SPICEが最注目する女性シンガーソン
グライター湯木慧に満を持して初イン
タビューを敢行。遂に世の中がこの才
能に出会う

SPICEが活動の黎明期より注目し、初めはライターと編集長による音源考察コラムに始まり、スペースシャワーTVとのイベント「エスカミ」のvol.0にも出演してもらい、その才能の開花を見守ってきたと言っても過言ではない、女性シンガーソングライター湯木慧。自身初となるデジタル音源リリース、そして自身最大キャパとなる渋谷duo MUSIC EXCHANGEでのワンマンライブを控えた現在の心境、そしてこの天才的な楽曲たちの源に迫る、必見のインタビュー。
――「チャイム」はどんな時、どういう気持ちで書いた曲なんでしょうか?
私は高校を卒業して専門学校に行って、でも半年でやめてしまって。ただ、友達ともすごく仲良くなった半年間で、でも私だけ卒業の心持ちになりました。高校を卒業する時に就職する子もいて、みんなと離れ離れになって、同級生や友達が新しい場所に飛び立とうとしてるのが、この高校卒業という時期で。そんな同年代の人たちの背中を押せるようなというか、背中を温めてあげられるようなものを作りたいと思って、卒業する時にワンコーラスだけ作ってTwitterに上げました。でもそれ以降、そういう気持ちになれなくて、私が進学して新しい生活が始まってしまったので、そのままワンコーラスで放置していました。その半年後に、私だけ卒業して、新しい場所に身を置く状況になったので、改めて半年前に作った自分の曲のサビを聴いて、今なら続きが作れるかもしれないと思い、半年かけて完成させました。
――学生も社会人も新生活は、期待と不安が入り混じっているとよく言うけど、不安の方が大きい人の方が多いと思います。
色々考えすぎちゃうみたいなところは、多分誰にでもある。本当に好きな夢を追いかけてとかなら、ワクワクがあるんだろうけど、本当に未来のことを考えている人は、不安だと思う。
――「チャイム」という言葉が色々と想像させてくれます。
人生の節目節目で、キーワードになってくるものだなと思っていて。色々なところで流れていて、チャイムという形を成していなくても、例えば赤ちゃんの泣き声とか、そういうのが自分のチャイムになってるなって考えると、アラームとしてたくさん人生の中にあるなって思って。そこに着眼点を置いたら、人生の事がまとまめやすくなるかな、語りやすくなるかなって思いました。
――自身でアレンジも手掛けていて、ピアニカが懐かしさを感じさせてくれます。
自分で弾きましたが、下手くそすぎて(笑)。間奏のリコーダーも一本だけ入っていますが、それも下手くそで申し訳ない感じです。
――曲を作った時も、頭の中でピアニカが流れていた?
流れてましたね。懐かしさみたいなのが出てくるっていうのと、元々楽曲にピアニカとかリコーダーを入れがちなんですけど、世界観、懐かしさみたいな、風景を表すのにとても良い音だなって思っていて。
それは高校卒業の時から言おうと思ってた事
湯木慧
――歌詞がきちんと伝わってきますよね。
手こずりました。高校卒業の瞬間から何週間かは、周りにも色々な場所に進もうとしてる人がたくさんいて、背中を押したいって強く思っていたけど、その時は全部は作れなくて。思ってない時って、全然言葉が出てこない。でもやっと自分が卒業する、旅立つ瞬間に作ったわけではなく、私だけ一人の世界に入れたという感覚だったので、みんなに歌ってあげたいっていうよりも、自分の中で整理しながら作る事が半年後にできて。歌詞も変わったところがたくさんあって、サビも高校の時は<帰りを待ってる人がいるのなら>って歌ってましたが、待っている人なんていないよ、って言われちゃったら困ると思って、<帰りを待っている人が居る だから>に変えたり。細かいところでも<帰り道>って言葉は最初は入っていなかったけど入れたり、結構手こずりました。
――<心配せずに前を向け>という強い言葉は?
これはずっとありました。<心配せずに前を向け>と<強く強く自由になれ>っていうのは絶対に言いたくて、それは高校卒業の時から言おうと思ってた事で。そう思えなくても言われるだけで違うというか、そうなのかもって、これを言ってくれる人がいるのといないのだと、全然違うし、まだいけるかもしれないって思ってもらいたいので。
――この言葉を言われた瞬間に光が差すというか、その光が少しでも見えると、辿ってみようかなって思って、それが希望になる、だから最後にこの言葉を置いているこの曲は、強いなと思いました。
すごく嬉しいです。一見、一聴すると、ただのきれい事の曲になってしまわないかとずっと思っていて、王道らしくならないように、明るくなりすぎないように気を付けました。サビではメジャーコードを使っていてわかりやすいし、サビだけ聴いたら王道JPOPみたいな感じの、壮大さがあるんですけど、それじゃ湯木慧じゃないですし。ただ背中を押すだけの曲にならないように、寄り添えるように、みんながみんなになれるように、それぞれが思い出せるようなところを、思い出せるような明るさで作りたかったので、マイナーコードを入れたり。だから最初は暗い。
――やや不穏な感じがします。
そこは狙ったところなので、上手くいったのかなって。
最初は怖いと思いました
湯木慧
――「嘘のあと」は湯木さんも出演した舞台「その名は人生~人生の最後はきっといつも最悪~」の主題歌になっていて。「チャイム」と作った時期が違うということですよね?でも2曲続けて聴くと、しっくりくるというか、妙に腑に落ちるというか。
アレンジをどっちも自分でやったというのも大きいかもしれないです。ガラッと変わるものではなくて、どこか同じ匂いがするというか、似通ったところがあるというか。この曲は「チャイム」の後に作った曲で、去年11月に舞台があったので、9月、10月くらいに作り始めました。
――お芝居の稽古を見に行ってから作ったんですか?
