【インタビュー 後編】清春、デビュ
ー25年の現在地「貫くことのほうが今
の僕の年齢にとっては重要」

清春が2月28日、『夜、カルメンの詩集』と題したソロ通算9枚目のオリジナルアルバムをリリースした。前オリジナルアルバム『SOLOIST』から約2年ぶりとなった本作は、すでにライヴでも浸透している楽曲をはじめ、全体にスパニッシュ的要素が色濃い。リリースに伴って開催中の全国14ヵ所15公演におよぶツアー<KIYOHARU TOUR 天使の詩 2018「LYRIC IN SCARLET」>でも、その美しさと味わい深さは破格だ。
インタビュー前編では『夜、カルメンの詩集』のサウンド&ヴィジョンについて深く濃く語ってもらったが、後編ではよりパーソナルな部分に斬り込んで訊いた。デビューから25年、年齢としては今年50歳。自らを貫き通してきたスタイルは孤高と呼ぶに相応しく、時代の先をとらえる嗅覚の鋭さは前衛的ですらある。清春が今、何を見据え、何処へ向かおうとしているのか。その本質が垣間見えるロングインタビューの後編をお届けしたい。
   ◆   ◆   ◆
■自分の趣味を恥じないってことで

■人生を考えた時に、そう思ったんです
──清春さんは2018年、デビュー25年目を迎えられました。デビュー当初、『夜、カルメンの詩集』のような作品を作る未来を想像されていましたか?
清春:25周年を迎えるにあたってよく聞かれるし、よく言うんですけど、“最初の2~3年頑張って、売れたらパッと散りたい”と思ってたし、“売れなかったら地元に帰ろう”とも思ってた。その頃の自分からすると、今のカタチを想定してなかったのは明らか。ただ、2~3年活動して売れたらソロデビューしたいっていう気持ちもあって。それが現実に向かう段階で、どういう音楽をやるのかという部分では、今のようなヴィジョンはなくはなかったのかな。自分のインディーズ時代の曲を聴くと、そう思いますね。黒夢の前身バンドやインディーズ時代に作ったオリジナル曲に、“これ好きだなあ”というところは垣間見られるから。
──振り返ってみると、ということですか?
清春:大昔からそんなに大きく変わってないんです。使う言葉とか楽器とか、キャリアを経たことで上がるスキルだったり、年齢を重ねて懐が深くなったように見えるのかなと思うことはある。もちろん成長もしてるんですけど、別物になったっていう気はまったくないです。一貫してると言うと、響きがいいかもしれないけど、ひとりの人間の好きな音楽ってたいして変わらないっていうかね。
──なるほど。
清春:以前、Twitterでも書いたけど、“この曲が好き”とかはあり得るんですけど、一人の人間の音楽的趣味ってそんなに増えないというか、変わらないというか。それは自分でやってて、すごく思いますね。だから今回の「貴方になって」「美学」「TWILIGHT」も、全曲そんなに飛躍してない感じがする。僕の音楽の骨組み的なものを構成するリズムやメロディとか音色の趣味は、結局、大して変わらなかったような気がするかな。デビューから25年、年齢としては50歳。10代からデビューする頃までに大好きだったものって、今でも滲み出てくるし、自分のなかに形成されているんです。まぁバンドが変わったり、楽器の種類や音色が変わったり、テンポが速かったり遅かったりっていうのはいろいろ試してきたけど、ムードは変わってない。
──やっぱり一貫しているわけですね。
清春:うん、正しいなって思いますね。自然だなって。ファンの人がこの話を聞いたら、“嘘だろ!?”って思うかもしれないな(笑)。明るい曲があったとしても、どこか侘びしい部分や儚い部分があったと思うし。そういう色の濃度が年々増してるんじゃないかな。それがすべて良いことだとは思わないし、それしかできないわけではないけど、結局自分が好きなのはそれ。
──“自分に似合う音楽”という言葉をよく使われていますが、その“似合う”ものの最新型というか、今の年齢で選び取った結果が今作なのかなと。
清春:それが、森清治という人間の思考とか趣味のなかでの“似合う”なんです。清春というアーティストが発信してる“似合う”ではない。今まで発表してきた曲に滲み出てるかもしれないけど、そこを好きになってくれるともっと嬉しいんです。清春というアーティストに似合うかどうかは、誰かにとっては未知数で。“もっと似合うのがあるんじゃない?”って思う人もいるかもしれないし、そこはわからないです。でも、森清治の“こういう曲、好きだな”に、すごく関連してフィットしてる。それが“似合う”なんですよね。
──好きなものに正直になり続けた結果なんですね。
清春:そう。たとえば、メタルが好きな人はずっとメタルが好きだし、J-POPのなかでもバラードが好きとか、元気が出る曲が好きとか、いろいろあるじゃない? 少し前にTwitterで書いたんだけど、“人が聴いてるから好きとか、流行ってるから好き”っていうのでは、本気で長くは好きにはなれないんですよ。出会うきっかけにはなるかもしれないけど、良いと思うところがなければ自ずと嫌いになるだろうし。だから、自分の趣味を恥じないってことで。人生を考えた時に、そう思ったんです。エンターテインメントのなかでも特に音楽を発信する側は、自分で歌詞や曲を書いて、どういう服を着てどうパフォーマンスしてとか自身でほぼ管理できる。やりたくないことをやらなきゃいけない状況に立たされてるアーティストも沢山いると思うけど、僕の場合は、それをしたくなくて、今のあり方で活動してる。そういうなかでは、やっぱり自分の趣味が当然乗ってくるわけで。そこで清春っていうアーティストに“今までと違うことをやってみない?”って思わせるのは、結局、自分自身がいいと思ったものでしかないんですよ。
■表現っていうのは創作していくこと

