【インタビュー】リーヴズ・アイズ、
ボーカル交代劇の真相を語る

2017年春、「リーヴズ・アイズからリヴ・クリスティーネが脱退」とのニュースを聞いて、思わず我が目と耳を疑ったという人も多いのではないか。多くのファンがショックに茫然とし事態がよく呑み込めていない中、既にバンドはかなりの数のライブ/ツアーをこなし、2017年秋にはエリナの初参加作としてEP『FIRES IN THE NORTH』をリリース、2018年に入ってすぐに通算6枚目となるニュー・アルバム『SIGN OF THE DRAGONHEAD』を発表した。
どうしてリヴは脱退するに至ったのか?そしてエリナ加入の経緯は?『SIGN OF THE DRAGONHEAD』はどのような作品か…バンド・サウンドの要であるアレックスことアレクサンダー・クルル(Vo)と、彼の右腕とも言うべきトーステン・バウアー(G、B)、エリナ・シーララにたっぷりと語ってもらった。
──まずは、2017年4月に起こったボーカル交代について。どうしてリヴ・クリスティーネは脱退することになったのですか? リヴとアレックスは夫婦関係にありましたが、音楽的な理由ではなく個人的な理由があったのでしょうか?
トーステン・バウアー:その質問には僕が答えるよ。リヴとアレックスは、実は2016年の始めにカップルとしての関係を解消したんだ。約20年の歴史があるこのバンドで、彼等と一緒にたのしく活動してきた者として、客観的な目で言わせてもらうと、バンドの今後や彼等の息子について2人の意見は一致し、その結論に対して僕は彼らを尊重している。でも2016年の1月だったかな…テル・アヴィヴでリヴの最後のショウ(※実際には2月14日)を行なっていた時、何だか不思議な感覚というか、ちょっとしっくりこない感じがして…。
アレクサンダー・クルル:そう。何かがヘンだ、彼女はどこか変わってしまった、何か凄く妙なことが起き始めているぞ…と感じたんだよ。
トーステン・バウアー:その時、もう2人は別れていたんだけど、何が起こっていたかと言うと、リヴに新しいボーイフレンドができてね。その彼が僕達のやることに色々と干渉してくるようになっていたんだ。イスラエル滞在中もしょっちゅう電話してきていたし…。
──干渉ということは、彼もまたミュージシャンなのでしょうか?
アレクサンダー・クルル:いや、リヴのセラピストなんだ。
トーステン・バウアー:ミュージシャンでもないのに、バンドのあれこれに関して、事細かく色々と口を出してきたんだよ。
アレクサンダー・クルル:良くないことだよね。いや…あってはならないよ。リヴは最初、俺達が別れた時にバンドをすぐに脱けたいと思ったんだ。でも、こういうのってよくあることだろ?だから「夫婦関係が解消されたからといって、別にバンドを去ることはないじゃないか」と、彼女はそのままバンドに残ることになった。みんなで話し合い、彼女を説得し、彼女も納得の上でね。それなのに、あの男が登場した瞬間、全てが変わってしまった。リヴはまた「バンドを離れたい」と言い出したのさ。というか「辞めたい」「いや、続ける」「やっぱり辞める」「続けたい」…と、その繰り返しでさ。
──何と…。
アレクサンダー・クルル:ハァ…(溜息)、セラピストとの新しい人生…だって?「おいおい、頼むよ」って感じだったね(苦笑)。そういった私生活のゴタゴタから息子は遠ざけておきたかった。絶対に良くないし、彼の人生に影響を与えることだけは避けたくて、そういう状況から息子を守ってやりたかった。それに俺達は(既に決まっていた)ツアーをキャンセルしたくなかったし、そういうバンドの存続の仕方を望んではいなかった。でもこのままでは活動し続けることができない状況になっていたから、「これから俺達で新しいシンガーを探す」とリヴにハッキリ伝えた。すると彼女は「自分の後継者は自分で決めたい」「自分の目で確かめたい」なんて言い出してね。「それはダメだ」と返したけど、時間が差し迫っていて、21,000人の前でプレイするインドネシアでのショウ(※メタル・フェス<Hammersonic>)を1~2週間後に控えていたから、とにかくのんびり構えている場合じゃなくてさ。
トーステン・バウアー:そこで(2016年)4月にバンド・ミーティングを開いたところ、その場でリヴは「やっぱりバンドから離れたい」と言ったんで、互いにハグし合ってようやく新しいシンガーを探す段階に移ったんだ。すぐに見つかるかどうか、その時点では見当もつかなかったけど、実は思い当たる候補がいて…。
アレクサンダー・クルル:リヴがいなくなるとハッキリした時「もう(次のライブまで)日がないけど…さぁどうすればイイ?」と考え込んだ。でも、以前イギリス・ツアーのサポート・バンドに素晴らしいシンガーがいたことを思い出したんだ。
──それがエリナだったのですね?
アレクサンダー・クルル:ああ。彼女ならやってくれるかもしれないと思い、電話を掛けてみた。え~と、エリナと初めて会ったのはいつだっけ…?
