撮影:稲澤朝博

撮影:稲澤朝博

“誰も知らない稲垣吾郎”が覚醒する
!『クソ野郎と美しき世界』を現場&
コメントから読み解く:Vol.1

『クソ野郎と美しき世界』で見せる、3人の新たな姿とは? 稲垣吾郎編をお届け!

SMAPの稲垣吾郎、香取慎吾、草なぎ剛がトリプル出演する話題の映画『クソ野郎と美しき世界』。本作は3人がそれぞれに出演する3つのエピソードと、3人が豪華共演陣“クソ野郎★ALL STARS”と一緒に一堂に会する最終エピソードからなるオムニバス・ムービー。
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3人の持ち味と魅力が、彼らのことをよく知る、あるいは未知の化学反応を起こすだろう気鋭のクリエイターや映画監督によってどんな形で開花するのか? ファンはそこがいちばん気になっているに違いない。そこでここでは特にそこにスポットを当てて、彼らや監督、共演者のコメントを紹介していこう。
本当の僕は誰も知らないと思いますから(稲垣)本作のオープニングを飾るepisode1『ピアニストを撃つな!』は、稲垣吾郎と、『冷たい熱帯魚』(11)、『ヒミズ』(12)、『新宿スワン』(15)などの奇才・園子温とタッグを組んだ幕開けに相応しいノンストップ・ラブファンタジー。
稲垣と言えば、三池崇史監督の『十三人の刺客』(10)では極悪非道の松平斉韶をクールに怪演。現在も香取慎吾主演の『座頭市 THE LAST』(10)のメガホンをとった阪本順治監督の新作『半世界』に主演が決定し、自他ともに認める映画通としても知られている。
そんな稲垣が、園子温監督とタッグを組むと聞けば、それだけで映画ファンならワクワクするに違いない。ふたりの出会いは、稲垣がホストを務めるバラエティ番組『ゴロウ・デラックス』に園監督が『TOKYO TRIBE』(14)の宣伝を兼ねて出演したときにまで遡る。
「珍しいパターンですよね。番組のホストとして監督と最初にお会いして、1時間半ぐらいかかる収録の合間に映画の話をいろいろさせていただき、そのときに“監督の映画にぜひ出演させてください”というお願いをしたので、それが今回実現して本当によかったなと思います」。今回の撮影現場の都内某所で、撮影2日目の稲垣はそう嬉しそうに微笑んだ。
「しかも、昨日と今日は僕が演じる主人公の部屋のシーンを撮影しているんですけど、部屋にはピアノがあるし、真っ赤な薔薇の花も飾ってあって。僕の好きなものに囲まれた空間で撮影しているので、すごく癒されます(笑)」
それもそのはず。何しろ稲垣が本作で演じているのは天才ピアニストのゴロー、つまり自分自身なのだ。
「あまりそこは考えてなかったけれど、確かに(香取)慎吾ちゃんもepisode2で慎吾ちゃんを演じているし、不思議な感覚です。ただ、僕たちの世界は普段から稲垣吾郎が稲垣吾郎を演じているようなところがあるので、そんなに違和感はなくて。
僕をアテて台本を書いてくださっているのは分かりますし、こういう風に見られているんだという発見もありましたけれど、劇中のゴローは本当の僕ではないし、本当の僕は誰も知らないと思いますから(笑)」
それを受けて、脚本も担当した園監督が続ける。
「今回はこれまでの吾郎ちゃんのイメージを尊重しつつ、ちょっとキワドイ描写もしていて。初っ端からシャワーシーンで始まりますからね(笑)」。そのコメントを、稲垣が「そうなんですよね」と笑顔で受け継ぐ。
「自分の中では、今回の作品はいままでの僕のパブリックイメージや、やってきたことを超える挑戦。自分もまだ知らない自分を見せることができたらいいなという気持ちで演じています」
今回は特に現場のライブ感が大切
新しいことに挑戦してくれる先輩たちがいたら、ついていかないと(満島)いったい本作に登場するゴローはどんなキャラクターなのか? 園監督は独自の世界観の中で稲垣吾郎をどう料理したのか? だんだん気になってきたと思うので、ここでこの『ピアニストを撃つな!』の概要とキャラクターを紹介しておこう。
フランス、ヌーヴェルヴァーグの名匠フランソワ・トリュフォーの名作『ピアニストを撃て』(60)からタイトルと人物構成だけをいただいた本作だが、園監督は「トリュフォーの映画は大好きですけど、これはトリュフォーとは何の関係もなくて。どちらかと言うと、リドリー・スコット監督の世界観に近いかな」と嘯く。
