【詳細ライブレポート】和楽器バンド
、「ようやく準備が整った!」。新た
な航海へ

和楽器バンドが1月27日、横浜アリーナにて<和楽器バンド 大新年会2018 横浜アリーナ ~明日への航海~>を開催した。
日本の伝統的な和楽器とロックバンドを融合するという前代未聞のスタイルで活動している和楽器バンド。日本古来よりのメロディを活かした和風な楽曲からロック色の強い激しい楽曲までの多彩な音楽性、8人編成のバンド、各メンバーのスキルの高さ、着物をアレンジした華やかな衣装、メンバーの美麗なビジュアル…と、他のアーティストにはない独自のスタイルを確立している。
そんな彼らにとって毎年の恒例となった<大新年会>は、2014年に渋谷Club Asiaで開催された初のワンマンライブ<和楽器バンド大新年会2014 -和楽器×バンド合戦->から始まった。このときは300人規模でのライブだったのだが、メジャーデビューを経て年々スケールアップ。2015年に渋谷公会堂で2,000人を動員、2016年には日本武道館で10,000人を動員。そして昨年2017年は東京体育館で2デイズ公演を行い、今回の<和楽器バンド 大新年会2018 横浜アリーナ ~明日への航海~>では自身最大の15,000人を動員するまでに。しかも今回はWOWWOWでのライブ生中継、全国32の映画館と台湾ではライブ・ビューイングも実施されていた。
そもそも<大新年会>は、和楽器バンドにとって一年の集大成を見せる場であると同時に新たな一年への船出となる特別なライブだ。もちろんこの日の<和楽器バンド 大新年会2018 横浜アリーナ ~明日への航海~>も、“今”の和楽器バンドの魅力が最大限に凝縮され、なおかつ彼らの未来へ向けた決意を感じられたライブだった。ここでは、ライブを見ながら改めて感じた彼らの魅力を紐解いていきたいと思う。
    ◆    ◆    ◆
ライブを前にして黒流(和太鼓)は、タイトルを「明日への航海」と銘打ったことについて「ここから新しい大海原に出ていくという意味」と語っていたが、そのタイトルからイメージされる通り横浜アリーナのステージには大きな和船を模したセットが組まれていた。赤を基調にした船のセットはスクリーンを背に、船首を客席後方に向けている。開演時間ちょうどにメンバーの気合入れの声が響き、スクリーンにはメンバーひとりひとりの映像が映し出される。町屋(G)のタトゥーや蜷川べに(津軽三味線)のボディアート、山葵(Dr)の筋肉などそれぞれの個性を強調するカットも入った映像だ。最後に映像の中の鈴華ゆう子(Vo)が望遠鏡をのぞき込むとステージ下方からメンバーが登場。黒流が「<大新年会>、いくぞー!」と鬨の声を上げてライブがスタートした。
幕開けを飾ったのは、2017年9月に初のシングルとしてリリースされた「雨のち感情論」。イントロで8つの楽器の音色に鈴華ゆう子の伸びやかな声が重なった瞬間、一気に視界が開けたような感覚を覚える。ミュージックビデオでの夕焼けの水面をバックに演奏するシーンもまぶたに浮かび、横浜アリーナという広い会場がまるで大海原のように見えてくる。スクリーンには帆も映し出されており、会場後方からはメンバーの乗った船が海へ漕ぎ出したように見えただろう。なお「雨のち感情論」は、映像作品として楽曲を発表してきた彼らが新たな挑戦として音をメインにシングルとしてリリースした楽曲でもある。そんな“出発”を感じさせる楽曲から始まった<大新年会>、初っ端からこれ以上ないくらい晴れやかな気持ちにさせてくれる。
続く「起死回生」のサビでは会場のファンもペンライトで一緒に振付け。黒流の掛け声で会場全体に三本締めが鳴り響く場面もあり、2曲目にして既にメンバーとファンの一体感は最高潮。続く「星月夜」では神永大輔(尺八)が複雑なフレーズを吹きながら軽やかなステップを踏むなど、メンバーが心から楽しんでいることも伝わってくる。一転、厳かな雰囲気から始まる「天樂」では鈴華ゆう子が膝をついて歌い、こちらもミュージックビデオを彷彿とさせるステージングだ。サビにかけて音が重なり盛り上がっていく展開に、ゾクゾクと感情が昂ぶってくる。「天樂」での8つの楽器が一斉にブレイクでキメる最高に華やかな表現は、和楽器バンドにしか出せない良さだ。
