【V系】シーン総括&この先どうなる
!? “ヴィジュアル系の現状と未来”
を徹底討論【座談会】

ヴィジュアル系をこよなく愛する編集者・ライター4名が、2017年のシーンを総括&混迷のなか、バンドとメディアのあるべき姿を激論!

藤谷:2016年に行った座談会同様に、今回も2017年のヴィジュアル系シーンを振り返っていきたいと思います。
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今回、雑誌『ROCK AND READ』編集長の吉田幸司さん、ヴィジュアル系メディアでも多数執筆されているライターの山口哲生さん、『ウレぴあ総研』でも執筆されているライターの高崎光さんをお呼びして、「2017年V系シーン」座談会を行いたいと思います。
吉田:元旦に告知され、7月に横浜アリーナで行われたDIR EN GREYPIERROTのジョイントライブ『ANDROGYNOS』も一大事でしたね。
山口:2017年最大の祭りは『ANDROGYNOS』でしょうね。
藤谷:X JAPANは3月に悲願のウェンブリー・アリーナ公演を成功させ、同じく3月に公開されたX JAPANのドキュメンタリー映画『WE ARE X』も話題になりました。今年メジャーデビュー30周年のBUCK-TICKのドキュメンタリー映画の第2弾『BUCK-TICK ~CLIMAX TOGETHER~ ON SCREEN 1992-2016』も公開されましたし、LUNA SEAGLAYのオリジナルアルバムもリリースされるなど、大御所の動きがアクティブな年だったと思います。Acid Black CherryVAMPSというビッグアーティストの活動休止も大きなニュースになりました。その一方でSHAZNAの復活というトピックも。
高崎:ここ何年か毎年のことかもしれないんですが、活動休止や解散が多くて。今年は特に個人的に落ち込みましたね。近年のシーンを代表するようなバンド、カメレオSuGの解散、HEROやMEJIBRAYの活動休止はショックでした……。
山口:もう本当にショックでしたよ……。ただ、悪い話ばかりでもなくて。2017年は結成10周年を迎えたバンドが多かったですよね。息の長い活動をしているバンドが多いのは喜ばしいことですし、その中でもDaizyStripperは、結成10周年でいよいよメジャーに進出するという明るいニュースもありました。あとは、アクメやキズといった新バンドも出てきて、2018年は飛躍の年になりそうだなと。
吉田:厳密に言うと2018年になるんですけど、Zepp Nagoyaでのカウントダウンライブで、lynch.が明徳さん復帰を発表したのもビッグニュースでした。
藤谷:BugLugの一聖さん復帰の武道館公演、Versaillesの10周年の武道館公演など、大きな節目を大きな会場で迎えたバンドも印象に残りました。半年前に高崎さんと山口さんと私で『2017年上半期「オススメV系CD」ホンネ座談会!“CDが売れないこんな世の中”に推したい9作』という企画をやりましたが、2017年で印象に残っている作品はありますか?
吉田:僕はMUCCの『殺シノ調ベ II This is NOT Greatest Hits』かなあ。
藤谷:2017年のMUCCは、セルフカバーアルバムとして『新痛絶』『新葬ラ謳』もありましたが、あえて『殺シノ調ベ II』を挙げる理由は?
