Nothing's Carved In Stone さらな
る進化を込めアニバーサリーイヤーに
放つ快作『Mirror Ocean』と10年の歩
みを語る

結成10周年を迎える18年の第1弾として、Nothing's Carved In Stoneは全曲が新曲からなる9作目のアルバム『Mirror Ocean』をリリースした。10周年のアニーバーサリーとして、多くのバンドがそうするようにベスト・アルバムをリリースするという選択肢もあったんじゃないかと思うが、話にすら出なかったという。「リリースするなら、新作をリリースしたかった」と今回、インタビューに応じてくれた村松拓(Vo/Gt)と生形真一(Gt)は口を揃えたが、『Mirror Ocean』を作る時も10周年という言葉は、これっぽっちも頭を過らなかったという。もう10年なのか、それとも、まだ10年なのか。いずれにせよ、前作『Existence』の挑戦をさらに突き詰めたことを印象づける『Mirror Ocean』を聴いても明らかだが、立ち止まるどころか、振り返る時間すら惜しむように前だけを向いているようなところが頼もしい。10月7日には初の日本武道館公演も実現する。Nothing's Carved In Stoneにとって18年はアニバーサリーと言うよりも飛躍の年になるに違いない。
――今年、結成10周年を迎える心境から、まず聞かせていただけますか?
生形:あっという間でしたね。最初の頃は、コンスタントに活動していこうと思って1年に1枚、必ずアルバムを出して、シングルも出して、と思ってやっていたんですけど、いつの間にかそれが当たり前になってきて、気がついたら今回の『Mirror Ocean』が9枚目で、10年目に入っていたというのが素直な気持ちです。
――他のバンドよりも密度の濃い10年だったんじゃないかと思うのですが。
村松:そうですね。もちろん、やりたいからやっているんですけど、アルバムを作ったらツアーがついてくるみたいなところがあるじゃないですか。それもわかったうえで、作品を作っていたところもあるんで、わりと、バンドで下からぐっと上がっていくみたいなね。一緒に旅もしながら、楽しい想いとか、辛い想いとかもして、ちゃんと10年かけて成長してきたと思います。最初からそれをバンドが望んでいたかわからないですけど、そういうタイプのバンドだったんだなって、今、改めて思いますね。
――最初から望んでいたかわからないというのは?
村松:どういう形でやっていこうかって話は、そんなにしなかったんですよ。ただ「バンドやろうぜ」って集まって、お互いに惚れあったというか、「いいバンドになりそうだね」ってワクワクしていただけなんで。もしかしたらすっげえ売れるかもしれないし、もしかしたらすぐに終わりになるかもしれないし、どうなるかわからない。でも、みんな本気っていう。そういう始まりだったから。
――丸9年活動してきて、自分達は今、たとえばどんなところに辿りつけた、と?
生形:最初の頃は、期待も不安もあるじゃないですか。でも、ずっとやっていくとね、一番大事で大切なことって、“続けていくこと”なんですよね。バンドを……って言うか、それはバンド以外でもどんな職業でもそうだと思うんですけど、そういうふうに今は思います。続けて良かったって。この先も何が目標かって言ったら、まずは続けていくこと。そこにお客さんがいてくれれば嬉しいし、聴いてくれる人が多ければ多いほど嬉しい。ただ、それが一番じゃなくて、一番はバンドを続けていくことだと思っています。
――続ける努力もしてきたわけですか?
生形:努力って言うか、それは何でも一緒ですよ。同じことを続けていくという意味では。特に俺らみたいなバンドって、3人とか4人とか5人とかでやるから、各々のその時の状況ってあるじゃないですか。誰かがオチる時だってある。そんなとき、みんなでオチていたらしょうがない。うちのバンドは、それがうまくできている気がして、誰かに何かがあった時にテンションをアゲられる人間がいる。それがすごくうまく作用してきた気がしていて。それはすごくいいことだと思っています。
――ターニングポイントと言える出来事もありましたか?
