【ライブレポート】マキタスポーツ本
領発揮、音楽批評と笑いが襲う新たな
エンターテイメント

今まで観たことのないエンターテイメント・ショーだった。“笑い”と“音楽”は独自の新しい融合を果たし、ノッて、笑って、驚いて、感服してしまったマキタスポーツ節全開のステージ<オトネタ¥7500>@東京・COTTON CLUB。1月23日(火)&24日(水)にわたり、ひとつの革命を起こしたこの2days公演の初日についてレポートする。
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今回のライブのポイントのひとつはCOTTON CLUBを会場にしたことだ。開演時間の20時近くともなると、周辺はロマンチックな雰囲気が漂う東京駅のすぐそばという立地にして、場内に一步足を踏み入れればラグジュアリーな空間が広がるのがCOTTON CLUBである。実際に着席してみると洗練されたムードに包まれ、客も落ち着き払った様子だから、まるでオーチャードホールにエイジアのコンサートを観に来たみたいだ、と隣に座っていたBARKS編集長・烏丸と例えてしまったほどだ。アメリカとかのショー空間ってこんなイメージだよね、とも話した。つまり、開けたオーセンティックなその空間に、マニアックでサブカルのイメージも強いマキタスポーツのライブが始まるという気がしなかったのだ。
そして、バンドの演奏に迎え入れられたマキタは、上下真っピンクのスーツの下から黒字に白の水玉模様のシャツを覗かせ、頭には中折れ帽という出で立ちで、ポップにファンキーに登場してみせたからもっと驚いた。翌々日に48歳になるというマキタが歌うのは、マーク・ロンソン「Uptown Funk ft. ブルーノ・マーズ」をハイテンションかつ自虐気味に自己紹介ソング化した「おっちゃんFUNK」。衣装も含めて本家のミュージックビデオのブルーノ・マーズそのもののようだった!と言ったら言い過ぎだろうか(※言い過ぎ。本人談の井脇ノブ子寄り)。そしてサビでは、“おっちゃん本気だ!”という見事なソラミミも施してあり、だがしかし、れっきとした所信表明のようにも聴こえてもくる歌に加えて、膝には水が溜まっているという身体でキレキレのダンスまで披露し、オープニングを派手に飾った。めちゃくちゃポップだ。照れた表情をほんのちょっとだけ滲ませながらも、どメジャーな曲を正面切ってパフォーマンスするマキタの姿は目新しい。
その振り切れた姿は、近年のマキタが大活動してきた俳優業によって得た表現の幅のたまものだと感じられた。音楽と笑いを両立させた自主イベント<オトネタ>は、2009年から2012年まで4年連続で開催していたものの、そういった俳優業などにより、いわゆる“売れちゃった”ためお休みしていたわけだが(それまでの長い期間を“ヤゴ”と本人は形容した)、2018年に芸能生活20周年を迎えることを機にこうして堂々復活を遂げたのである。ステージを体感するとよく理解できるのだが、それほど入魂しなければ絶対に成し得ない、非常に考え抜かれたエンターテイメントがマキタの<オトネタ>だ。しかも今回は、本人が売れたことによる注目度、そして“復活”というキーワードが大きなプレッシャーとなったはずだし、マキタ自身も「たけしさんだって中野サンプラザで5000円ですよ?」と話したように、お笑い系のライブにおいては強気の7500円という価格設定である。にもかかわらず、チケットも完売し、終始ステージも見事だった。
あらためてライブの全編に渡って痛感させられたのが、マキタの芸達者ぶり。アーティストやヒット曲や時代性に対する批評眼のすばらしさは最早マキタの代名詞になっているが、まず、音楽の実演そのものが抜群に巧い。1970年、大阪万博の年に生まれたマキタに強い影響を与えた昭和のヒット曲をメドレー形式で紹介していった際も、すべて巧い。歌の巧さにしろ、リズム感のよさにしろ、笑いのセンスにしろ、音楽をネタに昇華するために細部まで研究し努力する才能にしろ、マキタスポーツという人物は、かなり選ばれし人間なんだと思い知る。
