大橋トリオ アダルトなポップロック
の逸品、最新アルバム『STEREO』を語

昨年(2017年)の12月8日、東京国際フォーラムAで見た、大橋トリオのライブが忘れられない。デビュー10周年記念、『TRIO ERA』と銘打ったスペシャルライブは、ピアノ弾き語り、ホーンとストリングスを入れたビッグバンド、マイク1本のバスキングスタイル、さらに持田香織布袋寅泰と、豪華ゲストとのセッション等々、音楽に浸る喜びを、心から味わわせてくれる至福の時だった。そして年が明け、11年目に突入した大橋トリオから届けられたのが、2年ぶりのオリジナルフルアルバム『STEREO』だ。CMソング「SHE」、『世界遺産』テーマ曲「鳥のように」をはじめ、布袋寅泰が参加した「Embark」など、溌溂としたビートとジェントルなメロディ、まろやかな歌声が共存した、アダルトなポップロックの逸品。確かな充実感を手に、アルバムに込めた思いと制作エピソードについて語る大橋は、いつも以上にリラックスして饒舌だった。
ここ最近、かなり丸くなったと思います。もう十分反抗してきたから。
今はスタッフに預けてみようという感じになってます。
――まずは『TRIO ERA』、素晴らしかったですね。楽しみました。
音楽家冥利に尽きます。なかなかできないですからね、あの編成は。
――あれは、大橋さん自身のアイディアで?
いや、毎年ビッグバンドのライブをやってるんですけど、今年はそれに代わって10周年のお祭りをやろうと言われたので。スペシャルなゲストもお呼びして。
――持田香織さんと布袋寅泰さん。
布袋さんと「仁義なき戦い」(『新・仁義なき戦い』のテーマ「Battle Without Honor or Humanity」)のギターを弾いたときは、しびれましたね。
――「かっこいい」ってつぶやいてましたよ。素の顔で(笑)。
ただの感想(笑)。布袋さんはスターだなっていう感じがしますね。舞台セットが割れて、登場した時に、こうやって(手をあごに添えて)出てきたじゃないですか。“何それ、かっこいい!”と思った。
――自分のライブみたいでしたね。ステージ狭しと動き回り。
事前に「ギター持って寄っていくからさ」って言われてたんだけど、実際に近づいて来られると、なかなかの迫力で(笑)。ハードルが高かったです。自分の小ささを実感した夜ですね。
――何をおっしゃいますやら。「みなさんと同じように僕も大橋トリオの大ファンです」という、布袋さんのセリフに、こっちは全員でうなずいてましたよ。
そんなこと言ってくれるんですよ、布袋さんは。紳士だなと。『White』(2012年)というアルバムで、ゲスト参加してもらったんですよ。その時も本当に、人間としてカッコいい人で、紳士だし、本当に音楽が好きだし、僕みたいな若造をちゃんと相手してくれて。なかなか、言わないと思うんですよ。僕が布袋さんの立場だったら、若い子に対して。
――あ、そうですか。
ラジオか何かで、「大橋トリオはいい」みたいなことを言っていただいていて。それが『White』というコラボアルバムのタイミングと重なったから、声かけてみちゃおうということで、弾いてもらったんですけど。で、僕はすごいアマノジャクだし、社交的じゃないんですよ。人を褒めるとか、思ってても言わないタイプなんですね。だからそういうことができる人って、すごい尊敬するんですよ。
――ああー。なるほど。
しかも、世界の布袋じゃないですか。そんな人が、こんなことができるんだって、いろんな意味で勉強になるというか。自分にとってのお手本なのかどうかわからないけど、自分は、これはこれでスタイルだから。でも、意外だなということは思いますよね。やんちゃに生きてきたっぽいイメージがあるじゃないですか。
――ロックスターですからね。
わがまま言ってなんぼ、みたいな。そういう時期も、あったんでしょうけどね。
――その話につなげて、ちょっといいですか。大橋さんのミュージシャンライフの中で、たとえば青春期、反抗期、熟成期とか、そういうことで意識してることってありますか。
音楽ライフとして?
