(c)COLONY FILMS LIMITED 2016
1.『パーティで女の子に話しかけるには』
先月、来日公演『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』にて、主人公ヘドウィグを、生みの親自ら演じたことでも話題になったジョン・キャメロン・ミッチェル。映画・舞台ともに、むき出しに切実に描かれた行き場のない愛と性、その叫びは、世界中の多くの人により熱狂的な支持を受けた。
そんなジョン・キャメロン・ミッチェル監督、待望の最新作『パーティで女の子に話しかけるには』。
本作が製作されたイギリスとアメリカでの公開は来年を予定おり、日本が世界初公開となる。
ジョン・キャメロン・ミッチェルがSFを描くとこうなるのか!
そこに70’Sとパンクを混ぜ合わせて出来上がる、甘くて儚い時間制限つきのロマンス。物語のピークに共鳴するように入る音楽、ライブシーンの素晴らしさはさることながら、視界を彩る衣装や美術もどれも刺激的だった。
そして、エル・ファニング演じる遠い惑星から来た美少女ザン。
彼女があまりに魅力的で、胸が苦しかった。
星の決まりに背いて、自分の道を進もうとするザンは、危なっかしくて、大胆で、無邪気で、エロティックで、愛らしい。
そんな魅惑の少女に呼応するように、夢中で時を過ごし、悶々とする内気なパンク少年エン。彼の等身大さがまた、このリミテッドな物語の熱を加速させる。
閃光のように瞬間を生き抜こうとするその姿は、星は違えど、迷いやためらいをふりほどいて、自分が信じるものに向かって突き進もうとした在りし日の自分や、誰かに重なり、胸を打たれた。時間に制限を持っているのは、生きている限り彼女も私たちも同じなのだ。
SF、といえば、SFだが、実はとても近い物語のように思う。
それぞれの凹凸を持つ異性、いや、もはやそれだけでは括れない、2つとは限らない性を持つ私たちは、それだけで互いに最も身近な宇宙人であるように感じるし、国境だってそうだろう。
恋は知らないことから始まり、愛は理解できないことを抱えながら加速する。
もしかすると、私たちはいつだって“異星人”に恋をしているのかもしれない。
▼あらすじ
パンクなのに内気な少年エンは、偶然もぐりこんだパーティで、反抗的な瞳が美しい少女ザンと出会う。大好きなセックス・ピストルズやパンク・ファッションの話に共感してくれるザンと、たちまち恋におちるエン。だが、ふたりに許された自由時間は48時間。彼女は遠い惑星へと帰らなければならないのだ。大人たちが決めたルールに反発したふたりは、危険で大胆な逃避行に出るのだが──
 
▼Information
『パーティで女の子に話しかけるには』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他絶賛公開中
監督・脚本:ジョン・キャメロン・ミッチェル
原作:ニール・ゲイマン
出演:エル・ファニング、アレックス・シャープ、ニコール・キッドマンほか
配給:ギャガ
公式HP:gaga.ne.jp/girlsatparties
 
