性の目覚めは“人肉食”への目覚め『
RAW~少女のめざめ~』が描く普遍の
成長物語 #野水映画“俺たちスーパー
ウォッチメン”第四十五回

TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
可愛い赤ちゃんを見て、人は「可愛いー!食べちゃいたい」などと口にする。私も、自分の飼っていたわんこが可愛すぎて、耳をはむはむと甘噛みした経験がある。食べちゃいたいほど可愛い、好き。なんとなく理解できるこの言葉、よくよく考えるとものすごーく怖いのではないのか?今回はそんなテーマのホラー映画『RAW〜少女のめざめ〜』を紹介する。
厳格なベジタリアン一家に育った16歳のジュスティーヌは、姉と同じく全寮制の獣医学校に進学する。入学早々、新入生の通過儀礼として動物の肉を食べることを強要された彼女は、浮いた存在になることを恐れ、生まれて初めて肉を口にしてしまう。その日から次第にジュスティーヌは変貌を遂げてゆき、やがてとある事件が起きる。彼女の本性とは一体何なのか……。

女性監督ならではの“姉妹”へのまなざし
(c)Dominique Houcmant Goldo
本作を観て私が思い出したのが、以前このコラムで紹介した『ワイルド わたしの中の獣』(16)だった。『ワイルド~』も本作も女性監督の作品であり、なおかつ両作品とも、“女性の目覚め”というテーマに焦点を当てているためか、近い雰囲気を感じた。『ワイルド~』の主人公は、内気な女性が狼と出会うことにより自分の中の“野性”に目覚めるのだが、本作のジュスティーヌは、自分の“性“に目覚め、大人の女性として成長(変貌とも言える)してゆく。
両親に「神童」と呼ばれ、過保護なほど大切に育てられたジュスティーヌは、男の子と付き合ったことも無ければ、ムダ毛の処理も知らないほどウブな女の子だ。そんな奥手な彼女が入った学校がとんでもない場所だったからさあ大変。クラブミュージックがガンガン鳴り響くホールに連れ出され、派手な服を着ろと命令され、さらには動物の血を頭からぶっかけられる。どれも先輩から新入生への通過儀礼といえど、勤勉実直で生きてきたジュスティーヌは戸惑うばかり。いや、私だってこんな学校はイヤだ!(笑)しかし、一足早く入学していた姉のアレクサはすっかり学校に馴染み、露出の多いイケイケな格好で、垢抜けないジュスティーヌを馬鹿にしてくるのだ。
ジュリアデュクルノー監督 (c)Pieter De Ridder
姉のアレクサは女性として努力をしているが、妹のジュスティーヌは、能力や魅力はあるのに鈍感。生まれつき自分より優れたものを持っているのに、それを活かせていない妹に嫉妬する気持ちは、女性なら覚えがあるかもしれない。姉妹といえど個人の女である、という生々しい感覚が垣間見えるのは、女性監督ならではの観点だなー!と感心した。だが男性は、姉妹のドロドロした関係にちょっと恐怖を覚えるかもしれない。
“性”の目覚めは“食欲”の目覚め
(c)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.
「失神者続出!」という謳い文句のある本作だが、ホラー要素はそこまで強くない。本作で特出しているのは単なるグロさではなく、カニバリズム(食欲)を“性の目覚め”と結び付けたところではないかと私は思う。昔から食欲と性欲は密接な関係があると言われ、食事の仕方で性の傾向がわかる、などという話もあるほど。かねてよりそういった説に興味を持っていた私に、本作はいい感じに刺さってくれた!
(c)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.
食べる喜びと恋を知り、ひとりの女性として成長をしてゆくジュスティーヌの人生は、極端ではあるが、「人間ってみんなこうやって大人になるんだよ」というメッセージを投げかけてくるように感じる。結局は、食欲も性欲も、生きてゆくために必要なものなのだ。とはいえジュスティーヌが食べたいと思うのは人肉なわけで、それはもちろん人道的に許されることではない。気になる男の子を見つめて鼻血が出るのは、恋なのか、食欲なのか……。食欲と性欲がごちゃまぜになってしまった彼女は、一体どうなってしまうのか。
一般的な欲求を持つ人間から、ちょっぴり逸脱してしまったジュスティーヌの行く末を、最後まで見届けてほしい。
『RAW〜少女のめざめ〜』は公開中。
作品情報

映画『RAW〜少女のめざめ〜』
(2016年/フランス・ベルギー/98分/カラー/5.1ch)
原題:『GRAVE
英題:『RAW』
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリエ、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウフェラ
レーティング:R-15+
ユニバーサル映画
配給:パルコ
宣伝:ライトフィルム
公式サイト:http://raw-movie.jp/
(c)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

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