マキタが小学校に上がるくらいの頃、この曲で一番最初に親戚縁者の前でモノマネを披露したという沢田研二勝手にしやがれ」を歌い始めると、途端にジュリーのあの甘い声と儚げな語尾が現れ、あまりにもまんまで引いてしまった。そしてもちろん、斜めにかぶった帽子を可憐に投げ飛ばして「……決まった」とつぶやくマキタ。慌てた様子でバンドのギター担当である上杉知大が帽子をマキタに被せ直す、マキタまた飛ばす、上杉また被せ直す。「……俺の頭が恥ずかしいみたいじゃねぇか!」とオトす。そこから間髪入れずに、マキタが一番最初に好きになった女性アイドルだという山口百恵の「イミテーション・ゴールド」に移れば、歌のブレイクポイントに気持ちよく入ってくるはずのバンド演奏が絶妙にズレたりと、一連のコミックバンド・コーナーは大充実である。さらに続くのは、マキタの思春期を彩ったという中山美穂出演ドラマ『毎度おさわがせします』の主題歌にして松本隆筒美京平という黄金タッグによるC-C-B「Romanticが止まらない」であったが、あのキーボードのイントロが延々ループして歌に入らず終わっていくという始末だ。まさに音楽と笑いが融合したネタの嵐。曲のポイントを捉えた共感性の高い芸の数々は、笑えると同時に知的だ。
続いて、「北酒場」「3年目の浮気」「別れても好きな人」「熱き心」「みちのくひとり旅」「襟裳岬」「よこはま・たそがれ」「天城越え」「北国の春」「夢芝居」を数小節ずつという怒涛の演歌メドレー。そのあとは、チェッカーズ「涙のリクエスト」(昔はフミヤに似てると言われたと嘯く)の中で、ファルセットが気持ちいいワン・フレーズ“銀のロケット”をフューチャーし、バンドのドラム担当であるウチノファンタジーと共にファルセットの伸びのよさを競うという妙芸が飛び出す。さらに、高校時代にギターを学んでいったマキタが特に思い出深いというエリック・クラプトンの「いとしのレイラ」のイントロを軽快に奏でたバンドであったが、ヴィブラ・スラップの音を合図にキーボードは尺八の音色でリフを奏で、「与作のレイラ」として両曲のミックスソングが完成してしまうのだ。
──信じられないかもしれないが、ここまででまだ開演から30分程度。次々とネタが展開していくテンポのよさもさすが。ダレないのだ。加えて、これだけヒットソングを前にすると、来年で平成も終わってしまうという今のタイミングも相まって、マキタが昭和ポップ史の輝きを総括しているような感覚すら芽生える。そして気づけば、昭和はいかに多くの国民的ヒットソングが量産されたかを思い知る機会にもなっている。
だが、アップデートをやめないのが<オトネタ>である。新ネタとして、ヒット曲が生まれなかったと言われている2017年において2016年から引き続き愛された星野源の「恋」、さらにはback numberの「クリスマスソング」、西野カナの「トリセツ」といった最近のヒットソングのヒットのポイントを分析していった。「かわいさを身に着けたい」と最近は切実に願っているらしいマキタによる「おじさんのトリセツ」は、本当はイヤなはずのおじさんのあるある行動も、この曲調だと不思議とかわいく思えてくる音楽のマジックを体感。条件羅列ソングのクラシックである「関白宣言」を曲中で経由していたこともマキタらしい。“情緒不安定になってしまうくらい本当に良い曲”と絶賛した「クリスマスソング」を元に、back numberの音楽性の魅力に真っ向から切り込みスパイシー且つ細かく解説していく作品「方法論」も、マキタの中にあるJポップに対する興味とリスペクトを反映していた。Jポップ評論を、机上ではなく、実際に実演できるマキタスポーツの真骨頂を次々と体験できる贅沢なターンだった。
◆レポート(2)へ