そうです。初めて稽古っていうものを見たましたが、ショッキングでした。今まで見たコメディのものとは違っていて、本当に物語を紡いでるというか、目の前の人がいつのまにか2人で練習を始めていて、全然違う人になってるんですよ、振り返った時には。さっきまでその2人だったのが、役の2人になってて、オッて思って。怖くもなったし、めちゃめちゃ美しいものだなって。自分では絵を描いたり、MVを作ったり、衣装を作ったり、今まで色々手を出してきたと思っていましたけど、舞台という表現創作媒体みたいなものには全く触れた事がなくて、すごく美しいものだなって思いました。とにかく魅力的で、だからずっとお芝居って残ってるのかもしれないんだけど。迫力といい、人間が乗っ取られる感覚というか、感情が役になってる瞬間みたいなのは、圧巻でした。
――憑依するというか。
最初は怖いと思いました。メモにも怖いって書いてありました。曲を作ろうと思って行ったので、ノートを持ちながらずっと稽古を見させてもらって、色々メモしてたんですけど、一番最初に書いてある言葉が「怖い」でした。人間不信だったのにもっと人間不信になって、今はどっちの役ですかってなって。本物ですか?って毎回聞いてしまうみたいな。
――湯木さんはできそう?
無理ですね。思い込めば役になれると思いますけど、あれを見ると到底私はできないなって思いました。
ショックで生まれました
湯木慧
――さっき出たけど、これまで創作、表現を色々な手段を使ってやってきて、その中で演じる事も表現方法のひとつだと考えた時、選択肢のひとつになりますよね。
そうなんですよ。そこに全然頭がいってなくて、物体を作る事が創作だっていう考えだったんですけど、舞台を作るのも確かに創作だなって思って。舞台を作るってなったら、舞台装飾を作る方が、創作だと思っちゃうんですよ。だから演技が作品だっていうのを目の当たりにしたのがその時が初めてだったので、今までコメディとかパフォーマンスしか見た事がなくて。だから作品として演技を落とし込んでる、創作として落とし込んでる役者さんを初めて目の当たりにして、これも創作表現なんだって思って、新しい道が見えた気がしました。どんな感情なんだろうってちょっとやってみたくなりました。
――「嘘のあと」は、その芝居の稽古を見た反動で書けた曲だと。
ショックで生まれました。まだ稽古が終わってなかったんですけど、「今すぐ帰りたいです」って言って、帰ってすぐ落とし込んだ曲です。依頼を頂いて、稽古を見る前に、台本を見て、文字だけで作った曲もあって、それを持って行きましたけど、稽古を見たら恥ずかしくて出せなくて。見なきゃ作れない、文字を読んだだけじゃ到底叶わない芸術があって、それに感化されて、今すぐ家に帰って作り直したいと思って、1から作り直した曲が「嘘のあと」でした。あれは創作者なら、誰でも奮い起つような場所だったのではないのかなと、本当にすごかったです。
――エネルギーが満ち溢れている曲ですよね。
本当にまんま、その時の恐怖とか、なんて美しいんだっていう感情とか、物語もそうだったんですけど、演じることによって文字だけではない作品がそこにはあって、その迫力と世界観はすごかったです。その時セットとかなくて、スタジオではなくて、普通の民家みたいな視聴覚室的な畳の上に、ベッドとソファが置いてあるだけで。最初そこに入った時、こんな所で練習できるのかなって思ったけど、見ているうちにどんどんそこに部屋が完成していって。思い出すと今でも鳥肌が立つくらいで、本当に凄いものだなって思います。役者さんが4人いるだけで、そこがリビングになったり、外になったりするんです。
――エネルギーをダイレクトにぶつけるという部分では、ライヴもお芝居も同じですよね。
文字を扱うってところも似ていますし、声を発するところもそうだし、動きもそう。だからこそコラボができたのかなって。上演中は、演者のみなさんは笑顔が一切なく、そこに私が入っていって、BGMとして歌を歌って引っ込んで、で、お芝居はずっと続いて盛り上がってきたときに再び入っていって、歌ってっていうのをやらせてもらいました。お芝居と音楽は、本当に一体のものなんだなって。近しいし、融合しやすいものなんだという事を目の当たりにしました。
――湯木さんのライヴはもちろん全員が湯木さんを見に来ているけど、舞台は一人ではなく、車輪の一部という感じですよね。その人がいなくても、物語としては成立してしまうというか。
みんなで作るという事に参加させてもらって、めちゃめちゃ面白かったです。照明さん、音響さん、演奏する私、役者さんと監督がいて、チームで作る創作の力みたいな感じで。もちろん1人でも凄い人はたくさんいるけど、やっぱりみんなが同じ方向を向いて、同じ気持ちでやってるって、めちゃめちゃ強いなって思って。凄くやりたいなと思っている事です。舞台、音楽、ダンス…ダンスも魅力的です。私は全然踊れないけど、体を使って表現する人と、一緒にやりたいです。
