【インタビュー前編】マリリオン「自
分たちをプログレと思ったことはない
よ」

止まっていた時計の針が、ついに動き出す。英国プログレッシブ・ロックの伝統を受け継ぎ、未来へと進化させていくマリリオンが日本に戻ってきた。
1980年代初め、イギリスにおけるネオ・プログレッシブ・ムーヴメントの旗手としてデビューしたマリリオンは、メインストリームとマニアからの双方から絶大な支持を得てきた。1985年&1994年に日本公演が行われながら、それ以降ずっと来日が実現することがなかった彼らだが、2017年10月に23年ぶりの日本上陸を果たし、世界を魅了してきたステージ・パフォーマンスを披露し、ソールドアウトとなった会場に集まった観衆を感涙にむせばせた。
1989年にバンドに加入し、フロントマンとして不動のポジションをキープするシンガー:スティーヴ・ホガースは「日本に戻ってくることは悲願だった」と語っている。彼はマリリオンの音楽性、そしてプログレッシブ・ロックとの関わり方などについて、じっくり話してくれた。


──久しぶりの来日公演が実現した感想を教えて下さい。
スティーヴ・ホガース:本当に嬉しいよ。バンドは最高の状態だしベストなタイミングだ。日本に来る1週間前にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでショーをやったんだ。誇りにできるショーだったし、バンドのテンションが高いままで日本に来ることができた。前回の日本公演ではお客さんの反応が素晴らしかったことはよく覚えているけど、その後はCDのセールスのこともあったし、ヨーロッパやアメリカのように長いツアー・スケジュールを組むことも難しくてなかなか来れなかった。ツアーには大金がかかるんだよ。クルーも大勢いるし機材もあるしね。だから、もう二度と日本ではプレイできないかも…と諦めかけたほどだった。でもまた戻ってくることができた。これからはもっと頻繁に日本に来れたらいいね。ヨーロッパのツアーではまず『FEAR』を全曲演奏して、短い休憩を挟んで後半のセットをプレイするという2部構成だった。でも日本でプレイするのは久しぶりだから、『FEAR』からは2~3曲をプレイして、これまで発表してきたアルバムから満遍なくプレイするようにしたんだ。
──ロイヤル・アルバート・ホールのような大会場と川崎クラブ・チッタのようなクラブ規模の会場では、ステージ・パフォーマンスは異なりますか?
スティーヴ・ホガース:バンドの演奏そのものは同じでも、ステージ・パフォーマンスは会場の規模によって多少は異なる。ロイヤル・アルバート・ホールはクラシック用に作られた伝統のあるコンサート・ホールで、ストリング・カルテットやフルート奏者、フレンチ・ホーン奏者と共演した。その直後に5人のベーシックなラインアップでクラブ・チッタのステージに立つのは、とても新鮮な気分だよ。まったく異なるけどその違いを楽しんでいる。野外フェスから大会場~クラブまでそれぞれの楽しさがあるんだ。イギリスでもマンチェスターのアカデミーみたいな小さな会場でプレイすることがある。ロンドンのフォーラムは3千人ぐらい入る大型のクラブだ。いろんな規模の会場でやれるのがマリリオンの強みだよ。このバンドには熱心なマニアもいればライトなファンもいる。彼らの年齢層も幅広い。あらゆる層がライヴ会場に来てくれるんだ。
──現在のイギリスではベテランから新世代までプログレッシブ・ロックが活況を呈していますが、その中でマリリオンはどのような位置を占めているのでしょうか。
スティーヴ・ホガース:イギリスでは雑誌『PROG』が刊行されて好調らしい。マリリオンもよく載せてもらっているよ。いわゆるプログレッシブ・ロックはイギリスでは1970年代から無視されて、時には嘲笑されてきた。パンク・ロッカーはプログレッシブ・ロックを目の敵にしてきたんだ。そんな嫌われ者だった音楽が21世紀になって新しいファンを集めているのは興味深いことだと思う。ただ、マリリオンがやっている音楽を狭いジャンルの枠内に閉じ込めるつもりはないんだ。僕たち5人とも特定のジャンルに属しているつもりはない。どこにいても居心地が悪い気がするんだ。まあ、アルバムに20分の曲を収録したりすれば、プログレッシブ・ロックと呼ばれる覚悟はした方がいいんだろうけどね(笑)。
──1992年にレア・バードの「シンパシー」をカバーしたあたりは、まるでプログレッシブ・ロックと呼んでくれと言わんばかりでしたが...。
スティーヴ・ホガース:それはもう大昔の話だよ。まあ当時もプログレッシブな曲をカバーするという認識はなかった。ただ好きな曲をカバーしただけだったんだ。あの曲をレコーディングすることを提案したのは僕だった。少年時代から好きな曲だったんだ。メンバー達は誰も興味を示さないと思ったけど、みんな「面白い、ぜひやってみよう」と言ってくれて驚いたよ。我々がジャンルにこだわらないようにしているのは、音楽に壁を設けたくないからなんだ。自分の創造性を制限したくないんだよ。ジャンルというのはジャーナリストや評論家のためにあるんだ。彼らは言葉で音楽を説明する必要があるからね。でもミュージシャンにとっては、ホルストの『惑星』もザ・クラッシュもジェネシスもペット・ショップ・ボーイズも、すべて同じ“音楽”なんだ。
──英語でダーティー・ワード(卑語)は4文字が多いですが、“プログレ=PROG”も4文字言葉ですからね。
スティーヴ・ホガース:その通りだ(笑)。
──“PROG”以上にダーティーな4文字言葉に“ポンプ=POMP”がありますが、初期マリリオンはポンプ・ロックと呼ばれましたね。
スティーヴ・ホガース:うん、でもそれは最初期のマリリオンを形容する呼び名だった。僕が加入した時点で、既に死語になっていたよ。まあ実際、マリリオンの音楽は“pompous=大仰、尊大”だよね。壮大でシネマチックで過剰にエモーショナルで...それを否定するつもりはないよ(笑)。
──1980年代前半のポンプ・ムーヴメント/プログレ・リバイバルではマリリオン、パラス、トゥエルフス・ナイト、IQ、ペンドラゴンなどがいましたが、彼らの音楽をどのように評価しますか?