生形:俺ら、それはけっこう多かったと思います。途中でメジャーにも行って、その時にいろいろな人と関われたっていうのもあるし、メジャーでいろいろなことを経験したうえで、もう1回、インディーズに戻ってやってみようって自分達から(メジャーを)離れたんですよ。だから、いろいろあるんですよね。初めて野音(日比谷野外大音楽堂)でワンマン・ライブをやった時も、初めて席のある会場で、最初はどうなるだろうって思ったけど、すごく楽しかったんですよ。それで今度は(日本)武道館もやるし。けっこういろいろありましたよ。今、言ったのはでかいことだけど、それ以外にもね。
――自ら望んで、いろいろなことに挑戦した結果、それがターニングポイントになっていったようにも感じましたが。
生形:メンバー全員、基本的には前向きだと思っているんですよ。だから変わることを恐れないし、どんどん新しいこともやっていける。そういうことをやっていると、壁にもぶつかるんだけど、そこは全員で力を合わせてうまくやってきたと思います。
村松:うん、確かにね。
――Nothing'sのような歴戦のプレイヤーが集まったバンドでも壁にぶつかることがあったんですね。
生形:それは他のバンドと一緒ですよ。4人でバンドを始めて、代官山UNITっていう、小さくはないけどそんなに大きくもないライブハウスからやってきたし。そういう過程を踏んでやっていこうと思ってやってきたバンドなんです。だから、思ったよりいいライブができないことだってあったし。そこは本当、他のバンドと変わらない。バンドを始めたのは、メンバーそれぞれにいろいろな経験をしてからだったけど、Nothing'sはバンドとしてゼロからスタートしているから、他のバンドと同じように壁にもぶつかってきました。曲ができないとか、ライブが良くなかったとか、今日のライブはすげえアウェイだったとか、いまだに全然ありますよ。すごいホームで嬉しかったとか、アウェイだったけど、楽しかったとか。
Nothing's Carved In Stone・村松拓 撮影=西槇太一
――変わったところと変わらないところがあると思うのですが、バンドの取り組み方はどう変わりましたか?
村松:基本的には変わらないですけど、音楽的なところではやっぱり、3rdアルバムの『echo』でいろいろなことに挑戦して、次の『Silver Sun』でもう1回、自分達のロックの根本に立ち返って――みたいなことを、けっこう繰り返してきて、お互いの魅力も良くわかっているし、信頼もしているから、そういう部分での水準はものすごく上がってきましたよね。だから、もう1回、1stアルバムのようなアルバムを作れと言われても、逆に作れない(笑)。そういう変わり方はしてきていると思います。
――なるほど。今回の『Mirror Ocean』もその延長にあるわけですね。結成10周年を迎えるアニバーサリー・イヤーの第1弾として、ベスト・アルバムではなく、新作をリリースしたところに、まだまだ前進していくぞというバンドの熱い想いが感じられて、とても良かったです。
生形:ありがとうございます。
――Nothing'sの新作は毎回、そうなんですけど、今回はいつも以上に1曲目から、「おおっ、こう来るか」「おおっ、そしてこう来たか」と心の中で声を上げながら聴かせてもらいました。前作の『Existence』からさらに一歩踏み込んだと言うか、さらに突き詰めたような作品になったと感じましたが、おふたりはどんな手応えを感じていますか?
生形:今、言ってもらったとおりで、これを作る時は10周年って全然考えてなかったんですよ。ベストを出すって話もなかったし。出すんだったら、新しいアルバムを出したいと思っていました。新作を作るとき、毎回、考えているのは、前と同じようなものは作らない。だけど、誰が聴いてもNothing'sってわかるような音だったり、曲だったりで作りたいってことなんですけど、それは今回もできたと思っています。だから、そういうふうに言ってもらえるのは嬉しいですね。
村松:今回も曲のバリエーションが多いんですけど、Nothing'sがずっと育ててきたいい部分……いい曲とメンバーそれぞれの個性のバランスという、僕らが求めながら作り続けてきたものが「Mirror Ocean」という曲に実っているんですけど、それが最初の頃にできて、けっこう手応えを感じたんですよ。1曲目の「Mythology」も最初にできたんですけど、そういう“これぞNothing's”みたいな曲を進化させることもできているし、新しい挑戦もたくさんできているから、おもしろい1枚が作れたと思っています。
――前と同じものは作らないという大きなテーマがあった中で、さらに「こういうことをやってみよう」みたいなことは何かあったんですか?
