今さら聞けない日本文学8選:今日か
ら知ったかぶりできるまとめ

今さら聞けない日本文学8選:今日から
知ったかぶりできるまとめ

夏目漱石森鴎外、芥川龍之介、谷崎潤一郎……。日本の古典文学について、どれくらい知っていますか? 一応、学校で習うけれど、文学に興味がなければ忘れてしまうもの。そして大人になればなるほど、こうした常識的な知識について、今さら他人に聞くのは恥ずかしくなってしまいます。

そこで、「名前は知ってるけど読んだことはない」「ほとんど忘れた」という人のために、ざっくりと、日本の古典文学における代表的な人物・作品をまとめてみました。本を読まなくても、この記事をサクッと読めば、なんとなく読んだことある人っぽく知ったかぶることができます。

広く浅く、でも知らない人からするとツウに見えちゃう、今日から知ったかぶりできるまとめ記事をどうぞ。

夏目漱石「希望なんか無いわ。何でも貴
方の云う通りになるわ」(『それから』

1984年から2004年まで千円札の顔でもあった夏目漱石。本名は夏目金之助(なつめ きんのすけ)。新宿生まれのシティボーイ。東大卒で、学生時代から『方丈記』を訳したり早稲田大学の講師をつとめたりしていたエリート。

正岡子規らがはじめた俳句雑誌『ホトトギス』に『我輩は猫である』を掲載したことから作家デビュー。一回読み切りモノのはずが、あまりの人気に続編執筆。『倫敦塔』『坊っちゃん』などを立て続けに発表して人気作家となった。その後、朝日新聞社に入社して職業作家となり、精力的に作品を発表。漱石の門下生には芥川龍之介や内田百閒、久米正雄などがいる。漱石という筆名は、故事「石に漱ぎ流れに枕す」から取ったもの。負け惜しみが強く変わり者であることのたとえ。

一方、身体が繊細すぎることでも有名。作家デビュー前には神経衰弱になり、イギリス留学中には「夏目、発狂す」という噂も流れた。胃潰瘍で何度も入院し、「修善寺の大患」として有名な大吐血も経験して生死の境を彷徨う。晩年は糖尿病にも悩まされた。

代表作

『坊っちゃん』『我が輩は猫である』『こころ』など。以下、かなり強引な一言あらすじ。

『坊っちゃん』
「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている」主人公が学校の先生となり、松山に赴任し、クセの強い田舎のキャラたち(山嵐、赤シャツ、うらなり君、野だいこなど)とすったもんだしたあげく、東京に戻るまでの話。

『我が輩は猫である』
賢すぎる猫が文化人の悪口を言いまくる話。

『こころ』
三角関係に苦しめられた先生が死ぬ話。

ちなみに、パスピエの大胡田なつきさんも漱石ファンだとか。

知ったかぶりするためのワンポイント

『三四郎』『それから』『門』の三部作は元祖ニート系青春小説。作中でニートは「高等遊民」という言葉で表現されている。「高等遊民」は知性とユーモアをアピールできる便利な言葉。

森鴎外「されど我脳裏に一点の彼を恨む
こころ今日までも残れりけり」(『舞姫
』)

本名は森林太郎(もり りんたろう)。東大医学部卒で陸軍軍医。陸軍派遣留学生としてドイツで4年間軍医として過ごす。『即興詩人』『ファウスト』など外国文学の翻訳をしながら評論活動を行いつつ、ドイツ人女性との恋愛を描いた小説『舞姫』で当時の読者を驚かせる。

陸軍軍医総監(軍医のトップ)、美術審査員、慶應義塾大学文学科顧問、東京国立博物館総長、さらには数々の勲章など、挙げればキリがないほど肩書きを持つ正真正銘のスーパーエリート。文学者だけでなく政治家などとも広い交友関係を持つが、弟子を取ることはしなかった。明治を代表する知識人。

