一悟(浦山)さんが横に座ってて、喋ってる時に、「あの、うちはUKが男前で、俺はじゃがいもみたいな顔してて、UKが男前すぎるから女性のファンがUK.の顔見たさにギター側に集まったりして、俺の方は男ばっかりだ」みたいなことをずっと言ってたら、一悟さんに両頬挟まれて「おい、ちょっと大木見ろって。うちの大木の方が絶対男前だぞ」って。
大木:バカだな〜、あいつ(笑)。
アフロ:で、そのあと「次、お前の相方見てみろ。お前の相方顎出てんだろ」って。だからメンバーも認める男前なんですよ。大木さんは。
大木:でも、俺自分のこと男前だなんて全く思ってないからね。
アフロ:え、思ったことないんですか?
大木:言ってくれるだけありがたいよ。でも全く思ってないからね。なぜなら俺の周りにはレベルの違う本当の男前がいるからね、カッコ良い人ってのは全然違うから。ただ、雰囲気には自信がある(笑)。
アフロ:それ1番強いじゃないですか。モテたんじゃないですか? 
大木:高校の時はモテようとしてたもん。
アフロ:俺もしてましたもん。高校時代モテたら全てを手にしたと同じじゃないですか。
大木:全然そんなことはない。全然全然……。
アフロ:高校の時に何考えてたかって、やっぱモテることしか考えてなかったです。
●MOROHA10周年、ACIDMAN20周年●
大木:もうデビューはしたの?
アフロ:これからです。6月に再録ベストアルバム『MOROHA BEST~十年再録~』でメジャーデビューです。
大木:あ、もう10年もやってんだ!?
アフロ:そうなんですよ。ACIDMANは20周年ですよね。
大木:20年やってきた記憶もないけどね。よくインタビューで言ってるけど自分の情報Wikipediaで調べる。
アフロ:それは夢中だったからですか? それとも性格的なものですか?
大木:わかんない。カッコよく言えば夢中で今を生きてる、悪く言えばバカなんだと思う。
アフロ:20年か。どうでしたか10年の時って?
大木:10年目の時は気づいたら10年経ってたね。「あ、10年経ってたんだ……、何かやれば良かったね」って笑って終わって。だから15年の時は企画して、それ以降は大事にしてる。
アフロ:年数はせっかくだから10年って言ってますけど、そこまで節目だからというのは意識してないかもしれないですね。毎年毎年、12年13年とか周年はあるし、もっと細かい記念日もある。いちいち10年とか使って気をひこうとしてることに対して、後ろめたさを感じたりもするんですけどね。
●アフロが大木さんに聞いてみたかったこと●
アフロ:ミュージシャンって特殊な職業だと思いますか?
大木:むちゃくちゃ特殊だと思う。
アフロ:俺が思うのは例えば道を歩いてるとき、ガードマンやってるおっちゃんがベンチに座って缶コーヒー飲んでる姿を見ていても、同じようなことを思うのかもしれないけど、ミュージシャンとしては共感できない職業だなと思って。ミュージシャンってすごく自由じゃないですか。
大木:それも結局、目線を変えたら自由だけど社会的には自由がきかない部分もあると思う。
アフロ:そう感じることありますか?
大木:しょっちゅうあるよ、しょっちゅう。公共機関に行ったりとか、会社を立ち上げた時の自分の信用のなさみたいな……5年前に会社を立ち上げた時、口座を作るのにも信用されるまでが大変だった。「武道館やってるんですよ」って言っても、「いやいや、そういう話ではないんで」って……。でも俺は悔しいなとは思わなかったね。そりゃそうだよなって思ってた。
アフロ:優しいっすね。
大木:優しいかどうかは分からないけど、人が好きなんだよね。宇宙好きなのが影響してるかもしれないけど。
アフロ:大木さんのインタビューっていつも宇宙の話がありますよね?