吉田:なんでもそうなんですけど、分母が大きいものから凝縮された方が濃いものになるじゃないですか。ポイントはそこです。もともとバラエティに富んでいた楽曲が、さらに新感覚で生まれ変わった。まさにBUCK-TICKの『殺シノ調ベ』のときと一緒です。
あとD’ERLANGERのトリビュート『D'ERLANGER TRIBUTE ALBUM ~Stairway to Heaven~』も良かった。こっちはトリビュートした人たちがD’ERLANGERの曲に別解釈で新たな息吹を注入してくれたと思うんですけど、MUCCは自分たちで自らの曲に新たな息吹を注入した、っていう感覚ですね。
藤谷:Plastic Tree『Plastic Tree Tribute~Transparent Branches~』やMUCCトリビュート『TRIBUTE OF MUCC -縁 [en]-』も充実の出来でしたね。
山口:どのアーティストも自分たちの個性をしっかり出していましたけど、個人的にはMUCCトリビュートで、sukekiyoが『ガーベラ』を大解体していたところにかなりグっときました。
吉田:シングルだとDEZERT『撲殺ヒーロー』、ミニアルバムだとlynch.『SINNERS-EP』も良かった。
藤谷:2016年の座談会でもDIAURAの盛り返しについての話が出ましたが、2017年に出た『VERSUS』はそれを象徴するような作品でしたね。
“台風の目”的なバンドが不在
高崎:私のおすすめについては、藤谷さんに呼んでいただいた2017年上半期の座談会を読んでもらえると(笑)。下半期は諸事情で必要に迫られて、海外の最新チャートや80〜90年代のヴィジュアル系をひたすら聴く機会が多かったんですよね。新譜を評価する視点ではシーンを追えてないのが正直なところです。全世界と相対的に見ても、いやー、昔のV系面白くっていいですねえ。
山口:2017年はLUNA SEAのメンバーのソロ活動20周年ということで、SUGIZOさんの『TRUTH?』のリマスター盤が出たじゃないですか。僕、リリースされた当時は高校生で、聴いたときは正直意味がわからなかったんですけど、改めて聴くとあの時代にこんなに新しいことをやっていたんだとびっくりして。
藤谷:私、「ドラムンベース」という単語をこの時期のSUGIZOさんのインタビューで知った記憶があります。当時高校生だったんですけど、LUNA SEAメンバーのソロ活動ってあの当時の若いリスナーの耳を鍛えたと思うんですよね。
吉田:当時、H Jungle with tの影響か、まだ日本では「ジャングル」って言われているときに、海外ではスタンダードになってた「ドラムンベース」って呼び方を真っ先にしていて。トリップホップについてもそうだし、SUGIZOさんは早かったというか、ぶっちゃけ早すぎた(笑)。
藤谷:SUGIZOさんの最新作『ONENESS M』も豪華なゲストを迎えていて、その話題性に引けを取らない完成度の作品に仕上がっています。そして、前回の記事に付け加えるのであれば、ラッコの『弱肉教職』、Blu-BiLLioNの『EDEN』ですね。『EDEN』は彼らにとって過渡期にある作品だと思うんですけど、すごく前向きな印象を受けました。また、2016年に復活したメトロノームの『CONTINUE』はタイトル通りの快作だと思います。
2010年代後半のV系シーン、“台風の目 不在”説高崎:私、最近気になっていることがあって。ここ5年くらい「メディアを使ったアプローチ」が更新されてませんよね。ニコニコ動画を使って頭角を現したゴールデンボンバーのような存在が出てきていない。「V系ってファンダムが強い、最新メディアに強い」という部分にアドバンテージがあったような気がしてたんですけど、いつからかそれが薄れててヤバい。
藤谷:ゴールデンボンバーは広告費を使わずに、ニコニコ動画に自分たちのパロディ動画をあげたりしてプロモーションしていましたからね。
高崎:InstagramやShowroom、LINELIVEを使っているバンドはいるにはいるけど、シーンの地図を書き換えてしまうような使い方をしているバンドがいないじゃないですか。
吉田:僕の感覚だと、いいと思うバンドはそれなりにいるんだけど、DEZERTとNOCTURNAL BLOODLUSTほどパンチのある若手バンドが、彼ら以降見えてこないんですよね。相変わらず元気な猟牙さんのRAZORも面白いけど、もう若手ではないし(笑)。
