「仮面ライダービルド」

「仮面ライダービルド」

【芸能コラム】戦うヒーローの姿を通
して、戦争の本質に迫る骨太なドラマ
「仮面ライダービルド」

 「平成仮面ライダー」シリーズ第19弾として昨年9月に始まった「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系 毎週日曜午前9時放送)。さまざまな謎をはらみつつスピーディーに展開する物語や、若手俳優たちの生き生きとした演技など、見どころの多い作品となっている。それらに加えて、中盤を迎えた今、見た目以上に骨太なドラマが繰り広げられているのも特徴だ。
 謎のアイテム“パンドラボックス”の力で出現した巨大な壁“スカイウォール”によって、東都、北都、西都の三つに分断された日本。三地区はそれぞれに政府を樹立し、政治的均衡を保っていた。東都に暮らす桐生戦兎(犬飼貴丈)は、過去の記憶を失いながらも、仮面ライダービルドに変身して未確認生命体“スマッシュ”と戦っていたが…。
 ヒーローものの定石を押さえた展開で幕を開けながらも、やがて仮面ライダーが単なる正義の味方ではないことが明らかになる。それは、「スマッシュから人々を守る」という戦兎の意志とは程遠い、「仮面ライダーは東都政府が軍事目的で開発した兵器」という事実だった。さらに、北都が東都に宣戦を布告。「戦争の道具になるつもりはない」という自らの意志に反して、戦兎は仲間の仮面ライダークローズこと万丈龍我(赤楚衛二)と共に、北都が送り込むスマッシュや新たな仮面ライダー“グリス”と戦うことになる。
 平和のために戦ってきた仮面ライダーが、自衛のためとはいえ、戦争に駆り出される構図は、子どもがメーンターゲットの作品とは思えない痛烈さだ。(もちろんそこには、戦兎なりの葛藤がある)。第20話(1月28日放送)では、「戦争を終わらせたい」と願う万丈が、軍隊を率いて北都へ進撃しようとする姿を描いて見せた。「自衛か侵略か」という問題にまで踏み込もうとする展開に正直、驚いた。
 さらに、北都の強敵に対抗するため、ビルドは新たな装備“ハザードトリガー”でパワーアップするが、長時間使用すると理性を失い、あらゆるものを破壊するという副作用を持つハザードトリガーは、歯止めのない軍備拡張の象徴とも言える。
 本作のプロデューサーを務める大森敬仁は『東映ヒーローMAX vol.56』(辰巳出版)のインタビューで、「戦争とかがテーマだったりしてるので」と明言。続いて「今の国際情勢とかを考えると、本当にそこまでやれれば面白いなとも思っていたので、ちゃんと実現できてよかったです」とも語っている。その思い切った姿勢には、ただただ敬服するばかりだ。
 「平成仮面ライダー」シリーズはこれまでたびたび、力の意味を問い続けてきた。平和のためでなく、自分の願いをかなえるため、ライダー同士が戦いを繰り広げる「仮面ライダー龍騎」(02~03)。主人公が敵の怪人と同じ種族だったという衝撃的な展開を通じて、正義と悪の境界に迫った「仮面ライダー555(ファイズ)」(03~04)…。そう考えると、究極の力の行使である“戦争”を描くことは今、「仮面ライダー」という作品に与えられた使命のようにも思えてくる。
 第22話(2月11日放送)で、ビルドとグリスによる仮面ライダー同士の代表戦という形で一応の決着を見た東都と北都の戦争だが、休む間もなく新たに西都のライダーが登場。今まで鳴りを潜めていた西都が、いよいよ本格的にドラマに参入してきそうな気配だ。果たして、三つどもえの構図が動き始めた物語は、さらに戦争の本質に迫っていくのか。それともまた別の展開を見せるのか。骨太なドラマから目が離せない。(井上健一)

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