さらに、最近の話題として世の中の“キラキラ化”を挙げたマキタ。その代名詞がキラキラネームで、自分の子供が通う学校に“電気”と書いて“テクノ”と読ませる子がいるらしいが、キラキラ化は校歌にまで及び、グッと来るメロディやシンコペーションの採用によって、まるでポップソングのように胸を締め付けようとしてくるもんだから逃げるの大変なんですよ、と語った。自ら作ったベーシックな校歌風ソングを、曲調や歌唱方法ともにR&Bや、ヒップホップ調にアレンジしていき、見事に我々の気持ちもザワザワさせてくれたのだが(笑)、こんなふうに誰もが“歌が上手い風”に歌を歌えるわけでも、ましてや“それっぽいラップ”を刻むことができるわけでもなく、音楽的な基礎体力の高さにまた恐れ入る。
また、“大丈夫”というJポップに溢れる魔法のキーワードを、牧歌的な王道メロディに導かれるままにひたすら唱えると、“なんだか大丈夫な気がしてくる”作用を歌にしてしまった曲「きっと、大丈夫」で見せた謎の大団円も、マキタならではの批評眼が光っていた。
── と、マキタスポーツをかなりの優等生のように綴ってきたが、もちろん到底レポートできない内容もたくさん披露してくれたわけだ。彼の批評眼とは、文字通り怖いほど冴えているため、これはもう実際のライブに足を運んでもらうのが一番としか言えない。特別ゲストとして登場した浅草キッドとのトークに関しても、毒っ気は加速するばかり(笑)。ちなみに、当時28歳だったマキタが、年齢なども一切問わずに「ビートたけしの遺伝子を継ぐ者」という項目だけを参加資格とした浅草キッド主催ライブ<浅草お兄さん会>で第5代チャンピオンとなった、という特別な関係性が浅草キッドとマキタのあいだには存在する。
<オトネタ>は、毒にも薬にもならない漂白された世の中の言動に物足りなさを感じている人には是非おすすめしたい場だ。ラストソングの前にマキタもこう話した。
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「……久しぶりに<オトネタ>をやるに際してノイローゼみたいになりましたよ。でも面白い体験でした。どんどん自分の性格が悪くなっていくんです。面白いですね、お笑いっていうのは。悪魔的な心理も働くからこそいいのかな、とかね。で、自分でそういうスイッチを押せばいいんだって、メンタル面でいい修練にもなりましたよ。これからも面白いこと、面白いネタ、面白い行動でみなさんの注目を集めていけたらいいなと思っているわけです」
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と同時に、あくまでもポップなスタンスで構えているのが今のマキタスポーツであり、そこがとても痛快だと思う。先日公開したBARKSでのインタビューにおいても、元来パンクな性分を持つマキタはこう話した。
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「人と同じじゃないことをやりたいっていう天邪鬼的な考え方が根本にあるのならば、今の時代は、人と同じことをやらないこと自体が一番凡庸なことですよね。大衆が存在していない/お茶の間がないっていう時代ならばこそ、今一番のカウンターは、より大勢の人たちに向けて納得されるようなポップスを作ることだとも思います」
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今回のステージ上でも<オトネタ>を毎年継続的に開催していきたいと誓った。<オトネタ>をシンボリックな場としながら、マキタはこれからさらに愛すべき曲者になるはずだ。前々からマキタスポーツには、性別も年齢も国籍も問わない天性の愛嬌がある気がしていたのだが、自らも目指しているように着実にかわいいおじさんになっている。冗談ではなく、これは大きなポイント。これだけの批評眼の鋭さと、それに相反するかわいらしさという鎧まで身につけていれば、ユーモアがあって歌って踊れて喋れて書けて考察して演じる、最強のエンターテナーになるのも時間の問題と思う。唯一無二のミュージシャンとしてのマキタの可能性を感じ、嬉しいゾクゾク感に襲われたエポックなライブであった。
取材・文=堺 涼子(BARKS)
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