■それは自分が好きじゃないとできない
──奇をてらったものではないという。
清春:急に、“ブレイクビーツやってみませんか?”とか“デスヴォイス、どうですか?”じゃなくてね。自分にないものでも、人に聴かせてもらったことをきっかけに好きになったら採り入れるけど、基本的に自分の趣味は曲げない。これは表現者としてのスタート地点です。お笑いとかでもそうじゃないですか。ボケとツッコミがあって、それが自分たちのいちばん気持ちいい武器だと思ってるなら、それをずっとやればいい。“間”や“テーマ”を変えつつ、そのスキルを磨いて。でも、スタート地点から外れて、“リズムネタが流行ってるからやりましょう”ということになってしまうと、ぎこちなくなるだろうし、“これの何が面白いんだろう?”みたいなところに陥ったら、看板立ててやるっていう意味では、もうダメだと思うんですよね。それに近いんだと思う。成長していくことを前提に、自分が信じていることを、ただただ貫き通す。もちろん、自分が信じる好きなところを詰め込んだ音楽を、今、聴き返してみると、“イヤだな”って思う部分もあるんですよ。
──そうなんですか!?
清春:はい。でもそれはスキルの足りなさとかサウンドの時代性とかでしかない。曲に関しては、嫌いな曲はあんまりなくて好きなものばかりですね。“清春”を総合的にとらえると、その長さは“これが好き”っていう人生でしかない気がします。プレイヤー側だからかもしれないですけどね、リスナー側だけにいればまた違ったのかもしれない。プレイヤーでありリスナーであることに、襟を正す時があるんですよ。表現っていうのは創作していくことで。それはやはり自分が好きじゃないとできない。1枚目や2枚目は化けの皮を被ったままできたりするし、バンドだとまた団体戦なんでわかんないですけど、それを続けるのは難しいんです。自分の趣味と別のものになってしまう時って、気持ちが入ってる気がしないでしょうから。
──年齢や時代という意味ではどうですか?
清春:日本が“フェスの時代”になってから20年ぐらい経つんだけど、“すごい時代が来たな”なんて思いながら、“また時代が変わるだろう”ってうっすら思ってるんです。“オリコンの時代”、“ホールワンマン公演の時代”が20年以上あって、“フェスの時代”を今眺めてるけど、絶えず変わっていくと思う。で、人間って、年齢が人生につきまとうじゃないですか。“何年生きたか”とか“あと何年残っているか”とか。年齢という概念を捨てて、どの音楽も楽しめるのが最高なんでしょうけど、それってリスナーの立場だと思うんですよね。プレイヤー側からすると、“あと何年ぐらい活動できるんだろう?”っていう考えもあるので、時代を客観視もしますよね。
──清春さんは、そこでどうしようと?
清春:デビューしてから、たまたま長く音楽業界にいる者の感想ですけど、時代に自分を変に合わせない勇気が大事だと思う。僕がデビューして4年経った1997年に<フジロック>が始まったんですけど、その頃の僕らはホールツアーをしていたので、そういうものに出る必要もない。僕らが邦楽マナーで活動している一方で、その当時から洋楽を軸としたフェスがパワーを持って、そういう流れに“いいな”って手を出したがった自分もいたんですよ。でも、「君らはもう違うから」って言われたりね(笑)。
──うーん。
清春:もちろん僕らは、そういうフェスに出ることを目標を置く世代のアーティストではないわけで。“これを貫かないと駄目だ”っていうことにいずれ気がつくんです。今や50歳目前で、“フェスに出たい”が結成の経緯となるような10代や20代のミュージシャンと並ぶ必要はないなって。もっと自分がベストに表現できるようなスペースで、求めてる人たちに向かって、自分の音楽で彼ら彼女らをどれだけ幸せにできるか、時を忘れさせることができるかっていうのが、僕の役割だし、やりたかったことでしょ?っていう。
──やりたかったことができている現在ですね。
清春:まだ“最高”ではないけど、だからこそまだやってるんですよ。去年から、キャンペーンで媒体を廻ると必ず「50歳ですね」って言われるようになって(笑)。前までは自分でそう言ってたんですけど、それを人に言われるようになって。若い人には負けないと思ってる自分もまだいるけど、闘うべきはそこではないんです。こちら側から“僕、おじさんですけど観て”っていうことではなく、若い人が間違えて僕のステージを観る機会があれば、“あ! 全然違う!”“そっちに行ってみたい! 聴きたい!”って思えるようなことをずっとやってないといけない。普段ライヴに来てもらえなかったとしても、貫くことのほうが今の僕の年齢にとっては重要。
■ただ長くやってるってことではなくて

