闇を描き続けてきたバンドが差し出し
た光――THE ORAL CIGATETTESの大阪
城ホールワンマンを観た

Diver In the BLACK Tour ~ReI of Lights~ 2018.2.15 大阪城ホール
まず目に飛び込んできたのは、ステージの背後にデカデカと鎮座するスクリーンと映し出される海中の風景。なるほどツアータイトルに引っ掛けて、大阪城ホールを丸ごと1機の潜水艦に見立てているらしい。乗組員役の外国の男女からなされる諸注意のアナウンス映像が繰り返し流れるのだが、それがわりと適当なアテレコで笑いを誘う。開演時間が近づくと、それが急に違う展開を見せたりして場内が色めきだつ。
さらに数分後に流れた際には、今度は謎の海域に潜り込んでしまったというシリアスな内容になり、“混線した無線がキャッチした音声”という体で、唐突に「1本打って! ただいまより~」といういつもの口上が挟み込まれる。ソナーに移る謎の影、海中モニターに映る砂時計を象ったツアーロゴや、アー写にも映る赤い手……最後はデカデカとバンドロゴが映し出され、割れんばかりの歓声の中、ステージには手を掲げる4人のシルエットが。間髪入れずレーザーが乱舞し「カンタンナコト」が始まった。非常にアタックの強い、しかしシャープな輪郭の音で会場後方のレポ席までズドンズドンと撃ち抜き、山中拓也(Vo)が「飛べよ!」と煽るより早く大阪城ホール、激震。なんだこれは!
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
開演前~冒頭の一幕を観た時点で、もうこれは今のオーラルにしか成し得ない、それも大阪城ホールでしか成し得ない一夜が約束されたわけだが、中身に関して言えば、バンドにとっての記念碑的公演という意味で比較対象となる昨年の日本武道館ワンマンとはまるっきりベクトルが違っていた。当然同じ曲もやっているし、特効や照明は派手で、アートとホラーとサイケが絶妙に入り混じる視覚効果もこれまでを踏襲しているが、いずれもしっかりアップデートを果たしていたし、何より、バンドヒストリーを下敷きに“キラーチューン祭り”をしたり、抱え続けた心情を吐露する一幕があったり、いま思えばバンドがより高く翔ぶために、“それまで”を総括しバンドの美学を改めて明らかにする意図も見えた武道館に対し、この日の城ホールは、精神的にも音楽的にもそこから圧倒的に前進した今の自分たちが何を見せたいか、どこまで見せられるか?というビジョンと挑戦を、ホームである関西の地に記すものであった。
山中が「なんばHatchやZeppでした約束が、あなたたちのおかげで叶いました。やっぱ関西って特別です」と感慨を口にするなど、祝福感に包まれるシーンはふんだんにありつつも、全体的にはむしろストイック。常に“次”を期待させたいという彼らの哲学が、終始その演奏や発言、立ち居振る舞いの至るところから伝わってきた。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
序盤からいきなり燃え上がった大炎を「CATCH ME」で確かなものにすると、あきらかにあきら(Ba)の休符でノセていく洒落たフレーズを中心にカラフルなグルーヴが醸成された「N.I.R.A」を繰り出し、休む間も無くイントロから中西雅哉(Dr)による勇ましい2ビートが再び場内を猛らせ、音に孕んだ狂気を増幅させる高速タッピングを連発する鈴木重伸(Gt)、その鈴木と山中が背中合わせにギターソロを弾くシーンに喝采が起きた「Uh...Man」。名指揮者か、はたまた何かの教祖みたいにオーディエンスの波を自在にコンダクトしていく山中。さらにはグッとテンポを抑え、色気と郷愁が歌声に滲む「リメイクセンス」へ――という流れの前半戦。よくよく考えるとカップリング曲や初期よりの楽曲が並んでいるのだが、そこに向けられる盛大なリアクションからは、いずれも望まれるべくして望まれ、鳴らされている強力なナンバーばかりであることがよくわかる。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
人類による争いの歴史への疑問とともに歌われた「WARWARWAR」のあと、インターバルを挟んでの「接触」「嫌い」というディープなゾーンは、オーラルが徹底的に見つめ描き続ける闇、ダークサイドの深淵にたっぷりと浸れる時間に。重厚なヘヴィネスをまとったサウンドと、低音域でより深みを増す山中のボーカルが描き出す闇は、単に世を悲嘆する故のものでも、ヘイトを吐き出すのみに終始しているわけでもない。では何故彼らは闇と向き合うのか。それは、直後に「暗い歌にこそ光がある」と語って披露した「Flower」で<あなたの見ている世界は――>と歌いながらゆっくり、グルリと指差してみせた場内の眩い光景のように、闇を描くことでしか表現できない光が確かに存在するからだ。このライブのタイトルとも密接に関わってくる話だが、時系列上それはあとで書く。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