藤谷:個人的にはそこにアルルカンを付け加えたいです。つまり、2015年くらいに頭角を現したバンドたちの「次」が出てきていない印象があるということですね。個人的には2016年の座談会でも名前が出ましたけど、0.1gの誤算の勢いを感じた1年でした。
吉田:2017年はアイドルや歌い手といった他ジャンルとの対バンも多かった。誤算は、今年もアイドルと歌い手を迎えたイベントをやるじゃないですか。藤谷さんが言ったように「頭一つ抜けた」誤算でさえも、ヴィジュアル系の中だけにとどまっていることに危機感を覚えているんでしょうね。
高崎:私は都内のライブハウスで働いていたんですけど、3年前くらいにくらべて同じイベントでもお客さんが減っている感があるんです。エンタメ戦国時代、ヴィジュアル系のベンチマークは同じシーン内ではなく、ジャニーズやK-POP、2.5次元、アニメ、ソシャゲ……と、娯楽全般であることをひしひしと感じます。
藤谷:「ライブの時代」と言われてるけど、ライブハウス規模で考えると厳しいですよね。
吉田:フェスも淘汰されてきていて、その理由はフェスのヘッドライナーが代わり映えしないから、みたいな話はありますね。『Real Sound』でも柴那典さんが語っていたし、フェスのヘッドライナー常連バンドのあるメンバーとたまたまバーで会って話したとき、本人もそれを自覚してました(笑)。
藤谷:自分が見てる都内のイベントの印象の話になってしまうけれど、ノリ重視の傾向が進んでいくと、ワンマンならまだしもイベントだとバンドの印象も似通ってきてしまうんですよね。
これはヴィジュアル系に限った話じゃないですけど、リズム重視というか。2016年の座談会でもノリの話をしましたけど、結局現場の音楽を楽しむことと「ノリ」って切り離せなくなってるじゃないですか。
特に持ち時間の少ないイベントだと、「いかにノセるか」みたいな勝負になっている。そうなると現場以外での面白さが伝わりにくい。若い世代のバンドが見えにくいのはそれが理由でもあるのかなと。その中でも様々なアプローチを仕掛けて若手の中で頭一つ抜けたのが0.1gの誤算と言えるのかしら。
今メディアはどうあるべきか
吉田:年末に武道館で行なわれたMUCC主催イベント『えん7』で、lynch.は1曲目に『D.A.R.K.』っていう歌い上げ系のミディアム曲を持ってきていたんですよ。むしろ、それによって会場の空気を支配していましたね。
そういえば、『ROCK AND READ』のインタビューでMUCCの逹瑯さんが「バンドマンってみんな人と違うことやりたくてバンドを始めてるはずなのに、最近はヴィジュアル系という小さい村の中で固まっちゃってるから、みんなMCや煽り方も似通っているのが滑稽だ」という話をしていたんですよね。
高崎:ノリが悪いときの怒り方すら同じときってありません?
藤谷:もう一周回って「僕はR指定が好きだからメンヘラの歌をやってます」っていうバンドのほうが面白く見えてしまう(笑)。もう二次創作ですよね。もちろん誰だって影響を受けるのは当たり前で、二次創作から優秀なクリエイターが出てくることもあります。
しかしながら現状そこから次のシーンを作るようなバンドが中々見えてこない。我々の「探し方」が悪いのかもしれませんが……、今日はそういった話もしたいんですよね。
高崎:ヴィジュアル系の中でも例えば「キラキラ系」みたいな、新たな概念は出てきてないですよね。
山口:「人と違うことがやりたい」と言うけれど、主語が「V系シーンの中で」になっている。今ってバンドをするってなったときに、音楽をする、バンドをするが根底じゃなくて、ヴィジュアル系をするが根底になっているじゃないですか。それが根っこになってしまっているから、縮小再生産になってしまっているのかなと。
吉田:苦言を呈すと、今のヴィジュアル系って、メディアの人間もバンドも、他を見なさすぎるんですよ。だからみんな同じになっちゃう。
藤谷:さっき高崎さんが仰ってましたけど、他のエンタメがライバルであるということを考える必要がありますよね。たとえば「バンギャルネタ」がテーマの曲をやる若手バンドは随分増えましたけど、最初は新鮮でもそれを面白がる層のパイは想像ついてきちゃいますよね。「なんとなく今シーンでコレ受けてる気がするから」じゃなくて「絶対にコレを表現したい」というのであれば止めませんけどね……。
V系メディアはどうあるべきか?藤谷:2012年の『ウレぴあ総研』のNoGoD・団長インタビューでもそういう話は出てましたね。でも私はそれは当たり前のことだと思っていて。