■何をやってきたかっていうことでの“キャリア”
──最後にお訊きしたいのは、ツアー<KIYOHARU TOUR 天使の詩2018『LYRIC IN SCARLET』>のことです。今回の全国ツアーは久々に訪れる土地も含まれていますね。清春さんのライヴを体験したことがない人にとっても、ふらっと観に来る絶好のチャンスなのではないでしょうか。
清春:いやもうホントに、旅芸人みたいなもんですね、チンドン屋とでもいうのか。こんなにたくさんのアーティストがいるなかで、最初の1年とか活動10年とかっていうタームで考えてみれば、アーティストの数ってそんなに多くはない。そんななかで、25年やってると、先輩や同世代が減って後輩が増えるじゃないですか。それが当たり前になって、それを冷静に感じるようになるんですよ。その時に、“こういうのが流行ってるのか”とか“盛り上がってるな”とかは思うんですけど、他人にはなれないし、僕のことをよく知ってるファンの人たちがそれを許さない……というか、“そこにいてください、清春さん”ってなると思うんです。
──ええ。その気持ちはわかります。
清春:自分がどこにいきたいかっていうのは、ほとんど自分の意思では決められないんだよ。活動が長くなってくれば観に来る人の意思でしかない。これは、さっきの趣味の話と矛盾するわけではなく、音楽的なチャレンジはレコーディングとか制作でできるんですよ。たとえば、パチンコ玉をジャラジャラと今回はわざと違う方向にもこぼしてみるんです。いつもより少し間口を広げて、真っ直ぐではなく、いろんな方向に転がしてみる。そうすると、曲作りやレコーディング、こういうインタビューを経るうちに、そのパチンコ玉が分散するんです。で、ツアーのチケット発売時になると、パチンコ玉の多く残ったほうへ僕らは行かなきゃいけない(笑)。わかります?
──面白いたとえですね(笑)。
清春:自分たちでは行き先は決められないの。どこの地方に行こうと、そのパチンコ玉をキャッチしてくれる人の顔ぶれは変わらない。となると僕らは、今回のアルバムをきっかけにたまたまパチンコ玉をキャッチしてくれた人を大事にするのか、“清春さんの投げる玉なら喜んで取ります。それが人生だから!”って人を大事にするのかと問われると、当然後者の元に帰っていく。受け止めてくれる人がたくさんいるところへ。だから、こういう活動をする。このなかでのお互いの沸点を探して、楽しい時間を共有して。そんな姿を他の人たちに観て感じてもらうしかないんですよ。
──納得します。
清春:だから、今回もそういうツアーなの(笑)。360度にパチンコ玉を投げても、横の方は溝に落ちたりとかしてなくなっちゃうわけです。だけど、パチンコ玉を上手に待っててくれるコたちがいる。その人たちの元へ、ツアーになるたびに帰るって感覚でしょうかね。
──そういう“貴方”たちに届けていく、と。
清春:届けていくというか、結果的にはそれしかないことを僕も知ってるし、その人たちも知ってるんですよ。だからこその“美しき日々”というかね。受け止めてくれる人たちがいて自分がいる、その存在意義は素晴らしいわけ。ただ単にやってきたわけではなく、より貫いていれば、必ず玉を受け取ってくれる人がいて、何年もいてくれてる。そういうことでしかなくて。
──素敵ですね。
清春:不思議なんですよ。家族ですら、毎日顔をつき合わしてても、たまにパチンコ玉を取ってくれない時があるのに(笑)。
──ははは! だからこそ、清春さんとファンとの関係は美しいんです。
清春:音楽を通じて僕のことを好きになってくれるっていうのは、素晴らしいことですよね。バンドであれソロであれ、音楽を通じて、僕の趣味がたくさん溢れ出たものを待ってくれてるというのは、それを総じて“キャリア”と呼ぶんじゃないかな。ただ長くやってるってことではなくて、何をやってきたかっていうことでの“キャリア”。
──それはきっと、選ばれし者にしか出せないものなんだと思います。
清春:僕も今年で50歳になっちゃうんで。このジャンルで生かされてる感じは、ゆるい公開処刑みたいな気がしてますね(笑)。デビュー30年に向かうこの先の5年間っていうのは、自分の老いていく感じを含めて大チャレンジ。多分、若い時よりもチャレンジなんです。それをひしひしと日々感じます。今はそんな毎日なんです。
取材・文◎志村つくね