生形:それは曲単位でありました。各々が持ち寄った曲のネタを、みんなで聴きながら、「こういうアレンジにしよう」とか、「こういう音を入れよう」とか話し合いながら作っていったという感じですね。
――各々が曲を作る時にテーマがあった、と?
生形:そういう曲もあるし、1個のテーマを共有して、作り上げていった曲もあるし。「この曲はこういうふうにしよう」って4人で話し合いながら方向性を決めると、みんなそれに向かってアレンジするんですよ。だから、すごくわかりやすく作れる。それはもう昔からで、ネタを持ってきた人にイメージがあったら、それを伝えるし、特にイメージがない場合とか、他の誰かにもっといいアイディアがある場合は、それを使う。そういう感じで曲はずっと作っています。
――今回も個性の強い10曲が揃いましたが、それは結果的に、いろいろな曲が揃っていたということなんでしょうか?
生形:作りながら、「激しめの曲、2曲作ったから、次はミドルテンポにしようか」とか、そんな感じです。割とラフに、「そう言えば、こういう曲があったよね」「じゃあ、それをやろうか」ってやっていると、大体バランスが良くなる。
Nothing's Carved In Stone・生形真一 撮影=西槇太一
――全曲が聴きどころだと思うのですが、全曲について、お話を聞かせてもらう時間はさすがにないので、特に聴きどころだと思う曲を、1曲ずつ挙げてもらってもいいでしょうか?
生形:1曲ずつ?
――はい。ここは敢えて1曲ずつでお願いします。
生形:なるほど(笑)。じゃあ、俺が先に言いますか。どうしようかな。でも、1曲目の「Mythology」は、1曲目にしたのもそうだし、さっき言ったNothing'sっぽいけど、ありそうでなかった曲ができたなと思っていて。この曲と2曲目の「Mirror Ocean」、頭の2曲でこのアルバムの世界観が表せているかなって思います。壮大な感覚って言うか、「今回のアルバム、壮大だね」って言ってもらえるんですけど、「Mythology」はやっぱりそういう曲なのかなと思いますね。
――「Mythology」については、村松さんもNothing'sらしさを進化させることができたとおっしゃっていましたが、たとえば、どんなところが新しい、と?
生形:Nothing'sってアレンジにしてもけっこう――自分達で言うのも何だけど、けっこう凝っていて、細々いろいろやることが多いんですけど、この曲に関しては、そんなにやっていない。代わりにグルーヴを重視している。そういう曲ってNothing'sでそんなにやったことがなくて。しかもアルバムの1曲目に持ってくるって、俺、すごく重要だと思っているんですけど、そこに持ってこられたのは、やっぱりそういう曲ができたからだろうなって。テンポが速いわけでもないし、曲の尺もそこそこ長いしね。それを1曲目に持ってこられたのは、そういう曲を聴かせられるグルーヴを出せるバンドになったという自信があるからなのかなって思います。
――村松さんも1曲、お願いします。
村松:難しいな。「Mythology」と「Mirror Ocean」というリード2曲もそうなんですけど、うーん。
生形:(笑)。そうなるよね。
――じゃあ、2回りしましょうか(笑)。もう1曲ずつ挙げてもらうことにします。
生形:ああ、なるほどね。
村松:わかりました。でも、「この曲」って言っちゃうと、みんなそればかり聴いちゃうのかなって思っちゃうから(笑)。じゃあ、1曲目から最後まで聴いてもらいたいから、最後の「青の雫」にします。この曲は曲調としては弾き語りに近いんですけど、僕が書いたんじゃないんです。こういう弾き語りの曲は大体、ボーカリストが作ると思うんですけど、これは真一が持ってきた曲で。これ、すごく好きですね。Nothing'sがやるにしては、すごいシンプルだし、音もすごく抜いているし。でも、スケールがでかいっていう。歌詞も真一が書いてきたんですよ。自分が書いた言葉で歌うのが元々は好きだったんですけど、このバンドを始めてから、真一が書く歌詞もすごく好きになって。今は大好きなんですけど、この歌詞の意味を、僕は知っているので、これからライブでそれを胸に刻んで歌いますね。