今「ヴィジュアル系的なもの」って世の中に点在しているじゃないですか。さっき高崎さんが仰ってたような各種エンタメにもV系的な要素があるものがたくさんある。で、「本当にヴィジュアル系バンドで音楽をやりたい」って人たちじゃないとシーンに来ないと思うんです。それが悪い意味での生真面目さにつながっているのかもしれません。
そもそも単純にプレイヤーとリスナーの人数が多かった97年くらい、流行語にノミネートされていた時期ですね、その頃に中学生だった人をピークに、「ヴィジュアル系」のユーザーは全体的にゆるやかに減っていると思うんです。分母が減るとシュリンクしていく部分は少なからずあるかと。それをどうするかを考えたいんです。
吉田:『ROCK AND READ』の母体でもある、僕がやってたプレイ誌『バンドやろうぜ』がもう売れに売れて、編集ページ100ページしかないんだけど、メンバー募集のページと広告が大量に入ってて電話帳みたいになっていた時代ですね(笑)。
藤谷:エビちゃんブームのときの『CanCam』みたいですね(笑)。私自身が都内のライブハウスに定点観測的に見に行っている中で、「面白いな」「変わったことをやっているな」というバンドはいるにはいるんですよ。でも1年くらいでいなくなってしまったり。バンド側に根性がないとか、ファンが良くないとかではなく、「変わったこと」を受け入れるほどシーンに余裕がないというか。
さっきも言ったように分母が減ってる分、新しい芽を育てきれないというか、そういう空気に対して「自分はなにかできることはないのか?」と歯がゆさを感じています。
吉田:2018年はDEZERTが自分たちの世代の帯を作るといって、3月からNOCTURNAL BLOODLUSTやアルルカンを呼んだ『This Is The "FACT"』のイベントツアーをやるんですよね。それにBugLug、vistlip己龍、R指定の『均整を乱す抗うは四拍子』もまたやるじゃないですか。
藤谷:2017年には、10周年のバンドが集結した『10th Anniversary Special Tour ~from 2007~』イベントもありましたね。バンドからはシーンの底上げを図ろうという意志を感じます。その中でメディアはどうすべきかということを考えたいんです。
高崎:私これ、ライターとしてというより、いち読者として言いたいんですけど、最近のヴィジュアル系のアーティスト写真って、加工しすぎて風俗のパネマジとか、絵みたいになってません? 生身の人間がメイクしているからこそ美しいのに、絵みたいになっちゃったらむしろ2次元に負けるに決まってるじゃないですか。
藤谷:『ウレぴあ総研』で写真を撮り下ろすときも、なるべく「アー写っぽくならないようにしよう」と当初からやってますね。スタジオ借りる予算がないというのもありますが(苦笑)。
吉田:僕は『ROCK AND READ』では“ヴィジュアル系を超えたヴィジュアル系の魅力”を見せたいと思っていますね。
藤谷:『ROCK AND READ』は読み物もそうですよね。他では読めないボリュームのロングインタビューと撮り下ろしの写真は魅力です。
吉田:メディアの話で思い出したんだけど、最近とあるバンドに出演を断られたことがあって、理由を聞いたら「面倒くさい」って言われたんですよ。
必要なのは“ストーリー”
藤谷:それはインタビューにかける時間やコストを他のことに使いたいということでしょうか。
吉田:良い悪いは別として、雑誌って作るのも出るのも手軽じゃないですからね。でも、それこそ80年代、90年代の頃は「とにかく雑誌に出たい」というバンドばかりだったのに。
藤谷:その時はメディアに力があったんですよね。発信するチャンネルがテレビと雑誌とラジオくらいしかなかったから。今は発信力がある人だったら、リリースインタビューよりも自分でブログ書いた方が早いこともある。つまりメディア、インタビュアー、編集側に「面倒くさい」と思わせないほどのパワーが必要になってくるんですよね。
山口:バンドとしても、メディアに頼らず、例えば自分たちのオフィシャルサイトにインタビューを載せて発信するという手も、あるとは思うんですけど……。
藤谷:公式サイトのオフィシャルインタビューって「編集者」が不在になるじゃないですか。そこが個人的にひっかかるんですよ。極論、WEBの記事ってバンドの公式アカウントがRTしてそのファンの人が読むというところで拡散の流れが止まるケースが多いじゃないですか。もちろん、つきつめたらライターと編集の力量の問題ですけどね。広がりを持つようなきっかけになる記事を打ち出すのは中々難しいと感じます。