スティーヴ・ホガース:正直なところ、彼らの名前は知っているけど音楽はあまり知らないんだ。彼らと一緒にライヴをやる機会もないし直接の面識もほとんどない。
──『FEAR』で「エルドラド」「ザ・リーヴァーズ」「ザ・ニュー・キングス」という資本主義をテーマとした3大組曲を小曲で繋ぐという構成は、ピンク・フロイドの『アニマルズ』(1977)を思い出しました。
スティーヴ・ホガース:それはまったくの偶然だよ(笑)。実を言うと、『アニマルズ』はあまり聴き込んでいないんだ。1回か2回しか聴き通したことがないよ。ピンク・フロイドで僕が好きなのは「アーノルド・レイン」とか「シー・エミリー・プレイ」みたいな1960年代の初期のシド・バレットがいた頃なんだ。もちろん『狂気』(1973)や『ザ・ウォール』(1979)は発売当時に聴いたけどね。
──その他、1970年代にプログレッシブと呼ばれたロックは聴いていましたか?
スティーヴ・ホガース:イエスやジェネシスは大好きだった。17歳の頃は彼らのレコードを日常的に聴きまくっていたよ。初めてイエスを聴いたのは『イエス・サード・アルバム』(1971)だったと思う。『こわれもの』(1971)、『危機』(1972)、『海洋地形学の物語』(1973)は大好きだったし、ツアーのたびにライヴを観に行ったよ。ジェネシスも『フォックストロット』(1972)、『月影の騎士』(1973)ツアーの公演を見に行ったし、『眩惑のブロードウェイ』(1974)ツアーでは2公演を観に行った。残念ながら当時ピンク・フロイドを観る機会はなかったんだ。観ていたらもっと印象が変わっていたかも知れない。
──その後、どんな音楽から影響を受けてきたのですか?
スティーヴ・ホガース:十代後半から歌詞の世界に魅力を感じるようになって、いろんなシンガー・ソングライターを聴くようになった。ジョニ・ミッチェルやポール・サイモン、プリファブ・スプラウト...1980年代にはトーマス・ドルビーやブルー・ナイルとかね。だからプログレッシブ・ロックは1970年代のものという感覚があった。マリリオンに加入することになって、一番驚いたのは僕自身だったよ。
──マリリオン以外のバンドに加入する可能性はありましたか?
スティーヴ・ホガース:実はマリリオンに加入する直前、ザ・ザに加入する可能性があったんだ。マット・ジョンソンから電話をもらった。彼らの『インフェクテッド』(1986)でピアノを弾いたことで、気に入ってもらって誘われたんだ。それは『マインド・ボム』(1989)に伴うツアーで、ジョニー・マーがギタリストだったし、かなり興味を惹かれた。でも、マリリオンでやる方がバンドのクリエイティヴな部分に関われると感じたんだ。
──現在マリリオンでやっている音楽を、どのように表現しますか?