表現の広がりをとても感じている
湯木慧
――今までの湯木さんの活動を見てると、いい意味で“表現したがり”というか、何かをやってないとダメな人だし、本当に器用です。
こうやって人と話してるうちに、ダンスいいなとか、チームでやる事っていいなって思ったり、出会って見つかることってたくさんあるんですよ。人間との関わりって、すごくい吸収できるし、何よりも会話って吸収するものが多いと思います。一人で本を読んでる時も知識がたくさん入ってきますけど、全然違う意志を持って人と話すことって、とてもたくさん吸収するもの、見つかるものがあるなって。全くこの業界に関係ない人から得るものも多いです。作品を作ることも大事だし、勉強することも大事だけど、人と関わるという事を一番豊かにしたくて。だから今年も新しいことをどんどんやっていきたいです。1人でやることって、限界というかスケール感がなかなか出しにくいなって思って、やる事が狭まってしまう。今回はプロジェクトとしてチームでやる面白さとか、表現の広がりをとても感じているので、制作期間が長くはなってしまうかもしれないけど、何ヶ月があったら、ちゃんと作って発表するという動きを、今年はやっていきたいなって。今まで個展とか3ヶ月連続ライヴとか、全部ひとりで作ってひとりでやって、フットワークは軽いんですけど、結構キツかったりして。規模というか、完成度がなかなか満足いかなかったりしていたので、そこにチームで照明さんが入ったりとか、新しく会場装飾をコラボみたいな感じでやったら、絶対違っただろうなった思って。でもそうすると1ヶ月に1回とかできなくなっちゃうから、長くなってもいいから大きなものを、色々な人と関わりながら作るという事に挑戦していきたいです。
――3月23のduoでのワンマンライヴは、チームで動けている?
そうなんです。今までワンマンって弾き語りだったんですけど、今回は会場も大きくくなるし、今まで出会ってきたツテを総動員してというか、必死に連絡して、映像さんも音響さんもそうだし、会場装飾もそうだし、バックバンドも色々な人に声をかけてお願いして。映像もこの人にお願いしたいという人がいたので連絡して、チームとして動けている、大人数で動けるという事が、とても大きいです。初めてです、自分の作品を作るために、たくさんの人に声をかけてチームで動くというのは。でも絶対発見が多いから、またやりたいって言い出すと思います(笑)。今度はダンサーを入れたいとか、でもそのためには売れて、もっと大きな場所でやりたいというか、頑張らなきゃいけないなって思っています。
――これから作る曲が楽しみです。背中を押してくれる曲も聴きたいし、一緒にドン底に落ちていくような曲も聴きたいし、不安な時はそれをそのまま出したような曲も聴きたいし、等身大って簡単なんだけど、その時その時の湯木さんを、ダイレクトに感じさせてくれる曲が聴きたいですね。
生み出したい体力はたくさんありますが、今インプット不足で、出すものがなくなっちゃったから(笑)、色々な事を思いたい、感情が欲しいなって思っています。学校にいた時は、色々な性格の子が集まっているので、そういう子たちと少しずつ関わっていって、たくさん感情が動いていました。また喧嘩してるよとか、あのこ嫌だなとか、この子好きとか、クラス大好きみたいなのが色々あったから、すごく感情が動いてたけど、それがなくなっちゃったから、今ちょっと困ってるんですよね。だから感情を動かしたい。
――感情が動いた時にでき上がる曲も、次に何をしてくれるのかも楽しみです。
出会いって本当に創作の源みたいなのがあると思うので、それに重点を置きたい。今私のおばあちゃんが老人ホームに通っていて、老人ホームで毎回考えさせられる事が多くて。でも毎回それを曲にできていなくて、老人ホームに行ってそこの人に話を聞いて、老人ホームで働いてる人って深いんですよ。愛がないとできないし、究極的な命の守り方というか、自分のおじいちゃんおばあちゃん、お父さんお母さんじゃない人を世話していて、毎回その熱はもらうのに、それをアウトプットできていなくて。そういう施設や、場所に赴いてインタビューしなくても、見たものを作品にして貯めていって、アルバムにしても面白いものができるかなって思ってて。ひとつひとつに物語があって、想像しやすいと思うし、やってみたいと思っています。ずっと同じ場所にいるんじゃなくて、旅でもいいですし、外に出たら出たで絶対撮りたいものとか、作りたいものとか生み出したいもの、歌いたいことって出てくるから、それを総合的に、今まで通りひとつのものに作りあげる事ができたら面白いかなって。

取材・文=田中久勝  撮影=三輪斉史

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