チャン・チェンインタビュー「特別」
な『MR.LONG/ミスター・ロン』の撮影
から八極拳との関わりまで……アジア
屈指の実力派が語る 

台湾の俳優チャン・チェンは、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』でデビューして以来、アジアのさまざまな名匠・巨匠たちと作品をともにしてきた。ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』『2046』、アン・リー監督の『グリーン・デスティニー』、ホウ・シャオシェン監督の『百年恋歌』『黒衣の刺客』、ジョン・ウー監督の『レッドクリフ』、ツイ・ハーク監督の『MISSING ミッシング』と、出演作はジャンルも規模もさまざま。そして、25年のキャリアをへて、今や映画製作者・観客どちらにも認められる実力派としてアジアに名をとどろかせている。そんな彼が主演する最新作が、12月16日から公開中の『MR.LONG/ミスター・ロン』である。チャン・チェン演じる殺し屋・ロンは、言葉少なで料理とナイフを得意とする殺し屋。日本でターゲットを仕留め損ねたロンは、小さな村に流れ着き、わけありの母子やおせっかいな住民と交流。徐々に変化していく。かねてからファンであったというSABU監督のもとで日本ロケに挑んだチャン・チェンは、何を思い異色の役柄を演じたのか。ことの始まりから、撮影エピソード、現在も鍛錬を続けているという八極拳との関わりまで、インタビューで語ってもらった。
SABU監督作は「ポジティブな感情がとても好き」

チャン・チェン 撮影=荒川 潤
――SABU監督とはこの企画が立ち上がる前からお知り合いだったとか。なれそめをお聞かせいただけますか?
最初は、モントリオール世界映画祭(編注:2005年開催)でお会いしました。その後、SABU監督が『天の茶助』のプロモーションで台湾に来られた時に再会しました。ぼくと仲のいい友人が、『天の茶助』の宣伝・配給をやっていて、ちょうど夜に会食をしていて。そこで、「ぼくも会食に参加することはできないか?」ということで会いに行ったのが(『MR.LONG/ミスター・ロン』の)始まりです。
――いい出会いですね。SABU監督の映画は、以前からかなりご覧になられているそうですね。どの作品の、どういったところがお好きなんでしょうか?
SABU監督の作品は以前から本当に好きで、特に若いころは『弾丸ランナー』『ポストマン・ブルース』『アンラッキー・モンキー』の三部作をよく観ていました。その頃から、「特別な作品を作る特別な監督」だと思っています。『弾丸ランナー』は、三人の主人公がずっと走っているわけですが、彼らが走ることによって物語が上手く交差していくのがとても印象的でした。それと、原作はSABU監督ではないですが、『うさぎドロップ』もとても好きですね。SABU監督の作品には、ほぼすべてにおいてとてもポジティブなエネルギーが込められていると思います。人生に何が起こっても進み続ける、走り続ける。そういうポジティブな感情がとても好きなんです。
――今回の脚本は、SABU監督がチャン・チェンさんが演じられるのを想定して書かれたものだそうですね。初めて読まれたときの感想を聞かせてください。
脚本を全て読んで、まずとても面白いと思いました。殺し屋と子どもと、その母親というアンサンブル、それとキャラクターが印象に残っています。ミスター・ロンの、彼自身のキャラクターもとても好きです。一見冷酷に見えるんですけど、心の中にはとても暖かいものを持っている。そういう点にとても惹かれました。

