山田裕貴

山田裕貴

【インタビュー】『デメキン』山田裕
貴 「一度は人生にふたをした…」挫
折が開いた役者道を“ハート”を武器
に突き進む

 『亜人』、『あゝ、荒野』、『HiGH&LOW』シリーズなど、本年度だけで12作の映画に出演し、注目を集めている実力派若手俳優・山田裕貴。彼の役者人生は決して平たんなものではなかったが、 人生にふたをするほどの大きな挫折を乗り越え、自分を信じて選んだ道を歩き続けている。そして今、「俳優王になりたい」と屈託のない笑みを浮かべる山田が、役者を目指すに至ったいきさつや、まさに役者のかがみともいえる驚きの私生活などを赤裸々に語った。
 特撮ドラマ「海賊戦隊ゴーカイジャー」(11)のゴーカイブルー役でデビューし、役者として順調に滑り出した山田。数々の話題作に出演している他、主演経験もあり、順風満帆のようだが、いまだ手応えを感じていないようで、9月に行われた映画『二度めの夏、二度と会えない君』の舞台あいさつでは「跳ねたいな…」と思わず本音を吐露した。
 しかし、その真意は単に「売れたい」ということではなかった。山田は「自由に、悔しさを感じずに、自分を試せる日が来たら、跳ねたと感じるのかな」と推測すると、「漫画『ワンピース』の主人公ルフィが『支配なんかしない。この海で一番自由なやつが海賊王だ!』と言っていたように、やりたい役をやって、好きな監督や役者と自由に映画を作れるようになったら俳優王!」とあどけない表情を浮かべながら語った。
 ところで、山田が役者を目指すきっかけとは? 実は、父は元プロ野球選手の山田和利(現広島東洋カープ コーチ)で、山田は周囲の期待を背負い、小学生の頃から野球選手を目指して練習に励んだ。ところが、野球センスに恵まれず、「いろんなうまいやつを目の当たりにして、もう頑張れないと高校で諦めて、一度は人生にふたをした…」と告白する。さらに、居場所を失った山田は「学校生活では生き残らなきゃ。そのためにもみんなから好かれなきゃ」という強迫観念めいたものにとらわれた学生時代を送ったという。
 その中で巡り会った役者業は、山田いわく「ハートの職業」。「生まれ持った運動能力とかは関係なく、必要なものは誰もが持つ人間性。だったらフェアだと思った。それに、人間性は自分次第でいくらでも磨けるし、他人の気持ちを考えることもできれば絶対にうまくいく。何があっても全てを自分のせいにして戦う!」と奮起。エキストラから始め、ぞんざいに扱われて悔しい思いもしたが、それすらも原動力に変えていった。
 そんな山田の最大の魅力は、少女コミックに登場するようなキラキラした高校生やギラついた凶暴な男など、どんな役をもナチュラルにこなす演技力。それは、演出家の前田司郎からもらった「役作りは役半分、自分半分。自分の中にある感情を掘り起こせば、その役になれる」という言葉を胸に、「役を生きる」ことに徹しているからこそ生み出される。
 それ故、日常のさまざまな場面で湧き起こる感情や行動をストックすることは大事な作業で、例えば「ゲーム中にムカついてコントローラーを投げつけてしまったときでさえ『この怒りは使える』と思う」のだとか。そうやって意識を張り巡らせた1日が終わると疲れ切っていることもあるというから、その役者魂には脱帽だ。
 また、映画『ストロボ・エッジ』(15)での体験が自身にもたらした変化も打ち明ける。当時は今ほど注目されていなかったが、福士蒼汰、有村架純に次ぐ三番手に大抜てきされた山田は、周囲から「すごくよかった」と褒められたことで、「ちゃんと見てくれている人はいる」と実感し、「人と比べなくても、自分の声と、顔と、感性と、にじみ出るもので勝負すればいいんだと気付かされた」と振り返る。
 そうして確立させた「俳優・山田裕貴」が次に挑戦するのは、お笑いコンビ・バッドボーイズ・佐田正樹の自叙伝を基にしたヤンキー映画『デメキン』。いじめられっ子だった正樹(健太郎)が、いつしかけんか無敗と数々の伝説を作り出し、福岡県で最大勢力を誇る暴走族の総長へと上り詰めるさまを描いた作品で、山田は正樹の親友・厚成を熱演。今回は、実在する厚成氏に近づくことはもちろん、初主演で緊張する健太郎を、真っすぐに突っ走る正樹を、先輩としても厚成としても支える「いい奥さん」でいることを大事にして撮影に臨んだという。
 もちろん、場数を踏んで鍛えたアクションも見どころ。本作では特に「鉄パイプとかでなぐられたりするので、生々しさにこだわった」そうで、「視覚では何とでも伝えられるから、聴覚だなと思い、攻撃を受けた時に咳込むのか、ウッと声が出なくなるのかとか、声にリアルさを求めました」と胸を張る。
 常に進化し続ける山田にどのような役者を目指したいかと尋ねると、「映画をメインにやりたいけど、ドラマに出ないと自分を知ってもらえない…」とモヤモヤした胸中を口にした。やはり、映画俳優としての知名度を上げるためには、「テレビ」という通過点は避けては通れない。だが、「俳優王になるためには、それなりの評価が必要だし、俳優としての深みや幅を持たなければいけない」と考えているのであれば、答えはすでに出ているのだろう。高校最後の夏、甲子園のグラウンドに立つ仲間たちをスタンドで応援しながら「悔しくて、あり得ないほど泣いた」と語った山田。けれども今、その姿は、どんな挫折も回り道も、決して無駄にはならないことを証明している。
(取材・文・写真/錦怜那)

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