「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」

「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」

「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
2018年限りで引退を発表した、
安室奈美恵のベストヒット20を探る!

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、今回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。

親しまれる“アムロちゃん”から
リスペクトされる“アムロちゃん”へ

一時代を築いた女性ソロのスターたち。ある者は完全引退し、またある者は進化を捨てて“永遠のアイドル”に挑戦し続け、またある者は楽曲制作にシフトしていく。そんな中で安室奈美恵は、常に変わり続けていながらも、シーンのトップにいるイメージを保っているという驚異的な存在だ。しかし、その光の部分が鮮やかに見える彼女なだけに、下積みや低迷期といった影の部分も、他のスターよりも多いように思える。その遍歴をざっと振り返ってみよう。

まずは、5人組アイドル・グループ“SUPER MONKEY'S”としてWタイアップシングル「恋のキュート・ビート/ミスターU.S.A.」で華々しくデビューするも、オリコン最高29位を頂点とした下積み時代。次に、ユーロビートカバー路線で一気にブレイクし、さらに小室哲哉プロデュース作品で“アムラー”現象まで引き起こすことになった95年~97年、そして突然の妊娠・結婚発表(当時は号外まで撒かれましたっけ)を経て、98年に出産し、その後、小室哲哉作品で復活するもセールスが休業前には及ばず、やがて別の作家を起用するも低迷し続けた98年~02年。これ以降は懐メロ中心のLIVEをすることで、かろうじて延命化していくというのが通常の女性スターで、それでも十分幸せな転進となろう。
しかし、彼女の場合は03年以降、ヒップホップ・アーティストとのコラボを増やしていくことで、独自のポップなヒップホップ=“HIP-POP”路線を確立、以前のようなカラオケ向きのキャッチ―なメロディーラインのシングルを歌うこともしばしばあるが、基本はクールで複雑な楽曲が中心で、親しまれる“アムロちゃん”から、リスペクトされる“アムロちゃん”へと成長を遂げる。それゆえ、2008年にはトリプルA面シングル「60s 70s 80s」で約9年半ぶりとなるオリコン1位獲得、その勢いに乗って02年~08年までまとめたベスト盤『BEST FICTION』も累計155万枚と、98年のアムラー人気の集大成ベストの169万枚とほぼ並ぶほどの高セールスとなった。08年と言えば、すでに着うた・着うたフルの時代となり、CDではなくダウンロードで聴いたり、その中でもアルバム単位ではなく1曲単位で音楽を聴いたりということが習慣化してきたことを考えると、この08年の155万枚というのは、90年代の200~300万枚クラスのヒットと考えられるだろう。
その後は、地上波テレビとの距離を徐々に取るようになり、その分、国内外のLIVEツアーを積極的に回り、その圧倒的なパフォーマンス力は誰もが知るところとなる。そして、13年以降は作品の作り方も二極化。ドラマや映画の主題歌はシングルとして発表しつつも、アルバムはシングルとは独立したよりクールでハイセンスな楽曲を連発、ほぼ全篇英語詞の楽曲も数多くリリースしてきた。

そんな中、デビュー25周年を迎えた2017年9月20日での突然の引退発表。2018年9月16日と、1年後の引退としたにもかかわらず、直後からCDやダウンロードでの旧作品の購入が相次ぎ、カラオケでも90年代を中心に過去のヒット曲のリクエストが殺到。そして、同年11月8日にデビュー25周年で発売されたベストアルバム『Finally』は初動で100万枚を突破、年明けには音楽業界全体を見渡しても2010年代初となる200万枚を突破!2018年2月からのラストツアーのチケットも超難関の争奪戦となっており、改めて彼女の存在感の大きさを示している。

この安室奈美恵の約25年間を振り返ってみると、CDヒットやファッションを中心に社会現象となった90年代、ヒップホップのマナーを取り入れることで復活を果たした00年代、そして配信やカラオケヒットのシングルとコアな洋楽ライクなアルバムの二極化が強い10年代、と、どの時代が最もヒット曲が多いかという回答はとても難しい。だからこそ、今回のヒットの判定方法でどこまで納得できるものになるか、筆者自身も楽しみだ。

OKMusic編集部

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