生形:震災のことを書いたんです。これまで、そういうことはあまり拓ちゃんも俺も、敢えてじゃないけど、いや、敢えてかもしれないけど、書いてこなかったんですよ。でも、あれから時間も経って、この曲の歌詞を考えている頃にそういうことに直面するって言うか、フェス(『中津川THE SOLAR BUDOKAN』)で東北ライブハウス大作戦ステージに出たりとか、Ken(Yokoyama)さんのライブを見たときにKenさんが客席まで下りてきて、そういう曲を歌ったりとか、時間が経ったからこそ忘れちゃいけないと思って、その気持ちを込めて、歌詞を書きました。
――「青の雫」はバラードで、シンプルなアレンジで、おっしゃるとおり音も抜いているんですけど、でも、ベースの音数は多い。
村松:(笑)。
Nothing's Carved In Stone・村松拓 撮影=西槇太一
――そこがまたNothing'sらしいんですけど、こういうアコースティックなバラードを、Nothing'sががやると、こうなるんだっていう。こういうバラードのベースって休符を意識したものになることが多いじゃないですか。
生形:なるほど、そうか。(村松に)俺ら的にはシンプルだと思ったよね? ベースも。でも、普通のバンドよりは音数が多いってことか(笑)。
村松:たぶん、そうなんだろうね。俺ら感覚が……
生形:違うのか(笑)。
村松:割と音符、減らしてきたなって思ってたけど。
――生形さんのギター・ソロもけっこう暴れまわっていますよ。
生形:あれもみんなのアイディアで。「最後、壮大にしよう」って。
――なるほど。では、すみません。もう1回りお願いします。
生形:どうしようかな。じゃあ、4曲目の「Winter Starts」。これは俺がデモを持っていったんですけど、最初は全然違ったんですよ。アメリカン・ポップ・パンクみたいな曲ができたと自分では思って、そんな感じのアレンジでみんなのところに持って行ったんですけど、そこからかなり変わって、それがバンドっぽいと思いました。アレンジもサウンドも変わって、全然、雰囲気の違う曲になったけど、すごく良くなったと思います。
――すごく爽やかな曲ですね。そして、村松さん、もう1曲お願いします。
村松:9曲目の「Damage」で。
――バチバチ系の曲ですね。
村松:これ、すごく激しいじゃないですか。ドラムの連打をはじめ、みんなバチバチ弾いてるし、僕も一番高いキーまで声を出しているし。音符もメッチャクチャ詰め込んでいるんですけど、すっごいグルーヴしているんですよ。こういう曲で、そういう演奏するのってすごく難しい。ただ上手さをひけらかしているだけじゃなくて、激しい4人の演奏が合わさったことで、この激しいうねりが生まれるみたいな。それがすごく好きですね。みんな、冗談半分で作っていたところはあるんですよ。どこまでやれるかみたいなところで、「そんなことしているんですね?!」って笑ってほしいんですよ。本気でやればやるほど、笑えるものになるじゃないですか。そういう演奏とグルーヴを共存させているところがすごくおもしろいと思います。
――今、「そんなことしているんですね?!」って笑ってほしいとおっしゃったじゃないですか。昔からNothing'sの音源を聴いたり、ライブを見たりしながら思っていたんですけど、その「そんなことしているんですね?!」って演奏をバックに村松さん、歌いづらくないのかなって。
生形:はははは!