言い出すとキリがないですけど、「たくさん読まれて」もそれで「ファンが増える」という確証はないわけじゃないですか。そうなると「面倒くさい」と思われても仕方ない部分もあるのかもしれません。
高崎:そういう意味では秋に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の特集『関ジャム音楽史~ヴィジュアル系編~』はエポックメイキングだったのではないかと思うんですが。
藤谷:その番組、私少しお手伝いしたんですが、スタッフの方がしっかりと「ジャンル」として誠実に向き合ってくれた番組でしたね。番組内で近年のV系の例として紹介されたLeetspeak monstersがとあるCDショップで大きな反響があったと聞きました。放送されたのが偶然ハロウィン前ということもあったからかもしれませんが、もともと面白いことをやっているバンドに、いい形でスポットが当たって良かったですね。
高崎:だから「メディア」ってひと言で言っても色々なやり方があるんだなと勇気をもらえたというか。
藤谷:しかし、年末の歌番組でヴィジュアル系が出るとなったら、たいていX JAPAN、LUNA SEA、あとはゴールデンボンバーみたいな感じじゃないですか。「今のバンドも面白いんだよ」ということをどうやって伝えたらいいんだろう。
山口:きっかけは90年代バンドでも、そういう導線をメディアがもっと作ることができたらいいですよね。
アーティストにもっとストーリーを!高崎:でもその一方で、メディアとか外部の人間がバンドをピックアップするのはおこがましい時代に入っていくのではないかという想いもあるんです。「いいもの」は絶対ユーザーが見つけてしまえる時代なんですよ。
旧時代的なメディアの在り方じゃなくて、私たちも新しいものを提供しなければならない、そういう時代に突入してる、っていうのを加味して考えていかないといけないんじゃないでしょうか。
藤谷:流行りを追いかけても仕方ないとは思うんですが、情報の更新は必要ですよね。ところで、吉田さんがネット発のボーカリストを取り上げる雑誌を今立ち上げたのは何故なんでしょう。
吉田:luzさんがきっかけなんですけど、luzさんがLedaさんとRenoさんとツインギターを組むっていうから見たくて行ったら、客が20年前くらいのV系ファンのノリだったんですよ。若い子たちがアーティストに対して神を見てるような接し方をしていて、熱量も半端なかったし、かつて無敵だった頃のヴィジュアル系に近いノリだなって、そこから引き込まれていきました。
高崎:そうだ、私、昔歌い手の追っかけしてたんです。
吉田:5年くらい前? 蛇足さんとか。
高崎:ROOT FIVEが出てくる前ですね。最初に「ホストクラブ Smiley*2」っていう企画があったんです。あと寝下呂企画がバズったときの黎明期にいました。そこからGeroさんの追っかけをしてて。
藤谷:みんなアイコンがイラストだった時代だ。
高崎:私、そっちでバリバリ仕事を始めてもよかったんですけど、なんでヴィジュアル系に来たかというと、当時の歌い手シーンにはストーリーが感じられなかったんですね。歌い手も面白かったですよ、みんな上手くなっていくし。でもヴィジュアル系にはバンドにストーリーがあると感じたんです。
シーンを盛り上げるために必要なこと
藤谷:アイコンが2次元でキャラクター的ではあったし、歌い手同士のコラボの関係性はあったけど、ストーリー性は希薄だったと当時の高崎さんは感じたわけですか。
吉田:そういう意味ではネット発の新世代ボーカリストに焦点を当てた『ROCK AND READ vocal』は反響がすごくて。彼らも今、世間から虐げられたシーンにいるんですけど、歌うことで自分の居場所を見つけているんです。
そういうことを語ってくれたんですけど、やっぱり文脈やストーリーが見えるインタビューって大事なんだなと思いましたね。だからバンドマンも語らなくなってきてしまうと、ストーリーがどんどん具現化しなくなっていくんじゃないかな。
藤谷:『ROCK AND READ vocal』の反響というのは、先程高崎さんが仰っていたように、これまでスポットが当たっていなかった「歌い手のストーリー」を掘り下げてくれるものだったからだと思うんですね。バンドの方もやはりストーリーを補強するようなインタビューが求められるということでしょうか。
山口:新譜についてしっかりと話を聞くことも大事だけど、それと合わせて、なぜそれをリリースしなければならなかったのか、今どういう状態にあるのか、どこに向かいたいのかというバンドのストーリーを伝えることも大事ですよね。