代表作

『舞姫』
ドイツ人の女の子エリスと付き合うけど捨てちゃう話。

『高瀬舟』
弟を殺した罪で島流しになる男の話。実際は、自殺に失敗した弟を安楽死させてやったのだった。

『山椒大夫』(さんしょうだゆう)
父を探して旅する家族が悪い奴らに誘拐され、そこから抜け出そうとする話。

知ったかぶりするためのワンポイント

歴史小説『渋江抽斎』(しぶえちゅうさい)と青春小説『青年』はマッチョな文体で書かれていて、三島由紀夫が憧れていた。

芥川龍之介「お前はこの世界へ生まれて
くるかどうか、よく考えた上で返事をし
ろ」(『河童』)

もっとも有名な文学賞である「芥川賞」はもちろん彼の名前から。東大英文科在学中に同人誌『新思潮』を創刊し、文筆活動に入る。夏目漱石門下生のひとり。『今昔物語』や『宇治拾遺物語』といった古典に題材を取ることが多く、秀才タイプである。

短編を得意とし、『羅生門』『鼻』『地獄変』『杜子春』『藪の中』『トロッコ』など、時代や対象年齢を超えて愛される作品を多く描いた。黒澤明監督による『羅生門』など、映像化された作品も多い。演出家・俳優の芥川比呂志、作曲家の芥川也寸志はともに息子。「物語の面白さは小説の質を左右しない」とした文芸評論『文芸的な、余りに文芸的な』で、谷崎潤一郎と議論を戦わせたことは文学ファンのあいだでは余りに有名。

「ぼんやりとした不安」のため35歳で薬物自殺。

代表作

『羅生門』
女の死体から髪を抜く老婆に怒るが、生きるためには仕方ないと納得し、逆に老婆の着物を奪ってしまう男の話。

『藪の中』
殺人と強姦をめぐって4人の目撃者と3人の当事者が証言する話。全員話している内容が違う。芥川作品のなかでもっとも多く評論が書かれた小説。

『河童』
男が河童の国に迷い込む話。自殺の動機を考える重要作としても知られている。ちなみに副題は「どうか Kappa と発音してください」。
……は?

知ったかぶりするためのワンポイント

晩年の『歯車』という作品が好きだと言うと、結構ツウだと思われる。ストーリーはほとんどなく、死の予兆に満ちた遺稿。

谷崎潤一郎「女の顔は男の憎しみがかか
ればかかる程美しくなる」(『痴人の愛
』)

東京・日本橋生まれのシティボーイにしてプレイボーイにして変態作家。幼少より神童と呼ばれる。東大を中退し、短編小説『刺青』を発表し話題に。華麗な文章とスキャンダラスな内容が特徴で、マゾヒズムやフェティシズムなどの文脈で語られることが多い。とにかく女性に対する崇拝の念がすごい。

高い美意識を持ち、グルメであったことも有名。結婚歴は三回。小説以外にも、『文章読本』や『陰翳礼讃』などの評論は現在でも広く読まれている。ノーベル文学賞の候補にもなった。現在も国内外で非常に高く評価されている作家。

代表作

『痴人の愛』
中年男性”譲二”(ジョージ)が若い女ナオミを自分好みの女に育成しようとするが、最終的に奴隷になってしまう話。馬乗りのシーンは有名。

『春琴抄』(しゅんきんしょう)
盲目の女・春琴をひたすら愛するマゾヒズム小説。日本文学史上、もっとも痛い小説。

『刺青』(しせい)
美しい女の背中に女郎蜘蛛の刺青を入れる話。デビュー作。

知ったかぶりするためのワンポイント

『卍』(まんじ)は文字通り4人の男女がメチャクチャになるマジ卍なヤバイ小説。『瘋癲老人日記』(ふうてんろうじんにっき)は、息子の嫁に性欲を覚える老人の話で、死んだ後も若い女に踏まれたいという谷崎の足フェチ全開のド変態小説。日本文学史に燦然と輝くド変態作家。