ちなみに和楽器バンドのファンは、世代も性別もさまざま。MCで鈴華ゆう子はファンの応援で横浜アリーナに立てたことへの感謝を述べつつこれまでの活動を振り返り、「輪がどんどん広がって行った5年間だったと思います」と述べていたが、まさにその通りだ。男性と女性に分けて呼びかけも行われ、老若男女がこの場に集っていることが証明された。女性ファンからの黄色い声を浴びた町屋からは、お礼の投げキスが飛び出す場面も。客席を見れば着物を着た老婦人から若いカップル、子どもがいたり。なぜ和楽器バンドがこんなにも幅広い層のファンを獲得しているのかと言えば、和楽器の音色が好きな人やロックミュージックのファン、はたまた動画サイトから派生した音楽が好きな人、メンバーの容姿が好きな人など多種の趣味趣向にヒットするポイントを持っているからだ。これは個性豊かな8人のメンバーが揃った和楽器バンドならではの魅力だ。
MC明けのスクリーンには、灯篭と花火の幻想的な映像が流れる。その映像を背にひとり現れた蜷川べには、大所帯の三味線奏者とともにロックに津軽三味線を弾きはじく。その音にあわせてあとから登場した鈴華ゆう子は剣舞隊とともに演舞。そしてひと続きの流れでメンバーが揃い、「吉原ラメント」へ。和楽器バンドにとても似合う艶やかなメロディを、鈴華ゆう子が和傘を差し掛けながら亜沙(B)と歌う。三味線と舞によるショーのようなシーンからの「吉原ラメント」、とても美しい展開だ。かと思えば「反撃の刃」ではロックバンドとしての一面を見せつける。スピード感ある激しい演奏は音だけでもとても格好いいのだが、そこにさらに鈴華ゆう子と剣舞隊が繰り出す刃の煌めきがドラマティックに華を添える。ミュージックビデオのイメージを踏襲しつつライブに落とし込む演出がさすがだ。続いてリリースされたばかりの新曲「雪影ぼうし」も披露される。これは寒い冬から春への目覚めを感じさせる、華やかな和風ロックチューンだ。三味線とボーカルのみのCメロなど、和楽器ならではの音色も存分に生かされていて雰囲気は抜群。
この日はゲストに一青窈が登場するというサプライズも。昨年11月にリリースした和楽器バンド初のベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』のボーナストラックに、台湾で長く愛されているジェイ・チョウの名曲「東風破」が収録されているのだが、この日本語訳詞を一青窈が担当したことから今回のコラボレーションが実現した。鈴華ゆう子と一緒に「東風破」を歌った一青窈の優しい声に、メンバーも感動している様子。しかも一青窈は和楽器バンドにあわせて、この日のためだけの特別な衣装を着用していた。鈴華ゆう子と町屋が、一青窈の書いた綺麗な歌詞を見て思わず涙したというエピソードも明かされた。「東風破」で一青窈と作り上げた柔らかな空気を引き継ぐべく和楽器バンドが次の曲に持ってきたのは、町屋がソロで歌う「郷愁の空」。神永大輔の尺八と、町屋のアコースティックギターのみでの演奏だ。照明も夕焼けのようなオレンジ色のピンスポットだけ。遠く離れた故郷を想う優しい歌に、ここが横浜アリーナであることを一瞬忘れてしまうような身近なぬくもりが感じられた。
ここまででも和楽器バンドが持つ多様な音楽性が存分に発揮されていたのだが、次の「シンクロニシティ」は特に挑戦的な楽曲だろう。男女が入れ替わってしまったというストーリーを鈴華ゆう子と町屋が歌い分けるというアイディアもさながら、こういったジャジーな楽曲にも違和感なく和のエッセンスを加えてしまう和楽器バンドの表現力の高さに脱帽する。また「シンクロニシティ」と対照的に、和ならではの良さが堪能できたといえば「花一匁」と「オキノタユウ」。「花一匁」では鈴華ゆう子が花や蝶が舞う映像を前に、ひとり立って歌う。その様子はいぶくろ聖志が鈴華ゆう子をイメージして書いたという詞の世界観にぴったりの、“儚げな中にある凛とした強さ”を感じさせる。人生の移ろいを描いた「オキノタユウ」も、横浜アリーナという広い会場にぴったりの楽曲だった。こちらはほかの楽曲より音数がぐっと少ない曲なので、シンプルにメロディの美しさを味わうことができる。各メンバーも立ち位置から動かず、“静”を現すステージング。楽曲自体が持つ力を知れた。
