高橋悠治が到達した究極のピアニズム
とは? ~ピアノリサイタル「余韻と
手移り」3月2日に開催

ピアニストで作曲家の高橋悠治。クラシック界のみならず、ポピュラーミュージックやジャズの領域でも多大なるリスペクトを受けてやまないピアノ界のレジェンド。ある時は世界を股にかける現代音楽(ケージ、クセナキス、etc…)の鬼才ピアニストとして勇名を馳せ、またある時はコンピュータ音楽の研究に勤しむ。世界有数のサティ弾きかと思えば、極めて独創性の高いバッハを聴かせる。さらには「水牛楽団」で世界の抵抗歌を演奏するアクチュアリティの徒でもある。このカリスマ・ピアニストが一体どこへ向かうのか、それは常に予測不能だ。
そんな彼が到達した現在の境地こそ、今回の「高橋悠治ピアノリサイタル 余韻と手移り」にほかならないだろう。しかし、「余韻と手移り」とは何か?
高橋は今回のリサイタルについて「明け方の雲が色を変えていくように 黄昏の空気が冷えていくように 音楽はことばにならない時代の変化を映す」と説明を寄せている。「いくつかのやりかたで 変化を意識し 手が記憶するにつれて 意識では忘れることになるか じっさいは そこまではいかないし 確信ありげに音を操る名人芸になってはつまらない ことばにならない感触 共有できても一般化できない経験」(「水牛のように」2018年2月号「懸解」より抜粋)。
1938年生まれ、多彩きわまる活動を経てきた現在79歳の彼にしか生み出しえない究極のピアニズム。それは、ことばでは到底言い表すことのできない、深遠で微細な音の変化である。私たちが今度の演奏会で立ち会えるのは、まさに彼の述べる「ことばにならない感触」にほかならないのであろう。
プログラムには、J.S.バッハ「組曲ハ短調」、チマローザ「ソナタ イ短調」のほか、オリバー・ナッセン、増本伎共子、クロード・ヴィヴィエ、石田秀実といった、必ずしも世間でよく知られているとは言い難い現代作曲家の作品も積極的にとりあげられる。あえて「知らなかった曲を集めて 弾けないところから練習の手立てを考える」ことで純粋な心持ちで作品に向かい合うことができるということなのだろうか。さらに、高橋自身の新作「荒地花笠」の初演も盛り込む。これも「経験をかさねて 身についたはずの技術が役に立たない」ような、作曲プロセスを踏んでいるらしい。ここでは、あらゆる音の粒子が、前例を踏襲しないところから立ち上げられるのだ。
この場所、この瞬間でしか味わうことのできない、音楽の究極を体験してみるのも悪くはない。だとすれば、このリサイタルを無視することは不可能であろう。
今回のリサイタルで演奏される曲目については、以下に改めて紹介しておく(演奏会当日配布されるパンフに記載予定の高橋自身による解説文を参考にしている)。
「高橋悠治ピアノリサイタル 余韻と手移り」演奏曲目
1. J.S.バッハ : 『組曲 ハ短調』BWV 997
※ライプツィヒで1738~41年に、家にあったラウテンヴェルク(リュート弦の鍵盤楽器)のために作曲したと推測されている作品。
2. オリヴァー・ナッセン : 『祈りの鐘素描』(武満徹追悼)(1998)
※武満徹がピーター・ゼルキンのために書くはずだった曲のタイトルでナッセンが武満への追悼曲を書き、これを東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルでゼルキンが初演した。
3. 増本伎共子(きくこ) : 『連歌』(2004)
※前後の部分が関連をもちながらすこしずつ変化していく「連歌」は、和歌の技法に由来するという。
4. 高橋悠治 : 『荒地花笠』(2018)
※高橋が実物をまだ見たことがないブラジル原産の植物=アレチハナガサを、その写真から音のイメージを創り上げて作曲した。
5. クロード・ヴィヴィエ : 『ピアノフォルテ』(1975)
※シュトックハウゼンに師事し、メシアンの和音、ガムランや雅楽の響きからも影響を受けたカナダ人作曲家の作品。ちなみにヴィヴィエは1983年、パリのゲイバーで出会った男娼に刺し殺された。
6. 石田秀実 : 『フローズン・シティII(1991)
※石田秀実は古代中国哲学の研究者にして音楽家で、“気”にも通じている。今回はオルガン曲として書かれた原曲をピアノ演奏する。
7. ドメニコ・チマローザ : 『ソナタ イ短調』
※チマローザは18世紀に活躍した人気オペラ作曲家。88曲のチェンバロ・ソナタ(ピアノソナタ)も書いており、今回演奏されるのはその中の一篇である。

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