【ライブレポート】BUMP OF CHICKEN
、結成22周年の記念日に「僕たちは、
バンドを組んでよかった」

2017年9月16日(土)に幕張メッセからスタートしたツアー<BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER>の再追加公演にしてファイナル 2DAYS公演が、さいたまスーパーアリーナで開催された。その2日目にあたる2 月11日(日・祝)、会場にあったのは、新鮮なほどとても堂々としたBUMP OF CHICKEN4人の姿だった。
◆BUMP OF CHICKEN ライブ画像ページ
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開演前にトイレに並んでいると、これから始まるライブが楽しみ過ぎる様子で「知恵熱出そう」「緊張してきた」と話す女子の声が聞こえてきて、どれほど多くの人がそれぞれにヘヴィな思いを持ち寄っているかを実感せざるを得ない。今回のツアーは、全国のアリーナおよび東名阪のライブハウスを舞台に全29公演を実施し、総動員数は約30万人という大規模なツアーである。きっとこうしてひとつひとつの公演において「遂にこの時が来た」という気持ちが集結してきたのだろうと想像できて、既にどうしようもないほど感慨深い気分になってしまった。
実際のライブも、常に第一線で活躍してきた紛れもないロックバンドである4人に相応しい内容だった。升秀夫、増川弘明、直井由文、藤原基央の順でステージに登場し、雄大なサウンドスケープが奏でられていったオープニングのインストナンバー「pathfinder」の終盤では紙吹雪が盛大に舞い、宇宙のイメージをハイパーなタッチで描いたCGがビジョンに現れた「天体観測」では、サビで銀のミラーテープが勢い良く発射されるなど、演出も華やかなものだった。そして、見た目の存在感としても意味的にもインパクトが大きかったのが花道の存在で、「ray」を始めとするさまざまな曲で、升以外の3人が歩いて前に出てきてくれた。しかもこの日は実質上のファイナルのため(藤原のインフルエンザA型罹患のため見合わせたマリンメッセ福岡公演が3月に開催される)、花道がこれまでの2倍の長さに変化。のちにアコースティック・タイムになると藤原は、気恥ずかしさからなのか、普段使い慣れているからなのか、“花道”や“出島”とは言わずにここを“出っ張り”と表現し、「普通出っ張りから2倍出っ張りになりました」と言い、「なんでそうなるかと言うと、言うのも恥ずかしいくらいなんだけど、単純にね、もっと近くに行きたいなっていう気持ちがあって」と照れくさそうに笑ってみせた。この日何度も花道を行き来する彼らの姿からは、みんなの近くに行きたいというこの気持ちが本心であることがよく伝わってきた。
直井が、「はじめてメンバーから自主的にやりたいと言ってスタッフと一緒に作ったツアーです」と説明したように、所謂リリースツアーではないこのツアーは、会いたいから会いに行く、鳴らしたいから鳴らす、歌いたいから歌うというシンプルな気持ちが感じられるもので、音楽家がツアーをすることの動機そのものが見事に実ったツアーとなった。
演出といえば、BUMP OF CHICKENでは最早おなじみのLEDリストバンド・ PIXMOBが作った景色は本当に美しいものだった。色とりどりにそれぞれに輝くシーンも、一面同じ色に染まるシーンも、2万人の観客ひとりひとりの存在感をさらに増幅させていた。たとえば「記念撮影」では、鼓動のように静かに且つダイナミックに脈打つ同期とリンクして光り、アリーナ全体を包み込んでいた。
BUMP OF CHICKENの歌がこれだけ多くのリスナーと緻密に結びついてきたのは、彼らが人間の深層ばかり歌ってきたからだろう。たとえば、リリックに現れる「選んだ」という言葉は、まるで自分の置かれた現状を肯定してくれているようであり、または「迷う」という言葉は、その価値を知っているからこそ人生に対して臆病になってしまう気持ちも包み込んでくれる。こうして挙げればキリがないくらいに、聴き手とリンクし、道標になり得るのがBUMP OF CHICKENの歌だ。だから常に、若いリスナーが増え続けていることは、とても自然なことだと思う。
「人生を変えた1曲」という言い方が世の中には存在するが、1曲が人生を変えるという現象は実際きっとある。特にBUMP OF CHICKENの楽曲にはそういった感覚を抱くことが強い。そして、そんな名曲を演奏する4人は、曲の重みを背負う覚悟を十分しているのだろう。この日のステージでも、一音一音に対してとても集中しているように見えた。“バンプ・オブ・チキン”というバンド名をイメージするとき、今だに思い浮かぶフレッシュな感触と直結していた。