そう言われてみると、この日の撮影現場に集まった俳優陣のヘアメイクや衣裳は何となくそれっぽいが、セクシーな衣裳を着たヒロインのフジコ(馬場ふみか)が疾走する本作は、どちらかと言うとトム・ティクヴァ監督のドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』(98)を想起させる。
走って逃げるフジコを、不気味なマスクをした極悪人・マッドドッグ(浅野忠信)と手下のジョー(満島真之介)が追いかける。彼らが向かう先には天才ピアニストのゴローが……。
稲垣もそんなハイテンションで突き進む園子温ワールドの住人に完全になりきり、「さっきフジコとの出会いのシーンを撮ったんですけど、この衣裳の馬場さんを見て、僕は朝からドキドキしちゃいました」とテレながら告白。
「それに早速、顔を1ミリぐらいの距離まで近づけるシーンの撮影があったんですけど、目に焼きついてしまいました(笑)」と興奮気味に語り、馬場を「本当ですか? 嬉しいです」と喜ばせた。
自毛を黄緑色の短髪にしたジョー役の満島は、稲垣とは映画『おしん』(13)以来の共演となる。
「でも、あのときは一緒にお芝居をするシーンがまったくなくて。今回、やっと会えたから、すごくワクワクしたし、楽しいです。そうじゃなきゃ、髪もここまでやらない。
“カツラじゃイヤだ!”って僕が言ってこうなったんですけど、新しいことに挑戦してくれる先輩たちがいたら、下の者はついていかないと。内容以前にそこに加担したいという思いが強かったですね」(満島)。
その言葉を聞いて、稲垣が「ありがとうごさいます」と自然に頭を下げていたのも印象的だ。
さらに、冒頭からブチ切れた芝居を全開させるマッドドッグ役の浅野忠信が「今回は台本をあまり読み込んでなくて。すごく面白い役なので、現場で感じたまま、めちゃくちゃやればいいかなと思っています」と語ると、稲垣は「なんか、そういう映画のような気がしてきました」と何やら自分の中で腑に落ちた表情に。
「園監督はもともとそういう風に映画を作られていると思うんですけど、今回は特にそんな現場のライブ感が大切な気がしてきました。台本はあくまでもガイドであって、現場で変わることも多いですから」
それでは、稲垣にとって初めて臨んだ園子温監督の現場はどんな世界だったのだろう?
“ゴロー役”に込めた園監督の狙い
“ゴロー役”に込められた、園監督の狙いとは「園監督は、テストをやらずにいきなり本番に入ったりして、自分がこれまでに演出していただいた監督とはリズム感がまったく違うんです。でも、僕はすごく自分を役の気持ちに持っていきやすいし、そのリズム自体がとても心地よくて。
それに、さっきも言ったように、現場で変わることがすごく多くて。映画の前半はずっと僕のナレーションでストーリーが進むんですけど、昨日、早速“ナレーションをセリフに変えてくれ!”と監督に言われたので、慌てて楽屋で覚えました(笑)。だけど、そういうことがむしろ楽しいんですよね」
園子温の現場を経験した俳優…特に新進の女優の中には監督に追い込まれた人たちがたくさんいるが、「楽しい」という言葉を連発する稲垣はそんな過酷な状況とは無縁だったようだ。
「『ゴロウ・デラックス』に出演していただいたときに、監督が女優さんをけっこう厳しく演出されている映像ばかりがあえて流れたし、過激な映画をいっぱい撮られているので、僕も最初は怖い方なのかな? と思っていたんです。
でも、実際にお会いしてお話をしたときに、怖いとかワイルドといった会う前のイメージとは違って、繊細で、少し女性的と言うか、中性的なものを僕は監督から感じたんですよね。
もちろん、僕は昨日と今日の2日間しか撮影をしていないから、みなさんがどんな経験をされたのか分からないですけど、現場もそんなに体育会系な感じではないですよ」
稲垣がそこまで冷静に分析できるのも、彼が園子温の現場の“水”が合っていたことの証。実は、稲垣が演じるゴローの詳細はネタバレになるので多くは書けなかったのだが、園監督の狙いは何となく想像できる。
それはぶっ飛んだシチュエーションを用意し、ぶっ飛んだ共演者たちをぶつけたときに、彼の中からどんな未知の顔が出てくるのか? という試みだ。
本人も語っているように、園子温監督の手で、私たちが見たことのない“稲垣吾郎”が覚醒するのは間違いないだろう。

ウレぴあ総研

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