わたしの街! the peggies・北澤ゆう
ほの神保町案内

北澤ゆうほ(Vo. & Gt.)、石渡マキコ(Ba.)、大貫みく(Dr.)からなる3人組ロックバンド、the peggies(ザ・ペギーズ)が、2年半ぶりのミニアルバム『super boy ! super girl !!』をリリースした。本作には、これまで以上に彼女たちのリアルな青春や恋の要素がぎゅっと詰まっている。その内容をひもとき、the peggiesのルーツを深掘りするために、ソングライティングを手がける北澤ゆうほの案内で、彼女が生まれ育った街・神保町を一緒に歩いてみることにした。
the peggiesと北澤ゆうほの原点をめぐる冒険、あるいは神保町というフォトジェニックな街の入門ガイドとしてどうぞ。

Photography_Ari Takagi
Interview & Text_ Sotaro Yamada
Edit_ Momoka Oba

the peggies・北澤ゆうほと歩く神保町

1軒目:『ラドリオ』

まずは喫茶店『ラドリオ』にて待ち合わせ。神保町に喫茶店は多いけれど、なかでも昭和24年創業の『ラドリオ』はもっとも老舗のひとつ。スペイン語で「レンガ」を意味する通り、古風なレンガ造りのお店は昭和モダンと独特の温かみを感じさせる。
ミーティア編集部がお店に着くと、すでに店内でくつろぐゆうほさんの姿が。注文したのは、名物の「ウィンナー・カフェオレ」。実はこのお店、コーヒーに生クリームを乗せるウィンナー・コーヒーを日本で初めて出したお店としても有名なのだ。

ゆうほ : コーヒーもおすすめだけど、朝だから牛乳も飲みたくて。いろんな喫茶店に行くんですけど、ここのクリームは最高。見てくださいこのきれいな渦! すごいフォトジェニックじゃないですか?
ゆうほ : 初めて来たときはお父さんとふたりでした。神保町の喫茶店は、だいたい家族か友達と一緒に来てリラックスする空間として使ってます。ひとりではあんまり来ないかもしれない。というか、神保町にわたしひとりでいることってほとんどないんです。お店(北沢書店:ゆうほさんのご両親が経営する書店)があるから、だいたい親かお姉ちゃんがいるし。
――喫茶店で歌詞を書くことはありますか?

ゆうほ : 家で書くことが多いけど、集中力が限界を迎えたときは静かなところに行きたくなるので、たまにあります。でもラドリオで歌詞を書いたことはないですね。リラックスしすぎると書けないんです。ここは、ぼうっとしたいときや、お父さんとふたりで過ごしたいときに伺います。

ゆうほ : 歌詞は基本的にノートに手書き。文字数を合わせたり語呂合わせをしたりするときはiPhoneも使うけど、メッセージの芯の部分は手書きですね。たとえば『ネバーランド』なら、サビはiPhoneで、それ以外のところは手書きでノートに書きました。
(the peggies『ネバーランド』MV。“カッコ可愛い”the peggiesのイメージを更新する曲)

今回はすごくリアルに歌詞を書いた。

――今回のアルバム『super boy ! super girl !!』の歌詞に注目すると、前に進む系の強い曲と恋愛系の曲で、一人称がきれいに分かれていますね。『GLORY』『ネバーランド』は“僕”、『恋の呪い』『遠距離恋愛』が“わたし”、『ハートビート』『I 御中』が“私”です。これは意図的に使い分けたのでしょうか?

ゆうほ : まず『I 御中』は、試し書きにあった一人称で“私”が一番多かったからです。面白いことに、試し書きのなかに“僕”はあんまりなかったんですよね。
(the peggies『I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜』MV。全国の文房具店から収集した約12,000枚以上の試し書き用紙に書かれた言葉のみで作成された歌詞が特徴)ゆうほ : そのほかの曲では、使い分けているというより、自然と分かれてしまうんです。前に進む系の曲のときは、わたしの心のなかにある少年漫画の主人公みたいな気持ちを書いてるから自然と“僕”になる。一方で恋愛の曲のときは、純粋に恋をしてる女の子の気持ちになって書くので“わたし”になる。無意識に使い分けてると思います。


――昔のインタビューで“自分のことは歌詞に反映させない”って言っている記事を読んだのですが、それからなにか変化があったのでしょうか?

