ねごと・蒼山幸子が語る「歌詞」から
見た新作『SOAK』の世界

結成10周年を迎えたバンド・ねごとの勢いが止まらない。前作『ETERNALBEAT』から約10カ月という恐るべき短期間で、早くも5枚目となるフルアルバム『SOAK』がリリースされる。そこで今回、ねごとの楽曲の多くで作詞を手がける蒼山幸子(Vo./Key.)に、新作の「歌詞」の世界について尋ねた。エレクトロミュージックを中心にダンサブルな印象が強くなりつつあるねごとだが、そうした音のなかでこそ、アルバムタイトルのように「染み込む(soak)」言葉の強さを実感している、と彼女はいう。「歌詞」から見えてくる、ねごとの新境地とは?

Photography_Reiji Yamasaki
Interview&Text_Fumihisa Miyata
Edit_Satoru Kanai

日常のなかで聞いたときに、ちゃんと“
力”になれるような言葉を紡ぐべき

――新作アルバム『SOAK』から先行配信リリースされた、蒼山さん作詞の「サタデーナイト」を聞いてビックリしました! とても“強い”歌詞ですよね。

蒼山 : 「サタデーナイト」は、歌詞のなかでもいっているとおり、「サバイブする」ということを書きたかったんです。自分が、今そういうモードになっていて。日常のなかで聞いたときに、ちゃんと“力”になれるような言葉を紡ぐべきなんじゃないかと思っているんです。

――まさに「明日には 少しだけ 強くなりたい」というフレーズと共に、儚(はかな)い夜に負けないでいようとする歌ですよね。

蒼山 : 何か問題を抱えてしまったり、悲しいことがあったりして、「どうなってしまってもいいや」と自暴自棄になってしまうような夜って、誰しも身に覚えがあると思うんです。

――わかります。だからこそ、「ここではない場所なんて 本当の場所じゃないでしょ 戦わなきゃ」という言葉が印象的です。

蒼山 : これは個人的な感覚なのかもしれないですが、そういう時に私自身は、「違うところには結局いけない」と感じるんです。むしろ、「その場所で次の一歩を踏み出していくことが実は近道なんだ」と考えるんですね。「逃げたい」と思う自分と、「逃げない方がいい」とどこかでわかっている自分がいて、いつも自分のなかで戦いが起こるんですけど(笑)。こんなふうに葛藤する感覚ってきっと楽曲を聞いてくださる人にもあるんじゃないかな、と思ったんです。そういう瞬間に共感してもらえるような歌詞にしたいなあ、って。
――誰でもそうした夜を過ごした経験はありますよね。

蒼山 : ねごとは、宇宙や夢のような世界を描くのが得意でもあるんですが、「サタデーナイト」は、もう少し現実にフォーカスした、実際にあるような、“本当”の土曜日の夜の、誰かの話にしようと思って書きました。

――“ファンタジックでありながら現実的“というのは、実はねごとの大切な世界観だと思うんです。シングルリリースもされた、アルバム1曲目の「DANCER IN THE HANABIRA」では、「地に足をつけて 夢を見続ける」というフレーズがありますね。

蒼山 : 「DANCER IN THE HANABIRA」は、前作アルバムの『ETERNALBEAT』ツアー中にできた曲でした。目の前で踊ってくれている人たちを見て、自分の心のなかで起こったことが反映されているかもしれません。歌詞を書いていて「ああ、これだ!」と思うフレーズってあるんですが、「地に足をつけて 夢を見続ける」というのはまさにそれでした。「ああ、今言いたいことはこれなんだな」というのが、理屈ではなくピンときたんです。

――蒼山さんは以前に「ライブを通じて生きる希望を届けたい」というような発言がありましたが、そうしたライブという“場”への思いも歌詞に込めていらっしゃるような気がします。

蒼山 : 曲づくりからライブまでは全部つながっています。歌詞を書くときには、やっぱりライブのことも考える。自分にとってリアルな言葉をちゃんと書ければ、ライブでもリアルでエモーショナルものとして聞いている人に届くんじゃないか、ということは強く感じますね。

必要なときにその人の心に届く

――「サタデーナイト」や「DANCER IN THE HANABIRA」のお話からも、音源やライブで楽曲がリスナーに“届く瞬間”のことが、蒼山さんにとってとても大事な印象を受けます。歌詞もそうした思いの上で書かれているのかな、と。

蒼山 : はい、それはとても考えます。私も音楽を聞いたり、本を読んだりするのが好きなんですけど、自分がそれで救われた“瞬間”というのがあるわけですよね。しかも、たとえば同じ本でも、最初に呼んだ時には全然響かなかったけど、今読み返したらすごく響く、ということがあるじゃないですか。そのタイミングが何によるものかはわからないんですけど、でもそこには多分、つくっている人の何かしらの“魔法”がある。
――その“魔法”がかかる瞬間こそ、曲や歌詞が、その人に本当に“届く”時ですよね。