――そうです。ここまで来る間に、何回かの期があったのかな?って。それこそ布袋さんにも、とてつもなくやんちゃな時期もあったでしょうし、それが今は紳士になっているとか、そういう変化って、大橋さんの中にあるのかどうか。
まあ、分析してみたら、あるかもしれないですね。最初はもう、音楽が好きで好きで、その情熱のみで、一人で曲作りをしているわけです。ああでもないこうでもないって、なかなか納得がいかなくて、形にはならないけど、でも好きでしょうがない自分がいるという、それは青春時代ですよね。
――そうですね。
で、大橋トリオをやり始めて、いろんなミュージシャンと一緒にやるじゃないですか。好きという時代はとっくに終わっちゃってて、年に1枚出さなきゃいけないということもあるし、スタッフの意見も入って来て。それに対して、自分がいいと思わないと嫌なんですよ。で、大体ダメなんですよ。
――そうですか(笑)。
それをことごとく突っぱねて、自分のやりたいようにやらせてもらってきた。これ、反抗期ですよね(笑)。
――ですね(笑)。
で、別に10年経ったからということでもなくて、ここ最近、かなり丸くなったと思います。もう十分反抗してきたから。それでなんとか10年やってきたんだけれども、今はスタッフに預けてみようという感じになってます。
――はい。
もちろんその中で、いろいろあるんですけどね。でも、今までだったらやってないなということも、“別にいいか”って、かなり柔軟にやってますね。ここ2、3年かな。というのは、ツアーが楽しくて。この間の国際フォーラムもそうですけど、でもあれって、1回こっきりじゃないですか。あれでツアーやったら、本当に楽しいだろうなって思うんですよね。ツアーは、メンバーが本当に最高なので、音楽はもちろん、人間的にもすごく合うんですよ。オンでもオフでも合うんです。それが楽しみで生きてられるぐらいなので。前は苦痛でしかなかったツアーが。
大橋トリオ 撮影=横井明彦
――それも聞こうと思ってたんですよ。かつては、明らかにライブが好きなタイプじゃなかったですよね。それがいつのまに、こんなにライブ好きになったのかな?って。
今のメンバーになってからですよ。
――と、いうことなんですね。
そうそう。それもあって、じゃあ、それ以外の部分は委ねてみようと。
――ああ。全部つながりました。
今後、どうなっていくかわからないですけどね。今の感じが続くのなら、それはそれでいいのかなと。「今後どうなっていきたいですか?」ってよく聞かれるんですけど、「今の感じでいいです」って。
――そう言えるのって、最高じゃないですか。
でもね、どの時代もそう言ってきたんですよ。状況はどんどん変わっていくし、それを正面で受け止めるのは、得意だと思いますね。だって、そうするしかないもんって。ごねても、変わらないことは変わらないから。諦めが良くなった。
――幸せな状態ですね。さっきの期の話で言うと、幸福期。
幸せな状態、なんでしょうね。そう思います。ただ、そのぶん犠牲にしてることもあるようには思います。具体的にはわかんないけど。光があれば影があるし、影があるから光を認識するし。それはもう、バランスというものがあるわけで、それは必要なものだろうなって、自分ではわかってるつもり。だから何が起こっても、ビビらない。
――頼もしいです。そして今回のアルバム、非常に溌溂とした音が詰まっていると思いましたね。ビートがすごく立ってる曲が多い。
溌溂ね。最初、ダンスがテーマだったんですよ。それである程度作って、途中でやめたんですね。「無理!」って。
――あはは。それはなぜ。
今まで、けっこうやってるんですよ。
――ですよね。確か2枚目の時も、そういう話を聞いたような。
あ、2枚目の時はね、“リズム”だった。
――そうか。そうでしたね。
ダンスって、たぶん僕の中では“乗ること”なんですよ。振付けがあるダンスとかじゃなくて、乗れる音楽がダンスなんですよ。体が動いちゃうような。そういう曲って、各アルバムにあるんです。それだったら、ダンスベストを出せばいいやって。そんなニーズがあるかどうか知らないけど。
――で、ダンスをやめて。