トーステン・バウアー:2015年じゃない?
アレクサンダー・クルル:でも、その時は顔を合わせてゆっくり話をすることはなかったな。
エリナ・シーララ:そうね。あの時は、ロンドンのO2アカデミーでプレイしたんだけど、「ハロー!」とちょっと挨拶したくらいだったわ。だから、お互いのことはあまりよく知らなくて…。
アレクサンダー・クルル:エリナを後任に…というのは、俺達の一方的なアイディアだったんだ。彼女がENKELINATION(※当時のバンド名、2016年にANGEL NATIONと改名)でサポートしてくれた時、詳しことは何も知らなかった。彼女は素晴らしいバックグラウンドの持ち主でね、(フィンランドの)音楽一家に生まれクラシックの教育を受けたシンガーで、両親も兄弟もみんなハイクラスの音楽家なんだ。その後ロンドンへ移住し、クラシックに限らずあらゆる音楽スタイルのボーカルを学び、今はバンドを率いていることもあって、メタルについてやロック・ビジネスにも精通している。ただ、そうしたことは全て、彼女がこのバンドに合流してからスタジオで教えてもらったんだよ。改めて色々なことを知った俺達は、彼女が話すことにいちいち、「えっ」「凄ぇ」「ワオ!」と唸りっぱなしだった(笑)。
──当時、エリナの他にも候補はいましたか?オーディションを行なったことは?
アレクサンダー・クルル:ないよ。そういえば、エリナについて面白い話があった。彼女はNIGHTWISHのトゥオマス(・ホロパイネン:key)と従兄妹なんだって。トゥオマスとは友達だから、これまた驚いた。メタルの世界は狭いな(笑)。それに俺達は、他にもフィンランド人の友達が沢山いて、フィンランドとは良いつながりを持っていたから、「完璧だ」「全て丸く収まった」と思ったね。ともあれ、活動を止めて2年間ずっとオーディションばかり…なんてことはゴメンだったから、こうして振り返ってみるとバンドとしてなかなかウマく乗り越えられたと思う。(リヴを含む)バンド・ミーティングでは互いに意見を言い合い、すべてが公平に進められたし、彼女もバンドを去りたいと思っていて、実際リヴの弁護士にまで「彼女はバンドを辞めたがっている」と言われたからね。何で弁護士を立てなきゃならないんだと思ったけどさ(苦笑)
──ただ、リヴはその後、「私の知らないところで話が進められていた」とコメントを出しましたね。訴訟に発展するとも聞いていますが、現在はどのような状況なのでしょう。
アレクサンダー・クルル:ハハハ(笑)それって、正にフェイク・ニュースだよ。俺達は(リヴが脱けたからといって)バンドを止める(=解散する)つもりはなかったし、この先もずっと活動し続けたいと思っていた。今回のこの(シンガー交代という)大変な決断に際し、俺達の思いは明確だったね。つまり、臨時の後任や単なる代役、(リヴと)同じことを真似するだけのシンガーなど求めてはいなかった。個性的でカリスマ性があってズバ抜けた実力の持ち主で、言うまでもなく、このバンドに合ったシンガーでなければならなかった。これがバンドにとって“新たな時代の幕開け”になるんだからね。そして、ごく短期間で理想のシンガーを探し出すことができたんだ。とても、とてもラッキーだったと思う。まぁ、色々とゴタゴタしたけど、今はスタジオに明るく輝く光がある。凄く嬉しいし最高の気分だ。実際、エリナはそういう存在なんだよ。
──エリナが加入して半年後に、お披露目となるEP『FIRES IN THE NORTH』がリリースされましたね。
アレクサンダー・クルル:エリナと『KING OF KINGS』(2015)に伴うツアーを続けていた時、多くのファンから「素晴らしいシンガーだ」と感激されると同時に、ライブをやる度「彼女の歌が家でも聴けたら」「できれば新曲を」と言われてね。だから「よし、分かった」と、そうしたファンの要望に応えたのさ。そうして、ゼロから曲を書き始めた。新曲(「Fires In The North」)はツアーの合間に書いたんだ。そしてその後も、SONATA ARCTICAと7週間、SABATONとも5週間、それぞれ北米を廻ったんだけど、その前にヨーロッパでは大規模なフェスティバルに何度も出演したし、ヘッドライナーも務め、かなり長くショウを重ねてきた。既にライブでプレイしていた(過去)曲(「Edge Of Steel」)も、PVとして発表したよ。
──新作『SIGN OF THE DRAGONHEAD』の収録曲を書き始めたのはいつ頃でしたか?
トーステン・バウアー:僕達は常に曲を書いている。ただ、この新作に関して言えば、アイディアをまとめ始めたのは2年ぐらい前かな。『KING OF KINGS』の作業を終えてすぐ、間も開けずに、この『SIGN OF THE DRAGONHEAD』に取り組み始めた。ソングライティング・チームの中心となるのは、いつも大抵アレックスと僕だ。まず曲のスケッチを書くんだけど、オーケストレーションや各楽器のパートを振り分けるのは、いつも大変な作業でね。言うまでもなく、実際のプリ・プロダクションに着手するのは、その後のことで、クワイアやオーケストラを除けば、ここMastersoundスタジオで全てのレコーディングが行なわれる。だから、2年近くかかったと言っていいだろうな。