川端康成「男が女に犯す極悪とは、いっ
たいどういうものであろうか」(『眠れ
る美女』)

日本人初のノーベル文学賞受賞作家。

大阪生まれ。東大在学中に、菊池寛が創刊した『文藝春秋』の編集同人となる。横光利一ら同世代の作家と『文芸時代』を創刊し、新感覚派の代表として活躍。新人発掘の名人としても知られ、岡本かの子や三島由紀夫などをいち早く評価した。芥川賞創設時の選考委員。

日本的な美と抒情漂う文章が特徴で、その叙述の巧みさと感受性がノーベル文学賞受賞の理由にもなった。一方、後述するように、かなり大胆に性的な事柄を描いた作品もあるが、あまりに文章が美しいので見過ごされがち。

72歳でガス自殺。

代表作

『雪国』
雪深い温泉町を訪れた男・島村(妻子持ち)が、そこで働く芸者の駒子に惹かれるが、今イチ本気になりきれず悲劇を迎える話。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という冒頭文はあまりに有名。

『伊豆の踊り子』
メンヘラ男が伊豆に旅へ出て、旅芸人の一座と道連れになり、踊り子の女に恋する話。繰り返し映像化され、その時々のアイドルが踊り子を演じた。

『眠れる美女』
薬で眠らされた美少女に添い寝する老人の話。あまりにも官能的で美しい文章で書かれているが、内容はかなり変態。

知ったかぶりするためのワンポイント

美しい小説としての評価が定着している『雪国』には、実は、どエロいシーンがある(行為の後、指の匂いを嗅いで女を思い出しながら、別の女に挨拶する)

太宰治「恥の多い生涯を送って来ました
」(『人間失格』)

青森の大地主であり貴族議員もつとめた地元の名士の六男として生まれる。本名は津島修治(つしま しゅうじ)。母が病弱だったため、乳母や女中に育てられた。幼少より成績優秀で、芥川龍之介や井伏鱒二らを愛読。写真を見る限りなかなかの男前で女性にもモテたが、しょっちゅう自殺未遂を起こした。ツイッターのある時代に生きていたらアルファになっていた可能性が高い。東大仏文科入学。井伏鱒二に弟子入りする。婚約していたのに別の女と心中未遂。自身のみ生き延びて自殺幇助罪に問われる。

学生時代より太宰治の筆名で小説を発表し、『逆行』が第一回芥川賞候補となるが、落選。選考委員の川端康成に私生活の不安定さを指摘されたことで、『川端康成へ』という怒りの短文を書くなど抗議。そのなかには「刺す」という言葉もあった。

パビナール中毒で入院、借金まみれ、そして最後は愛人と入水するなどめちゃくちゃな私生活のように見えるが、『女生徒』『富嶽百景』『走れメロス』『津軽』『ヴィヨンの妻』など数えきれないほどの傑作を残した天才。

代表作

『人間失格』
主人公・大庭葉蔵の幼少期から中学高校を経て、廃人になるまでの苦悩を描いた話。累計売り上げ部数で夏目漱石『こころ』に並ぶ日本文学のトップランカー。

『走れメロス』
妹の結婚のために親友を人質にしてメロスが走りまくる話。

『斜陽』(しゃよう)
没落していく貴族の話。太宰治の生家である記念館は、この小説から名前を取って『斜陽館』と名付けられた。素敵な場所です。

知ったかぶりするためのワンポイント

『御伽草紙』は、おとぎ話を元にした二次創作的な作品。ひたすら明るくてポップで、人間失格のイメージからはほど遠い。実は太宰は、中期には明るく楽しい傑作をたくさん書いていた。

三島由紀夫「世界を変貌させるのは行為
なんだ。それだけしかない」(『金閣寺
』)

昭和の代名詞。本名、平岡公威(ひらおか きみたけ)。東京・四谷生まれ。父・平岡梓は農林省などで勤務する公人で岸信介などと同級生。官僚一家に生まれたエリート。幼少期より詩や俳句、短編小説などの創作に励む。16歳の頃に執筆した『花ざかりの森』は現在でも新潮文庫などで読むことができる。この頃より筆名の三島由紀夫を名乗るようになった。