撮影◎森好弘

アルバム『夜、カルメンの詩集』
【初回盤 (2CD+DVD)】COZP-1411-1413/¥5000+tax(完全初回生産限定)

【通常盤 (CDのみ)】COCP-40251/¥3000+tax
2018年2月28日発売

▼DISC 1(初回限定盤、通常盤共通) “夜、カルメンの詩集”

01.悲歌

02.赤の永遠

03.夜を、想う(Album ver.)

04.アモーレ

05.シャレード(Album ver.)

06.眠れる天使

07.TWILIGHT

08.三日月

09.美学

10.貴方になって

▼DISC 2(初回限定盤のみ) “夜、カルメンの詩集” poetry reading

01.悲歌

02.赤の永遠

03.夜を、想う

04.アモーレ

05.シャレード

06.眠れる天使

07.TWILIGHT

08.三日月

09.美学

10.貴方になって

11.罪滅ぼし野ばら

▼DISC 3(初回限定盤DVD) “夜、カルメンの詩集” video

赤の永遠/眠れる天使/夜を、想う

■<KIYOHARU TOUR 天使の詩2018『LYRIC IN SCARLET』>


2月23日(金)大阪BIGCAT

2月24日(土)金沢EIGHT HALL

3月02日(金)仙台Rensa

3月16日(金)KYOTO MUSE

3月17日(土)KYOTO MUSE

3月21日(水・祝)柏PALOOZA

3月24日(土)長野CLUB JUNK BOX

3月31日(土)札幌PENNY LANE24

4月07日(土)青森Quarter

4月08日(日)盛岡Club Change Wave

4月13日(金)名古屋 BOTTOM LINE

4月14日(土)Live House 浜松窓枠

4月28日(土)鹿児島CAPARVO HALL

4月29日(日)長崎DRUM Be-7

5月03日(木・祝)EX THEATER ROPPONGI

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