ミュージカル『メリー・ポピンズ』主
人公を演じる濱田めぐみにインタビュ

2004年のロンドン・ウエストエンド初演以来、ニューヨーク・ブロードウェイをはじめ、世界中で上演され愛され続けているミュージカル『メリー・ポピンズ』が遂に日本上陸する。イギリスの名作児童文学の原作と、ジュリー・アンドリュースとディック・ヴァン・ダイクが主演した1964年の同名ディズニー映画とをベースに舞台化したもので、「チム・チム・チェリー」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」といった、誰もがどこかで一度は耳にしたことがある名曲がずらり。夢にあふれたマジカルな舞台が展開する。主人公の家庭教師メリー・ポピンズ役を濱田めぐみと平原綾香が、また、メリーの親友バート役を大貫勇輔と柿澤勇人がそれぞれダブルキャストで演じる。このほど、タイトルロールを演じる濱田に、作品への抱負を聞いた。
――作品の日本初演でタイトルロールを演じます。
『メリー・ポピンズ』は実写とアニメーションが合成されたディズニー映画として、日本でいうと「桃太郎」くらい、世界中の人々のDNAに入り込んでいる深い作品ですよね。ジュリー・アンドリュースさんはじめ錚々たる名優たちが出演していて、作品としてのメッセージ性も高い。単純に子守が来て子供たちを教育していくというだけの物語ではないと思うんです。この映画の製作の背景を描いた『ウォルト・ディズニーの約束』という映画も何度も観ていますが、『メリー・ポピンズ』が持っているメッセージの深さ、一見楽しそうに見えるけれども、表面に現れない深いドラマの部分で心に響くものがあって。舞台版も、見た目の派手さ、音楽のよさ、衣裳、照明、すべてにおいて完璧な作品だと思うんですけれども、それにプラスして、今、日本でやるべき作品だとすごく思うところもあります。自分の中で大人に育っていない子供の部分を、メリー・ポピンズという存在がどこまで呼び起こし、揺り起こし、引っ張り出してくれるか、そんな子供の部分と、舞台上でどこまで対話できるかだと思います。何を選択して何を切り捨てていくか、生きていく上で何が一番大事か、そんな部分を考えつつ、いかにメリーを舞台上で生きて行けるか。単純に楽しいだけではない何かを今、身体の中ですごく感じていますね。
――今、日本でやるべき作品だと思われる理由は?
毎回自分がある作品に取り組むとき、それを観たお客様が何を手にするのか、考えています。それは後からわかる場合もありますが。ならば自分がそれをフォローするためにどういうところで後押ししたらいいのか、必ず考えるんですよ。神様がこの作品でどんなメッセージを伝えたいのかということを今回も考えています。まずは自分のメリー・ポピンズのイメージがあって、映画版を観て、そして『ウォルト・ディズニーの約束』という映画を観て、やっぱりねと思いました。
『ウォルト・ディズニーの約束』で描かれている、作品の原作者、P.L.トラバースにすごく興味をもったんです。すごく身近に感じられる人で、彼女の中から生まれた作品だったらすごくよくわかるなと、腑に落ちました。そこに、この作品を今、日本でやる意味を感じました。
自分にとっても、さまざまなディズニー・ミュージカルに出演してきて、映画の吹き替えにも携わってきて、ディズニーというものが身近にあった中で、今メリー・ポピンズを演じる、これまで自分が歩んできた道がここですべて合致したんだなと思える。自分の資質もそうです。声質もそうだし、立ち方にしても、私はストレートネックでつんのめって立っちゃうんですけど、それがメリーとしてまっすぐに立つ上で何の負担もないですし。今回、すべてが合致して一つにつながったと思えて、一つの超えるべき点が『メリー・ポピンズ』なんだなという気がすごくしています。私の考え方や発想、普段の物の見方にしても、メリーもこう考えるなと思ったりしてリンクするところもある。今、不思議な感覚がありますね。
――長期間にわたる複数回のオーディションがあったとうかがっています。
最初は歌とセリフのオーディションがあり、何回かコールバックされて、いざメリーとして動くことになったとき、立ち振る舞いや手の組み方、振り向き方など、パターンがすごく細かく厳格に決まっていて、それは驚きましたね。オーディションというよりレクチャーを受けつつ、メリーの動きを貼り付けられていった感じでした。背中の動き、肩のライン、鎖骨のラインまで細かく完璧に決められていて、少しでもずれるとまっすぐにと言われました。とても熱心に教えていただいて、メリーとしての資質を伸ばそうとしてくださっているんだなと思いました。ヴィジュアル撮影でも、「メリーはのけぞらないから」と言われて(笑)。足掛けにすると長いオーディション期間でしたけど、こうして役に決まって走り出してからは、千穐楽まであっという間なんだろうなと思います。衣裳を着たらいつももう後はあっという間なんですよね。
――ミュージカルの日本初演版でたびたびオリジナル・キャストを務められてきましたが、その際心がけていることは?
まずは文化の違いということがありますよね。我々が常識と思っていることとは違うとか、日本にはない習慣であったりとか。作品の原文を日本語に翻訳してそれを話し言葉にする、その際、翻訳者のセンス、それを読み解く演出家のセンス、体現する役者のセンスが入ってきたときに、意味が違ってしまったりとか、原典にあるタネの部分がうまく花開かなかったりする場合もあるんです。子音だけでも発音できる英語と、必ず母音を入れなくてはいけない日本語とで、歌うときの身体の使い方も変わってきますし、音の数、言葉数も足りなくなってくる。演じる方も、そこを理解して埋めながらお客様に伝えるという作業をさらに加えていかなくてはいけない。それが、翻訳ミュージカルに必要な作業なんですね。デリカシーが必要で、非常に神経を使います。
――これまでにもディズニー・ミュージカルに多数出演されてきました。
プロダクションによるレクチャーの仕方が印象的だなと思いました。例えば『ライオン・キング』の演出のとき、芝居がわからなくなったら耳をふさげと言われました。目で見ていることだけで成立しているかどうか。それから、目をふさいで耳だけで聴いて、それだけで成立しているかどうか。正解は一つだから、言語がわからなくてもわかるんですよ。そこを外さないよう、見極められるようにしなさいと。英語がそこそこ聞き取れて、日常会話くらいはできるにしても、完全にはわからない方が、彼らが何を伝えようとしているか、心で読み取ろうとするんですよね。そこで伝わってくる本質的な部分を演じると、すごくスムーズに行く。それをキャッチできると、お互い「おお!」となる。言葉でごまかされるというか、合わせたつもりになっているときがあるんですよね。言葉ってかえって怖いなと。言葉の危なさ、便利さを感じますね。