村松:それはもうね、Nothing'sにおけるタブーみたいになっていますよ(笑)。誰もが思っているんじゃないかな、たぶん。でも、そこ、僕、自信があるんですよ。
――うんうんうん。
村松:たぶん、このバンド実際に歌えるって人、なかなか出会えないでしょうね。でも、歌がありきで作っているバンドではあるから、僕以外の3人はちゃんと僕に寄り添うプレイもしているんです。だから、みなさんが思っているよりはバンドっぽいと思います。
――それはもちろん。
村松:歌もののバンドで、ボーカリストが楽器隊に「ついてこいよ」ってやっているバンドよりは、よっぽど歌に寄り添ってグルーヴさせていくタイプのバンドなんですよ。
――そうなんですよ。あの演奏に歌を乗せて、グルーヴさせているのは本当にすごいと思います。逆に村松さん以外の3人は演奏しづらくないのかなとも思うんですよ。
生形:ああ、どうなんだろうな。そこも曲によりけりだと思うんですけど、たとえばレッド・ツェッペリンは歌に寄り添って演奏していないんじゃないかな。でも、ちゃんと歌がある。それはロバート・プラントの才能だと思うんですけど、それと同じことじゃないかな。逆に歌ものの曲をやるのも、すごく楽しくて、たとえば「Red Light」とか、今回の「青の雫」とか。けっこう、そのへんをはっきりさせている。ロックってある意味、メンバーそれぞれのキャラが立っていないとおもしろくない部分が少なからずあって、そこはバランスだと思っているんですけど。
――その意味では、8曲目の「Stories」は、そのリフに、その爽やかなメロディーが乗るんだっていうNothing'sの真骨頂と言える曲ですよね。
生形:その対比がおもしろい。うちにしかできない曲ですよね。
Nothing's Carved In Stone・生形真一 撮影=西槇太一
――おふたりに2曲ずつ挙げていただきましたが、個人的には6曲目の「Flowers」が聴きどころではないかと思いました。
生形:ああ。それも好きだな。
――前作の『Existence』をリリースしたとき、とあるインタビューで、「ポップの王道と言える曲をやることに躊躇しなくなった」とおっしゃっていたんですけど、「Flowers」はそれをさらに突き詰めた曲になりましたね?
生形:まさにそうですね。Nothing'sの明るい部分と、自分達で言うのも何だけど、少しおしゃれな部分、それは前からあるんですけど、それをよりポップにしたのが「Flowers」だと思います。こういう曲って、ひなっち(日向秀和/Ba)が持ってくることが多くて、これもひなっちが持ってきたんです。そういうポップなものを、うちららしくできた曲だと思います。
――歌詞もちょっとセクシーで。
村松:サビのメロディーもひなっちが作ったんですけど、そこに乗る<東京はパラダイス>って言葉もひなっちが言い出して、そこから、ふたりでバーッて歌詞を書いたんです。だから、この曲はひなっちの世界観が出ている。大人っぽさとか、都会感とかが強い。それを、うちの特徴なんですけど、ギターのサウンドでちょっと冷たい感じにしている。その感じがすごくいいバランスになっていますよね。
――生形さんのギター・ソロからはラテンっぽいテイストを感じました。
生形:ああ、そうですね。あれはなんでかな。ギター・ソロっていつも最後に考えるんですけど、この曲のソロは前半と後半があって、ラテンっぽいっていうのはたぶん後半だと思うんですけど、後半は本当に崩して、崩して弾こうかなって思ったのは覚えていますね。サウンドもそうなんですけど、シングル・コイルで弾いているんで、あまりやったことがないものになりましたね。
――次の「Go Out」も……
生形:その流れですよね。
――ちょっとAORっぽいと言うか、フュージョンっぽいところもあって。
生形:そこは敢えて「Flowers」と2曲、並べてみました。
――そんなふうに、いろいろなことに挑戦すると、昔からのファンから否定的に受け止めることが少なくないんですけど、Nothing'sはそうならないですよね。
生形:そこが、さっき言ったうちららしさなんですよ。それを何とかして残しているというか、いろいろなことをやっても、アレンジの時に1回、消化しているというか。だからじゃないかなと思っています。
――それは意識的にやっているんですか?