一方、“静”があるなら「海戦乱打」と題された黒流による和太鼓のステージは“動”。黒流が和太鼓を叩くと炎が上がる演出や、太鼓隊とダンサーを呼び込んでの激しいステージにどんどん心が湧きたっていく。まるで合戦に向かう武士のような気分だと思っていたところに、「戦 -ikusa-」が投下される。太鼓隊もダンサーも入り混じってのステージは、圧巻。そして山葵の派手なドラムプレイ、「吉原ラメント」を彷彿とさせる亜沙のベースから、「拍手喝采」へと続いていく。この楽曲はメンバー紹介的な要素も含んでおり、いぶくろ聖志を現す「爪弾くこの両手で奏で消し去る」という歌詞のあとに筝のソロ、亜沙のソロ曲を連想させる「可憐に振り刻む二面性フィロソフィー」という歌詞のあとにベースソロ、といったような構成になっている。町屋のテクニカルな速弾きなど各メンバーの技が光り、それぞれがその分野の第一人者であることを実感できて大変面白い。他の楽曲では聴けない和太鼓とベース、ギターとボーカル、尺八とドラムといったペアでの演奏も聴けるのも美味しいポイント。イントロでは別々に演奏されていたフレーズがアウトロでは全員で奏でられているところなど、8人のメンバーが奇跡を越えて出会い今ここに立っているという軌跡に思いを馳せてしまう箇所もたくさんある。
そして和楽器バンドならではのライブ演出といえば、黒流と山葵の打楽器セッションも外せない。打楽器が2つ存在しているバンドでしかできないこの演出。今回は2人がセンターステージとアリーナ後方に設けられた台にわかれ、向かい合ってリズムを刻む。そして今回のライブで初めて導入されたトロッコに2人がのり、ウエーブを起こすなどファンを盛り上げていく。会場が温まったところに他のメンバーとダンサーも登場し、「華振舞」「流星」を披露。いよいよライブも終盤だ。鈴華ゆう子はトロッコに乗り、アリーナを一周しながらサインボールを客席に投げ込んでいくサービスも。 “この時間の中に僕等出逢えた奇跡”“いつかまた会える日まで君を想っていよう”という歌詞に、今日この会場で和楽器バンドのライブを見られたことへの嬉しさが込み上げてくる。そして本編ラストはもちろん「千本桜」。言わずと知れた和楽器バンドの代表曲に、会場は大盛り上がり。メンバーもみな笑顔だ。曲中にもある通り、まさに“大団円”でライブ本編が終了した。
ファンの「暁ノ糸」の歌声に呼ばれ始まったアンコール。「はじまってしまうとあっという間!」という鈴華ゆう子に蜷川べにが「明日もやろう!」とわくわくした笑顔で答えるなど、メンバーも全員楽しくてたまらないといった様子だ。この日発表された全国ホールツアーについても、8人全員でトーク。仲が良いからこその軽快なトークからは、横浜アリーナという大舞台に立っていてもあくまで自然で、飾らないメンバーの姿を感じられて嬉しい。こういったメンバーの人間性に魅せられている人も多いはずだ。そして鈴華ゆう子からは「和楽器バンドは今年でデビュー5周年になるわけですが、すごくこれまで怒涛のように駆け巡って来たなと言う感じなんです。全国ツアーをまわったり海外での経験もたくさんさせていただきました。駆け抜ける中で経験値を積んできて、私がいま思うことは“よし、ようやく準備が整ったぞ”というところです」との言葉。続けて「2018年は“日本のバンドといえば和楽器バンドだ”と言われるようなバンドになっていきたいと思っています。応援していて良かったと思えるような、ひとりひとりに自信を持って応援してもらえるような和楽器バンドになりたいと思いますので、今年もよろしくお願いします!」との力強い宣言も飛び出す。
MCの前、アンコール一曲目に披露されたのは8人が出会って初めて演奏した「六兆年と一夜物語」だったのだが、スクリーンには当時のミュージックビデオも流れていた。鈴華ゆう子の宣言を聞いたあとで思い返してみれば、あの演出が彼らの未来へ続いていくための第一歩を示していたのだ…と胸に迫るものがあった。その後「暁ノ糸」で会場全体で合唱したあとは、鈴華ゆう子の「みんなまとめて花になれ!」という掛け声で新曲「花になれ!」を披露。メンバー全員で合いの手を入れたり黒流の声に応える形でコールをしたり、ファンも一緒になって歌ったりと最高の盛り上がり。華々しい幕引きとなった。
和と洋が融合したクオリティの高い楽曲、各プレイヤーのテクニック、まるでショーを見ているかのようなライブ演出、メンバーの仲睦まじさ…そのすべてが今年もぎゅっと詰め込まれていた<大新年会>。これは和楽器バンドにしかないものであり、和楽器バンドのライブでしか味わえないエンターテインメントだ。そして一昨年、昨年とそのクオリティが高くなり、どんどん“和楽器バンド”という存在が確かなものになっていっているように思う。とはいえ鈴華ゆう子が「ようやく準備が整った」と言っていたように、まだまだ彼らは完成形になるつもりはないのだろう。「花になれ!」の歌詞にある通り、和楽器バンドが“夢を掴もう 奇跡起こせ”という心意気で“僕らの更なる未来へ”繋がっていく様を、今年も一年追い続けていきたいと思う。
取材・文◎服部容子(BARKS)
セットリスト