前日のバレンタインにまつわる緩めのトークと、かつて大阪城ホールで行われたイベントにオープニング・アクトとして出演した際に味わった悔しさについて語ったあとの、後半戦は怒涛だった。口火を切ったのは、当時その苦い経験の中で唯一の光明であったという楽曲「大魔王参上」。コール&レスポンスや、あきらによるスラップ、片足を何度も高々と上げるアクションでも沸かせ、中間の掛け合い部分もバッチリ決まった。フルスロットルのままどんどんギアを入れていくバンドと、完璧に呼応するオーディエンス。「5150」では照明が煌々と点く中、大シンガロングが場内を満たし、続く「mist...」でもあまりのリアクションの大きさに山中が思わず「ちょっと待って、生きてきた中で一番キモチよかったわ」とこぼす。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
「数あるバンドの中で、圧倒的でいたいんです、俺ら」「やっぱりオーラルが一番モンスターバンドやわ、って思われるバンドに、絶対なってやります!」と気炎を上げたあとに続けて、どんな場所でやるのかよりも、このステージにいるのがどんな人間でその前にいるファンがどんな人間か、そこで何が生まれるかの方が大事なんだ、とも投げかける。ともすれば矛盾しているようにも思える発言だが、そこを矛盾にせず進み続けてきたのがオーラルであり、直後に鳴らされた「ONE’ S AGAIN」は、そんなやり方で地元のシンボル的会場でワンマンを行うまでになった彼らの、凱歌のようであった。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
最終盤。ついに打ち込まれた決定打「狂乱 Hey Kids!!」では、左右の花道の端まで進み出た両翼の二人、膝を折っての鈴木渾身のギターソロ、山中の「大阪城ホール、よくできました」という決め台詞、一つひとつの瞬間に割れんばかりの大歓声が降り注ぐ。華々しく放たれたトドメの一撃は「BLACK MEMORY」だ。考えてみたらこのラスト数曲、場内はほとんどずっと歌い続けたまま。バンドもオーディエンスも文字通り限界突破を見せつけて、本編を終えた。
アンコールはまず、どんなに会場が大きくなってもちゃんと訪れる、中西のもうひとつの見せ場『まさやんショッピング』(物販紹介です)から。「みんなの夢であり目標になれるように」(鈴木)、「ロックシーンのテッペン、一緒に目指しましょう」(山中)と頼もしい発言も聞けたところで、メジャーデビュー曲でもあった「起死回生STORY」を披露する。完璧すぎる流れ、このまま終わっても何の不満もないライブであったはずだ。が、この日はこれで終わりではなかった。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
最後に披露されたのは、新曲「ReI」。
流行りでも、チャートの順位なんかでもない、本当に伝えなければいけないメッセージ、今伝えなければならないメッセージは何なのか。長い間悩んで生まれたこの曲が、光り輝くことを願っている――そう語った山中が己の声と自身の奏でるギターのみで優しく歌いはじめ、アグレッシヴなビートとともにバンドINすると、明るい未来を、光を願うその言葉と音は、力強く弾み出していった。
そして演奏後にはこの曲を一歩目として、“ReI project”というプロジェクトが本格始動すること、同曲がより多くの人に触れるようフリーダウンロードという形で配信することが告げられた。「ReI」というタイトルの意味やその背景が、具体的に語られることはなかったが、歌詞やサイトに載ったメッセージ、「はじめて自分以外の誰かを想って書けた曲」という言葉から、震災を始めとする自然災害など、様々な困難に直面した人々へ希望をもたらすために生まれたことは間違いないと思う。同時に、この曲がオーラルだからこそ生み出せた闇を照らす一筋の光として、おそらく彼らのバンド史においても重要な一曲となるであろうこともまた、間違いない。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)
繰り返しになるが、音もパフォーマンスも発言も立ち居振る舞いも、このクラスの会場すら完全に掌握できるほど、彼らはどんどん大きく新しくなっていて、この日の構成や演出にしても多分、ライブハウス規模ではなかなか成立しない。にもかかわらず、この日はライブハウスにいるような感覚になることが、そういえば何度もあった。ライブハウス仕様のまま大会場でライブをするのとも、大会場向けのパフォーマンスに特化していくのとも違う、どちらの魅力も内包できるバランス感覚の良さ。あくなき上昇志向と目の前の人を大切にするスタンスしかり、関西の兄ちゃん的な親近感とカリスマ性しかり、闇と光しかり。相反する要素を併せ持つことのできる稀有なバンド・THE ORAL CIGARETTESは、前人未踏のルートから、確実にロックの頂へと歩みを進めている。

取材・文=風間大洋
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle Photography)

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