 
(c)2017「恋とボルバキア」製作委員会 
2.『恋とボルバキア』
ボルバキアは、宿主を性転換させるバクテリアの一種だという。
主に昆虫の体内に生息する共生細菌の一種で、宿主の生殖システムを自身の都合のいいように変化させるらしい。
人間の性はどうだろうか。近年はLGBTという言葉が世に浸透し始め、ようやく性別がただの二つではないことが認識され始めた、といったところだろうか。
—みんなちがって、みんないい、ってみんな言う。
観る前には直感レベルでハッとさせられた映画のキャッチコピーが、
観た後は胸の奥底までグリグリと突き刺さる。
ボルバキア、のように強力で変幻自在もお手のもの、とまではいかなくとも、
今思っているよりは、もっともっと色にも形にも限りのないものかもしれない。
この映画は、私を含め、今、「性」を理解している“つもり”でいる人々への大きな提示であり、問いであった。
でも、つらいんだ。でも、好きなんだ。でも、どうしたら?
みんなちがって、みんないい、ってみんな言う、のその先を描き、いくつもの性とそこに芽生える恋、愛、葛藤、そして生をあぶり出していた。性は2つではない。LGBTなんて言うけれど、決して+4の6つでもない。
この映画に出てくる人々は、あらゆる性を持っていた。
不思議と、話を聞いていたくなるというか、会ってみたくなるというか、つまるところ、人としてなんだか魅力的な人ばかりだった。
それは、彼や彼女たちが人の思いに敏感だったり、人のために涙を流せたり、過去を振り返らなかったり、あるいは抱きしめていたり、今を生きることに切実だったから、かもしれない。そして、私自身の性についても、今一度問われていたような気がしたからかもしれない。
どこにもボーダーラインのない、曖昧で、限りのない、カラフルな性とそれぞれの幸せの形。多くの性を通して、やがてパーソナルな性に立ち返らされる。
決死のセルフドキュメンタリーでデビューした小野さやか監督ならではの、
最初から最後まで、真っ向から向かってくるドキュメンタリーだった。
▼あらすじ
大手広告代理店は、日本人の 7.6%かセクシュアル・マイノリティだという推計を発表した。体の性、心の性、好きになる性、表現する性…。いくつもの要素からセクシュアリティを考えることができるという。でもそれは、また新しくディジタルな境界線を引くことなのかもしれない。 
ただお洒落がしたくて女装をはじめたら、いつのまにか男の人に恋をしていた。素敵な女の子に一 目惚れをしたら、彼女は彼で、私は女で…。 
ときにキャメラは、恋人たちの親密な時間や気まずい葛藤の場面を映し出す。好きになったら、嫌われたくない。一緒にいたい。結婚したい。赤ちゃんだって欲しくなる。「みんなちがって、みんないい」ってみんな言う。ても、私はツライ! そんなヒリヒリとドキドキを伝える、カラフルにトランスする恋とか愛のドキュメンタリー。
▼Information
『恋とボルバキア』
ポレポレ東中野にて公開中、ほか全国順次公開
監督・撮影・編集:小野さやか
出演:王子、あゆ、樹梨杏、蓮見はずみ、みひろ、井上魅夜、相沢一子、井戸隆明
配給:東風
 
(c)CURIOSA FILMS – VERSUS PRODUCTION – France 3 CINEMA
3.『ルージュの手紙』
『シェルブールの雨傘』『8人の女たち』など、ヌーヴェルヴァーグ期よりフランス映画を支える大女優カトリーヌ・ドヌーヴと、『大統領の料理人』で、伝説のフランス大統領の料理人を演じ、注目を集めたカトリーヌ・フロ。
フランスを代表する2人の“カトリーヌ”が親子役で初共演を果たした。
優秀なベテラン助産師として働きながら、女手ひとつで一人息子を育てあげてきたクレールの元に、30年前に父の元を去った元・恋人、血の繋がらない母ベアトリスが現れる。
「あなたのお父さんに逢いたい。私が人生で一番愛した人だから」
父はもういない。母の家出のショックで自殺していたからだ。
身勝手な母に怒りをながらも、かつて失われた時間が2人の間に再び流れ出す。
風まかせに、やりたいように生きる奔放な“母”と、度がすぎるほど真面目な“娘”。血も繋がっていない、性格も生き様も真逆。そんな一風変わった親子にを描いた、大人の女たちのための物語。
カトリーヌ・ドヌーヴ演じるベアトリスの、人生の瞬間瞬間を謳歌する姿は、まるで彼女自身の生き様そのもののように、見ていて気持ちが良かった。
嫌なものは嫌。周りのことも気にしない。自分の信じる道を行くの。愛する人には会いたい。
自由で、正直で、チャーミングな魅力が画面いっぱいに溢れていた。
そんな正反対の母の生き方に影響を受け、幾重にも着ていた服を少しずつ脱いでいくように、剥き身になっていく娘クレール。
どこも似ていなかった2人が、どことなく重なっていくラストには、胸がいっぱいになった。
経験より技術を重んじる最新医療の整った産婦人科での新たな仕事を「金儲けならいらない」とすっぽかし、農園で今夜食べる野菜を恋人と選ぶクレール。
嫌なものは嫌。周りのことも気にしない。自分が信じる道を行くの。愛する人とは一緒にいたい。
いつしか2人は、ただただよく似た親子だった。
遺伝じゃない、時間じゃない、理屈じゃない、あべこべな親子に生まれた、強い愛と絆がそこにはあった。
▼あらすじ
セーヌ川が流れるパリ郊外で、助産師として堅実に働くクレールのもとに、30年前に突如姿を消した血のつながらない母ベアトリスから「会いたい」と1本の電話が入る。ベアトリスは真面目すぎるクレールとは真逆の生き方をしてきた女性。自由が好きで、お酒が好きで、ギャンブルも好き。クレールは、父親を置いて去った身勝手な彼女に苛立ちながらも、全てを失って戻ってきたベアトリスの事を放ってはおけなかった。失われた時間を埋めていく二人。いつしかクレールは、ベアトリスの生き方に影響され、人生の扉を少しずつ開きはじめる。
▼Information
『ルージュの手紙』
シネスイッチ銀座ほか全国公開中
監督・脚本:マルタン・プロヴォ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、カトリーヌ・フロ、オリヴィエ・グルメほか
配給:キノフィルムズ
 