──『SIGN OF THE DRAGONHEAD』もまた、バイキングにまつわる作品のようですね?
アレクサンダー・クルル:北欧の伝説や自然、中世に関するトピック等々の内容を織り込むことは、これまでもずっとやってきたことだし、今後も変わらずやり続けるよ。俺達の音楽の方向性と歌詞のコンセプトは、非常に上手くマッチしているからね。あと、トーステンと俺はもの凄い歴史オタクでさ(笑)、2人とも、そういったトピックに夢中なんだ。今回のアルバムの歌詞を書き始めた時も、頭の中には色々なビジョンが既に浮かんでいたよ。このバンドのアルバムでやったら、凄く面白いだろうな…と思える話や物語が、ね。
──特に印象に残った曲に「Riders On The Wind」があるのですが、これまでになくポップでキャッチーで明るい仕上がりですよね? こうした曲に挑戦しようと思ったキッカケは?
アレクサンダー・クルル:この曲には俺達も大いに気に入っているよ。確かに、リスナーにとってはちょっとしたサプライズかもしれない。これまでやってきたことを、より先へと押し上げていった曲だからな。でもそれは、エリナの声によってできることや可能性が広がった結果なんだ。彼女は曲の雰囲気や曲に必要なモノをしっかり感じ取ることができるから、それが大きく作用しているんだと思う。
──ちなみに、ハーディ・ガーディやニッケルハルパ、バグパイプやホイッスル、フィドルなどの特殊な楽器の演奏者は、どのようにして見つけてくるんですか?
アレクサンダー・クルル:長いこと活動していると、嬉しいことに多くのミュージシャン達と知り合うことができるし、そのつながりはどんどん大きくなっていくんだ。今回一緒に仕事をしたゲスト・ミュージシャンの中には、初めてのメタル・バンドとの仕事になったという人も少なくない。クワイアを担当したLONDON VOICESもそうさ(※実際は、前作『KING OF KINGS』が初共演)。彼等は『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』といった映画の音楽を手掛けていて、他にもクイーンやピンク・フロイド、ポール・マッカートニーといったバンドとも仕事をしてきたものの、メタルには縁がなかった。だから彼等にとってリーヴズ・アイズが初めてのメタル・バンドになったんだ。それって凄く光栄なことだよ。
──ニュー・アルバムには「Jomsborg」という曲が入っていますが、これは史実に基づいているのでしょうか?
アレクサンダー・クルル:「Jomsborg」は俺にとって特別な曲だ。ヨムスボルグのヴァイキングは、その時代において特別なヴァイキング部隊で、『ヨムスヴァイキングのサガ』の舞台となっているドイツ北部のバルト海沿いの地は、俺の親父の親族の出身地なんだよ。ここヨーロッパには中世やヴァイキングの時代を再現しようとする大規模なグループやコミュニティがあって、現代における最も大きなヴァイキング戦士集団も“ヨムスボルグ”、または“ヨムスボルグ・アーミー”と呼ばれていて、俺はそのグループの名誉会員なんだ。それで今回、現代のヴァイキング戦士達と昔のサガの両方を(「Jomsborg」で)取り上げてみようと思ったんだよ。
──では最後に、今後のライブ予定を教えてください。
エリナ・シーララ:アルバム・リリース後の最初のショーは、2018年1月に予定されているわ。まず、ドイツで3本ギグをやって、それから本格的なツアーがスタートする。でも、その前にビデオをあと2本撮る予定になっているのよ。
アレクサンダー・クルル:「Across The Sea」と「Jomsborg」だ。
エリナ・シーララ:あと現時点で決定しているのは、4月中旬から5月にかけてのヨーロッパ・ツアーね。その後は言うまでもなく、フェスティバル・シーズンに突入する。他にも、まだ本決まりにはなっていないものの、色々なオファーとプランがあることだけは確かよ。
アレクサンダー・クルル:ひとつ付け加えたいんだけど…。
──どうぞ。
アレクサンダー・クルル:俺には大きな夢があってさ。以前、アジアでプレイしたことがあるのに、ひとつ行っていない国があるんだ。な…分かるだろ(笑)?
──日本ですね。
アレクサンダー・クルル:その通りニッポンだ。どうしてそんなことになっているのか、俺もよく分からないよ。日本にも沢山ファンがいるっていうのに…。
──確かに、中国や台湾までは来たことがありますよね? どうして日本には来てくれないのですか?
アレクサンダー・クルル:いや…俺達は行きたいんだよ。だからさ、「リーヴズ・アイズが行きたがっていた」って、そっちのプロモーターに伝えておいてくれ。
取材・文:奥村裕司