1.雨のち感情論

2.起死回生

3.星月夜

4.天樂

5.風雅麗々

6.吉原ラメント

7.反撃の刃

8.雪影ぼうし

9.東風破

10.郷愁の空

11.シンクロニシティ

12.花一匁

13.オキノタユウ

14.海戦乱打

15.戦 -ikusa-

16.拍手喝采

17.律動遊戯・炎

18.華振舞

19.流星

20.千本桜
en1.六兆年と一夜物語

en2.暁ノ糸

en3.花になれ!

<和楽器バンドTOUR 2018>

【埼玉】2018年4月28日(土)川口リリア

【茨城】2018年4月30日(月・祝)茨城県立県民文化ホール

【北海道】2018年5月3日(木・祝)札幌わくわくホリデーホール

【京都】2018年5月6日(日)ロームシアター京都 メインホール

【静岡】2018年5月12日(土)静岡市民文化会館中ホール

【島根】2018年5月16日(水)島根県民会館

【岡山】2018年5月19日(土)岡山市民会館

【広島】2018年5月20日(日)広島上野学園ホール

【熊本】2018年5月25日(金)市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)

【福岡】2018年5月27日(日)福岡市民会館

【愛知】2018年6月2日(土)名古屋国際会議場センチュリーホール

【福井】2018年6月3日(日)福井フェニックスプラザ

【兵庫】2018年6月9日(土)神戸国際会館 こくさいホール

【神奈川】2018年6月16日(土)カルッツ川崎

【福島】2018年6月23日(土)福島県文化センター 

【岩手】2018年6月24日(日)北上市文化交流センター さくらホール

【高知】2018年6月29日(金)高知県立県民文化ホール・オレンジホール

【香川】2018年6月30日(土)ハイスタッフホール(観音寺市民会館)

【富山】2018年7月7日(土)高周波文化ホール

【長野】2018年7月8日(日)まつもと市民芸術館

【東京】2018年7月16日(月・祝)東京国際フォーラムホールA

【新潟】2018年7月22日(日)新潟県民会館

【沖縄】2018年7月28日(土)沖縄ミュージックタウン音市場

【宮城】2018年8月5日(日)仙台サンプラザ

【大阪】2018年9月1日(土)グランキューブ大阪 メインホール

【大阪】2018年9月2日(日)グランキューブ大阪 メインホール

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