(c)2017Twentieth Century Fox Film Corporation
4.『オリエント急行殺人事件』
エルサレムで教会の遺物が盗まれ、鮮やかな推理で犯人を突き止めた名探偵エルキュール・アポロ。イスタンブールで休暇を取ろうとした矢先、イギリスでの事件の解決を頼まれ、急遽、オリエント急行に乗り込むが、車内で突如殺人事件が勃発する。犯人はこの乗客の中にいるのか…。
1934年の初版以来、アガサ・クリスティーの傑作ミステリー『オリエント急行殺人事件』は世界中で多くの読者を魅了した。
そんなミステリー界の金字塔的名作が、主役級の豪華キャストで全く新しいエンターテイメントに生まれ変わった。
教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人、車掌、そして、探偵。
さまざまな境遇の乗客を演じるのは、監督自らが主演を演じるケネス・ブラナーを始め、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、デイジー・リドリー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス…。
もはや犯人を、物語の結末を知っていようとも、その芝居のバトルを観るだけでも価値がある顔ぶれが揃っている。
個人的には、伯爵を演じるセルゲイ・ポルーニン。
ついこの間日本でも公開された映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』でこれまでの自身の人生が描かれ話題を呼んだが、一挙一動に目を奪われる華麗なシーンも見どころの一つだ。
ネタバレどころか、多くの人が結末を知っている物語を、どう魅せるのか。
人種問題などの社会的背景を汲み取りつつも、今だからこそできるキャスティングと設定アレンジを加えた大胆なリメイク。
“現代に甦らせる”という言葉の意味を突き詰めた作品だった。
▼あらすじ
トルコ発フランス行きの寝台列車オリエント急行で、富豪ラチェットが刺殺された。目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となってしまう。そして、この列車に乗り合わせていた世界一の探偵エルキュール・ポアロは、列車内という動く密室で起こった事件の解決に挑む。
 
▼Information
『オリエント急行殺人事件』
全国公開中
監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、デイジー・リドリー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス
 
(c)2017 green-ribbon campaign
5.『緑色音楽』
あまり記憶にない、亡き父のこと。
その亡き父と母の間に生まれた僕のこと。
その僕と共に生きている家族や、僕を気にかけてくれる女の子のこと。
これは、家族の物語であり、個人の物語だ。
“僕”がある日見つけた手紙は、父から臓器提供を受けた7人からの感謝の手紙だった。大事なことだから、大人になったら話すと、父が臓器提供者だったことは、“僕”には秘密にされてきた。
“大人になったら”
そういう時期が誰にでもある。
この先の道が定まらないモラトリアムの中、誰に対しても苛立ちを覚えてしまう時。自分のきた道やルーツを考えずにはいられない時。
そんな時に思いもがけず、大きな愛に触れること。
父が意志のある、優しい人間だったということ。
そんな父が母を愛したこと。母が今も父を愛していること。
自分が、愛を以ってこの世に生まれたのだということ。
それを感じることは、自分自身が愛されていることを知ることと同じくらいに意味があることだと思う。
家族が僕を大切に思っているということ。
女の子が僕を好きだということ。
この映画は、目には見えないものや、今は形のなくなってしまったものを、
それらが人に与える力を、丁寧に掬っていく。
誰かが誰かを大切に想う、その在り方は人によって形が違う。
これは家族の物語であり、人が人を想うという、個人の物語なのだ。
▼あらすじ
浪人生の風呂田潤の家は歯科医院で地方都市にある。風邪で歯科医大の受験に失敗し予備校の特待生となった彼であったが、この夏は欠席を続け部屋でネットゲームばかりしているひきこもり生活を送っていた。潤は決められた道を歩むことに疑問を感じていたのだった。歯科医だった父は潤が2歳の時に死去した。現在は母と祖父、そして海外から帰国した叔父の久が歯科医師として家が継がれている。ある日、潤は父の遺品の中から見つけた手紙で、父が臓器提供者であったことを知るー。
▼Information
『緑色音楽』
12/17〜12/20シネマ尾道にて公開、その他順次公開予定
脚本・監督:中村佳代
出演:村上虹郎、工藤夕貴、久米明、オダギリジョー、岡山天音、玉田真也、木下崇祥、栗林藍希、本間大貴
Text/Miiki Sugita
出典:She magazine

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