「GO」の大サビ前に藤原が「こんばんは、BUMP OF CHICKENです! 22歳になったぜー!! さぁ行くぞ、埼玉!」と景気よく挨拶したように、2月11日は、1996年の同日にこの4人が初めてステージを踏んだため「バンドの結成日」とされている。結成22周年の記念日当日を迎えたわけだが、「周年とか言うほどキリの良い数字でもないから、そんなに意識していなかったんだ」と藤原はのちに素直に話し、むしろこの1日を特別な日のライブとして捉えていたのは、リスナーやスタッフのほうであったことも彼ららしいかもしれない。アンコール時、観客をバックにした記念撮影の際にはオフィシャルカメラマンである古溪一道氏がシャッターを切る掛け声として「BUMP OF CHICKEN、22周年── 」と呼びかければ、「おめでとう!」と自然と観客が揃い祝った景色が象徴的だ。メンバーにしてみれば、このツアーも、これまでのツアーも、1公演1公演のライブを特別な日として迎えてきた4人だからこそ、2018年2月11日もそのうちのひとつの日として臨んでいたように思う。だが藤原は先ほどのMCで、続けて、「……だけど、ステージに立って君たちの顔を見たら、あぁ 22年やってきてよかった、ってすごく思いました」というさらなる事実を告げた。曲を追っていくごとにそんな感慨深さがアリーナ全体に広がっていった。
加えて、さいたまスーパーアリーナでのライブは2008年5月17日〜18日の全国ツアー<ホームシップ衛星>埼玉2DAYS以来、約10年ぶり。10年経っても変わらずこれだけの大規模ライブをするバンドのパワーを思い知るとともに、バンドが迎えた変化も実感することができた。
また、今回のツアーでは、これまでの歴史を振り返るように新旧のナンバーを織り交ぜたセットリストが展開された。
バンドの歩みを色濃く刻んだ「fire sign」や「リボン」も、曲に込められた重層的な思いに心が揺さぶられた。それと同時に、バンド自身について書かれたと想像できるナンバーに対してこれほどリスナーが感情移入することも、稀な事態なのかもしれないと考えた。やたらめったらに使うべきではない言葉のひとつに“絆”があるが、切っても切れない関係性がBUMP OF CHICKENとリスナーのあいだにもやはり確かにあるだろう。そして「fire sign」と「リボン」からは、この4人をはじめとする誰もが人生のPATHFINDERであるという事実を伝えられているようで、タフな気持ちを呼び起こさせてくれもした。温かくて広がりのあるメロディとビートとサウンドは、まるで永遠のような広がりを持っていた。
アンコールの演奏が終わったあとには、いつものように直井が自分の服を脱いで客席に投げたのに続き、感謝を述べて再会を誓ったMCをした増川もつられたように自分の服を投げ、さらに藤原までもが脱ごうとするフリをしてみせた流れは、可愛らしくも、メンバーから溢れ出る気持ちの大きさが感じられた。花道ですれ違う時の直井と藤原のハグや、藤原と増川のハイタッチも印象深い。
そして藤原は、この日何度目かわからない真心のこもった“ありがとう”の言葉からスタートし、熱い思いを述べていくと、最後に「1個だけ伝えさせて欲しい。僕は、僕たちは、バンドを組んでよかった。本当にどうもありがとう」というあまりにも率直な気持ちが飛び出してきたため、グッと来た。
だが、彼の思いは、まだ心のなかに収まっていかなかった。一度ステージから去りひとり戻ってきた藤原は、メンバーもまだ聴いていないという新曲を弾き語りで歌ったのだ。「あぁ どうしよう緊張する」「果たして上手に歌えるだろうか」という本人の心配をよそに、藤原が極限まで集中して出した声と音に、思わず鳥肌が立つ。出来上がりを楽しみにしたいが、BUMP OF CHICKENから届く曲の多くがいつもそうであったように、まったく新しいのになぜかまるで膨大な時を共にした級友との再会みたいに懐かしくてすぐ肌になじみ、そして生々しい曲だったということは間違いなく言える。いつかこの曲をまた聴ける日が来るのが、今から楽しみだ。
この日、藤原が最後の最後に放ったのが「これからもよろしくね」というひと言だった。そんな素朴なひと言から、あまりにも深い意味を受け取ることができたライブだった。
取材・文=堺 涼子(BARKS)

撮影=古溪一道
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