藤谷:そういえば、最近『@COSME』みたいな長文レビューよりも語彙力がないほうが……、たとえば「エモい」とか「好き」「かわいい」みたいなワンフレーズの方が共感を呼ぶという記事を読みました。
エンタメ方面でも100の言葉よりもTwitterでひと言コメントと動画を貼ってるのがめちゃくちゃバズってたりするじゃないですか。体感ベースの話ですがそっちの方が一見さんに「届いている」という実感はあります。コア層にはストーリーのある読み物を、その一方で入り口は広く設定したいところですよね。
高崎:エモと共感の最たるところが、ジャニオタのはてブ(※はてなブログ)だと思うんですよね。ジャニオタのはてブって推しへの気持ちがもう個人の独断と偏見でビックバンを起こしているんですけど、その中に普遍的なファン心理あるあるとか、共感とかがあって。
そのブロガーの推しのことを1ミリも知らなくても、もうドラマが見えるんですよ。私、ライブレポート記事をやるときはわりとジャニオタのはてブを意識してます。音楽オタクではなくファンダムに響く記事、みたいな。
藤谷:ファンの人が熱をもって書くからこそ「情報」ではなくて「ストーリー」になると。
吉田:結局、安易なバズを求めてもしょうがないんじゃないですか。共感だなんだって言ってるよりは「俺はこれだけ想いを持ってる」という音楽を個人的には聴きたい。 エゴの爆発でいいんですよ。そこが世の中に足りないのかなって思いますけどね。マーケティングとか戦略も大事だけど、本当の一番根っこにあるそれを言いたいからやりたいんだって気持ちが僕は知りたいです。
山口:「これが今流行ってます」っていう特集だけじゃなくて、こういうものがあります、こういう見方があります、こういう考え方があります、っていうのを紹介するのもメディアの在り方だと個人的に思います。
藤谷:では、ここで質問です。2017年に“グッときた記事”ってありますか?
私からいきますね。小川あかねさんという方の「ソロ活動15年の軌跡から紐解く、MIYAVIの現在地」という記事がすごく良かった。今の世間的なMIYAVIの評価って「脱V系」してから発見された文脈じゃないですか。そことこれまでの、PSカンパニー時代のMIYAVIの文脈を結合するレビューなんです。これぞさきほど皆さんが仰っていた「ストーリー」ですよね。あとは摩天楼オペラの彩雨さんのブログは日常雑記ではなくてテーマが多伎にわたっていて面白いです。
高崎:山口さんが仰っていた、「こういうものがあります、こういう見方があります、こういう考え方があります」っていうのがプロの視点で丁寧になされているものは、確かにめちゃめちゃ読んでほしいんですよ。音楽ライターにも「仕事頑張ろう」って気持ちになるのでおすすめです(笑)。
『Real Sound』や『現代ビジネス』に発売前の書籍の抜粋が載ってるじゃないですか。柴那典さんの『ヒットの崩壊』(講談社)の抜粋は特に刺激的でした。あとライターの冬将軍さんの記事も読み応えがあります。
吉田:僕は、特に音楽とは関係ないんですけど、吉田豪さんのTwitterが面白いと思ってます。吉田豪さんがRTするツイートを見ていると、なんでこれをそういうふうに捉えちゃうのかなとか、なんで調べもしないで間違った知識や持論で人を攻撃するのかなとか思うんですけど、全ての人に同じように伝わらないんだな、メディアに携わる人間として、言葉って難しいなってつくづく思わされて勉強になります(笑)。
山口:今『毎日新聞』でやっている「一億人の平成史」のインタビューが面白いんですよね。いろんな識者が平成を語るっていう。
藤谷:「ヴィジュアル系」も平成文化を振り返る時に出てくるものだと思うんですよ。今年はそういう大きな枠組みで見た歴史的な企画もやってみたいですね。例えば『WE ARE X』だってひとつの平成史ですし。
山口:そうですよね。ヴィジュアル系の歴史をいろんな視点から振り返りつつ、他のシーンや当時の世相との関連も踏まえて、俯瞰的に見れるものになると面白そうだなと思います。
高崎:ひとつの物事をいろんな視点で見ることの面白さを、もっと私たちが提供できればと思うんです。
藤谷:色々好き勝手に語ってきましたが、結局のところ「じゃあお前はどうなんだよ」っていうオチになるんですよね。「私も頑張ります」ってところで2018年もやっていきたいと思います。
(※座談会中の発言は個人の見解で、注釈は藤谷記載のものです)

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