大木:そうだね。だってさ、この広い宇宙の中で地球なんてちっぽけで、どんな成功してる人でも、貧乏な生活をしてる人も絶対死ぬわけじゃん。幸せは誰かが決めることじゃない。すごくお金持ちな人でも不幸な人はいるし、貧乏でも幸せな人は山ほどいるし。どんなに幸せだろうが何かを成し遂げようが、たかだか生きて100年、でも宇宙は138億年。規模が全然違うじゃん。その一部なだけなんだと思う。宇宙からみた0.000……何秒をただ右往左往して生きてるということ。その刹那が良くてグッときちゃう。
アフロ:宇宙を好きになるキッカケってあったんですか?
大木:それは親父だね。親父に「宇宙は果てがない」って言われて。子供の頃、誰もが一度は宇宙について考えたことがあると思うんだけど、そこから抜け出せなくなるというか。宇宙に果てがないのは当たり前なんだけど、その当たり前を想像できない。人間は生きてるから始まりがあり終わりがあることも分かってる。だけど宇宙は空間的に終わりがない場所に存在してる。でも終わりがあるとすれば、その裏があるはず。そう考えても、我々の脳では宇宙の終わりを想像できないから、この終着点を俺らは誰も想像つかない。そう思うと「自分の存在って何なんだ?」って考えるようになってた。……一発目の対談相手間違ったんじゃない? とんだ変態呼んじゃったね(笑)。
アフロ:いやいや、そんなことないです。知らないこと知りたいです。ちなみに大木さんは大自然の景色と東京のキラキラした夜景どちらが好きですか?
大木:僕は昔から東京の夜景は好きじゃない。切なくなっちゃって。あ、人間の営みを想像すれば好き。このひとつひとつのあかりにいろんな人生があるんだなと思うとグッとくるんだけどね。それ以外の圧倒的な光の強さは苦手。人間のエゴでしかないからさ、すべて循環していかなきゃいけないのに人間だけが循環しないで。
アフロ:俺は東京の夜景が大好きで。
大木:へー!! どこ育ちなの?
アフロ:長野です。
大木:それがあるんじゃない? 俺は中途半端だけど埼玉育ちだから田舎育ちではないのよ。だから長野とかの自然にすごく憧れるもん。お互いないものねだりなのかもしれないね。
アフロ:そっかー。それはあるかもしれないですね。
大木:東京は確かに華やかだし美しくもみえる。
アフロ:俺にとっては長野の山や自然が「お前はどこにも行けないよ」って、すごい可能性を阻む存在だったんですよ。逆ですよね。
大木:俺は自然を知れてないし。でも本当はそっちの方が正しいと思う。自然の圧倒的な強さ、怖さってあるからね。それをアフロは知れたんだと思う。
アフロ:だから東京の夜景を見ると、田舎の山に対して「おい、どうだよ!」って気持ちになる。「お前らに屈してたら、これは出来なかったぞ」って。だから結構、大自然が敵みたいなところがあって。東京の人が来て「空気が美味しいね」と言われると「は? 何言ってんの?」てなる。やっぱり東京の夜景を見ると今も泣きそうになるし、勝ってる気がする。
大木:ないものねだりだね。俺がその立場だったら宇宙とか興味持ってなかったかもしれないから。自然は怖いものだし強い。俺たちは自然の中にただお邪魔させてもらってる命だってことを実感してたんだと思うよ。
アフロ:高校時代は東京出てましたか?
大木:出てたよ。憧れはなかったけどね。
アフロ:大木さんにとっての「宇宙」が、俺にとっての「東京」かもしれないですね。
大木:そうかもしれないね。お互いがお互いの場所に憧れてるんだよ。
アフロ:そうですね。
大木:俺は長野の自然に。
アフロ:じゃあ大木さん長野の歌うたってんだ。
大木:ははは!(笑) そうかもしれないね。
アフロ:だって俺はずっと東京の歌うたってますからね。
構成・文=高野有珠 タイトル撮影=森好弘 撮影=風間大洋
取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5ティグリス中目黒II 3F)

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