学習院高校を首席で卒業し、東大法学部へ進学。戦後、川端康成に見出されて文壇へ本格的に進出。大学卒業後、大蔵省に入省しながら文筆活動を続けるが、やがて作家一本の生活に入り、『仮面の告白』を発表して地位を不動のものとする。その後も『純白の夜』『青の時代』『愛の渇き』など精力的に執筆を行い、『金閣寺』『永すぎた春』などのベストセラーを連発した。

同性愛や肉体改造といったテーマと、法学部で培った論理性、幼少から親しんだ文学的素養による華麗な文体が特徴。ノーベル文学賞の候補にもなった。晩年は政治活動が目立ち、民間防衛集団「楯の会」を結成。自衛隊市ヶ谷駐屯地に籠城し割腹自殺。

代表作

『金閣寺』
コンプレックスを抱えた吃音症の青年が金閣寺を焼く話。

『仮面の告白』
同性愛とサディズムを描いた自伝的小説。

『春の雪』
日本版ロミオとジュリエット。

知ったかぶりするためのワンポイント

『豊饒の海』(ほうじょうのうみ)は、全4巻からなる三島最後の大長編(第1巻が『春の雪』)。長すぎて実は誰も読んでないから、「三島で一番良いのはやっぱり『豊饒の海』。特に『天人五衰』(てんにんのごすい、最終巻)がすごい」って言っときゃあ、だいたい尊敬される。

大江健三郎「俺たちはお前を殺してもい
いが、助けてやる」(『芽むしり 仔撃
ち』)

愛媛県生まれ、東大仏文科卒。映画監督である伊丹十三とは高校の同級生。
東大在学中より『奇妙な仕事』『死者の奢り』などの小説を発表し、『飼育』では当時最年少タイの23歳で芥川賞を受賞(ちなみにもう一人の最年少は石原慎太郎『太陽の季節』)。石原慎太郎、開高健らとともに新世代の作家として注目される。

『セヴンティーン』『政治少年死す』などの右翼少年を題材にとった作品を書き、右翼団体から脅迫を受けたこともある。伊丹十三の妹・ゆかりと結婚。知的障害をもった子どもが生まれ、これが大江健三郎一生のテーマのひとつとなる。

原子力発電や憲法問題、沖縄問題など、政治に関する著作や発言も多い。日本人として2人目のノーベル文学賞受賞者。あらゆる言語に翻訳され、全世界で読まれている作家。

代表作

『死者の奢り』
大学病院で解剖用の死体を運ぶアルバイトをする学生の話。一行読むだけで天才だとわかる強烈なデビュー作。

『芽むしり 仔撃ち』
山奥に集団疎開した感化院(少年院)の少年たちが、疫病発生のため村人たちから閉じ込められるも、自分たちの力で自分たちの王国を築こうとする話。しかし帰って来た村人たちによって潰される。

『個人的な体験』
脳に障害を抱えた息子が生まれると知って苦悩する男の話。

知ったかぶりするためのワンポイント

わりと脈絡なく「あ?」って言い出して突然キレる登場人物が多い。
ちなみに、本記事で取り上げた作家のなかで唯一生きてる人(2018年1月1日現在)。日本文学界のリビング・レジェンド。


いかがでしたか? 一言あらすじはかなり強引なので、「そのまとめ方おかしい!」という意見もあると思いますが、それこそが文学の面白さ。優れた文学作品ほど、要約しえない要素が強いもの。ぜひ、本を手にとって、一言では言い表せない文学の深みを味わってください。面白い小説ばかりです。

……そしてここまで書いてて気づいたんだけど、日本の作家、全員、東大でした。賢くないと作家にはなれない。

今さら聞けない日本文学8選:今日から知ったかぶりできるまとめはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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