ディズニー・ミュージカルは、まず表現したいことというのがある。組み立てがしっかりしていて、発信している矢印がすごく明確で、ぴかぴか光っている。正解は一つ、ただ、そこに行くにはいろいろなやり方があって、「君にはこのやり方が合っている」ということを指摘してくれるから、間違いに気づいて軌道修正しやすいんです。苦しんだこともあったけれども、経験してきてよかったなと。メッセージは明確で、言葉ですごく伝えやすい。必要なものをタイトに、ムダなく伝えることに徹するようにさせられます。ごちゃごちゃした飾りがなくて、自分で変にパフォーマンスしたりということがないんですよね。今回も、『メリー・ポピンズ』のメッセージをストレートに伝えられる部分が自分の中にできあがっていると思うので、それを生かしていきたいですね。
受け取る方がいて、共有できる、それが舞台のいいところだと思うんです。今回も、単純ではない人間の世界を俯瞰で見たメリーが、「こうやったら整うわよ」と思っているということすら伝わるような、すべてが見える状態にチャレンジしてみたいと思っています。わかる人にだけわかればいいっていうものでは絶対だめで、全員がわかって共有できて、それについて話し合える、それが成功だと思うので、そのためにはスタッフも役者もみな先回りして先回りして考えておかないといけないなと思います。
――メリー・ポピンズの役作りについてはいかがですか。
今までやってきた役作りでいうと、私はその人の役名、例えば花子さんだったら花子さんという名前を取り去って考えるんですよね。花子さんを生きるのではなく、その人が生きてきた人生を私が舞台上で生きる、そうしないと、役名やその人らしさ、イメージにとらわれてしまいますし、ときにパセティックな、ナルシスティックな演技になってしまうからです。花子さんらしく演じるという意識は、花子さん自身の意識ではないですから。
ただ、メリー・ポピンズの場合は、役というより存在だと感じるんですよね。メリー・ポピンズという存在がまずある。彼女が傘を持って上から降りてくる。人間の形を借りて降りてくるというか。彼女は全部わかっていると思うんですよね。どのタイミングで何を出したら喜ばれるか。イライラすべき瞬間もわかっていて、あえてそうすることで人を導くときもある。彼女を普通に地上に生きている人間としてとらえて演じることが、この作品の成功につながるのかなという思いがあります。
私が思うキーは、メリーと人との距離感ですね。子供たちの場合、ピュアで染まっていないから、どうもっていけばすんなり素直に導かれるのか、メリーはわかっている。自分の中の子供にねじれた形でフタをして大人になってしまった人たちの方が問題だと、メリーは感じていると思うんですね。だから、子供たちをただ教えて導くのではなく、そのようにして導いている姿を大人に見てもらって、そこで感じてもらうという、その距離感ですよね。
ということは、今までの自分の役作りと真逆に、メリーという役の中に自分が入っていく感じになるのかなと。オーディションで選んでいただいたということは、自分の中のメリーの資質を見出していただいたということで、そこは演出家に導いてもらうんですが。上下関係というよりもパワーバランス、自分とその相手との距離感ですよね。そういうことを踏まえて地球上に来ているのかな、と。だから、人間? みたいな(笑)。私も普段からよく宇宙人って言われているので、普段の私の感覚の方が近いのかもしれない。オーディションのレクチャーで言われたこととか、全部、人間離れしてるんですよね。相手にどのタイミングで笑顔を見せたら相手の心がほどけるのかわかっていて笑うとか。だから、メリーの中にずぼっと入っていけたらいいなと思いますね。
――好きなシーンや楽しみなナンバーを教えてください。
バンクス家に降り立って、初めて子供たちや家族と会うシーンで、相手が自分にどう反応するのか、そのやりとりが楽しみですね。バートと二人の「チム・チム・チェリー」は、星の中で歌うその世界観が大好きです。「お砂糖一さじで」も日本語で歌ったらどうなるのか、歌っていてどういう気持ちになるのか、早くやってみたいです。「スパカリ」(「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」)もどれだけみんなで七転八倒しながらやることになるんだろうって(笑)。子守対決の「毒消しの薬 パート2​」もどうなるんだろうなって、いろいろ想像をめぐらせています。ダンス・ナンバーは大貫(勇輔)くんとカッキー(柿澤勇人)が頑張る、そこを盛り上げていけたらと。
――メリー・ポピンズがいてくれたら何をしてほしいですか。
何をしてほしいっていうことはないんです。自分でやりたいことを自分で見つけて、やって、苦しんで這い上がりたい。ただ、これでよかったかなということくらいは聞きたいですけど。いろいろなことを聞きたいですね。なぜこの世に自分が生まれてきたのかとか。
――そういうことを聞ける相手だと?
何でも知っていそうに思えて(笑)。というか、知っていそうな人に聞いてくれて、その情報を教えてくれるガイドみたいな存在というか。魔法にしても、魔法を知っている人に聞いて、こういうことらしいよと教えてくれるというか。日本でいうなら「ドラえもん」の四次元ポケットみたいな感じというか(笑)。戦争や自然災害など、世の中は必ずしもハッピーなことばかりではないですけど、そういったいろいろなことに意味があるのかどうかも教えてほしいですね。
――ところで、メリー・ポピンズのような不思議な力があったら何をしたいですか。
人の苦しみや痛みを取り除きたいですね。苦しんでいるのだったら、苦しみの原因をほどきたい。みんな楽に生きているわけではないし、平等に苦しいし、こわがっているし、だからこそ人を傷つけないでって。敵味方ではなく、みんな一緒だし、みんなこわがりなんだよ、ということを共通認識として持ちながら、わかり合いたいですね。
――最後に意気込みをお願いいたします。
ヴィジュアル撮影で衣裳を着たとき、(海外公演の)前任者の方の衣裳だったので、その方のエネルギーも感じましたし、(平原)綾香ちゃんと二人、バトンを渡されたという気持ちになって、改めて身が引き締まったんですね。イメージを壊さないように一生懸命やるのはもちろんですが、劇場でメリーがお客様の心の中に植えたタネが、その後何か一つでも芽吹いて成長して行けるような何かを残せたらと思っています。自分の中でもきっとこの役が死ぬまで大事な役になるのだろうなという直感があるので、大事に、大事に稽古をして、最高の舞台を皆様にお見せしたいと思っています。