蒼山 : 『SOAK』はもちろんたくさんの人に聞いてほしいな、と思っているんですが、「本当に必要なときにその人の心に届く」ということを考えながら、歌詞を書いていました。ライブでも、「ああ、そうだったんだ……!」というような、ハッとしてもらえたり、グサッときたりドキッときたりする瞬間を、曲を通してきちんとつくりたいなと思っています。

――それこそ音楽やライブこそが、ねごととリスナーが、ファンタジックかつ現実的につながることができる「ここ」という場所そのものですよね。『SOAK』収録曲「ALL RIGHT」での「無重力状態」というコズミックな歌詞や、「水中都市」というタイトルの曲もありますが、これも「ここではない場所」じゃない現実的な場所を歌っている感覚はありますか?

蒼山 : あります、あります! シチュエーションとしてどこを選ぶか、という違いはありますが、内容自体はすごくリアルなことを書こうと思っているんです。そこで、たとえば「水中都市」を選んで曲にしていくというのは、それもねごとの持ち味なんだと思います。別の場所を垣間見せるんだけど、そこで起きているのはとてもリアルな感情、というような……。先ほどの「サタデーナイト」の夜のように、きっと誰しもが感じるであろう瞬間を、そういう視点で書き取りたい。

――なるほど。リアルなことを伝えるために、ちょっと違うレイヤー(層)のイメージを重ねる、みたいなことでしょうか?

蒼山 : そうですね、実際に自分がリスナーとして音楽を聞いていても、含みを持たせてくれていたり、いろんな方向から意味をとれる歌詞というのが好きなんです。私も、そうした余白のあるストーリーの伝え方をしたほうがしっくりくるんだと思います。
――ボーナストラックでカバーしている「空も飛べるはず」のスピッツ、そして作詞もしている草野マサムネさんの世界観も、そういった“余白”込みできちんと伝わるものですよね。

蒼山 : スピッツの歌詞は大好きですし、草野さんはメロディーと言葉が合わさった時の妙が、本当にすごいと思います。素晴らしいメロディーメーカーなので、一瞬で曲の“世界”が見えてくるようで……ソングライティングの面からも、聞くたびにいつも新たな驚きがあります。こういう歌詞を自分も書きたいと、10代でスピッツを聞いていた時に強く願っていましたし、今でも「メロディーに対してこんな言葉の乗せ方があるんだ!」と興奮させられつつ、誰でも抱くような気持ちをきちんと紡いでいるところに憧れます。

――ダンサブルでもありながらそっと心に寄り添ってくる、ねごとの世界も、メロディーと言葉が化学反応しているのを感じます。

蒼山 : アルバムのタイトルである『SOAK』という単語は、「染み込む」という意味があるんですが、本当にそんな感触の歌詞が多い気がしています。周りの世界がせわしなかったり、ざわざわしていたりいて、自分の心が落ち着かなくても、このアルバムを聞いてもらえればちょっと静かに落ち着けるというか、自分の内側を見つめられるというか。だから、ぜひ日常のなかで聞いてほしいです。その時に、聞いている方の力になって、ちょっと元気が出る――そういうことが起きるアルバムなんじゃないかなと思っています。


作品情報
『SOAK』
【通常盤(CD)】
KSCL 3012 ¥2,870(税別)

【初回生産限定盤(CD+DVD)】
KSCL 3010-3011 ¥3,700(税別)

▼CD収録曲
01. DANCER IN THE HANABIRA (Sound Produced by Masayuki Nakano (BOOM BOOM SATELLITES))
02. INSIDE OUTSIDE (Sound Produced by Tatsuki Masuko at Float)
03. WORLDEND
04. サタデーナイト (Sound Produced by Masayuki Nakano (BOOM BOOM SATELLITES))
05. Fall Down
06. moon child (Sound Produced by Tatsuki Masuko at Float)
07. undone (Sound Produced by Tatsuki Masuko at Float)
08. ALL RIGHT(映画「トリガール!」挿入歌 / café & pancakes gram CMソング)
09. シリウス
10. 水中都市 (Sound Produced by Masayuki Nakano (BOOM BOOM SATELLITES))
11. 空も飛べるはず [Bonus Track] (映画「トリガール!」主題歌)

▼DVD収録映像
01. DANCER IN THE HANABIRA -Music Video-
02. DANCER IN THE HANABIRA -Music Video -Dancer ver.-
03. DANCER IN THE HANABIRA 2017/6/26 LIQUIDROOM 「ETERNALBEAT NIGHT」
04. 空も飛べるはず 2017/6/26 LIQUIDROOM 「ETERNALBEAT NIGHT」
05. ALL RIGHT 2017/6/26 LIQUIDROOM 「ETERNALBEAT NIGHT」


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ねごと・蒼山幸子が語る「歌詞」から見た新作『SOAK』の世界はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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