時間もなくて、残り1か月で完パケまで行かなきゃいけない状況で、「すいません、やめていいですか?」って。レコード屋さんから注文を取る時に、ダンスって書いちゃってるかもしれないから、事前に言っておこうと思って。で、僕がいっぱいいっぱいになってたのをスタッフはわかってくれてたから、「いいよ」って言ってもらって。
――優しい。
で、最初に作ったのが7曲目の「birth」です。
――ああ、なるほど。ダンスとは真逆ですね。
そう。これは、J-POPの中でのメジャーな曲ではないけど、もしかしたら次の可能性が見えたかな?という曲になったので。今回のアルバムで、僕の中では一番重要な曲になりました。

――メジャーなJ-POPというと、この中では「SHE」とか。
まあ、そうですね。CMに書き下した曲だし。「鳥のように」は『世界遺産』のテーマだし。その2曲が入る時点で、ダンスというテーマは崩壊してるんですよね。「鳥のように」は、四つ打ちではあるけど、ダンスということではない。
――アルバムの流れも、結果的にそうなってますよね。勢いよく始まって、だんだんメロウになっていくというか。制作の変遷がそのまま出ているような。
こうするしかなかった。これ以外の曲順はたぶんないです。
――2曲目「Embark」に布袋さんを呼んで、ギターを弾いてもらおうと思った時は、まだダンスモードだったわけですね。
そう。『TRIO ERA』のゲストに出ていただいて、プラスCDにも1曲参加してくださいというオファーをしていて。で、『TRIO ERA』で布袋さんが参加してくれる新曲をやろうと決めてたんですよ。その段階では、まだレコーディングしていなかったんですよね。あれが終わってから録ったんです。
――あ、そうなのか。
本当は「VENUS」かな?と思ってたんですよ。
――「VENUS」は絶対ハマりますよ。
ハマりそうじゃないですか。でも「VENUS」のほうが後にできたんで、時間的に厳しいかな?と。布袋さんには、いちおう両方聴いてもらって……いや、「VENUS」は『TRIO ERA』の後に聴いてもらったのかな。それで、どちらでもいいというお返事だったので、『TRIO ERA』でも弾いてもらったし、「Embark」ですかねって。たぶん「VENUS」をお願いしたら、すごく細かいことを注文しちゃってたと思うんですよ。
――「Embark」のほうがシンプルなリズムギターというか、入りやすい感じはしますね。でもこっちで大正解だと思いますよ。特に技巧的なカッティングではないのに、シャキッとした音の切れ味が全然違う。
うちのドラムより、リズムがいいんですよ。テンポ通り。
――すごい。さすが布袋さん。「VENUS」も最高ですけどね。まるでポリスのような、スチュワート・コープランドが叩くと似合いそうなソリッドなビートで、ニューウェーブ感すごいな、かっこいい!と思って聴きました。
そういうイメージだったんですよ。軽いんだけど、すっげえタイト。「VENUS」はまさにそう。これはダン・パリー(Dan Parry)っていうエンジニアがいて、アデルとかをやってグラミー賞を取ってる人なんですけど。スタッフから「完全に丸投げしてみよう」と言われて、ちょっと怖いなと思ったんですよね。自分の狙いのサウンドがあって、自分のミックスの状態では、ある程度ポリス寄りだったので。で、返ってきたら、案の定どっしりとした、パンチの効いた音になってたから。まあ、これはこれでいいのかなって。どっちのほうが需要があるか?といったら、たぶんこっちだなと。
――難しいところですね。でもこれはかっこいいですよ。
うん。そう思います。でもいつか、僕の解釈のリミックスも出してみたい。アナログで出したいんですよ。

――そういうリズムの立ったサウンドに、大橋さんの柔らかい声が乗る。どんなにソリッドな音でも、大橋さんが歌うと良い意味でふわっとするというか。
どうしても、そうなっちゃいますね。
――やっぱり声ですか。アレンジを決める時に、自分の声を一番生かすためにどうすればいいか?って。
本当は、そういう曲作りをしていたんですよね。無理なく。だからこの「birth」という曲は、それが一番ハマったという。
――そうですね。まさに。
今後の方向性というか、何かが見えた。本当は、そういうふうにしたいんですよ。ここで無理すると、ライブがしんどいので。喉がもたないとか。いつか、そういうアルバムを作るようになるのかな。需要があるかどうか知らないけど。
