山猿が『マタアイマショウ』と思える
名曲をカバーした訳
Photography_Reiji Yamasaki
Interview&Text_Satoshi Shinkai
Edit_Satoru Kanai
山猿がカバー曲をリリースするのは今回が初めて。意外だったのは、ヒップホップはSEAMOの『マタアイマショウ』くらいで、あとは広瀬香美の『DEAR…again』、シャ乱Qの『シングルベッド』、中島みゆきの『糸』など往年のJ-POPが並んでいる。
これまでリリースしてきた4作の「あいことば」は、どれも山猿の実体験が元になっていると、インタビューで何度か語られてきた。今作は彼にとって、どんな作品なのだろうか。
「カバー曲なんですけど俺の実体験でもあって。歌わせてもらった6曲は“あの時はこうだったな”って、聴くだけで過去に戻してくれるタイムマシンみたいな。だから“ただメロディが良いとか”そう言う次元の話じゃないんです。もし『マタアイマショウ』や『め組の人』が本人から許可が下りなかったら、『えんむすび』は作らないつもりでいて。それだけリスペクトを込めてます」
楽曲について話を訊くと、彼はときどき目を瞑りながら何かを思い出すように話していたのが印象的だった。
話を訊くと、確かに“タイムマシン”という言葉がしっくりくる。例えば恋人とイヤホンを片方ずつ分け合って聴いていた曲、部活の帰り道に自分を奮い立たせるために聴いていた曲など。当時の写真を見るよりも、音楽を聴いた方が記憶が鮮明に蘇ることがある。
「このアルバムを1枚通して聴くと、卒業アルバムを見てるみたいで。“あの時、遊んでいた友だちは元気かな?”とか“昔ヤンチャだった奴がパパになって、学生時代と比べて優しい顔になったな”とか。なんだか感慨深いですね」
思い出の詰まった曲を聴いていると、あの頃に戻りたいという感情にならないのか訊いてみた。
それだけ思いが強い曲だからこそ、歌う時のプレッシャーも相当だったようだ。
「あんまり緊張しないんですけど……尊敬するアーティストが心を込めて歌ってきた曲だって思うと、やっぱりプレッシャーはありました。レコーディングブースに入るまで、ずっと緊張してましたもん。RECをスタートして、歌った瞬間にそのモヤモヤは不思議と消えましたね。むしろ気持ち良く歌ってました」
注目なのはSEAMOの『マタアイマショウ』。原曲にはなかった歌詞を加えて、リアレンジを加えている。
「SEAMOさんに許可をもらって『マタアイマショウ』は歌詞を変えさせてもらいました。これは失恋の曲だとSEAMOさんから教えていただいたんですけど、山猿の場合は“また会っちゃおう”と思って。やっぱり好きな人には最終的に出会ってほしいし、本当に好きな人だったらまた会えるんだよっていう、そっちの『マタアイマショウ』にしました。SEAMOさんがツイッターで“また別の『マタアイマショウ』ができた。ぜひみんなに聴いてほしいって”書いてくださって。本当に嬉しかったですね」
SEAMOにリアレンジの許可をもらう際、かなり苦労をしたようだ。
「アーティストに直接連絡したのは俺ぐらいって言われました。最初はレコード会社を通して、SEAMOさんにカバーをさせてくださいとお願いをしたんです。でも、これは直接本人に言わなきゃと思って。愛知でSEAMOさんのライヴがあったので会いに行ったんです。だけど、スタッフさんもファンの方もたくさんいたので話を切り出せなくて。そしたらSEAMOさんが“言わないの?”って顔をしてたんですけど、俺はその場で言えないまま……。
その日は新幹線で帰る予定だったんですけど、愛知に残ってライヴが終わるまで待ってたんです。だけど、それでも言えなくて。結局モヤモヤした気持ちを抱えながら夜、長文のメールをして“……っていうことでSEAMOさんの大事にしている曲を山猿のリアレンジでカバーさせてください”ってお願いしたら“なんだよ、そんなの全然良いに決まってるよ! 山猿の『マタアイマショウ』を楽しみにしてるし、山猿なりの調理をしてくれ”って。本当に愛を感じましたね」
『マタアイマショウ』の歌詞アレンジこそあったものの、原曲とカバー曲を聴き比べてもサウンドに大幅な変化は感じない。むしろ原曲を忠実に歌っている印象だ。そこには山猿なりの思いがあるという。
『えんむすび』を締めくくるのは、山猿本人が書いた『Outro』。<縁と縁が線になった偶然 このカバー曲たちは俺の人生>の歌詞通り、カバー曲への思いが歌われている。
『マタアイマショウ』でSEAMOさんと出会って、『め組の人』はLGMonkees時代にマーチン(鈴木雅之)さんと歌わせてもらって。『シングルベッド』はつんくさんが俺の『桜色の記憶』を聴いてくれて、わざわざツイッターで“山猿ってアーティストは誰なんだろう。すごくいい声をしてる。今度調べてみよう”書いてくれて。そういう縁と縁が繋がった作品で。本当に自分にとっては意味のあるカバーアルバムだと思います」
作品情報
01. マタアイマショウ
02. DEAR…again
03. め組のひと
04. シングルベッド
05. 月光
06. 糸
07. Respect for you ~Outro~
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山猿が『マタアイマショウ』と思える名曲をカバーした訳はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
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