チャン・チェン 撮影=荒川 潤
――映画の中では、ミスター・ロンの詳しいバックグラウンドは語られません。ご自身で思い描いた設定のようなものはあるのでしょうか?
脚本や映画の中にはあまり登場しませんが、何となくいい幼少時代、過去を持った人ではないんだろうな、ということは描かれています。そういう方向で彼の過去をイメージして演じたりしました。
――SABU監督の演出で印象的なことがあれば教えてください。
演出法というか、SABU監督は指示を出すときに、「シュッシュ」とか、「バンッ」という効果音や擬音をよく使われるんです。そういった直接的なことをやってくださるので、その時にSABU監督が欲しいテンポのようなものがダイレクトに伝わってきました。なおかつ、そういった臨場感をぼく自身が受け取ることができました。あと、そんなSABU監督が面白いな、と思いながら見ていました(笑)。
――共演している場面はそれほど多くありませんが、青柳翔さんの印象はいかがでしたか?
背が高い。そして、すごくカッコいい。映画祭にも一緒に参加しましたが、交流は少なかったです。一度夕食をご一緒して、レッドカーペットにも出席ましたが、あとは別々に行動することが多かったので。
――なるほど(笑)。ミスター・ロンはPerfumeのTシャツを着ていて、それをイジられるシーンが何度も登場するのが印象に残っています。チャン・チェンさんは、Perfumeについてはご存知なんでしょうか? また、SABU監督からあのTシャツを着ている意味の説明などはあったのでしょうか?
Perfumeがテクノポップのユニットだということは知っていました。ただ、SABU監督に聞いたところだと、あのTシャツはPerfumeの文字が襟のように見えるから着ているんだそうです。ミスター・ロンのように「ミスター」と呼ばれる人物は、襟元がきちっとしていて、ネクタイをつけるようなイメージがあったそうです。
――Perfume自体には特に深い意味はなかったんですね。
そうですね(笑)。
『MR.LONG/ミスター・ロン』のクルーは、わたしにとって特別
チャン・チェン 撮影=荒川 潤
――クライマックスのアクションシーンが非常に生々しくてよかったです。これまで出演された『グランド・マスター』や、『道士下山』のような華麗なアクションとは全く違うものでした。チャン・チェンさんのご意見も入っているのでしょうか?
アクション指導の方はいらっしゃいました。これまでの作品と違って、時代劇ではなく現代劇で、ナイフを使うところは特殊だったかもしれません。ただ、ぼくはアクションは出来るほうだと思いますし、今回の『MR.LONG/ミスター・ロン』のアクション監督の方(編注:アルファスタント代表・小池達郎氏/『牙狼-GARO- 〜闇を照らす者〜』アクション監督など)とのコミュニケーションも、とても上手くいったと思います。実は、あのシーンの撮影には2時間しかかけていないのですが、短い期間でいいものが撮れたと思っています。
――『グランド・マスター』で八極拳のトレーニングをされて、中国チャンピオンにもなられた。以来、チャン・チェンさんにはアクションの出来る方という印象を持っています。八極拳を習得されて、何か変わったことはありますか?
『グランド・マスター』に出演する前は、観客の皆さんはぼくに対して「アクションが出来る俳優」という認識は持っていなかったと思います。なので、『グランド・マスター』以降は、「チャン・チェンもアクションが出来るんだ」と認識してもらえたということはあると思います。もう一つは、八極拳、あるいは武術そのものについてなんですが……『グランド・マスター』の前後で5年ほどかけて八極拳を習得して、今も鍛錬を続けているので、だいたい8年くらいは続けていることになりますが、ぼくにとって伝統武術=八極拳をやることは、とてもいいことなんです。それは肉体改造が出来るとか、肉体に変化があるということではなく、心理的にいい変化が表れている、ということだと思います。少し表現するのが難しいのですが、八極拳を始めてからイキイキとするようになったというか、活力を得られるようになったというか。別にイキイキとしたり、活力があることがいいことだけがいいことではないですが、そういった感覚があります。
――ミスター・ロンは、劇中であまり表情を変えませんが、ラストシーンで急激に感情を爆発させます。これは、撮影の初期段階からずっとイメージされていた演技なんでしょうか?
全体を通して、ぼくは今回のSABU監督組の撮影にとてもリラックスして取り組むことができました。最後のシーンに関しては、特にこう演じよう、とは決めずに撮影を迎えたんです。ぼくは今回のクルーと監督をとても信頼していましたし、監督も自分の撮りたい世界に役者やスタッフを引き込む力がとてもある方です。そういった環境だったので、撮影期間は短かったですが、ぼくは撮影の序盤から自然と役になりきることが出来たんです。最後のシーンでも、ミスター・ロンとしての自然な感情がああいった形で出たんだと思います。もちろん、役者としてある程度コントロールすることも必要なんですが、今回は比較的自然な状態で撮影に臨むことが出来たかな、と思います。そういう意味でも、『MR.LONG​/ミスター・ロン』のクルーは、わたしにとって特別です。
チャン・チェン 撮影=荒川 潤

『MR.LONG/ミスター・ロン』は新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=荒川潤
作品情報
映画『MR.LONG​/ミスター・ロン』
出演:チャン・チェン 青柳翔 イレブン・ヤオ バイ・ルンイン
監督/脚本:SABU
製作:LiVEMAX FILM LDH pictures BLK2 Pictures Kaohsiung Culture Foundation Rapid Eye Movies
配給:HIGH BROW CINEMA
【ストーリー】
ナイフの達人・殺し屋ロン。東京、六本木にいる台湾マフィアを殺す仕事を請け負うが失敗。北関東のとある田舎町へと逃れる。日本語がまったくわからない中、少年ジュンやその母で台湾人のリリーと出会い、世話好きの住民の人情に触れるうちに、牛肉麺(ニュウロウミェン)の屋台で腕を振ることになる。屋台は思いがけず行列店となるが、やがてそこにヤクザの手が迫る。
公式サイト:https://mr-long.jp/
(C)2017 LIVE MAX FILM / HIGH BROW CINEMA

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