ゆうほ : 変わりました。わたし、ずっと勘違いしていたところがあって。“恋愛してます”って言ったり自分の恋をせきららに歌ったりしたら、ナメられちゃうのかなと思ってたんです。でもこのアルバムを作り始めてからは、一つひとつの経験にスポットを当てて具体的に書いてもいいんだって思えるようになって。
ゆうほ : もっと“嘘のないアイコン”でいたいなと思うようになったんです。その方が女の子たちも見てくれるだろうし。やっぱり、女の子に好かれたい欲がすごくあるんですよ。女子校出身だし、三姉妹の末っ子だし、女の子と距離が近くて女の子と仲が良い人生を送って来たから。もう全部言った方がいいかなと思って、今回はすごくリアルに書きました。とくに『遠距離恋愛』は、本当にそのときのことが書いてあります。
――ゆうほさんの歌詞は小説として読めるものも多いですが、今回のアルバムだと『遠距離恋愛』が一番小説っぽいと思います。この曲にはゆうほさんの本質が詰まっているように感じました。

ゆうほ : 実は、“この人がいないとわたしはダメかもしれない”ってあんまり思ったことがないんです。“思ったことがないわたし”にこれまではフォーカスを当てて、“だからわたしは強い”って思ってました。でも、好きな人と何日か過ごしたあとの別れって、その瞬間は間違いなくすごく寂しいんですよね。そういう自分の中にある女の子の要素にもっと目を向けていきたいと思うようになったんです。だから最近、Twitterにもすぐ恋愛のこと書いちゃう(笑)。
ゆうほ : たぶんわたしは、自分のことが好きなんだと思う。たとえば恋人に“かわいい”とか“好き”って言われなきゃ自信が持てないひとがいますよね。わたしはそうじゃない。自分の自信を構築するために恋人を必要としてるわけじゃないんです。恋人は、一緒にいて楽しいっていうピュアな部分でしか求めてない。だから執着はあまりしないし、自分の気持ちを押し付けて破滅に向かって行くこともしない。……とはいえ、“会いに来て”って言われたら電車でぴゅーんと会いに行っちゃうけど!(笑)

――たとえば恋人にふられたとき、自分の存在を否定されたような気持ちにはならないですか?

ゆうほ : それはそれでへこむけど、むしろ友達に“嫌い”って言われる方が絶望しちゃう。恋人にはあんまり幻想を抱いてなくて、いつかまた現れるかなって思えるんです。でも友達だと、強制的にピリオドを打たれた感というか、突き放された感じがしちゃうから。前までは、メンバーともめちゃめちゃケンカしてたんです。3人とも性格がバラバラだから、全部わかろうとすると絶対にわかりあえない部分が出てきて、それをお互い受け入れられなかったんですね。
ゆうほ : でも、20歳を過ぎた頃くらいからケンカしなくなりました。たぶん、お互いに全てを言い合うようになったからだと思います。仕事仲間でもあるけれど、もっと友達っぽくなって良いんだって思えるようになって。今も毎日LINEするし、今日見た夢の話とかもするし。これからもどんどん仲良くなっていくと思う。メンバーで神保町にもよく来るんですよ。

――友達を神保町に案内することもありますか?

ゆうほ : ありますね。最近、インスタ映えするからって神保町にたくさん人が来るんですけど、その度に“わたしが案内するのに!”って思う。友達のインスタに神保町が出てくるとちょっと嫉妬もしますね、“わたしの神保町!”って(笑)。

――じゃあ今日はたくさん案内してください!

ゆうほ : はい!
ラドリオ(LADRIO)
住所:東京都千代田区神田神保町1-3
電話:03-3295-4788
営業時間:
平日 11:30~22:30(L.O.22:00)
土日 12:00~19:00(L.O.18:30)

街全体が大きな図書館みたいなもの。

ラドリオを出て歩き出すと、どこかで見覚えのあるお店が……?

ゆうほ : あそこ、初めてまあちゃん(石渡マキコ)と遊んだガストです。まあちゃんとはよく2人で『神保町花月』にお笑いを見に行ってて。そのときにここでご飯食べてました。“クイック・レストラン”って名前の通り、料理が出て来るのすごく早いんですよ。名前に嘘がない(笑)。

ゆうほ : あと、ここ近くにある『おにぎりの小林』っていうお店のおにぎりがとーってもおいしくて大好きだったんですけど、閉店してしまって……。小さい頃、体調が悪くなると近くの病院に行って、帰りにお母さんが『おにぎりの小林』のおにぎり買ってくれて。だから学校を休んだ日のお昼ご飯はいつもここのおにぎりだったんです。そういう思い出の詰まったお店だったんですけど……。

ゆうほ : あそこにある『文華堂書店』は歴史関連の本を扱ってるんですけど、わたしは歴史が好きだったので、夏休みの自由研究のときにここで資料を集めたりしてました。
――神保町全体がゆうほさんにとっての大きな図書館だったんですね。