生形:俺に関しては、意識的にやっています。Nothing'sっぽいと言うか、自分らしいギターの要素を……たとえば、ファンキーな曲があったとして、俺がそこで100%、ファンクのギターを弾いちゃうと、俺じゃなくなっちゃうから、1回、自分の中に取り入れて、それを自分のフレーズとして出せるまで、いろいろアレンジします。ミュージシャンとしては絶対、そうあるべきだと思うから、それはやりますね。
――村松さんはいかがですか? 村松さんのボーカルがあればNothing'sだとは思うのですが。
村松:Nothing'sらしさがどこにあるのかはわかっているつもりですね。その部分の押し引きがメンバー間でよりうまくいくようにやっているのかな。各々が意識している部分もあると思うんですけど、それと同時にメンバー全員が、新しい音楽を、自分達のルーツになっている音楽と同じくらい好きなんですよ。その感覚自体がNothing'sらしさでもあると思うんです。「November 15th」の打ち込みは、ひなっちがやっていたりとか、新しいドラムの音色を使い始めたのも、オニィ(大喜多崇規/Dr)が自分から「そうしたい」って言ったんです。うちのバンドは誰かプロデューサーがついているわけではないから、そういうの全部、自分達の判断で、「この曲にこういうアプローチしたらかっこいいでしょ」ってことを、全員で考えながら、新しい音も消化して、自分達の音として鳴らしていくっていう意識があるんですよ。それが全員共通しているから、何をやってもらしいものになるんじゃないかな。
――さて、リリース後は3月8日の千葉公演から始まる『Mirror Ocean Tour』を経て、10月7日には、日本武道館公演が控えています。それは新作からの曲が中心になるツアーとは、また違ったものになると思うのですが。
生形:そうですね。10周年を意識したセットリストになると思います。正直、内容については、まだこれからなんですけど、単純に楽しみですね。とは言っても、その前にツアーがあるんで(笑)。まずはそこからなんですけど、今回のツアーで佐賀、岐阜、富山に行って 全県、やっと回れるんですよ。10年かかってやっとと言うか、10年目にちょうどできるっていうのも嬉しいし、それが終わった後に武道館でやるっていうのもね。
村松:そうだね。
生形:良かったなっていうか、これからですけど、いつも通りのライブができたらいいと思っています。客席も含め。もちろん、特別な日にはなるんだろうけど、俺らがやるのはいつも通りのことで、それで、たぶんみんなが喜んでくれるんじゃないかな。それが一番かな。
――10周年を意識したセットリストっていうのは、10年を振り返るようなものということですか?
生形:ああ、それもまだ全然、話していないです。
村松:でも、必然的にそうなるんじゃないですか。
生形:みんながやりたい曲と、みんなが聴きたいだろうと俺らが思っている曲になるんじゃないかな。
――ロックの聖地なんて言われていますが、その武道館でやることについて、特別な想いはあるんでしょうか?
生形:拓ちゃんが言い出したんですよ。「武道館でやらない?」って。
村松:4人で飯を食っている時に言ったら、みんな、「いいよ」って。「いいよ」って、なんか軽く聞こえちゃうかもしれないですけど(笑)、「10周年、何かやるとしたらどうする?」って話し合っているときに、ポロッと言ってみたんですよ。武道館ってそんなに簡単に立てる場所じゃないと思うんです。もちろん、聴いてくれる人達がいるからこそ、僕らは続けてこられたわけですけど、僕らが信じてきたことを音源に詰め込んで、僕らが見てきた憧れの人達の位置に自分達のやり方で近づこうとやってきて、その結果、武道館に立てる状況に今、来ているってことがすごいことなんだって思いもあるから……だからこそ、ファンやスタッフを喜ばせたいという気持ちが強いですね。今回は10周年!って言って、10月7日に武道館でライブするじゃないですか。俺達はそこで新しい何かを発表できると思うんですね。これからにつながる何かを。そういうワクワクする武道館にしたいですね。。

取材・文=山口智男 撮影=西槇太一
Nothing's Carved In Stone・生形真一 / 村松拓 撮影=西槇太一

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着