Photo by Stefan Heilemann

リーヴズ・アイズ『サイン・オブ・ザ・
ドラゴンヘッド』

2018年1月12日発売

【初回限定盤CD+インストゥルメンタルCD】¥2,800+税

【通常盤CD】¥2,300+税

※日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き

1.サイン・オブ・ザ・ドラゴンヘッド

2.アクロス・ザ・シー

3.ライク・ア・マウンテン

4.ヨムスボーグ

5.ヴォルヴァ

6.ライダーズ・オン・ザ・ウィンド

7.フェアー・ザン・ザ・サン

8.シャドウズ・イン・ザ・ナイト

9.ルーラーズ・オブ・ウィンド・アンド・ウェーヴズ

10.ファイアーズ・イン・ザ・ノース

11.ウェーヴズ・オブ・ユーフォリア

〈ボーナストラック〉

12.ベオウルフ

13.ウィンター・ナイツ

〈日本盤限定ボーナストラック〉

14.フェアー・ザン・ザ・サン(アコースティック)

インストゥルメンタルCD

1.サイン・オブ・ザ・ドラゴンヘッド

2.アクロス・ザ・シー

3.ライク・ア・マウンテン

4.ヨムスボーグ

5.ヴォルヴァ

6.ライダーズ・オン・ザ・ウィンド

7.フェアー・ザン・ザ・サン

8.シャドウズ・イン・ザ・ナイト

9.ルーラーズ・オブ・ウィンド・アンド・ウェーヴズ

10.ファイアーズ・イン・ザ・ノース

11.ウェーヴズ・オブ・ユーフォリア
【メンバー】

エリナ・シーララ(ボーカル)

アレクサンダー・クルル(ボーカル)

トーステン・バウアー(ギター/ベース)

ピート・ストライト(ギター)

ヨリス・ナイエンハンス(ドラムス)

アーティスト

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

新着