ゆうほ : そうなんです。あと、小学生の頃はアイドルがすごく好きだったので、昔の『Myojo』を買いに来たりもしてました。特にHey! Say! JUMPと、当時結成したてのKis-My-Ft2が大好きで。バンドを始めるまでは、お小遣いを全て使い込むほどゴリゴリのジャニヲタだったんですよね。

……と、このように、『ラドリオ』を出てたった数メートルなのに見どころがたくさん。街のあちこちにゆうほさんの思い出が詰まっていて、次から次へとオススメのお店と、それに関するエピソードを話してくれる。だから時間が過ぎるのがあっという間。気付いたときには、目の前に『北沢書店』があった。

2軒目:『北沢書店』

『北沢書店』は、なんと明治35年設立という歴史ある洋古書店。大学図書館や研究室への納本を中心に営業を開始し、昭和30年に洋書専門店へ。主に人文学系洋古書の輸入販売を営むようになったそう。英米文学を志す者の聖地としても知られている。また、the peggiesファンの間ではおなじみだが、ゆうほさんのご両親が経営している書店でもある。ゆうほさんも時々お手伝いをしていたんだとか。
お店に入ると、約12,000冊もの洋書が迎えてくれる。いわゆる“古本屋”と聞いてイメージするお店とは少し雰囲気が違って、むしろ外国の歴史ある本屋に来たみたいな感じ。
ゆうほ : 古本屋に来ると、時が止まってる感じがして好きなんです。古いものがあたらしいものの対極として、古いという理由だけで必要とされなくなってしまうのは悲しいですよね。数は減るかもしれないけど、それぞれの在り方でちゃんと魅力が発揮されるような世界であってほしいなって思う。あと、古本の紙の匂いが好き!
ゆうほさんのお母さんがお店番をしていたので、ゆうほさんの幼少時代について話を聞いてみた。

母 : 小さい頃から頑固な子でした。お勉強はそんなに好きじゃなかったし、人に使われるタイプでもないので、社会人になったらすごく苦労するんじゃないかと心配していたんです。“好きなことがある”というのは素晴らしいことですよね。
――音楽を始めたときは、将来プロになると思いましたか?

母 : 全然思わないですよね。中学生になって軽音楽部に入ったんですけど、活動に参加せずに帰って来ちゃって、先生から“来させてください”ってお電話が来たことも。でも彼女(ゆうほ)が言うには、“誰も教えてくれない”と。“みんなそれぞれグループを組んで自分たちでやってるだけだから、あれじゃうまくならない”って。だから神保町にあるヤマハのギター教室に通わせるようになったんです。他の習い事(作文や塾)はすぐ辞めちゃうのに、ギターだけは珍しく続いたんですよ。
母 : 最初は、ギターが弾けるようになれば、部活ができるようになれば、先生に呼び出されないようになれば……という思いだったので、まさかあんなに熱中するとは思いませんでした。自分のやりたいことをどうしても譲れないひとなので、それがいまの活動に繋がってるのかなと思います。

話を聞いているうちに、『北沢書店』の3代目店主、つまりゆうほさんのお父さんが到着。お父さんとゆうほさん、見るからにすごく仲が良い。お父さんにも話を聞いてみた。
――ゆうほさんの反抗期ってどんな感じでしたか?

父 : 彼女はずっと良い子でしたよ。僕はすごくラッキーで、娘に嫌われたことがなかったと思います。

ゆうほ : 女の子特有の“お父さんが気持ち悪い”とか言い出す時期もなかったよね。一昨年もふたりで福島の温泉に行ったくらいだし。

父 : 僕もこの年になって、20歳前後の子とふたりっきりで温泉旅行するとは思いませんでした。

ゆうほ : 楽しかったね!
仲の良い父娘って素敵だなあ……(ほっこり)。
ゆうほさんがプロ野球・東京ヤクルトスワローズのファンであることは有名だが、それもお父さんの影響だったという。いまでもよく一緒に神宮球場へ野球を観に行くとのこと。試合中はふたりでお酒を飲み、1回の表裏で1杯ずつ飲むことも。つまり球場で9杯も! 北澤家、こりゃあ相当な酒飲みだな……。
北澤書店
住所:東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル2F
電話:03-3263-0011
営業時間:
平日 11:00~18:30
土曜 12:00~17:30
web http://www.kitazawa.co.jp/index.html
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わたしの街! the peggies・北澤ゆうほの神保町案内はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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