――アコースティックで、アンビエントで、歌がしっとり響いてくるアルバム。いいと思います。
ピアノ弾き語りのみで、丸々1枚とか。
――聴きたいですね。
でも僕の、このウィスパーな声と、まろやかなピアノでは、たぶん1枚もたないと思うんですよ。2曲目ぐらいで、みんな寝れると思う。今でも、“大橋トリオは私の睡眠導入剤”とか、ツイートとかでよく見るんで(笑)。
――それは、有りなんですか。本人としては(笑)。
一生懸命リズムを刻んでる曲で、そう言われちゃうと“マジですか?”って思うけど。聴いてもらってるんだったら、別にいいんじゃないですか。再生回数が増えれば、何でもいいです(笑)。
大橋トリオ 撮影=横井明彦
モノラルがステレオになったように、次の何かはないのかな?って思うんですよね。そういう投げかけでもある。ちょっとだけね。
――そしてタイトル曲の「STEREO」。ジェントルで、抒情的な、いいメロディですね。大好きです。イーグルスとか、ああいう感じの、せつなくて爽やかな感じもあって。
イーグルスは、僕の中にけっこう入ってて。所々、匂わせてる部分はあるかもしれない。サビの後に盛り上がりを持ってくるとか。
――あ、やっぱり。
でも、これは自分ではタイトルトラックのつもりは全然なくて。
――そうなんですね。
この曲のタイトルが、一番最後に決まったんですよ。アルバムタイトルの『STEREO』が先に決まってて。ギターのチャームくん(THE CHRAM PARK)に歌詞を依頼して、「テーマはありますか?」って聞かれて、すぐに思いつかなくて。3日後ぐらいに「アルバムタイトルが『STEREO』だから、「STEREO」かな」って言ったら、「大橋さん、もう書いちゃったんですけど」って。
――おやおや。
彼は「REMINISCE」というタイトルにしていたんですけど、「でも“STEREO”でも行けますよ」って。だからタイトルトラックということではないという、そういういきさつです。そもそもアルバムタイトルも、かなり適当に決まったので。
大橋トリオ
――シンプルだけど、深読みできそうな、キャッチーなタイトルですけどね。今の時代にステレオかーって。
ジャケットを作っている時に、デザイナーの人が仮で、写真の上に“STEREO”って入れてたんですよ。これ、めちゃくちゃ可愛くないか?って。レコードに入ってそうな文字だよねって。
――まさに、LPのジャケットの端っこによく書いてあるような、フォントですよね。
でも、探しても出てこないんですよ。このフォントは。で、これがそのままアルバムタイトルでいいやって。そんな決まり方です。
――軽やかで、いいと思います。
ステレオで聴いてほしいなというのもあります。この時代にね。
――あ、そういう意味も込めている。
イヤホンで聴いてもそれはステレオなんですけど、左右という意味では。でも、ステレオコンポですよね。あれで聴いてほしいなと思います。あと、いろいろ進化してるじゃないですか、音のクオリティとかも。でも、聴く環境はステレオじゃないですか。サラウンドとかもあるのに、ステレオなんですよ、CDは。そこも進化しなくていいんですか?っていう、問いかけでもあるという。
――おおー。
もうちょっとないのかな?って。サラウンドって、追加のスピーカーを置かなきゃダメでしょ? それはあんまり現実的じゃないし。要は、モノラルがステレオになったように、次の何かはないのかな?って思うんですよね。だから、次の作品を作る頃には、ステレオじゃない何かが出ないかな?って。そういう投げかけでもある。ちょっとだけね。
――壮大な話になってまいりました。
ステレオの次のものが、そろそろ出てもいいと思うんですけどね。だから、これをステレオ最後のアルバムしようということです(笑)。
――みなさんぜひ、ステレオで楽しんでください。そしてもうすぐツアーが始まります。
楽しみですね。今回は、自分を含めて7人で回ります。
――このアルバムの空気感そのままの、幸せな空間になると思うので。みなさんもぜひ。
ぜひ、いらしてください。

取材・文=宮本英夫 撮影=横井明彦

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