『PRESENCE』に見る
HR/HMからの超越、
次世代バンドならではの
PRESENCEの存在感
関西HR/HMシーンの次世代バンド
その人気の裏には彼らが出演していた大阪のライヴハウス、LiveHouse Bahamaの尽力があったと聞く。結成当初はメンバーが高校生だったこともあってまだまだ演奏もちゃんとしていなかったということだが、西川の声の良さに注目したBahamaのオーナーが一念発起。何とか人前に出られるように手助けしようと、親の許可をとってメンバーを近所に住まわし、練習時間を設定して、曲作りからステージングまで一から教授したそうである。LiveHouse Bahamaは、それこそEARTHSHAKER、44MAGNUMといった先達を送り出した老舗ライヴハウスである。PRESENCEはそんな日本のHR/HMシーンの重鎮が入れ込むだけの逸材であったということだろう。ちなみにBahamaのオーナーはインディーズ時代の彼らから一切金銭はもらわずにマネジメントしていたというから、それだけ惚れ込んでいたということだろうか。
世界も注目した非凡な才能
その内容はバンドを絶賛するものであって、メンバーもスタッフも大そう喜んだというが、話はそこで終わらなかった。その音楽誌でPRESENCEのことを知ったであろう各国の音楽誌からもアプローチが続々寄せられた。デンマーク、イタリア、ドイツ、アメリカ等々。“プロフィールとデモ、写真を送れ”と毎日のように送られてきたそうである。それらに対してもしっかり応対すると、今度は“イタリアのインディー専門ラジオ局で今週のリクエストNo.1になった”とか、“アメリカで音源を出す気はないか”といったエアメールが、これまた毎日のように届いた。中には、全米に向けてプロモーションするエージェント契約の契約書もあったというし、ドイツ(当時はまだ西ドイツか)から実際、取材に訪れたライターもいたという。とは言え、当時も今もPRESENCEが海外進出した事実はないので、そうした海外からのアプローチが彼らの活動に直接影響を及ぼすことはなかったようだが、PRESENCEの非凡さを裏付ける話ではあろう(これは想像だが、当時インディーズのままで海外進出するのは事務的にも相当にハードルの高い行為ではあったと思われる)。
時代の端境期を示すレコード
その辺にも起因しているのかもしれないが、それほどHR/HMしていない──少なくともメタルの様式美は薄い印象はある。この辺をもってか、当時は“メジャーへ行ってPRESENCEはポップになった”と言われたようで、インディーズ時代のライヴでの音圧に比較してギャップを感じたファンもいたことも分からないでもないが、今も残る音源からはソリッドかつヘヴィ、それでいてしっかりとキャッチーなロックバンドであったことを伺うことができるし、PRESENCEが時代の端境期に存在していたことを証明するレコードでもあると思う。
類型的なスタイルに
とらわれないサウンド
これもまたギターの話になるが、鋭角的なリフを弾いたかと思えば途中アルペジオになったり(M1「ROCK ME」)、Aメロでのキラキラとしたコード感がBメロ以降ではザクザクとした重いストロークに展開したり(M3「I LOVE YOU ONLY YOU」)、その変幻自在ぶりも楽しいところだ。
特徴的なメロディーを巧みに歌う
個人的にこのバンドならではの特徴が出ていると思うのはM3「I LOVE YOU ONLY YOU」とM7「7つのピアス」。ともにどこか60年代歌謡曲風というか、グループサウンズ的というか、いずれにしてもR&RともHR/HMとも異なる面白いメロディーセンスだと思う。強いて形容するならば“妖艶さ”と言ったらいいだろうか。そのミステリアスさとセクシーさを兼ね備えたメロディーは、押しの強いバンドサウンドにも負けることなく、それと重なり合うことで楽曲の世界観を広げている。
メンバーの音楽性に違いに勝因が?
白田は元REACTIONの加藤純也らとともにGRAND SLAMを結成。その後もさまざまなバンド、ユニットで活躍する今も名うてのギタリストである。恩田は1990年にJACKS'N'JOKERへ参加したのち、1992年にJUDY AND MARYを結成。大ブレイクを果たしたことは皆さんご存知のことだろう。岡本はEins:Vierの結成メンバーとなり(のちに脱退)、西川に至っては現場を離れ、音楽制作会社を設立してプロデューサーとして活躍している。音楽性も方向性も見事にバラバラで、今になるとよくぞこのメンツがひとつのバンドに収まっていたとも思えるほどである。だが、そんなふうにメンバーが自らのセンスを持ち寄ってバンドにぶつけたことでアルバム『PRESENCE』はオリジナリティーあふれる作品になったのだろうし、そこに今もPRESENCEが日本のHR/HMシーンにおけるレジェンドバンドとして語り継がれている要因があるように思う。
TEXT:帆苅智之
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