スティーヴ・ホガース:マリリオンの音楽は何でもありなんだ。とにかく5人で集まってジャムをやってみる。そうして面白いものが生まれたらそれを煮詰めて、曲の形にしていくんだよ。そんな作業の中に、ジャンルという概念が入り込む隙はない。マリリオンでやってはいけないことはたったひとつだけ…それは、既にやったことの繰り返しだ。前作や10年前、20年前にやったことは二度とやらないように心がけている。常に新鮮なサウンドを追求することで、自分自身を刺激したいんだ。世界中のファンが僕たちのやっていることを気に入ってくれたら嬉しいけど、曲を書いたりレコーディングするときには彼らのことは頭にない。まず第一に、自分を満足させることを優先するんだ。
──なるほど。
スティーヴ・ホガース:“ファンのために音楽をやる”と言うと一見素晴らしいように思えるけど、実は大きなミステイクなんだ。まず第一に、ファンのために...というのは、自分が本当にやりたいことではないということだ。そして2つめ、ファンが何を求めているかなんてわからない。ファンのために自分を曲げても、ファンがそれにソッポを向く可能性だってある。僕が若い頃、スーパートランプのダギー・トムソン(B)と出くわしたことがあった。「やりたいことがあったら、自分のやりたいようにやるんだ。ビジネスのこと、ラジオのこと、お客さんのことを考えてはいけない。自分をエキサイトさせることだけに集中するんだ。レコード会社に指図させちゃいけない」とアドバイスされた。彼は正しかったと、今になって確信しているよ。
──マリリオンとスーパートランプはどちらも普遍的なロック/ポップを演奏しながら、レコード店のプログレッシブコーナーに置かれることが少なくないバンドですね。
スティーヴ・ホガース:うん、その通りだ。スーパートランプは本当に優れたポップ・ソングを書いてきたバンドだし、プログレではない先進的な音楽をやっていた。彼らのことは尊敬しているよ。
──1970年代前半、アンダーグラウンドなプログレッシブ・ロックを聴くことはありましたか?
スティーヴ・ホガース:うーん…ないなあ。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターはアンダーグラウンドではないよね?あえて挙げるとしたら、オランダのスーパーシスターは知っているかな?僕が17歳の頃、よくパーティーで彼らのレコードを流していたよ。それとカーヴド・エアーのダリル・ウェイは僕がウィンザーに住んでいるとき飲み友達だったんだ。「ザ・ザにピアノ奏者として誘われていて、マリリオンもシンガー候補として会いたいと言っているんだけど」とダリルに相談したら、「マリリオンはみんなすごく良い人たちだから会ってみるべきだよ」と背中を押してくれた。かつてイアン・モズレイがダリル・ウェイズ・ウルフでドラムスを叩いていたからね。ちなみにダリルのマネージャーはマイルス・コープランドだったんだ。ポリスのスチュワート・コープランドのお兄さんだよ。
──スチュワートはカーヴド・エアーのソーニャ・クリスティーナと結婚していましたね。
スティーヴ・ホガース:そうだったね。彼らが知り合ったのがダリルやマイルスと関係あったのか、僕は知らないけど...ソーニャとは日本に行く1ヶ月前、『PROG』誌のアワード(授賞式)で会ったよ。久しぶりに話すことができて楽しかった。ダリルはウィンザーに住んでいた頃、7~8年ぐらいずっと親友だったし今でも連絡を取り合っているよ。
──マリリオンに加入する前、あなたはジュリアン・コープの『セイント・ジュリアン』(1987)に参加していますが、それはどんないきさつによるものだったのですか?
スティーヴ・ホガース:すごい昔のことを引っ張り出してくるね(笑)。あのときはバック・ボーカルをやったんだ。あのアルバムで数曲をプロデュースしているウォーン・リヴシーと知り合いだった。彼は僕がいたヨーロピアンズというバンドの『Recurring Dreams』(1984)のエンジニアだったからね。そのアルバムのプロデューサー、デヴィッド・ロードはピーター・ゲイブリエル『IV』(1982)も手がけていた。ウォーンはザ・ザの『インフェクテッド』(1986)のプロデューサーでもあった。それである日、「ジュリアン・コープのレコードでバック・ボーカルをやらない?」と誘ってくれたんだ。僕はジュリアンのシングル「ワールド・シャット・ユア・マウス」(1986)や彼がいたザ・ティアドロップ・エクスプローズの「リワード」(1980)が好きだったから、喜んでやることにしたよ。
──ジュリアン・コープはどんな人でしたか?
スティーヴ・ホガース:残念ながら、ジュリアンと親しくなる機会がなかったんだ。僕が参加したのは1日のレコーディング・セッションだけで、彼は誰か知らない人とずっと一緒にクスクス笑ったり、オモチャで遊んだりしていた。まるで子供のようだったよ。興味深い人物であることは確かだけど、近くに寄るのがはばかられる感じだった。
──ジュリアンはジャーマン・プログレッシブ・ロックが好きで、後に評論書『Krautrocksampler』を刊行していましたね。
スティーヴ・ホガース:私が彼のセッションに参加したときは、どれぐらいプログレッシブ・ロックに傾倒していたのか知らない。そういう会話をしなかったからね。『セイント・ジュリアン』はポップ・テイストが強くて、あまりプログレッシブ色がないから、後になって彼がマニアだと知って驚いたよ。ジュリアンは常に妥協のない音楽をやってきたし、彼の声のトーンが好きなんだ。機会があれば一度話してみたいね。
後編では、スティーヴの“プログレッシブ観”をさらに掘り下げてみよう。
取材・文:山崎智之

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