インタビュー・文=藤本真由

公演情報

ミュージカル『メリー・ポピンズ』

<東京公演>
■会場:東急シアターオーブ
■会期:プレビュー公演2018年3月18日(日)~3月24日(土)、本公演3月25日(日)~5月7日(月)

<大阪公演>
■会場:梅田芸術劇場 メインホール
■会期:2018年5月19日(土)~6月5日(火)

■公式ホームページ:http://marypoppins2018.jp
■公演に関する問い合わせ
東京公演:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949
(平日 10:00-18:00 / 土曜 10:00-13:00 / 日祝・休)
大阪公演:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~18:00)

■出演キャスト:
メリー・ポピンズ=濱田めぐみ/平原綾香
バート=大貫勇輔/柿澤勇人
ジョージ・バンクス=駒田一/山路和弘
ウィニフレッド・バンクス=木村花代/三森千愛
バードウーマン/ミス・アンドリュー=島田歌穂/鈴木ほのか
ブーム提督/頭取=コング桑田/パパイヤ鈴木
ミセス・ブリル=浦嶋りんこ/久保田磨希
ロバートソン・アイ=小野田龍之介/もう中学生
*上記キャストはダブルキャストになります。
石川剛 エリアンナ 小島亜莉沙 丹宗立峰 長澤風海 般若愛実
青山郁代 五十嵐耕司 石井亜早実 大塚たかし 岡本華奈 風間無限 工藤彩 工藤広夢 熊澤沙穂
斎藤准一郎 高瀬育海 髙田実那 田極翼 照井裕隆 中西彩加 華花 樋口祥久 藤岡義樹
藤咲みどり 三井聡 武藤寛
(全役50音順)

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